「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 2
晴奈の話、第583話。
見えない技(invisible)と触れない技(invincible)。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
晴奈と巴景の勝負は、平行線を辿った。
風の術に劣後するはずの火の魔術剣は、巴景の放つ風の魔術剣と十二分に対抗できていた。巴景の方も、強化術で筋力を増強させ、鍔迫り合いになれば晴奈をあっさり弾くことができた。
魔力では晴奈に、筋力では巴景に分があり、それが一進一退の状況を作っていた。
「ふーっ、ふーっ……」
「ハァ、ハァ……」
暦の上では春に差し掛かったとは言え、北方の空気はまだ寒々しい。晴奈も、巴景も、己のかいた汗が湯気となって、周りを白く染めている。
「……なかなか、しぶといわね。やっぱり、これを使わなきゃ決着しそうに無いか」
「何を使う気だ?」
「これよ」
そう言って、巴景は両腕を火に変えた。
「先程アランを倒した際に使った、あの妖術か」
「そう。自分の体を魔術に換える、私の奥義。名付けて、『人鬼』」
「奥義、か。ならば私も、奥義で対抗させてもらう」
「『炎剣舞』ね」
「いいや」
晴奈は深呼吸し、不敵に笑っているような、それでいて、覚悟を決めたような目で、巴景を見据えた。
「それを超えるもの。誰にも捉えられぬ、不可視の秘剣。名付けて、『星剣舞』」
次の瞬間、晴奈の姿が巴景の目の前から消えた。
「……ッ!」
巴景は周囲に気を巡らせ、晴奈の気配を探る。
「……いない……? いいえ、いるはず」
巴景は自分の体を風に変え、晴奈の攻撃に備えた。
「……う、っ」
風になった自分の体を、鋭いものがすり抜ける。実体が無いので斬られはしなかったが、相手の姿が確認できないまま攻撃を受けたことに、巴景は戦慄した。
「どこ……?」
立て続けに何度か刀が通り抜けていくが、依然ダメージは無い。とは言え、巴景の方も相手の姿が見えなくては、攻撃のしようが無い。
「……っ、時間切れ、か」
巴景の集中が乱れ、「人鬼」が解除される。と、晴奈の方も根負けしたらしく、姿を表した。
「……奇怪な術だ」
「それはこっちの台詞よ。一体今まで、どこにいたの?」
互いの切り札を出しつくし、両者とも打つ手を失う。
そのまま二人は、じっと互いに相手をにらみ続けた。
と、晴奈が口を開く。
「……巴景」
「何?」
「決着が、付かぬな」
その言葉に、巴景は一瞬間を置いて笑い出した。
「……クス、アハハ、そう、そうね。全然付きやしない」
「……はは、くく、くふふふっ、まったくだ」
晴奈も笑い出した。
「互いの奥義を繰り出してなお、どうにもならぬ。この勝負、決着は永遠に付かぬよ」
「癪だけど、その通りね。後何回、『人鬼』と『星剣舞』を仕掛け合っても、多分どうもならないでしょうね。
……いいわ。明奈は諦めた。その代わり、アンタのことなんか絶対、姉さんなんて呼ばないわよ。
この勝負、引き分けよ」
「そうだな」
二人とも、笑いながら刀と剣を納めた。
と、ようやく山の稜線から朝日が姿を表す。曙(あけぼの)の光が、二人の顔を照らした。
「次こそ、決着を付けてあげるわ」
巴景はニヤリと笑い、そう告げた。
「次、か。……巴景、済まぬが私は」
「何? 結婚でもするの?」
「……そうなるかも知れない」
「あら、そう。……へー。
ま、それでもあなた、刀を置かないでしょう?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあ、いいじゃない。また、仕合いましょう?」
晴奈ははにかみ、うなずいた。
「……ああ。また、いつか」
「いつか、ね」
巴景は最後に、明奈にパチ、とウインクしてその場を去った。
戦いが終わったところで、明奈が恐る恐る晴奈に近寄ってきた。
「お姉さま」
「明奈。……どうして、とは聞かない。大体の事情は、何となく、分かったつもりだ。
ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。ところで」
明奈はいたずらっぽく笑い、晴奈に尋ねた。
「お相手、どなたなの? と言っても、わたしも何となく、察しは付いておりますけれども、ね」
「……うぅ」
晴奈は顔を赤くし、うつむいた。
@au_ringさんをフォロー
見えない技(invisible)と触れない技(invincible)。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
晴奈と巴景の勝負は、平行線を辿った。
風の術に劣後するはずの火の魔術剣は、巴景の放つ風の魔術剣と十二分に対抗できていた。巴景の方も、強化術で筋力を増強させ、鍔迫り合いになれば晴奈をあっさり弾くことができた。
