「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 5
晴奈の話、第574話。
銃士対銃士。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
昨年末。グリーンプールの、ディーノとヘレンが宿泊していた宿にて。
リストはまた、ディーノと会っていた。
「アツアツね、先生」
「いやぁ、はは……」
ディーノの横には、嬉しそうに笑うヘレンの姿がある。
「それでアンタ、なんでこの子呼んだん?」
「あ、そうでした」
ディーノは一瞬席を離れ、一つの箱を持って戻ってきた。
「何、コレ?」
「拳銃に使う装置です」
ディーノが箱を開くと、そこには銃弾を6発つかむ、ドラム状の物体が入っていた。
「リストさんの使ってる『黄光一〇七号』って、銃弾はGAI―Hシリーズと同じ、9ミリ通常拳銃弾を使ってますよね?」
「ええ。コレね」
リストは持っていた拳銃から銃弾を1発抜き取り、拳銃と一緒にディーノの前に置く。
「ふむ、……うん。確かに、これと同じです。良かった、弾倉の径も一緒ですし、使えそうですね」
「使えそうって、……この、ドラムに?」
「いえ、ドラム『が』、ですね。
ほら、銃の難点って、いくつかありますよね。命中精度とか、魔術に対する飛距離だとか、色々」
「そうね。後言われるのが、刀剣より威力が劣るとか、再装填がめんどくさいとか」
「そう、それなんです。基本的に銃は、1発ごとに弾込めしなきゃいけません。弾倉が回転して弾を連続で送れる、この銃みたいなリボルバー式なんてのができましたけど、それでも撃ち尽くしたら5発も、6発も弾を込め直す動作が、必ずいります。
そこで考えたのが、これなんですよ」
ルドルフは両手に持った拳銃を立て続けに撃ち、リストを牽制する。
「オラオラどうした、大銃士さんよぉ!?」
あっと言う間に、場は硝煙で白く濁る。だが隠れられるほどではなく、依然両者の姿ははっきりと見えている。
「逃げてばっかりかぁ!? 来いよ、オラッ!」
ルドルフが左手に持つ銃が立て続けに火を噴き、あっと言う間に6発全弾が撃ち尽くされた。それを確認したリストが、攻勢に移る。
「じゃ、行かせてもらうわよ!」
リストも拳銃を構え、ルドルフを狙って撃ち込んでいく。だが、機敏に動き回る両者に、それぞれが放つ銃弾はまったく、かすりもしない。
あっと言う間に、リストも銃弾を消費した。
「くっく、それじゃこっちのターンだ!」
ルドルフは残っていた右手側の銃弾を、リストに向けて放った。リストは転がり、それを辛うじてかわす。
「……チッ、弾切れか」
そのまま両者は岩陰に潜み、消費した銃弾を込め直して、相手が出てくるのを待つ。
(相手は6発×2で12発、コッチは6発。一度に撃てるのはそこまで。……と思わせる)
リストは再装填を終え、サイドバッグに納めている、ディーノからもらった「ドラム」を布越しにポンと叩く。
(コレを使うのは、もうちょっと先よ)
「さあ、準備できたか、リスト!? こっちはもう万全だぜぇッ!」
ルドルフの叫ぶ声が聞こえてくるが、相手は姿を見せない。見せれば格好の的になるのが分かっているからだ。当然、リストも岩陰から出ようとしない。
「来ないの?」
今度はリストが挑発する。
「お前から来い」
ルドルフは応じない。
「あら、あれだけ啖呵切っといて、攻めるのが怖いって? とんだ腰抜け狐ね、アンタ」
「んだと? じゃあお前が来いよ、口先女」
「フン」
リストも、相手の挑発に応じない。
長い膠着状態の後、同時に両者が飛び出した。
「この……ッ!」
ルドルフはリストの足を狙って、全弾撃ち尽くす。その甲斐あってか、1発、2発とリストの脚をえぐり、リストの右腿から血が弾けた。
「う……っ」
リストは顔をしかめ、その場に倒れこむ。
