「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第3部
蒼天剣・邂逅録 1
晴奈の話、第69話。
銀髪の異邦人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「人の出会いは不可思議で心躍る」と言ったのは、黒白戦争時の女傑、ネール大公である。
ある出会いが、思いがけず生活や人生、そして世界すら変えることがある。黄晴奈とその男の出会いも、後世から見れば、歴史的な邂逅(かいこう)の一つだった。
双月暦515年初秋、晴奈22歳の時。
「父上! 母上! 明奈は、明奈はッ!?」
晴奈は自分の故郷である黄海に、大慌てで舞い戻っていた。
自分の妹である明奈がさらわれて以来、焔流との交流もその一因と言うこともあって、晴奈はここ数年故郷を訪れられなかったのだ。
ところがつい先日、その妹がひょっこり帰って来たと言ううわさが、彼女の耳に入ったのである。無論、そんな吉報を聞いて、じっとしていられる晴奈ではない。
彼女は故郷に戻るとすぐ、自分の家である黄屋敷の扉を蹴破るようにくぐり、玄関の大広間に飛び込んだ。
と――央南ではまず見ることの無い、銀髪・銀目の、短耳の男が大広間のど真ん中に立っており、晴奈は面食らう。
「ん? ……誰だ、お主?」
「えーと、はは。……君は、誰かなぁ? メイナのお友達?」
やはり、央南人では無いらしい。央南の言葉で話してはいるが、その発音は央南人の晴奈にとってはどこか、違和感を覚える。
それでも言葉は通じるらしく、晴奈は探り探り、男に尋ねてみた。
「いや、その、姉だが。……そうではなく、お主は何者か、と聞いているのだが」
銀髪の男はへら、と笑って、こんな風に返してきた。
「そっか、お姉さんかー。へー、キレイな人だなー」「名前は?」
再度尋ねるが、男は一向に、晴奈の問いに答える様子が無い。
「やっぱり『猫』は目の形がいいねぇー。ちょっと吊り目で、しゅっと縦長の細い瞳。うーん、エキゾチックな感じがするなー」
(何を、ベラベラと……。えきぞちく、って何だ? 竹か?)
名前や単語以外は異様なほど流暢であり、男はどうやら相当、央南語を熟知しているらしい。それに元々、口もうまいようだ。
「名前は?」「それにその耳と尻尾、三毛ってところもまたいい! 黒い髪にすっごく映えてるよー」「な・ま・え・はッ!?」
だが、晴奈がにらみつけようとも、怒鳴ろうとも、男はまったく応じない。それどころか――。
「ねえ、お姉さん。名前は何て言うの?」「それは私が聞いているのだッ!」
いよいよ晴奈は怒り出したが、それでも男は止まらない。
「メイナから聞いたっけなー? えーと、何だっけ。レナだっけ? あ、セナだったかな? えーと、違うな、んー」「いい加減に……」
晴奈がもう一度怒鳴ろうとした、その時――。
「いい加減にしなさいよ、このナンパ男!」
大広間の階上から、本が飛んできた。
「あいたッ、……うー、く、く」
本の角が後頭部に直撃し、男は頭を抱えてうずくまった。
「痛いじゃないか、リスト。本は読むものであって、投げる道具じゃないよ」
「出会いがしらに女を口説くヤツが、常識語ってんじゃないわよ!」
男を罵倒しながら、大広間の階段を青い髪のエルフが下りてきた。
「ホントに、ごめんなさいね。コイツバカだから、気にしないでいいわよ」
リストと呼ばれたエルフは、恥ずかしそうに頭を下げつつ、男を軽く蹴った。
「あ、ああ。まあ、その、……どうも」
晴奈はまだうずくまったままのこの銀髪の男を、神妙な面持ちで見つめていた。
会うなり晴奈を口説いたこの男こそ、後に世界のトップとなる「大徳」、エルス・グラッドである。
二人は後に力を合わせ、幾多の戦いで活躍することになる――のだが、その最初の出会いにおいては、晴奈は不快感しか抱いていなかった。
