「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 3
晴奈の話、第572話。
地の底へと。
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3.
「一体何だったのだ、あの大木は?」
「俺たちのいない間に、サプライズパーティでもやってたんでしょーかね」
「ソレにしちゃやり過ぎよ。アレじゃヒノカミ君の部屋、グチャグチャでしょうね」
「ま、捨てた部屋だからいいけどな」
「……」
ウインドフォート、砦内地下。
「しかし何でまた、こんな牢屋の中に?」
フーとアランに同行するルドルフが、腑に落ちない様子で尋ねてくる。
「てっきり俺は、軍備でも奪うもんかと」
「いいや、必要な物は下にあるのだ」
アランはそれだけ答え、先を急ごうとする。と、続いてドールも質問をぶつけてきた。
「下に? この牢屋のあるフロアが、最下層じゃないの?」
「いいや」
アランは再度歩を止め、それに答える。
「この下にも秘密裏に、ある施設を造っているのだ。そこに、目的の物がある」
「秘密裏に? 吾輩たち側近も知らぬものを、ですか」
「そうだ」
「……」「……」「……」
アランの回答に、側近たちは皆憮然とした表情を浮かべる。
「俺も聞いてないぞ、アラン」
そんな彼らよりも一層苛立っていたフーが、アランにとげとげしい語調で尋ねる。
「何故この軍閥のトップだった俺にすら、そんな重大なことを伝えなかったんだ?」
「……」
「答えろよ」
何度か尋ね、ようやくアランが答える。
「知っていたら、どうした?」
「封印するに決まってんだろ。モンスターをそんな、滅多やたらに作られてたまるかってんだ」
「だろう? だから言わなかったのだ」
そこでアランは説明を切り、それ以上何も言わなくなる。
その態度がさらに、フーたち4人を怒らせていた。
フーたちが侵入した日の夕方、晴奈たち一行はウインドフォート砦前に到着していた。
「状況について、もう一度説明をお願いできるかな?」
「はい。本日早朝、ヒノカミ元中佐及び、その側近と思しき者たちが正面より現れまして。抵抗したのですがあえなく突破され、現在その行方を捜索している状態です」
報告に、エルスは首をかしげる。
「どう言うことかな? 占拠したとか、そう言うことじゃなくて、ただ侵入しただけ?」
「はい。現在、砦内のどこにも、元中佐の姿は発見できておりません」
「ふーん……?」
砦内に通された晴奈たちも、フーの私室や側近の寝室、武器庫など、それらしいところを回ってみたが、フーの姿はどこにも見当たらなかった。
「もう既に出た、ってコトはないわよね?」
エルスは砦の見取り図を眺めながら、小鈴の問いに答える。
「無いと思うよ。門番の数は増員されてるから、正面からの脱出は難しいだろうし、砦内の軍艦ドックからも、船は出てない。それ以外の脱出路は、無いらしいし……」
と、エルスの言葉が途切れる。
「……ん?」
「どしたの?」
「ちょっとコスズ、これとこれを見てみて」
「え?」
エルスに2枚の見取り図を渡された小鈴は、少し見て首をかしげた。
「……合わないわね」
「だろ?」
「どう言うコトですかぁ?」
尋ねてきたミラに、エルスが答える。
「この、地下2階の見取り図。砦全体の見取り図と合わせて見てみると、微妙に一部屋、一部屋の大きさが合わないんだ。
その微妙なズレをつなげてみると、長細い空間が浮かび上がってくる」
「……つまり?」
「牢屋と貯蔵庫以外の、別の区画が地下に存在している可能性が高い。地上階のどこにもいないって言うなら、そこしかない」
エルスの読み通り、地下牢をくまなく捜索したところ、隠し扉を発見することができた。
中を覗くと、積もりに積もったほこりの上に、点々と足跡が残っている。
「ここだ。……皆、準備は万全かな」
エルスの言葉に、全員が無言でうなずく。
「じゃあ、行こう」
「ああ」エルスの後に、晴奈が続く。
「いよいよ、って感じね」小鈴も晴奈の横に並んで続く。
「……」リストは無言で腰に提げた銃を撫で、歩き出す。
「離れないでくださいよぅ」「ああ」最後に、ミラとバリーが続いた。
隠し通路は、途中まではレンガ造りの長い通路だったが、奥にあった階段を半ば降りた辺りから洞窟状の場所につながっていた。
「……暑い……」
洞窟の中は、外とは打って変わって煮えたぎるような熱気がこもっている。
「これは……、もしかして」
そして、硫黄のような臭いも立ち込めている。
「どうやら、地下の水脈とつながっていたみたいだ。気を付けて、この暑さと湿気からすると……」
そう言ったエルスの数メートル前から、ブシュ、と蒸気が噴き出た。
「……間欠泉や蒸気だまりが、どこにあってもおかしくない。触れたら大火傷じゃ済まないよ」
「ああ」
進んでいくうち、一行は大きく開けた場所に出た。
「……あっ」
その中ほどに、槍を握りしめたハインツが座っていた。
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地の底へと。
