「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 5
晴奈の話、第586話。
結ばれる二人、離れる一人。
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5.
央南、黄海。ナイジェル邸の居間にて。
「話はついたよ」
スーツで正装していたエルスは襟元を緩めつつ、小鈴にそう告げた。
「どーなったの?」
「まず、組織の存続について。
西大海洋同盟は、今後も残ることになった。やっぱり『ヘブン』消滅後の内乱で央北が混乱したせいで、央北の政治・経済は急速に衰退しつつある。このまま放っておいたら……」
「無政府状態ね。各地域の意見調整をするトコが無くなっちゃうから、暴動や戦争が起こりやすくなるでしょうね」
エルスはうなずきつつ、話を続ける。
「うん。それに乗じて、あくどい商人や資産家が武器やら食糧やらをとんでもない高値で売りつけようとするだろう。そうなれば央北経済は大混乱を起こしてほぼ壊滅するだろうし、それは後味が悪い」
「そーねぇ。ソレじゃ実質、同盟が央北を潰したようなもんだし」
「だから同盟はできる限り支援、援助を行うつもりだし、そのために存続することになった。
それに戦勝国であるジーン王国を暴走させないよう、抑制する働きもあるからね」
「イケイケだしねぇ。んで、同盟の本部はドコになったの?」
「ゴールドコーストかコウカイかで競り合ってたんだけど、結局コウカイに決まった。海路の面で考えれば、北方と央中に一番近いのはここだからね。
それで、同盟のトップだけど……」
「黄海が本部になったんなら、紫明主席じゃないの? それともヘレン総帥とか?」
小鈴の問いに、エルスは困ったように笑いながら首を振った。
「シメイさんは『流石に央南連合と同盟のトップとを兼任するのは無理だ。自分の商会もまだまだ経営しなければならんのに』って、断ったんだ。
ヘレンさんも『ウチはあくまで商売一本ですわ。政治にカネとモノ出すんはええですけど、自分らが政治やろうとは思とりませんからな』、だってさ。
で、そのー……、僕が指名された」
「へ? エルスが? え、マジで?」
エルスは飲み物を取りに行きつつ、台所から話を続けた。
「そうなんだよ。なんかシメイさんとかヘレンさんとか、同盟の主要人物に気に入られちゃってさ。僕はのんびりしたかったから断ったんだけど、結局押し切られちゃった。
トマスも同じように指名されて、ツートップになっちゃったよ」
「あらま。折角晴奈とイチャイチャできるトコだったのにね」
「まあ、トマスは最初から乗り気だったし、セイナもトマスを助けるつもりらしいから、それはそれで仲睦まじい感じだし、いいんじゃないかな。
……よいしょ、っと」
エルスは小鈴の横に座り、水をくい、と一息に飲んだ。
「そんなわけだから、これから忙しくなりそうなんだ」
「そっかー。じゃ、もうこんな風にのんびり話、できなさそーね」
「そうだね。……ま」
エルスは小鈴の肩に腕を回し、こうささやいた。
「僕もそろそろ、一人で遊び回ってるわけには行かないってことさ。そろそろ誰かと、落ち着きなさいってことだろうね」
「その誰かって、誰?」
小鈴はころんと、エルスの胸に頭を寄せた。
「ちゃんと言ってほしいんだけどなー」
「……はは。……じゃ、ちゃんと言おうかな。コスズ、僕と結婚してくれないか?」
「んふふ」
小鈴はニヤニヤ笑いながら、エルスに口付けした。
「喜んで、エルス」
「……ああ、そうだ。これからのことでいっこ、お願いがあるんだけど」
「なあに?」
「僕のことはリロイって呼んでほしいな」
「んふふふ……、いいわよ、リロイ」
エルスたちの様子を廊下から静かに見ていたリストは、口をぎゅっと横一文字に固く結んだ。
「……」
そのまま足音を立てないよう、彼女はそっとナイジェル邸を出た。
(お幸せにね、エルス、それからコスズ)
リストの手には、大きなかばんが握られていた。
「リストさん」
と、背後から声がかけられる。
「……メイナ」
明奈は心配そうな顔を、リストに向けてくる。
「どこに、行くんですか?」
「……」
リストは無言で首を振る。
「黄商会には、来ないと?」
「この街にいれば、嫌でもエルスと顔を合わせなきゃならない。それは今のアタシには、すごく辛いのよ」
「そうですか……」
明奈はそっと、リストの手を取る。
「何?」
「発つ前に、一緒に来て欲しいところがあるんです」
