「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 4
晴奈の話、第573話。
ハインツの騎士道。
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4.
「……貴様らか。待っていたぞ」
ハインツは立ち上がり、槍を構えてにらみつける。
「これ以上、進ませはせん。一人残らず、撃退してくれる」
一方、エルスは静かに声をかけた。
「シュトルム少尉、……ああ、昇進して大尉になったんだってね」
「いかにも」
「僕のこと、覚えているかな」
「……勿論だ。グラッド、……大尉」
「お願いがある。このまま、進ませてくれないか?」
「何を馬鹿なっ!」
エルスの願いを、ハインツは首をブンブンと振って却下する。
「吾輩は、陛下より全幅の信頼を寄せられてここの守りを仰せつかっている! 誰一人、通すわけには行かんのだ!」
「……」
エルスは一歩、ハインツとの距離を詰める。
「それが君の本心かい?」
「……っ」
「君は本心から、フーの、ヒノカミ陛下のために戦っているの?」
「も、勿論、だ」
「それとも、君は君の騎士道を全うするために戦っているのかな」
「……そうだ! 吾輩はそのつもりで戦っている」
「それなら」
エルスはもう一歩、距離を詰める。
「僕との約束、覚えていてくれてるかな」
「約束?」
ハインツの持つ槍が、わずかに揺れる。
「僕と、ノーラとが、何かしら困った時、助けてくれるって。そう、約束してくれたよね」
「……うっ」
ハインツは困った顔をし、一歩退く。
「それは……、確かにそう、約束はしたが……」
「今、僕は困っている。フーを、追っているから。いるんだろう、この先に?」
「……ああ、そうだ」
「じゃあ、頼むよ。会わせてほしいんだ」
エルスが一歩進む。ハインツは一歩下がる。
「お願いする。これは、妹の願いでもある」
「な、に?」
「妹は今、フェルタイルの僕の実家に住み、人生をやり直そうとしているんだ。この言葉の意味、ずっと同僚、側近として過ごしてきた君は、分かるよね?」
「む、うぅ」
「今まであの子は不幸だった。色んな人からいわれ無き糾弾を受け、心が傷つけられた。だから僕はあの子を今度こそ守ってやって、いい人生を歩ませてやりたいんだよ。
でもそれには、この戦争が終わることが必須条件だ。戦争が続く限りあの子には、今度は『敵国の人間』と言うレッテルが貼られ続ける。
また、レッテルなんだ。あの子は色んなレッテルをべったりと貼られて、窒息しそうになってる。
お願いだ。このまま進ませて、戦争を終えさせてほしい」
「……」
ハインツはうつむき、逡巡した様子を見せる。
「……吾輩は、主君から命じられたのだ。それを、曲げるなど」
「それは本当に、フーからの命令なの?」
この言葉に、ハインツは顔を挙げた。
「……!」
「今ここに来ているのは、フーと側近、そして参謀のグレイ氏だと聞いた。グレイ氏が、フーを先導しているんじゃないか?
いいや、これだけじゃない。フーは今まで、グレイ氏の言いなりになって、戦争やら軍閥やら、何から何まで進めてきたんじゃないか?」
「……確かに、その通りだ」
「だったらこれは、主君の命令、いや、願いだと言えるのかな?」
「……」
ハインツはしばらく、黙り込み――やがて、槍を捨てた。
「真の騎士、忠臣であるならば、主の口ではなく、心に従うべき、……と聞いた。我が主の真の願いは、戦争を止めることだ。
……通れ」
「ありがとう、大尉」
エルスたちはそのまま、歩き出した。
「……大尉。その言葉は、僕も聞いたことがある。28年前に、ね」
「……うむ」
空洞を抜けてしばらくして、一行はごうごうと温水の流れる地下水脈に差し掛かった。とは言え温水は道の横を流れており、それを横切る手間は必要なかった。
「蒸し暑い……」
「どんどん、下へと下っていくみたいだ。水の流れる方向が、僕らの進行方向と一緒だ」
「そのようだな」
やがて流れていた温水は、深い縦穴に落ち込んでいく。一行はまた、開けた場所に出た。
「よお」
先程のハインツと同じように、そこにはルドルフが拳銃を二挺抱えて座っていた。
「ハインツの旦那を破ったみたいだな。俺も、はりきらねーとな」
「いいや、ブリッツェン少尉。僕らは話し合いで、通させてもらったんだ。君もできれば、穏便に進めさせてほしいんだ」
「……ふーん」
だが、ルドルフは銃の安全装置を外し、立ち上がる。
「嫌だね」
「え……」
「大尉をどうやって説き伏せたか知らねーけどな、俺にはアンタらを通す義理はねーんだよ。特にその、青い長耳さんはよぉ」
ルドルフは銃口をリストに向け、話を続ける。
「そうか……」
「ああ、勘違いすんなよ、グラッドの大将。通してやってもいいんだ、別によ?
