「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 3
晴奈の話、第584話。
告白の返事。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
翌日、山間部・ジーン王国首都、フェルタイル。
「明日、リロイと国王陛下、それからゴールドマン総帥、コウ主席とが、声明を発表する。フーが死亡したことについての。
それで戦争は終わる。君主を失った『ヘブン』は恐らく、崩壊するだろう」
「そう、か」
トマスから話を聞き、晴奈は納得の行かなそうな顔を見せた。
「日上の願いは、叶いそうもないか」
「難しいところだね。
拘束した側近たちとフーの装備は釈放、送還できるだろうけど、『ヘブン』への賠償請求は避けられそうにないし、それを払う払わないで『ヘブン』国内はもめる。それで多分、内部分裂を起こし、崩壊するだろう。
それは僕らには、どうすることもできない話だ」
「そうか……」
トマスは晴奈の沈んだ様子を見て、不安げに尋ねる。
「そんなに、フーに思い入れが?」
「いや、そうじゃない。自らの犠牲と引き換えにした条件が、そんなに無下に扱われるなんて、と思ったんだ」
「……そうだね。このまま彼の国が消えたりしたら、フーは一体何のために生きてきたのか分からなくなる」
トマスは眼鏡を外し、机の上で指を組んでうつむく。
「僕も個人的には、フーの願いを叶えたいところだけどね」
それを聞いて、今度は晴奈が肩をすくめる。
「痛めつけられて投獄されたと言うのに、日上の肩を持つのか?」
「あれはきっと、グレイ氏の指示だったんだよ。
いや、これまでのすべては、グレイ氏が元凶だったんだ。フーが超人になったのも、フーが戦争に参加したことも、中央政府が消えたのも、……この一連の、戦争も。
もしグレイ氏がいなかったら、フーは、……いや」
トマスは頭をクシャクシャとかき、複雑な思いを吐き出す。
「もしいなかったら、フーは絶望の淵から戻ってない、か。
ああ、駄目だ。何が正しいのか、よく分からなくなってきた」
「きっとそれを論じるのは、無理なことなんだろう」
晴奈はトマスの横に座り、こつんと頭を寄せた。
「結局、正しい正しくないと言う話は、結果論に過ぎない。もしも日上があのまますんなりと世界の王になっていたら、アランは正当化されただろう。
だがどちらの結果にしても、日上は日陰者だろうな」
「……」
トマスは晴奈に頭を傾けられたまま、ぽつりとつぶやいた。
「むなしいな、戦争って」
「ああ、本当にそう思う。結局、一人の人間をどうこうするために、大量の人間が振り回されたんだからな。馬鹿馬鹿しくなる」
「……ねえセイナ」
「うん?」
「央南に住んだら、僕はのんびり暮らそうと思ってたけど」
「……」
「『ヘブン』が無くなる今後、西大海洋同盟が持つ権力が暴走しないか、心配になる。もし暴走したらきっと、今回みたいにむなしく、愚かなことを行うかも知れない。
だからこれからも同盟に参与して、間違いが起こらないよう導いていこうと思う。こんなむなしいこと、させやしない」
「そうか」
晴奈は頭を上げ、にっこりと笑いかけた。
「それなら安心だ。お前ほどの男なら、きっと間違いなど起こさないよ」
「そう言ってくれて、嬉しいよ。……でも」
「何だ?」
「忙しく、なっちゃうから。君と会えなくなるかも」
「阿呆」
晴奈はこん、とトマスの額に自分の額をくっつけた。
「一緒にいてやる。ずっと、な」
「ずっと?」
「ああ。ずっと」
「……そっか」
「……よろしく、な」
「うん」
「実はね」
「ん?」
「君のこと、君に会う前から、ある人に紹介されていたんだ」
「誰にだ?」
「夢の中なんだけどね、白い猫獣人に言われたんだ。
その時、僕はまだウインドフォートの牢獄にいたんだけど、その人は『キミを助けてくれる女の人と、将来結婚するよ』って」
「白い、猫……だって?」
「目が覚めたらびっくりさ。本当に僕を助けてくれたのがセイナ、君だったんだから」
「……く、くく」
「どしたの?」
「くく、ふふふ……。白猫め。そう言うことか」
「どう言うこと?」
「私もな、トマス。白猫に出会ったんだ。
そして同じように、夢の中で『トマスを助けるコトが、キミにとって大事な、大切なコトになる』と言われた」
「……そりゃまた、出来レースと言うか、マッチポンプと言うか」
「見事にくっつけられたわけだ、……く、ふふっ」
