「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 10
晴奈の話、第579話。
囲まれた鉄の悪魔。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
10.
晴奈とアランの対決は、依然決着していなかった。
「うりゃあッ!」
晴奈の「蒼天」が、何度もアランの体を捉える。だが、多少削れるところまでは行くのだが、貫き、切り落とすまでには至らない。
致命傷と思われた二太刀目も、さして影響を与えていないようだった。
「どうした、最初の威勢は!」
さらにアランは、かつて晴奈が殺刹峰で戦った強敵、フローラ以上の跳躍力と瞬発力を発し、まるで弾丸のように晴奈へ飛び掛ってくる。
猫獣人の感覚の鋭さをもってしても、アランと立ち向かうのは容易ではなかった。
「動きが、捉えられない……!」
かわしざま、すれちがいざまに斬り付けはするが、とても決定打を与えられる状況ではない。
持久力に自信のある晴奈も息が切れ始めており、このまま対峙すればジリ貧になるのは明らかだった。
と、またアランが飛び掛ったその時だった。
「『ワールウインド』、吹き飛べッ!」
突然の強風にあおられ、アランの体勢が崩れる。
「う……っ!?」
「アラン・グレイ! 僕たちも相手になるぞ!」
フーと戦っていたはずのエルスが、魔術を放ったのだ。
「何……!? フー、何故そいつを殺さない!」
晴奈の位置から大きくずれた場所に着地したアランは、エルスの横に立つフーに怒鳴った。だが、フーは首を大きく横に振り、こう言い返した。
「もううんざりだ、って言っただろう、アラン! お前の命令なんざ、二度と聞かねえッ!」
「この……、馬鹿がッ!」
アランは脚をガキン、と鳴らす。その聞き覚えのある金属音に、晴奈はアランの正体に勘付いた。
(この音……、フローラも同じ音を発し、とんでもない威力の掌底や蹴りを放ってきた。
とすれば、奴もまさか……?)
「もういい! 私が、殺してやる!」
アランは地面をドゴ、と音が響くほどに蹴り、エルスに向かって突っ込んできた。
「はいやッ!」
エルスは飛んできたアランの肩を両掌で受け止め、後ろに引きながらぐるりと体を回転させつつ、膝蹴りを放った。
「ゴ……ッ!?」
アランは飛んできた時以上の速度で、横にガタガタと転がっていく。
マグマの蒸気が昇る縦穴に落ちる寸前でようやく体勢を立て直し、信じられないと言いたげな声を漏らした。
「ナ……、ナに、ヲ、しタ!?」
アランの発声がおかしくなってくる。エルスの一撃は、相当のダメージを与えたらしい。
「『合気』って体術の一種だよ。相手の力に自分の力を上乗せして、相手に叩き返すのさ」
「ガ、ガピ……ッ、どイ、つ、モ、こいツも……!」
アランの声が、段々と金気を帯びてとがってくる。
「私ニ逆ラウと、ドウなルか……ッ!」
アランは両肩をガキンと鳴らし、再びエルスに向かって飛んでいく。だが、エルスに両掌をぶつける直前で、フーが正面から突っ込んできた。
「どうなるってんだ、このクソ野郎ッ!」「ゴ……、バ、ッ」
フーの構えた「バニッシャー」が深々とアランの胴に刺さり、そのまま右へと抜ける。アランは体勢を崩し、またガタガタと転げ回った。
「ガッ、ピー、ピガッ、……ガ、がアアああッ!」
なお諦めず、アランは飛びかかる。
「せいッ!」
だがこれもエルスは受け流し、より強い力で投げ飛ばす。
「グゴ、コ……ッ」
三度地面につんのめり、アランの声は完全な金切り声へと変わった。
「ガ、ガガ、ガ……、オ前ラ、ヨクモコノ私ヲッ!」
ボロボロになったアランのフードが、はらりと落ちる。今まで半ば隠されていたアランの鉄仮面が、後頭部まであらわになった。
「全身に、鋼鉄の甲冑を……!」
「道理で……、どこを斬っても金属音が鳴るわけか」
アランの目が鉄仮面の奥で、爛々と光る。
「ガ、ガガッ、ガガピッ……」
何かを怒鳴ったようだが、ほとんど金属をこすり合わせたような音にしか聞こえない。
「……流石に、手が痛くなってきたな」
エルスはのんきそうに振舞っているが、その両手は青黒く変色し、出血している。受け流してはいたものの、アランからのダメージを消しきれなかったらしい。
「ハァ、ハァ……、くっ」
フーの顔色も悪い。
「全力で斬ったってのに、……なんでてめえ、倒れねえんだよ! これじゃ、まるで、あいつみたいな、……あああ……クソがっ……」
「……悪魔め」
晴奈の息は整ってきてはいたが、決め手を欠くこの状況に、足が踏み出せずにいた。
(どうすれば、奴を倒せる……? どうすれば、この悪魔を討つことができる……!?)
晴奈は依然、目の前に立ち続ける「鉄の悪魔」の姿に舌打ちするしかなかった。
その時だった。
「あら、もう始めちゃってるの? ずるいわね、私も一枚噛ませなさいよ」
晴奈たちの頭上から、声が降りてきた。
@au_ringさんをフォロー
囲まれた鉄の悪魔。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
10.