ただ、『その女だけは』通させねー。そう言ってるんだ」
「……つまり、一騎打ちがしたいと」
「そう言う、こ、と」
ルドルフは銃をリストに向けたまま、くわえ煙草でニヤニヤと笑う。
「……いいわ。受けて立つ」
リストも銃を取り出し、それに応じた。
「分かった。……それじゃ通させてもらうよ、少尉」
「おう」
一行はリストを残し、先へと進んだ。
「久しぶりだな、リスト」
「そうね。……で、やるんでしょ?」
「ああ。俺とお前、どっちの腕が上か……」
ルドルフは煙草を吐き捨て、拳銃の引き金を絞った。
「今ここで、ハッキリさせてやらあッ!」
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ハインツの騎士道。
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「……貴様らか。待っていたぞ」
ハインツは立ち上がり、槍を構えてにらみつける。
「これ以上、進ませはせん。一人残らず、撃退してくれる」
一方、エルスは静かに声をかけた。
「シュトルム少尉、……ああ、昇進して大尉になったんだってね」
「いかにも」
「僕のこと、覚えているかな」
「……勿論だ。グラッド、……大尉」
「お願いがある。このまま、進ませてくれないか?」
「何を馬鹿なっ!」
エルスの願いを、ハインツは首をブンブンと振って却下する。
「吾輩は、陛下より全幅の信頼を寄せられてここの守りを仰せつかっている! 誰一人、通すわけには行かんのだ!」
「……」
エルスは一歩、ハインツとの距離を詰める。
「それが君の本心かい?」
「……っ」
「君は本心から、フーの、ヒノカミ陛下のために戦っているの?」
「も、勿論、だ」
「それとも、君は君の騎士道を全うするために戦っているのかな」
「……そうだ! 吾輩はそのつもりで戦っている」
「それなら」
エルスはもう一歩、距離を詰める。
「僕との約束、覚えていてくれてるかな」
「約束?」
ハインツの持つ槍が、わずかに揺れる。
「僕と、ノーラとが、何かしら困った時、助けてくれるって。そう、約束してくれたよね」
「……うっ」
ハインツは困った顔をし、一歩退く。
「それは……、確かにそう、約束はしたが……」
「今、僕は困っている。フーを、追っているから。いるんだろう、この先に?」
「……ああ、そうだ」
「じゃあ、頼むよ。会わせてほしいんだ」
エルスが一歩進む。ハインツは一歩下がる。
「お願いする。これは、妹の願いでもある」
「な、に?」
「妹は今、フェルタイルの僕の実家に住み、人生をやり直そうとしているんだ。この言葉の意味、ずっと同僚、側近として過ごしてきた君は、分かるよね?」
「む、うぅ」
「今まであの子は不幸だった。色んな人からいわれ無き糾弾を受け、心が傷つけられた。だから僕はあの子を今度こそ守ってやって、いい人生を歩ませてやりたいんだよ。
でもそれには、この戦争が終わることが必須条件だ。戦争が続く限りあの子には、今度は『敵国の人間』と言うレッテルが貼られ続ける。
また、レッテルなんだ。あの子は色んなレッテルをべったりと貼られて、窒息しそうになってる。
お願いだ。このまま進ませて、戦争を終えさせてほしい」
「……」
ハインツはうつむき、逡巡した様子を見せる。
「……吾輩は、主君から命じられたのだ。それを、曲げるなど」
「それは本当に、フーからの命令なの?」
この言葉に、ハインツは顔を挙げた。
「……!」
「今ここに来ているのは、フーと側近、そして参謀のグレイ氏だと聞いた。グレイ氏が、フーを先導しているんじゃないか?
いいや、これだけじゃない。フーは今まで、グレイ氏の言いなりになって、戦争やら軍閥やら、何から何まで進めてきたんじゃないか?」
「……確かに、その通りだ」
「だったらこれは、主君の命令、いや、願いだと言えるのかな?」
「……」
ハインツはしばらく、黙り込み――やがて、槍を捨てた。
「真の騎士、忠臣であるならば、主の口ではなく、心に従うべき、……と聞いた。我が主の真の願いは、戦争を止めることだ。
……通れ」
「ありがとう、大尉」
エルスたちはそのまま、歩き出した。
「……大尉。その言葉は、僕も聞いたことがある。28年前に、ね」
「……うむ」
空洞を抜けてしばらくして、一行はごうごうと温水の流れる地下水脈に差し掛かった。とは言え温水は道の横を流れており、それを横切る手間は必要なかった。
「蒸し暑い……」
「どんどん、下へと下っていくみたいだ。水の流れる方向が、僕らの進行方向と一緒だ」
「そのようだな」
やがて流れていた温水は、深い縦穴に落ち込んでいく。一行はまた、開けた場所に出た。
「よお」
先程のハインツと同じように、そこにはルドルフが拳銃を二挺抱えて座っていた。
「ハインツの旦那を破ったみたいだな。俺も、はりきらねーとな」
「いいや、ブリッツェン少尉。僕らは話し合いで、通させてもらったんだ。君もできれば、穏便に進めさせてほしいんだ」
「……ふーん」
だが、ルドルフは銃の安全装置を外し、立ち上がる。
「嫌だね」
「え……」
「大尉をどうやって説き伏せたか知らねーけどな、俺にはアンタらを通す義理はねーんだよ。特にその、青い長耳さんはよぉ」
ルドルフは銃口をリストに向け、話を続ける。
「そうか……」
「ああ、勘違いすんなよ、グラッドの大将。通してやってもいいんだ、別によ?
ただ、『その女だけは』通させねー。そう言ってるんだ」
「……つまり、一騎打ちがしたいと」
「そう言う、こ、と」
ルドルフは銃をリストに向けたまま、くわえ煙草でニヤニヤと笑う。
「……いいわ。受けて立つ」
リストも銃を取り出し、それに応じた。
「分かった。……それじゃ通させてもらうよ、少尉」
「おう」
一行はリストを残し、先へと進んだ。
「久しぶりだな、リスト」
「そうね。……で、やるんでしょ?」
「ああ。俺とお前、どっちの腕が上か……」
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