「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 1
晴奈の話、第582話。
晴奈と巴景、三度目の戦い。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
朝の光がうっすらと、北方大陸の高い山々の端から漏れている。だが晴奈と巴景、両者の周囲はまだ薄暗い。
その中で、二人は対峙していた。
「晴奈。あなたの妹さんには、感謝しているわ」
「明奈に……?」
晴奈は付いてきた明奈をチラ、と見る。
「何かしたのか、あいつに?」
「え? えっと、あの、……お化粧を、教えただけですけど」
「化粧?」
もう一度、晴奈は巴景に目をやる。
「……!」
いつの間にか巴景は仮面を外しており、そこには化粧で傷を薄めた顔があった。
「こう言うことよ。アンタに付けられた傷は、目立たなくなった。仮面を外しても、大手を振って歩ける顔になったわ。
そうなってくると不思議ね。アンタに対する恨みは、淡くなった。もう前ほど、アンタを殺してやろうなんて思ってないの。
でも分かるでしょ、晴奈? それと『これ』とは、別の話だって」
「ああ。これはあくまで、私とお前、どちらが剣士として上か。それがすべてだ」
話は一段落したが、どちらもまだ武器を構えない。
「ねえ晴奈」
と、さらに巴景が話を続ける。
「何だ?」
「私、賭けをしたの」
「賭け?」
巴景は明奈を指差し、悪辣に笑う。
「私が勝ったら明奈をもらう、ってね」
「何だと!?」
驚く晴奈に、明奈が一言加える。
「その代わり、お姉さまが勝ったら巴景さんに、お姉さまのことを姉と呼ぶよう要求しましたよ」
「……剣呑な賭けをしたものだな」
「私だって嫌よ。だから絶対、勝つつもりよ」
「……そうか」
そこでようやく、巴景が剣を抜いた。菫色に輝く「ファイナル・ビュート」が、巴景の姿をほんのりと照らす。
「勝負よ、晴奈」
「ああ」
晴奈も刀を抜く。「晴空刀 蒼天」が、こちらは蒼色に、晴奈を照らした。
「行くぞ、巴景ッ!」
両者とも、初太刀は火も風も無い、そのままの刃だった。
「く、っ」「ぬ、ぅ」
一瞬鍔迫り合いになったが、晴奈が飛びのく。
「力は……、お前の方が上か」「みたいね」
続いて二人は、己が磨き上げてきた剣術でぶつかり合う。
「『火射』!」「『地断』!」
二条の剣閃が、尾を引いて飛んで行く。一方は地面を焦がし、もう一方は地面を割って、丁度中間でぶつかり合った。
「……っ」
「地断」が「火射」とぶつかった瞬間に弾かれ、四散するのを見て、巴景が息を呑む。
「魔力の方は、アンタが上のようね。でもこれはどう!?」
巴景は新たに編み出した技を、晴奈に仕掛けた。
「『天衝』ッ!」
風の魔術剣を乗せて繰り出された突きが、猛烈な渦を巻く。
「な……っ!?」
晴奈は直感的に、この攻撃が恐ろしい威力を秘めていることを感じ取った。
「……まずい!」
晴奈は「蒼天」を構え直し、飛んでくる衝撃を受けた。
「お、お……っ」
重たい一撃に、晴奈の体が浮く。だが、それでも「蒼天」は受け切り、晴奈を護った。
「『地断』の一点集中、か」
「そうよ。……相当な名刀のようね。まさか私の全力攻撃を受けて、折れも曲がりもしないなんて」
「ああ。この『晴空刀 蒼天』は、世界最高の一振り。黒炎殿、克大火から賜った逸品だ」
「克の? ……ああ、もったいないことをしたかな」
「うん?」
巴景はぺろ、と舌を出す。
「日上と一緒に克を倒した時、奴の持ってた刀を墓標代わりに差して、置いてきちゃったのよ。アンタと戦うならそれくらいの業物、用意しておけば良かったわ」
「お前が、黒炎殿を倒したのか」
これを聞いた晴奈は、顔をしかめた。
「あら? アンタ、焔流のくせに克びいきなの? そうよね、刀をもらうくらいだものね。
ま、いいわ。今この時、どこが何を嫌ってたりとか、誰が何を信奉したりとか、関係ないわ。ここにはあなたと私だけだもの」
「そうだ。そんな話は、終わってからいくらでも語ればいい」
「ええ。……さあ、仕切り直しよ! 行くわよ、晴奈!」
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晴奈と巴景、三度目の戦い。
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朝の光がうっすらと、北方大陸の高い山々の端から漏れている。だが晴奈と巴景、両者の周囲はまだ薄暗い。