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銀髪の異邦人。
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「人の出会いは不可思議で心躍る」と言ったのは、黒白戦争時の女傑、ネール大公である。
ある出会いが、思いがけず生活や人生、そして世界すら変えることがある。黄晴奈とその男の出会いも、後世から見れば、歴史的な邂逅(かいこう)の一つだった。
双月暦515年初秋、晴奈22歳の時。
「父上! 母上! 明奈は、明奈はッ!?」
晴奈は自分の故郷である黄海に、大慌てで舞い戻っていた。
自分の妹である明奈がさらわれて以来、焔流との交流もその一因と言うこともあって、晴奈はここ数年故郷を訪れられなかったのだ。
ところがつい先日、その妹がひょっこり帰って来たと言ううわさが、彼女の耳に入ったのである。無論、そんな吉報を聞いて、じっとしていられる晴奈ではない。
彼女は故郷に戻るとすぐ、自分の家である黄屋敷の扉を蹴破るようにくぐり、玄関の大広間に飛び込んだ。
と――央南ではまず見ることの無い、銀髪・銀目の、短耳の男が大広間のど真ん中に立っており、晴奈は面食らう。
「ん? ……誰だ、お主?」
「えーと、はは。……君は、誰かなぁ? メイナのお友達?」
やはり、央南人では無いらしい。央南の言葉で話してはいるが、その発音は央南人の晴奈にとってはどこか、違和感を覚える。
それでも言葉は通じるらしく、晴奈は探り探り、男に尋ねてみた。
「いや、その、姉だが。……そうではなく、お主は何者か、と聞いているのだが」
銀髪の男はへら、と笑って、こんな風に返してきた。
「そっか、お姉さんかー。へー、キレイな人だなー」「名前は?」
再度尋ねるが、男は一向に、晴奈の問いに答える様子が無い。
「やっぱり『猫』は目の形がいいねぇー。ちょっと吊り目で、しゅっと縦長の細い瞳。うーん、エキゾチックな感じがするなー」
(何を、ベラベラと……。えきぞちく、って何だ? 竹か?)
名前や単語以外は異様なほど流暢であり、男はどうやら相当、央南語を熟知しているらしい。それに元々、口もうまいようだ。
「名前は?」「それにその耳と尻尾、三毛ってところもまたいい! 黒い髪にすっごく映えてるよー」「な・ま・え・はッ!?」
だが、晴奈がにらみつけようとも、怒鳴ろうとも、男はまったく応じない。それどころか――。
「ねえ、お姉さん。名前は何て言うの?」「それは私が聞いているのだッ!」
いよいよ晴奈は怒り出したが、それでも男は止まらない。
「メイナから聞いたっけなー? えーと、何だっけ。レナだっけ? あ、セナだったかな? えーと、違うな、んー」「いい加減に……」
晴奈がもう一度怒鳴ろうとした、その時――。
「いい加減にしなさいよ、このナンパ男!」
大広間の階上から、本が飛んできた。
「あいたッ、……うー、く、く」
本の角が後頭部に直撃し、男は頭を抱えてうずくまった。
「痛いじゃないか、リスト。本は読むものであって、投げる道具じゃないよ」
「出会いがしらに女を口説くヤツが、常識語ってんじゃないわよ!」
男を罵倒しながら、大広間の階段を青い髪のエルフが下りてきた。
「ホントに、ごめんなさいね。コイツバカだから、気にしないでいいわよ」
リストと呼ばれたエルフは、恥ずかしそうに頭を下げつつ、男を軽く蹴った。
「あ、ああ。まあ、その、……どうも」
晴奈はまだうずくまったままのこの銀髪の男を、神妙な面持ちで見つめていた。
会うなり晴奈を口説いたこの男こそ、後に世界のトップとなる「大徳」、エルス・グラッドである。
二人は後に力を合わせ、幾多の戦いで活躍することになる――のだが、その最初の出会いにおいては、晴奈は不快感しか抱いていなかった。



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腕は確かですが。