晴奈とアランの対決は、依然決着していなかった。
「うりゃあッ!」
晴奈の「蒼天」が、何度もアランの体を捉える。だが、多少削れるところまでは行くのだが、貫き、切り落とすまでには至らない。
致命傷と思われた二太刀目も、さして影響を与えていないようだった。
「どうした、最初の威勢は!」
さらにアランは、かつて晴奈が殺刹峰で戦った強敵、フローラ以上の跳躍力と瞬発力を発し、まるで弾丸のように晴奈へ飛び掛ってくる。
猫獣人の感覚の鋭さをもってしても、アランと立ち向かうのは容易ではなかった。
「動きが、捉えられない……!」
かわしざま、すれちがいざまに斬り付けはするが、とても決定打を与えられる状況ではない。
持久力に自信のある晴奈も息が切れ始めており、このまま対峙すればジリ貧になるのは明らかだった。
と、またアランが飛び掛ったその時だった。
「『ワールウインド』、吹き飛べッ!」
突然の強風にあおられ、アランの体勢が崩れる。
「う……っ!?」
「アラン・グレイ! 僕たちも相手になるぞ!」
フーと戦っていたはずのエルスが、魔術を放ったのだ。
「何……!? フー、何故そいつを殺さない!」
晴奈の位置から大きくずれた場所に着地したアランは、エルスの横に立つフーに怒鳴った。だが、フーは首を大きく横に振り、こう言い返した。
「もううんざりだ、って言っただろう、アラン! お前の命令なんざ、二度と聞かねえッ!」
「この……、馬鹿がッ!」
アランは脚をガキン、と鳴らす。その聞き覚えのある金属音に、晴奈はアランの正体に勘付いた。
(この音……、フローラも同じ音を発し、とんでもない威力の掌底や蹴りを放ってきた。
とすれば、奴もまさか……?)
「もういい! 私が、殺してやる!」
アランは地面をドゴ、と音が響くほどに蹴り、エルスに向かって突っ込んできた。
「はいやッ!」
エルスは飛んできたアランの肩を両掌で受け止め、後ろに引きながらぐるりと体を回転させつつ、膝蹴りを放った。
「ゴ……ッ!?」
アランは飛んできた時以上の速度で、横にガタガタと転がっていく。
マグマの蒸気が昇る縦穴に落ちる寸前でようやく体勢を立て直し、信じられないと言いたげな声を漏らした。
「ナ……、ナに、ヲ、しタ!?」
アランの発声がおかしくなってくる。エルスの一撃は、相当のダメージを与えたらしい。
「『合気』って体術の一種だよ。相手の力に自分の力を上乗せして、相手に叩き返すのさ」
「ガ、ガピ……ッ、どイ、つ、モ、こいツも……!」
アランの声が、段々と金気を帯びてとがってくる。
「私ニ逆ラウと、ドウなルか……ッ!」
アランは両肩をガキンと鳴らし、再びエルスに向かって飛んでいく。だが、エルスに両掌をぶつける直前で、フーが正面から突っ込んできた。
「どうなるってんだ、このクソ野郎ッ!」「ゴ……、バ、ッ」
フーの構えた「バニッシャー」が深々とアランの胴に刺さり、そのまま右へと抜ける。アランは体勢を崩し、またガタガタと転げ回った。
「ガッ、ピー、ピガッ、……ガ、がアアああッ!」
なお諦めず、アランは飛びかかる。
「せいッ!」
だがこれもエルスは受け流し、より強い力で投げ飛ばす。
「グゴ、コ……ッ」
三度地面につんのめり、アランの声は完全な金切り声へと変わった。
「ガ、ガガ、ガ……、オ前ラ、ヨクモコノ私ヲッ!」
ボロボロになったアランのフードが、はらりと落ちる。今まで半ば隠されていたアランの鉄仮面が、後頭部まであらわになった。
「全身に、鋼鉄の甲冑を……!」
「道理で……、どこを斬っても金属音が鳴るわけか」
アランの目が鉄仮面の奥で、爛々と光る。
「ガ、ガガッ、ガガピッ……」
何かを怒鳴ったようだが、ほとんど金属をこすり合わせたような音にしか聞こえない。
「……流石に、手が痛くなってきたな」
エルスはのんきそうに振舞っているが、その両手は青黒く変色し、出血している。受け流してはいたものの、アランからのダメージを消しきれなかったらしい。
「ハァ、ハァ……、くっ」
フーの顔色も悪い。
「全力で斬ったってのに、……なんでてめえ、倒れねえんだよ! これじゃ、まるで、あいつみたいな、……あああ……クソがっ……」
「……悪魔め」
晴奈の息は整ってきてはいたが、決め手を欠くこの状況に、足が踏み出せずにいた。
(どうすれば、奴を倒せる……? どうすれば、この悪魔を討つことができる……!?)
晴奈は依然、目の前に立ち続ける「鉄の悪魔」の姿に舌打ちするしかなかった。
その時だった。
「あら、もう始めちゃってるの? ずるいわね、私も一枚噛ませなさいよ」
晴奈たちの頭上から、声が降りてきた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.12.18 修正
2016.12.18 修正
- 関連記事
-
-
蒼天剣・獄下録 12 2010/06/17
-
蒼天剣・獄下録 11 2010/06/16
-
蒼天剣・獄下録 10 2010/06/15
-
蒼天剣・獄下録 9 2010/06/14
-
蒼天剣・獄下録 8 2010/06/13
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

NoTitle
続きも読みます。とりあえず獄下録は今のうちに全部読みたい。