魔力では晴奈に、筋力では巴景に分があり、それが一進一退の状況を作っていた。
「ふーっ、ふーっ……」
「ハァ、ハァ……」
暦の上では春に差し掛かったとは言え、北方の空気はまだ寒々しい。晴奈も、巴景も、己のかいた汗が湯気となって、周りを白く染めている。
「……なかなか、しぶといわね。やっぱり、これを使わなきゃ決着しそうに無いか」
「何を使う気だ?」
「これよ」
そう言って、巴景は両腕を火に変えた。
「先程アランを倒した際に使った、あの妖術か」
「そう。自分の体を魔術に換える、私の奥義。名付けて、『人鬼』」
「奥義、か。ならば私も、奥義で対抗させてもらう」
「『炎剣舞』ね」
「いいや」
晴奈は深呼吸し、不敵に笑っているような、それでいて、覚悟を決めたような目で、巴景を見据えた。
「それを超えるもの。誰にも捉えられぬ、不可視の秘剣。名付けて、『星剣舞』」
次の瞬間、晴奈の姿が巴景の目の前から消えた。
「……ッ!」
巴景は周囲に気を巡らせ、晴奈の気配を探る。
「……いない……? いいえ、いるはず」
巴景は自分の体を風に変え、晴奈の攻撃に備えた。
「……う、っ」
風になった自分の体を、鋭いものがすり抜ける。実体が無いので斬られはしなかったが、相手の姿が確認できないまま攻撃を受けたことに、巴景は戦慄した。
「どこ……?」
立て続けに何度か刀が通り抜けていくが、依然ダメージは無い。とは言え、巴景の方も相手の姿が見えなくては、攻撃のしようが無い。
「……っ、時間切れ、か」
巴景の集中が乱れ、「人鬼」が解除される。と、晴奈の方も根負けしたらしく、姿を表した。
「……奇怪な術だ」
「それはこっちの台詞よ。一体今まで、どこにいたの?」
互いの切り札を出しつくし、両者とも打つ手を失う。
そのまま二人は、じっと互いに相手をにらみ続けた。
と、晴奈が口を開く。
「……巴景」
「何?」
「決着が、付かぬな」
その言葉に、巴景は一瞬間を置いて笑い出した。
「……クス、アハハ、そう、そうね。全然付きやしない」
「……はは、くく、くふふふっ、まったくだ」
晴奈も笑い出した。
「互いの奥義を繰り出してなお、どうにもならぬ。この勝負、決着は永遠に付かぬよ」
「癪だけど、その通りね。後何回、『人鬼』と『星剣舞』を仕掛け合っても、多分どうもならないでしょうね。
……いいわ。明奈は諦めた。その代わり、アンタのことなんか絶対、姉さんなんて呼ばないわよ。
この勝負、引き分けよ」
「そうだな」
二人とも、笑いながら刀と剣を納めた。
と、ようやく山の稜線から朝日が姿を表す。曙(あけぼの)の光が、二人の顔を照らした。
「次こそ、決着を付けてあげるわ」
巴景はニヤリと笑い、そう告げた。
「次、か。……巴景、済まぬが私は」
「何? 結婚でもするの?」
「……そうなるかも知れない」
「あら、そう。……へー。
ま、それでもあなた、刀を置かないでしょう?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあ、いいじゃない。また、仕合いましょう?」
晴奈ははにかみ、うなずいた。
「……ああ。また、いつか」
「いつか、ね」
巴景は最後に、明奈にパチ、とウインクしてその場を去った。
戦いが終わったところで、明奈が恐る恐る晴奈に近寄ってきた。
「お姉さま」
「明奈。……どうして、とは聞かない。大体の事情は、何となく、分かったつもりだ。
ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。ところで」
明奈はいたずらっぽく笑い、晴奈に尋ねた。
「お相手、どなたなの? と言っても、わたしも何となく、察しは付いておりますけれども、ね」
「……うぅ」
晴奈は顔を赤くし、うつむいた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.12.25 修正
2016.12.25 修正
- 関連記事
-
-
蒼天剣・曙光録 4 2010/06/22
-
蒼天剣・曙光録 3 2010/06/21
-
蒼天剣・曙光録 2 2010/06/20
-
蒼天剣・曙光録 1 2010/06/19
-
蒼天剣・獄下録 12 2010/06/17
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ほほう。引き分けですか。
なるほど拮抗し過ぎると戦えられない。
決着がつかない。・・・というのはありますね。
三国志の実力の拮抗と同じですね。
なるほど拮抗し過ぎると戦えられない。
決着がつかない。・・・というのはありますね。
三国志の実力の拮抗と同じですね。
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle