「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 4
晴奈の話、第585話。
遺された「ヘブン」。
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4.
央北、クロスセントラル。
「……そうですか」
送還されたドールらからの話を聞き終えたランニャは、こわばった顔でそう答えた。
「あの人は悪魔と共に、地獄に落ちたのですね」
「そう、なるわ」
ドールの顔色も悪い。この二人にとってフーの死は、最愛の男を失ったことになるのだ。
そして他の者にとっては君主、国家元首、つまりは指導者を失ったことになる。
「これから、どうすれば……、よろしいでしょうか」
「御大……、いえ、ヒノカミ陛下の死と共に俺たちに告げられたのは、約32億クラムの賠償請求です。こんなもん……、どうやって払えば」
「払います」
ランニャは顔を上げ、はっきりと答えた。
「払うって……、いいんスか?」
「それでフーとこの国への追求が止むのなら、惜しくはありません」
「でも、そんなことをしたら、国内からどんな反発が……」
不安な顔を見せるドールたち3人に、ランニャは小さく首を振る。
「いいえ、もう既に反発は起こっています。州ごと、地方ごとに離反しようと言う動きがあちこちで、既に出ています。
ですから私はそれに対し、いくらかを独立承認費、言い換えれば手切れ金として請求しようと考えています。それで恐らく、17、8億クラムは入るでしょう。後は国庫と、私の持つ資産から残り金額を清算するつもりです。
とにかく、多少規模は小さくなろうとも、『ヘブン』は残します」
「なる、ほど……。そう無理ではない、勘定ですな」
「流石と言うか……」
ハインツとルドルフは、ランニャがゴールドマン家と双璧をなすネール家の一員であることを、改めて実感した。
一方で、ドールは腑に落ちなさそうな顔をする。
「どうしてソコまで? 確かにあなたの資産と国庫からなら、32億丸々払うコトもできるわ。
でも、滅茶苦茶でかい額よ? しかも払って残るのは、戦争に疲れてボロボロになった国だけよ。復興は至難の業だし、32億の回収なんて何年かかるか。
ばっくれて、国に帰ってもいいじゃないの」
「そう言うわけには、……行かないわ、ドール」
と、ランニャの口調が変わる。
「『ヘブン』は残したいの。そのためなら、お金なんか惜しくない。お金が必要だと言うのなら、私の力でいくらでも集めてみせるわ。
それがあの人への、餞(はなむけ)よ」
「そう……」
「この国は、私が後を継ぐわ。……この子が、成人するまで」
ランニャはドールに決意に満ちた目を向けながら、膨らみかけた自分の腹をさすった。ドールはその仕草に、ふう、と小さくため息を漏らす。
「やっぱり、ソレが理由だったのね。そんな気したわ」
「あの人が帰ってきたら話そうと思って、……結局、そのままになってしまったけれど」
ランニャの目に、じわ、と涙が浮かぶ。
「助けてくれるかしら、三人とも」
「……勿論よ、ランニャ。いいえ、女王陛下」
ドールは頭を垂れ、ランニャに膝まづく。
「わ、吾輩も粉骨砕身、お守りいたします!」
ハインツも同じように、頭を垂れる。
「しゃーねーなぁ……。俺も付いていきますわ、陛下」
ルドルフも苦笑しつつ、膝まづいた。
この後、「ヘブン」からは多数の州、地域が離反。それぞれ別個に国を形成し、中央政府の名残は完全に消滅した。
地域共同体であった「ヘブン」も離反が起こった後に、ヘブン王国として政治体制を変えた。国王となったランニャもランニャ・ヘブンと名前を変えた後、己の政治・経済手腕を発揮し、「ヘブン」の存続を曲がりなりにも達成させた。
ドールたち側近もヘブン王国に残り、王国の繁栄に尽力したと言う。
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遺された「ヘブン」。
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央北、クロスセントラル。
「……そうですか」
送還されたドールらからの話を聞き終えたランニャは、こわばった顔でそう答えた。
「あの人は悪魔と共に、地獄に落ちたのですね」
「そう、なるわ」
ドールの顔色も悪い。この二人にとってフーの死は、最愛の男を失ったことになるのだ。
そして他の者にとっては君主、国家元首、つまりは指導者を失ったことになる。
「これから、どうすれば……、よろしいでしょうか」
「御大……、いえ、ヒノカミ陛下の死と共に俺たちに告げられたのは、約32億クラムの賠償請求です。こんなもん……、どうやって払えば」
「払います」
ランニャは顔を上げ、はっきりと答えた。
「払うって……、いいんスか?」
「それでフーとこの国への追求が止むのなら、惜しくはありません」
「でも、そんなことをしたら、国内からどんな反発が……」
不安な顔を見せるドールたち3人に、ランニャは小さく首を振る。
「いいえ、もう既に反発は起こっています。州ごと、地方ごとに離反しようと言う動きがあちこちで、既に出ています。
ですから私はそれに対し、いくらかを独立承認費、言い換えれば手切れ金として請求しようと考えています。それで恐らく、17、8億クラムは入るでしょう。後は国庫と、私の持つ資産から残り金額を清算するつもりです。
とにかく、多少規模は小さくなろうとも、『ヘブン』は残します」
「なる、ほど……。そう無理ではない、勘定ですな」
「流石と言うか……」
ハインツとルドルフは、ランニャがゴールドマン家と双璧をなすネール家の一員であることを、改めて実感した。
一方で、ドールは腑に落ちなさそうな顔をする。
「どうしてソコまで? 確かにあなたの資産と国庫からなら、32億丸々払うコトもできるわ。
でも、滅茶苦茶でかい額よ? しかも払って残るのは、戦争に疲れてボロボロになった国だけよ。復興は至難の業だし、32億の回収なんて何年かかるか。
ばっくれて、国に帰ってもいいじゃないの」
「そう言うわけには、……行かないわ、ドール」
と、ランニャの口調が変わる。
「『ヘブン』は残したいの。そのためなら、お金なんか惜しくない。お金が必要だと言うのなら、私の力でいくらでも集めてみせるわ。
それがあの人への、餞(はなむけ)よ」
「そう……」
「この国は、私が後を継ぐわ。……この子が、成人するまで」
ランニャはドールに決意に満ちた目を向けながら、膨らみかけた自分の腹をさすった。ドールはその仕草に、ふう、と小さくため息を漏らす。
「やっぱり、ソレが理由だったのね。そんな気したわ」
「あの人が帰ってきたら話そうと思って、……結局、そのままになってしまったけれど」
ランニャの目に、じわ、と涙が浮かぶ。
「助けてくれるかしら、三人とも」
「……勿論よ、ランニャ。いいえ、女王陛下」
ドールは頭を垂れ、ランニャに膝まづく。
「わ、吾輩も粉骨砕身、お守りいたします!」
ハインツも同じように、頭を垂れる。
「しゃーねーなぁ……。俺も付いていきますわ、陛下」
ルドルフも苦笑しつつ、膝まづいた。
この後、「ヘブン」からは多数の州、地域が離反。それぞれ別個に国を形成し、中央政府の名残は完全に消滅した。
地域共同体であった「ヘブン」も離反が起こった後に、ヘブン王国として政治体制を変えた。国王となったランニャもランニャ・ヘブンと名前を変えた後、己の政治・経済手腕を発揮し、「ヘブン」の存続を曲がりなりにも達成させた。
ドールたち側近もヘブン王国に残り、王国の繁栄に尽力したと言う。
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