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結ばれる二人、離れる一人。
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央南、黄海。ナイジェル邸の居間にて。
「話はついたよ」
スーツで正装していたエルスは襟元を緩めつつ、小鈴にそう告げた。
「どーなったの?」
「まず、組織の存続について。
西大海洋同盟は、今後も残ることになった。やっぱり『ヘブン』消滅後の内乱で央北が混乱したせいで、央北の政治・経済は急速に衰退しつつある。このまま放っておいたら……」
「無政府状態ね。各地域の意見調整をするトコが無くなっちゃうから、暴動や戦争が起こりやすくなるでしょうね」
エルスはうなずきつつ、話を続ける。
「うん。それに乗じて、あくどい商人や資産家が武器やら食糧やらをとんでもない高値で売りつけようとするだろう。そうなれば央北経済は大混乱を起こしてほぼ壊滅するだろうし、それは後味が悪い」
「そーねぇ。ソレじゃ実質、同盟が央北を潰したようなもんだし」
「だから同盟はできる限り支援、援助を行うつもりだし、そのために存続することになった。
それに戦勝国であるジーン王国を暴走させないよう、抑制する働きもあるからね」
「イケイケだしねぇ。んで、同盟の本部はドコになったの?」
「ゴールドコーストかコウカイかで競り合ってたんだけど、結局コウカイに決まった。海路の面で考えれば、北方と央中に一番近いのはここだからね。
それで、同盟のトップだけど……」
「黄海が本部になったんなら、紫明主席じゃないの? それともヘレン総帥とか?」
小鈴の問いに、エルスは困ったように笑いながら首を振った。
「シメイさんは『流石に央南連合と同盟のトップとを兼任するのは無理だ。自分の商会もまだまだ経営しなければならんのに』って、断ったんだ。
ヘレンさんも『ウチはあくまで商売一本ですわ。政治にカネとモノ出すんはええですけど、自分らが政治やろうとは思とりませんからな』、だってさ。
で、そのー……、僕が指名された」
「へ? エルスが? え、マジで?」
エルスは飲み物を取りに行きつつ、台所から話を続けた。
「そうなんだよ。なんかシメイさんとかヘレンさんとか、同盟の主要人物に気に入られちゃってさ。僕はのんびりしたかったから断ったんだけど、結局押し切られちゃった。
トマスも同じように指名されて、ツートップになっちゃったよ」
「あらま。折角晴奈とイチャイチャできるトコだったのにね」
「まあ、トマスは最初から乗り気だったし、セイナもトマスを助けるつもりらしいから、それはそれで仲睦まじい感じだし、いいんじゃないかな。
……よいしょ、っと」
エルスは小鈴の横に座り、水をくい、と一息に飲んだ。
「そんなわけだから、これから忙しくなりそうなんだ」
「そっかー。じゃ、もうこんな風にのんびり話、できなさそーね」
「そうだね。……ま」
エルスは小鈴の肩に腕を回し、こうささやいた。
「僕もそろそろ、一人で遊び回ってるわけには行かないってことさ。そろそろ誰かと、落ち着きなさいってことだろうね」
「その誰かって、誰?」
小鈴はころんと、エルスの胸に頭を寄せた。
「ちゃんと言ってほしいんだけどなー」
「……はは。……じゃ、ちゃんと言おうかな。コスズ、僕と結婚してくれないか?」
「んふふ」
小鈴はニヤニヤ笑いながら、エルスに口付けした。
「喜んで、エルス」
「……ああ、そうだ。これからのことでいっこ、お願いがあるんだけど」
「なあに?」
「僕のことはリロイって呼んでほしいな」
「んふふふ……、いいわよ、リロイ」
エルスたちの様子を廊下から静かに見ていたリストは、口をぎゅっと横一文字に固く結んだ。
「……」
そのまま足音を立てないよう、彼女はそっとナイジェル邸を出た。
(お幸せにね、エルス、それからコスズ)
リストの手には、大きなかばんが握られていた。
「リストさん」
と、背後から声がかけられる。
「……メイナ」
明奈は心配そうな顔を、リストに向けてくる。
「どこに、行くんですか?」
「……」
リストは無言で首を振る。
「黄商会には、来ないと?」
「この街にいれば、嫌でもエルスと顔を合わせなきゃならない。それは今のアタシには、すごく辛いのよ」
「そうですか……」
明奈はそっと、リストの手を取る。
「何?」
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