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告白の返事。
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翌日、山間部・ジーン王国首都、フェルタイル。
「明日、リロイと国王陛下、それからゴールドマン総帥、コウ主席とが、声明を発表する。フーが死亡したことについての。
それで戦争は終わる。君主を失った『ヘブン』は恐らく、崩壊するだろう」
「そう、か」
トマスから話を聞き、晴奈は納得の行かなそうな顔を見せた。
「日上の願いは、叶いそうもないか」
「難しいところだね。
拘束した側近たちとフーの装備は釈放、送還できるだろうけど、『ヘブン』への賠償請求は避けられそうにないし、それを払う払わないで『ヘブン』国内はもめる。それで多分、内部分裂を起こし、崩壊するだろう。
それは僕らには、どうすることもできない話だ」
「そうか……」
トマスは晴奈の沈んだ様子を見て、不安げに尋ねる。
「そんなに、フーに思い入れが?」
「いや、そうじゃない。自らの犠牲と引き換えにした条件が、そんなに無下に扱われるなんて、と思ったんだ」
「……そうだね。このまま彼の国が消えたりしたら、フーは一体何のために生きてきたのか分からなくなる」
トマスは眼鏡を外し、机の上で指を組んでうつむく。
「僕も個人的には、フーの願いを叶えたいところだけどね」
それを聞いて、今度は晴奈が肩をすくめる。
「痛めつけられて投獄されたと言うのに、日上の肩を持つのか?」
「あれはきっと、グレイ氏の指示だったんだよ。
いや、これまでのすべては、グレイ氏が元凶だったんだ。フーが超人になったのも、フーが戦争に参加したことも、中央政府が消えたのも、……この一連の、戦争も。
もしグレイ氏がいなかったら、フーは、……いや」
トマスは頭をクシャクシャとかき、複雑な思いを吐き出す。
「もしいなかったら、フーは絶望の淵から戻ってない、か。
ああ、駄目だ。何が正しいのか、よく分からなくなってきた」
「きっとそれを論じるのは、無理なことなんだろう」
晴奈はトマスの横に座り、こつんと頭を寄せた。
「結局、正しい正しくないと言う話は、結果論に過ぎない。もしも日上があのまますんなりと世界の王になっていたら、アランは正当化されただろう。
だがどちらの結果にしても、日上は日陰者だろうな」
「……」
トマスは晴奈に頭を傾けられたまま、ぽつりとつぶやいた。
「むなしいな、戦争って」
「ああ、本当にそう思う。結局、一人の人間をどうこうするために、大量の人間が振り回されたんだからな。馬鹿馬鹿しくなる」
「……ねえセイナ」
「うん?」
「央南に住んだら、僕はのんびり暮らそうと思ってたけど」
「……」
「『ヘブン』が無くなる今後、西大海洋同盟が持つ権力が暴走しないか、心配になる。もし暴走したらきっと、今回みたいにむなしく、愚かなことを行うかも知れない。
だからこれからも同盟に参与して、間違いが起こらないよう導いていこうと思う。こんなむなしいこと、させやしない」
「そうか」
晴奈は頭を上げ、にっこりと笑いかけた。
「それなら安心だ。お前ほどの男なら、きっと間違いなど起こさないよ」
「そう言ってくれて、嬉しいよ。……でも」
「何だ?」
「忙しく、なっちゃうから。君と会えなくなるかも」
「阿呆」
晴奈はこん、とトマスの額に自分の額をくっつけた。
「一緒にいてやる。ずっと、な」
「ずっと?」
「ああ。ずっと」
「……そっか」
「……よろしく、な」
「うん」
「実はね」
「ん?」
「君のこと、君に会う前から、ある人に紹介されていたんだ」
「誰にだ?」
「夢の中なんだけどね、白い猫獣人に言われたんだ。
その時、僕はまだウインドフォートの牢獄にいたんだけど、その人は『キミを助けてくれる女の人と、将来結婚するよ』って」
「白い、猫……だって?」
「目が覚めたらびっくりさ。本当に僕を助けてくれたのがセイナ、君だったんだから」
「……く、くく」
「どしたの?」
「くく、ふふふ……。白猫め。そう言うことか」
「どう言うこと?」
「私もな、トマス。白猫に出会ったんだ。
そして同じように、夢の中で『トマスを助けるコトが、キミにとって大事な、大切なコトになる』と言われた」
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