その中で、二人は対峙していた。
「晴奈。あなたの妹さんには、感謝しているわ」
「明奈に……?」
晴奈は付いてきた明奈をチラ、と見る。
「何かしたのか、あいつに?」
「え? えっと、あの、……お化粧を、教えただけですけど」
「化粧?」
もう一度、晴奈は巴景に目をやる。
「……!」
いつの間にか巴景は仮面を外しており、そこには化粧で傷を薄めた顔があった。
「こう言うことよ。アンタに付けられた傷は、目立たなくなった。仮面を外しても、大手を振って歩ける顔になったわ。
そうなってくると不思議ね。アンタに対する恨みは、淡くなった。もう前ほど、アンタを殺してやろうなんて思ってないの。
でも分かるでしょ、晴奈? それと『これ』とは、別の話だって」
「ああ。これはあくまで、私とお前、どちらが剣士として上か。それがすべてだ」
話は一段落したが、どちらもまだ武器を構えない。
「ねえ晴奈」
と、さらに巴景が話を続ける。
「何だ?」
「私、賭けをしたの」
「賭け?」
巴景は明奈を指差し、悪辣に笑う。
「私が勝ったら明奈をもらう、ってね」
「何だと!?」
驚く晴奈に、明奈が一言加える。
「その代わり、お姉さまが勝ったら巴景さんに、お姉さまのことを姉と呼ぶよう要求しましたよ」
「……剣呑な賭けをしたものだな」
「私だって嫌よ。だから絶対、勝つつもりよ」
「……そうか」
そこでようやく、巴景が剣を抜いた。菫色に輝く「ファイナル・ビュート」が、巴景の姿をほんのりと照らす。
「勝負よ、晴奈」
「ああ」
晴奈も刀を抜く。「晴空刀 蒼天」が、こちらは蒼色に、晴奈を照らした。
「行くぞ、巴景ッ!」
両者とも、初太刀は火も風も無い、そのままの刃だった。
「く、っ」「ぬ、ぅ」
一瞬鍔迫り合いになったが、晴奈が飛びのく。
「力は……、お前の方が上か」「みたいね」
続いて二人は、己が磨き上げてきた剣術でぶつかり合う。
「『火射』!」「『地断』!」
二条の剣閃が、尾を引いて飛んで行く。一方は地面を焦がし、もう一方は地面を割って、丁度中間でぶつかり合った。
「……っ」
「地断」が「火射」とぶつかった瞬間に弾かれ、四散するのを見て、巴景が息を呑む。
「魔力の方は、アンタが上のようね。でもこれはどう!?」
巴景は新たに編み出した技を、晴奈に仕掛けた。
「『天衝』ッ!」
風の魔術剣を乗せて繰り出された突きが、猛烈な渦を巻く。
「な……っ!?」
晴奈は直感的に、この攻撃が恐ろしい威力を秘めていることを感じ取った。
「……まずい!」
晴奈は「蒼天」を構え直し、飛んでくる衝撃を受けた。
「お、お……っ」
重たい一撃に、晴奈の体が浮く。だが、それでも「蒼天」は受け切り、晴奈を護った。
「『地断』の一点集中、か」
「そうよ。……相当な名刀のようね。まさか私の全力攻撃を受けて、折れも曲がりもしないなんて」
「ああ。この『晴空刀 蒼天』は、世界最高の一振り。黒炎殿、克大火から賜った逸品だ」
「克の? ……ああ、もったいないことをしたかな」
「うん?」
巴景はぺろ、と舌を出す。
「日上と一緒に克を倒した時、奴の持ってた刀を墓標代わりに差して、置いてきちゃったのよ。アンタと戦うならそれくらいの業物、用意しておけば良かったわ」
「お前が、黒炎殿を倒したのか」
これを聞いた晴奈は、顔をしかめた。
「あら? アンタ、焔流のくせに克びいきなの? そうよね、刀をもらうくらいだものね。
ま、いいわ。今この時、どこが何を嫌ってたりとか、誰が何を信奉したりとか、関係ないわ。ここにはあなたと私だけだもの」
「そうだ。そんな話は、終わってからいくらでも語ればいい」
「ええ。……さあ、仕切り直しよ! 行くわよ、晴奈!」
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2016.12.25 修正
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確かに決戦の前には立場も思想も無意味。・・・のわりには戦いには思想がつきものですけどね。巴景みたいに拘らないのも無欲でいいですね。
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あらゆる雑味を取り去った、双璧の勝負です。