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「一体何だったのだ、あの大木は?」
「俺たちのいない間に、サプライズパーティでもやってたんでしょーかね」
「ソレにしちゃやり過ぎよ。アレじゃヒノカミ君の部屋、グチャグチャでしょうね」
「ま、捨てた部屋だからいいけどな」
「……」
ウインドフォート、砦内地下。
「しかし何でまた、こんな牢屋の中に?」
フーとアランに同行するルドルフが、腑に落ちない様子で尋ねてくる。
「てっきり俺は、軍備でも奪うもんかと」
「いいや、必要な物は下にあるのだ」
アランはそれだけ答え、先を急ごうとする。と、続いてドールも質問をぶつけてきた。
「下に? この牢屋のあるフロアが、最下層じゃないの?」
「いいや」
アランは再度歩を止め、それに答える。
「この下にも秘密裏に、ある施設を造っているのだ。そこに、目的の物がある」
「秘密裏に? 吾輩たち側近も知らぬものを、ですか」
「そうだ」
「……」「……」「……」
アランの回答に、側近たちは皆憮然とした表情を浮かべる。
「俺も聞いてないぞ、アラン」
そんな彼らよりも一層苛立っていたフーが、アランにとげとげしい語調で尋ねる。
「何故この軍閥のトップだった俺にすら、そんな重大なことを伝えなかったんだ?」
「……」
「答えろよ」
何度か尋ね、ようやくアランが答える。
「知っていたら、どうした?」
「封印するに決まってんだろ。モンスターをそんな、滅多やたらに作られてたまるかってんだ」
「だろう? だから言わなかったのだ」
そこでアランは説明を切り、それ以上何も言わなくなる。
その態度がさらに、フーたち4人を怒らせていた。
フーたちが侵入した日の夕方、晴奈たち一行はウインドフォート砦前に到着していた。
「状況について、もう一度説明をお願いできるかな?」
「はい。本日早朝、ヒノカミ元中佐及び、その側近と思しき者たちが正面より現れまして。抵抗したのですがあえなく突破され、現在その行方を捜索している状態です」
報告に、エルスは首をかしげる。
「どう言うことかな? 占拠したとか、そう言うことじゃなくて、ただ侵入しただけ?」
「はい。現在、砦内のどこにも、元中佐の姿は発見できておりません」
「ふーん……?」
砦内に通された晴奈たちも、フーの私室や側近の寝室、武器庫など、それらしいところを回ってみたが、フーの姿はどこにも見当たらなかった。
「もう既に出た、ってコトはないわよね?」
エルスは砦の見取り図を眺めながら、小鈴の問いに答える。
「無いと思うよ。門番の数は増員されてるから、正面からの脱出は難しいだろうし、砦内の軍艦ドックからも、船は出てない。それ以外の脱出路は、無いらしいし……」
と、エルスの言葉が途切れる。
「……ん?」
「どしたの?」
「ちょっとコスズ、これとこれを見てみて」
「え?」
エルスに2枚の見取り図を渡された小鈴は、少し見て首をかしげた。
「……合わないわね」
「だろ?」
「どう言うコトですかぁ?」
尋ねてきたミラに、エルスが答える。
「この、地下2階の見取り図。砦全体の見取り図と合わせて見てみると、微妙に一部屋、一部屋の大きさが合わないんだ。
その微妙なズレをつなげてみると、長細い空間が浮かび上がってくる」
「……つまり?」
「牢屋と貯蔵庫以外の、別の区画が地下に存在している可能性が高い。地上階のどこにもいないって言うなら、そこしかない」
エルスの読み通り、地下牢をくまなく捜索したところ、隠し扉を発見することができた。
中を覗くと、積もりに積もったほこりの上に、点々と足跡が残っている。
「ここだ。……皆、準備は万全かな」
エルスの言葉に、全員が無言でうなずく。
「じゃあ、行こう」
「ああ」エルスの後に、晴奈が続く。
「いよいよ、って感じね」小鈴も晴奈の横に並んで続く。
「……」リストは無言で腰に提げた銃を撫で、歩き出す。
「離れないでくださいよぅ」「ああ」最後に、ミラとバリーが続いた。
隠し通路は、途中まではレンガ造りの長い通路だったが、奥にあった階段を半ば降りた辺りから洞窟状の場所につながっていた。
「……暑い……」
洞窟の中は、外とは打って変わって煮えたぎるような熱気がこもっている。
「これは……、もしかして」
そして、硫黄のような臭いも立ち込めている。
「どうやら、地下の水脈とつながっていたみたいだ。気を付けて、この暑さと湿気からすると……」
そう言ったエルスの数メートル前から、ブシュ、と蒸気が噴き出た。
「……間欠泉や蒸気だまりが、どこにあってもおかしくない。触れたら大火傷じゃ済まないよ」
「ああ」
進んでいくうち、一行は大きく開けた場所に出た。
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その中ほどに、槍を握りしめたハインツが座っていた。



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