「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 9
晴奈の話、第578話。
フーの刮目。
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9.
先に飛び出したのは晴奈の方だった。
「りゃああッ!」
「蒼天」に火を灯し、アランを斬り付ける。
「愚かな……。私にそんなものは一切通用しないと、何故理解でき……」
言いかけたところで、アランの言葉は中断させられた。
「……っ、ナ、ニ?」
晴奈の刀はゴリ、と音を立てて、アランがローブの下に着込んでいた甲冑を削った。完全に切れたわけではなかったが、それでもアランをうろたえさせるには十分だった。
「バカ、ナ、……馬鹿な! ……くっ!」
アランは身を翻し、晴奈との間合いを大きく取る。
「どうだ、アラン! この黄晴奈は、お前を討つ力を持っている! 容赦はせんぞッ!」
「まさか……、私の防御性能を超える、武器が? そんなものは……、最早あるはずが……」
アランは混乱しているらしく、防御姿勢すら取れないでいる。そして、それを見逃す晴奈ではない。
「はああッ!」「……!」
晴奈は至近距離まで踏み込み、突きを繰り出す。がつっ、と金属板が破ける音とともに、アランの腹から背中に刀が通り抜けた。
「ぐ、……が、ガガッ」
アランは晴奈を引き剥がそうと手を伸ばしたが、それより早く晴奈は飛びのいた。
「ガ、ガガガ、……ユ、ゆる、許さんぞ、貴様……!」
「許さなくて結構! こちらも許す気、一切無し!」
晴奈は構え直し、再度仕掛けようとした。
だが――。
「貴様ら如き肉の塊が、この私を壊せると思うな!」
ドン、と重たく激しい音がアランから響く。恐るべき速さで、アランが頭から飛び込んできたのだ。
「……っ!」
飛んできたアランを、晴奈はとっさに身を引いてかわす。
飛んで行ったアランは洞窟の壁にぶつかったが、そのままもう一度音を立てて跳び、何事も無かったかのように地面へと戻ってきた。
「かわしたか。……うん?」
アランの目に、何もせず立ち尽くすフーとエルスの姿が映る。
「フー! 何をしている! さっさと倒せ!」
「……っ」
アランの言葉に、フーはビクッと震える。
「聞かないでいい、フー!」
エルスが抑えようとするが、フーはブルブルと震えながら、剣を構える。
「……すまない……っ!」
「フー……!」
アランに促され、フーは再びエルスと戦い始めた。
「やれやれ、愚図め。……戦闘再開だ」
アランはそうつぶやいて、晴奈の方に向く。
「『愚図め』、だと? お前は日上の従者では無いのか? 主君を公然とけなすなど……」
「主君? ああ、建前上は確かにそうだ。
だがあんなゴミ同然の者、私がいなければとっくの昔に首を吊っていた程度の、一人では何もできぬクズ。
私が拾い、育ててやったのだ。尊敬も、敬愛も、するわけがない。むしろあっちの方から、感謝してもらうべきだ。
だから非難したところで、あいつが怒る道理も正当性も無い」
「下衆がッ!」
晴奈は目の前の「鉄の悪魔」に吐き気を催しつつ、再度斬りかかった。
エルスはフーの攻撃をかわしつつ、言葉を投げかける。
「どうしたんだ、フー! 君は、そんな奴じゃ無かったはずだ!」
「うるせえ……っ! 俺の、何を知ってるって言うんだ!」
「何でも、さ! 好きな食べ物、馴染みの店、お気に入りの服のメーカーも! 何年、一緒に仕事してきた?」
「たった2年ちょっとじゃねえか! それよりも多くの時間を、俺はアイツと、アランと過ごしてたんだ!