「よっしゃ……!」
既にこの時、リストも6発全弾を撃ち尽くしていたが、ルドルフには一発も当てられなかった。
ルドルフは勝利を確信し、弾を込め直さずにリストの側へと近付く。
「これで決まりだな、リスト。俺の方が、上だ」
「どう、かしらね」
リストは上半身を起こし、銃を構える。
「無駄に虚勢張るなよ。もう空なんだろ、その銃。お前が歯を食いしばって弾を込める前に、俺の方が余裕で弾を込め終わって、その頭を撃ち抜けるんだぜ?」
「フ、……ン」
リストは素早く腰のサイドバッグに手を入れ、中から「ドラム」を取り出した。
「ん……?」
その物体が何か分からず、ルドルフは虚を突かれる。その一瞬の隙に、リストは弾倉を外し、「ドラム」を押し付ける。
ルドルフがその「ドラム」の使い方に気が付くより早く、リストの銃に6発全弾が再装填された。
「あっ……」
ルドルフは慌てて弾を込め直そうとする。だがようやく1発込め直したところで、リストの銃が火を噴いた。
「ぎゃ……っ」
1発目がルドルフの右肩を撃ち抜く。2発目、3発目がルドルフの持っていた銃を弾き、遠くに飛ばす。
「アタシの方が、上よ」
残る3発もルドルフの両脚と左手に撃ち込まれ、ルドルフは戦闘不能になる。
「うぐっ、あぁ……っ」
リストは右腿を押さえつつ、立ち上がった。
「……ありがとう、アニェッリ先生。この『クイックローダー』、すごく役に立ったわ」
リストは左手に持っていた「ドラム」――リボルバーに素早く弾を込められる器械を、サイドバッグにしまいこんだ。
@au_ringさんをフォロー
銃士対銃士。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
昨年末。グリーンプールの、ディーノとヘレンが宿泊していた宿にて。
リストはまた、ディーノと会っていた。
「アツアツね、先生」
「いやぁ、はは……」
ディーノの横には、嬉しそうに笑うヘレンの姿がある。
「それでアンタ、なんでこの子呼んだん?」
「あ、そうでした」
ディーノは一瞬席を離れ、一つの箱を持って戻ってきた。
「何、コレ?」
「拳銃に使う装置です」
ディーノが箱を開くと、そこには銃弾を6発つかむ、ドラム状の物体が入っていた。
「リストさんの使ってる『黄光一〇七号』って、銃弾はGAI―Hシリーズと同じ、9ミリ通常拳銃弾を使ってますよね?」
「ええ。コレね」
リストは持っていた拳銃から銃弾を1発抜き取り、拳銃と一緒にディーノの前に置く。
「ふむ、……うん。確かに、これと同じです。良かった、弾倉の径も一緒ですし、使えそうですね」
「使えそうって、……この、ドラムに?」
「いえ、ドラム『が』、ですね。
ほら、銃の難点って、いくつかありますよね。命中精度とか、魔術に対する飛距離だとか、色々」
「そうね。後言われるのが、刀剣より威力が劣るとか、再装填がめんどくさいとか」
「そう、それなんです。基本的に銃は、1発ごとに弾込めしなきゃいけません。弾倉が回転して弾を連続で送れる、この銃みたいなリボルバー式なんてのができましたけど、それでも撃ち尽くしたら5発も、6発も弾を込め直す動作が、必ずいります。
そこで考えたのが、これなんですよ」
ルドルフは両手に持った拳銃を立て続けに撃ち、リストを牽制する。
「オラオラどうした、大銃士さんよぉ!?」
あっと言う間に、場は硝煙で白く濁る。だが隠れられるほどではなく、依然両者の姿ははっきりと見えている。
「逃げてばっかりかぁ!? 来いよ、オラッ!」
ルドルフが左手に持つ銃が立て続けに火を噴き、あっと言う間に6発全弾が撃ち尽くされた。それを確認したリストが、攻勢に移る。
「じゃ、行かせてもらうわよ!」
リストも拳銃を構え、ルドルフを狙って撃ち込んでいく。だが、機敏に動き回る両者に、それぞれが放つ銃弾はまったく、かすりもしない。
