「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 12
晴奈の話、第581話。
悪夢の終わり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
12.
エルスの笑顔が消える。
「……ダメだ、フー! そんなことは……!」
「他に方法は、無いんです」
フーは諦めたような表情を浮かべ、首を振った。
「コイツは何が何でも、俺を王にしようとする。そしてそのために、多くの人が死んでいく。俺はもう、それに耐えられないんです」
「だからって……!」
フーは依然、首を横に振りながら、身に付けていた防具、「ガーディアン」一式を脱ぎ出す。
「頼みがあります」
「フー! ダメだ!」
「俺の国、『ヘブン』ができる限り、この先も残っていくよう、協力をお願いします。
それから、『ヘブン』で俺を待っているランニャにこの防具を返して、『長い間、ありがとう』と言伝してください。
あと、俺がここまで連れてきた側近たちも、処分しないでもらえるよう、お願いします」
「フー……!」
フーは「バニッシャー」を地面に突き立て、言葉を続ける。
「最後に、この『バニッシャー』。元の持ち主が誰なのか、転々としすぎて分かんなくなりましたけど、……黒炎教団に返すのが、一番かなと思います。彼らに、返してやってください」
「……ダメだ……!」
エルスは一歩、フーに歩み寄ろうとした。
「来ないでください!」
「……っ」
「これは、決めたことです。……すべての償いと、未来に禍根を残さないために、俺がその罪を全部被ります」
「……」
エルスはそれ以上、何も言えなかった。
フーは残っていたアランの頭部をつかみ、声をかける。
「アラン。これでもう、お前の企みはお仕舞いだ」
「ガガ……、ナニヲスルキダ……!?」
「俺がいる限り、お前は復活して世界を混乱させる」
「マサカ……、待テ、早マルナ!」
「お前の言うことなんか、誰が聞くか」
フーはアランをつかんだまま、マグマが沸き立つ縦穴へと歩いていく。
「ヨセ……、ヨセッ!」
「……」
「ヤメロ、今マデ私ガ積ミ上ゲテキタコトヲ、無駄ニスル気カ!?」
「お前は結局、自分のためだけに、俺を王に仕立て上げた。お前なんかが一人得をするために、俺たちは生きてきたんじゃねえ」
「ヤメロオオオオオオオッ!」
アランはわめくが、フーは構わず縦穴のすぐ前まで足を進めた。
そこで立ち止まり、振り返る。
「……エルスさん」
フーはエルスに向かって、涙を流しながら敬礼した。
「最後まで、ありがとうございました」
フーは敬礼したまま、ポンと後ろに飛んだ。
縦穴の底へ消えたフーを、エルスは呆然とした顔で見送っていた。
その表情は、そこにいた皆が、今まで見たことのないものだった。
「……終わった」
やがて、エルスが口を開いた。
「何もかもが、終わった。
戦争は、終わりだ。
悪魔ももう、現れない。現れてももう、何もできない。
アラン・グレイの企みはすべて、水泡に帰したんだ」
エルスは静かに、フーの遺した「バニッシャー」と「ガーディアン」の側に座り込んだ。
「……何と言えばいいか分からない。
ありがとうと言うには、身勝手すぎる。すまないと言うには、あまりに何もできなかった。
……でも、……ごめん、……ありがとう」
1時間後、ほぼ夜が明けようかと言う時刻になって、晴奈たちは地上に戻ってきた。
うつむきがちに兵士たちと話すエルスを置いて、晴奈と巴景は街の外まで出る。その後ろには、明奈が付いてきていた。
「いよいよ、この時が来たわね」
「ああ」
晴奈と巴景は、互いに距離を取って向かい合う。
「決着を付けるぞ」
蒼天剣・獄下録 終
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悪夢の終わり。
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12.
エルスの笑顔が消える。
「……ダメだ、フー! そんなことは……!」
「他に方法は、無いんです」
フーは諦めたような表情を浮かべ、首を振った。
「コイツは何が何でも、俺を王にしようとする。そしてそのために、多くの人が死んでいく。俺はもう、それに耐えられないんです」
「だからって……!」
フーは依然、首を横に振りながら、身に付けていた防具、「ガーディアン」一式を脱ぎ出す。
「頼みがあります」
「フー! ダメだ!」
「俺の国、『ヘブン』ができる限り、この先も残っていくよう、協力をお願いします。
それから、『ヘブン』で俺を待っているランニャにこの防具を返して、『長い間、ありがとう』と言伝してください。
あと、俺がここまで連れてきた側近たちも、処分しないでもらえるよう、お願いします」
「フー……!」
フーは「バニッシャー」を地面に突き立て、言葉を続ける。
「最後に、この『バニッシャー』。元の持ち主が誰なのか、転々としすぎて分かんなくなりましたけど、……黒炎教団に返すのが、一番かなと思います。彼らに、返してやってください」
「……ダメだ……!」
エルスは一歩、フーに歩み寄ろうとした。
「来ないでください!」
「……っ」
「これは、決めたことです。……すべての償いと、未来に禍根を残さないために、俺がその罪を全部被ります」
「……」
エルスはそれ以上、何も言えなかった。
フーは残っていたアランの頭部をつかみ、声をかける。
「アラン。これでもう、お前の企みはお仕舞いだ」
「ガガ……、ナニヲスルキダ……!?」
「俺がいる限り、お前は復活して世界を混乱させる」
「マサカ……、待テ、早マルナ!」
「お前の言うことなんか、誰が聞くか」
フーはアランをつかんだまま、マグマが沸き立つ縦穴へと歩いていく。
「ヨセ……、ヨセッ!」
「……」
「ヤメロ、今マデ私ガ積ミ上ゲテキタコトヲ、無駄ニスル気カ!?」
「お前は結局、自分のためだけに、俺を王に仕立て上げた。お前なんかが一人得をするために、俺たちは生きてきたんじゃねえ」
「ヤメロオオオオオオオッ!」
アランはわめくが、フーは構わず縦穴のすぐ前まで足を進めた。
そこで立ち止まり、振り返る。
「……エルスさん」
フーはエルスに向かって、涙を流しながら敬礼した。
「最後まで、ありがとうございました」
フーは敬礼したまま、ポンと後ろに飛んだ。
縦穴の底へ消えたフーを、エルスは呆然とした顔で見送っていた。
その表情は、そこにいた皆が、今まで見たことのないものだった。
「……終わった」
やがて、エルスが口を開いた。
「何もかもが、終わった。
戦争は、終わりだ。
悪魔ももう、現れない。現れてももう、何もできない。
アラン・グレイの企みはすべて、水泡に帰したんだ」
エルスは静かに、フーの遺した「バニッシャー」と「ガーディアン」の側に座り込んだ。
「……何と言えばいいか分からない。
ありがとうと言うには、身勝手すぎる。すまないと言うには、あまりに何もできなかった。
……でも、……ごめん、……ありがとう」
1時間後、ほぼ夜が明けようかと言う時刻になって、晴奈たちは地上に戻ってきた。
うつむきがちに兵士たちと話すエルスを置いて、晴奈と巴景は街の外まで出る。その後ろには、明奈が付いてきていた。
「いよいよ、この時が来たわね」
「ああ」
晴奈と巴景は、互いに距離を取って向かい合う。
「決着を付けるぞ」
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もうすぐ、おしまいです。
最後までどうぞ、お楽しみ下さい。