アイツは俺の、何もかもを握っている! もうどうしようもないんだよ……ッ!」
フーは怒鳴りながら、エルスの胸を狙って突きを放つ。
「すべてを握ってる、だって……? 馬鹿なことを、言うなッ!」
エルスは剣を紙一重で避け、それを握るフーの手首を引っ張りながら、あごに掌底を当てた。
「ぐあ……っ!」
「思い出せ、フー! 君は元々、自分に自信を持って生きてきたはずだ! 他人に左右されず、間違ってると思ったら上司だってぶっ飛ばした、誇り高い男だったはずだろう!?」
「……!」
掌底をまともに喰らい、倒れこむフーの脳裏に、エルスとともに初仕事を終えた時の記憶が蘇ってきた。
「いやぁ、風が気持ちいいねぇ」
「そうっスねぇ」
513年、海賊退治の直後。誘拐された人々を港へ送り返すその途上、船の上で、エルスはフーと話をしていた。
「……えっと、こんな風に言っちゃうとさ、気を悪くしちゃうかも知れないけど」
「なんスか?」
「君、素直だよね」
「へっ?」
エルスの言葉に、フーはきょとんとする。
「いや、そんなことないっスって」
「なんかさ、今こうして見てると、そう思うんだよ」
「いやいや、素直な奴だったら上官にパンチ喰らわせたりしないっスよ」
「あ、それなんだけどさ」
エルスは小声で、フーに耳打ちする。
「あの時の教官、カルノフ中尉だったってね?」
「え、知ってるんスか?」
「うん。僕の2つ先輩。……でもさー、はっきり言ってヤな奴だよね」
そう言ってニヤ、と笑うエルスに、フーも笑い出した。
「……ふ、あはは、そう、そうなんスよねっ」
「だろ? ネチネチ人をけなす奴だし、そりゃ殴りたくもなる。……でさ、何て言われたの?」
「……まあ、その。ばーちゃん、バカにされたんスよ。ばーちゃん、ちょっとボケ入っちゃってて」
「なるほど。そりゃ、中尉の方が悪い。もう2、3発殴ってもいいくらいだ」
エルスは小さくうんうんとうなずき、こう続ける。
「君はいい奴だ。自分の家族を、大事に思ってる。そしてそれを傷つけられたら、果敢に立ち向かう。……君は大事なもののために敢然と戦える、誇り高い子だね」
「……どもっス」
べた褒めされたフーは、顔を赤くした。
「……誇り、高い」
「そうだ! 少なくとも他人の言いなりになるような、浅い男じゃ無かったはずだ!
立て、フー! 本当の君は、日上風は、こんな時どうする!?」
「……っ」
フーは剣を杖にして、ヨロヨロと立ち上がった。
「エルス、……さん」
よろめき、エルスに支えられながらも、フーははっきりとした口調で答えた。
「目が、醒めました」
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フーの刮目。
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先に飛び出したのは晴奈の方だった。
「りゃああッ!」
「蒼天」に火を灯し、アランを斬り付ける。
「愚かな……。私にそんなものは一切通用しないと、何故理解でき……」
言いかけたところで、アランの言葉は中断させられた。
「……っ、ナ、ニ?」
晴奈の刀はゴリ、と音を立てて、アランがローブの下に着込んでいた甲冑を削った。完全に切れたわけではなかったが、それでもアランをうろたえさせるには十分だった。
「バカ、ナ、……馬鹿な! ……くっ!」
アランは身を翻し、晴奈との間合いを大きく取る。
「どうだ、アラン! この黄晴奈は、お前を討つ力を持っている! 容赦はせんぞッ!」
「まさか……、私の防御性能を超える、武器が? そんなものは……、最早あるはずが……」
アランは混乱しているらしく、防御姿勢すら取れないでいる。そして、それを見逃す晴奈ではない。
「はああッ!」「……!」
晴奈は至近距離まで踏み込み、突きを繰り出す。がつっ、と金属板が破ける音とともに、アランの腹から背中に刀が通り抜けた。
「ぐ、……が、ガガッ」
アランは晴奈を引き剥がそうと手を伸ばしたが、それより早く晴奈は飛びのいた。
「ガ、ガガガ、……ユ、ゆる、許さんぞ、貴様……!」
「許さなくて結構! こちらも許す気、一切無し!」
晴奈は構え直し、再度仕掛けようとした。
だが――。
「貴様ら如き肉の塊が、この私を壊せると思うな!」
ドン、と重たく激しい音がアランから響く。恐るべき速さで、アランが頭から飛び込んできたのだ。
「……っ!」
飛んできたアランを、晴奈はとっさに身を引いてかわす。
飛んで行ったアランは洞窟の壁にぶつかったが、そのままもう一度音を立てて跳び、何事も無かったかのように地面へと戻ってきた。