あっと言う間に、リストも銃弾を消費した。
「くっく、それじゃこっちのターンだ!」
ルドルフは残っていた右手側の銃弾を、リストに向けて放った。リストは転がり、それを辛うじてかわす。
「……チッ、弾切れか」
そのまま両者は岩陰に潜み、消費した銃弾を込め直して、相手が出てくるのを待つ。
(相手は6発×2で12発、コッチは6発。一度に撃てるのはそこまで。……と思わせる)
リストは再装填を終え、サイドバッグに納めている、ディーノからもらった「ドラム」を布越しにポンと叩く。
(コレを使うのは、もうちょっと先よ)
「さあ、準備できたか、リスト!? こっちはもう万全だぜぇッ!」
ルドルフの叫ぶ声が聞こえてくるが、相手は姿を見せない。見せれば格好の的になるのが分かっているからだ。当然、リストも岩陰から出ようとしない。
「来ないの?」
今度はリストが挑発する。
「お前から来い」
ルドルフは応じない。
「あら、あれだけ啖呵切っといて、攻めるのが怖いって? とんだ腰抜け狐ね、アンタ」
「んだと? じゃあお前が来いよ、口先女」
「フン」
リストも、相手の挑発に応じない。
長い膠着状態の後、同時に両者が飛び出した。
「この……ッ!」
ルドルフはリストの足を狙って、全弾撃ち尽くす。その甲斐あってか、1発、2発とリストの脚をえぐり、リストの右腿から血が弾けた。
「う……っ」
リストは顔をしかめ、その場に倒れこむ。
「よっしゃ……!」
既にこの時、リストも6発全弾を撃ち尽くしていたが、ルドルフには一発も当てられなかった。
ルドルフは勝利を確信し、弾を込め直さずにリストの側へと近付く。
「これで決まりだな、リスト。俺の方が、上だ」
「どう、かしらね」
リストは上半身を起こし、銃を構える。
「無駄に虚勢張るなよ。もう空なんだろ、その銃。お前が歯を食いしばって弾を込める前に、俺の方が余裕で弾を込め終わって、その頭を撃ち抜けるんだぜ?」
「フ、……ン」
リストは素早く腰のサイドバッグに手を入れ、中から「ドラム」を取り出した。
「ん……?」
その物体が何か分からず、ルドルフは虚を突かれる。その一瞬の隙に、リストは弾倉を外し、「ドラム」を押し付ける。
ルドルフがその「ドラム」の使い方に気が付くより早く、リストの銃に6発全弾が再装填された。
「あっ……」
ルドルフは慌てて弾を込め直そうとする。だがようやく1発込め直したところで、リストの銃が火を噴いた。
「ぎゃ……っ」
1発目がルドルフの右肩を撃ち抜く。2発目、3発目がルドルフの持っていた銃を弾き、遠くに飛ばす。
「アタシの方が、上よ」
残る3発もルドルフの両脚と左手に撃ち込まれ、ルドルフは戦闘不能になる。
「うぐっ、あぁ……っ」
リストは右腿を押さえつつ、立ち上がった。
「……ありがとう、アニェッリ先生。この『クイックローダー』、すごく役に立ったわ」
リストは左手に持っていた「ドラム」――リボルバーに素早く弾を込められる器械を、サイドバッグにしまいこんだ。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
お、銃の臨場感も流石ですね。
球数の計算をするのも銃撃戦ですからね。
そういうのがリアリティがあるから面白いですよねえ。。。
私とは違う視点の面白さがあっていいです。
球数の計算をするのも銃撃戦ですからね。
そういうのがリアリティがあるから面白いですよねえ。。。
私とは違う視点の面白さがあっていいです。
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
銃弾の数や補充方法は、現実では腕や技術より重要な要因です。
現実で無視できない要素に目を向けることこそ、
リアリティ、現実味を増すためには有効な手段、手法だと言うのが、
僕の持論です。