「かわしたか。……うん?」
アランの目に、何もせず立ち尽くすフーとエルスの姿が映る。
「フー! 何をしている! さっさと倒せ!」
「……っ」
アランの言葉に、フーはビクッと震える。
「聞かないでいい、フー!」
エルスが抑えようとするが、フーはブルブルと震えながら、剣を構える。
「……すまない……っ!」
「フー……!」
アランに促され、フーは再びエルスと戦い始めた。
「やれやれ、愚図め。……戦闘再開だ」
アランはそうつぶやいて、晴奈の方に向く。
「『愚図め』、だと? お前は日上の従者では無いのか? 主君を公然とけなすなど……」
「主君? ああ、建前上は確かにそうだ。
だがあんなゴミ同然の者、私がいなければとっくの昔に首を吊っていた程度の、一人では何もできぬクズ。
私が拾い、育ててやったのだ。尊敬も、敬愛も、するわけがない。むしろあっちの方から、感謝してもらうべきだ。
だから非難したところで、あいつが怒る道理も正当性も無い」
「下衆がッ!」
晴奈は目の前の「鉄の悪魔」に吐き気を催しつつ、再度斬りかかった。
エルスはフーの攻撃をかわしつつ、言葉を投げかける。
「どうしたんだ、フー! 君は、そんな奴じゃ無かったはずだ!」
「うるせえ……っ! 俺の、何を知ってるって言うんだ!」
「何でも、さ! 好きな食べ物、馴染みの店、お気に入りの服のメーカーも! 何年、一緒に仕事してきた?」
「たった2年ちょっとじゃねえか! それよりも多くの時間を、俺はアイツと、アランと過ごしてたんだ!
アイツは俺の、何もかもを握っている! もうどうしようもないんだよ……ッ!」
フーは怒鳴りながら、エルスの胸を狙って突きを放つ。
「すべてを握ってる、だって……? 馬鹿なことを、言うなッ!」
エルスは剣を紙一重で避け、それを握るフーの手首を引っ張りながら、あごに掌底を当てた。
「ぐあ……っ!」
「思い出せ、フー! 君は元々、自分に自信を持って生きてきたはずだ! 他人に左右されず、間違ってると思ったら上司だってぶっ飛ばした、誇り高い男だったはずだろう!?」
「……!」
掌底をまともに喰らい、倒れこむフーの脳裏に、エルスとともに初仕事を終えた時の記憶が蘇ってきた。
「いやぁ、風が気持ちいいねぇ」
「そうっスねぇ」
513年、海賊退治の直後。誘拐された人々を港へ送り返すその途上、船の上で、エルスはフーと話をしていた。
「……えっと、こんな風に言っちゃうとさ、気を悪くしちゃうかも知れないけど」
「なんスか?」
「君、素直だよね」
「へっ?」
エルスの言葉に、フーはきょとんとする。
「いや、そんなことないっスって」
「なんかさ、今こうして見てると、そう思うんだよ」
「いやいや、素直な奴だったら上官にパンチ喰らわせたりしないっスよ」
「あ、それなんだけどさ」
エルスは小声で、フーに耳打ちする。
「あの時の教官、カルノフ中尉だったってね?」
「え、知ってるんスか?」
「うん。僕の2つ先輩。……でもさー、はっきり言ってヤな奴だよね」
そう言ってニヤ、と笑うエルスに、フーも笑い出した。
「……ふ、あはは、そう、そうなんスよねっ」
「だろ? ネチネチ人をけなす奴だし、そりゃ殴りたくもなる。……でさ、何て言われたの?」
「……まあ、その。ばーちゃん、バカにされたんスよ。ばーちゃん、ちょっとボケ入っちゃってて」
「なるほど。そりゃ、中尉の方が悪い。もう2、3発殴ってもいいくらいだ」
エルスは小さくうんうんとうなずき、こう続ける。
「君はいい奴だ。自分の家族を、大事に思ってる。そしてそれを傷つけられたら、果敢に立ち向かう。……君は大事なもののために敢然と戦える、誇り高い子だね」
「……どもっス」
べた褒めされたフーは、顔を赤くした。
「……誇り、高い」
「そうだ! 少なくとも他人の言いなりになるような、浅い男じゃ無かったはずだ!
立て、フー! 本当の君は、日上風は、こんな時どうする!?」
「……っ」
フーは剣を杖にして、ヨロヨロと立ち上がった。
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2016.12.18 修正
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道を間違ったといえど。。。
フーがどうなるのかは興味がありますね。
栄光の行き着く果てがなんなのか。
この作品の行くつく果てにもつながっているように見えます。
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