「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 6
晴奈の話、第587話。
二つの月。
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6.
「ここです」
明奈は街の裏通りに進み、小さな店に入った。
「エルスさんから教えてもらったお店です。
ほら、前に姉とリストさんに、髪飾りを贈ったことがありましたよね? あの髪飾り、ここで造ってもらったんです」
「へえ……」
店の奥から、猫獣人の老人が現れる。
「おや、黄大人のご令嬢さん。今日は何の御用で?」
「この子とお揃いの、そうですね……、こしょこしょ」
明奈は老人に耳打ちし、「できますか?」と尋ねた。
「まあ、そう言うのならすぐできる。1時間ほど待っててくれ」
店主はのそのそと、奥へ戻っていった。
店主を待つ間、リストと明奈は話をした。
「どこに行くつもりなんですか?」
「さあね。お金はそれなりにあるから、ブラブラうろつくつもり」
「銃も、持っていくんですね」
「そりゃそうでしょ。コレは、アタシのなんだから」
「見せてもらっていいですか?」
「……いいけど?」
リストはかばんから「ポプラ」を取り出し、組み立てる。
「何でこんなの見たいの?」
「リストさんそのもの、って気がするからです」
「アタシ、そのもの?」
明奈はリストから「ポプラ」を受け取り、しげしげと眺める。
「重たいですね」
「ま、銃だもん。……って、アタシが重い子って意味?」
「あ、違いますよ。そうじゃなくて」
明奈はヨタヨタと、銃を構える。
「この銃、頑張り屋さんですよね。リストさんのために、真っ赤になるまで頑張って、敵に立ち向かう。
そんなところが、リストさんそっくりだと思うんです」
「頑張り屋? アタシが? ……そう、かもね」
銃を返してもらい、リストはそれを抱きしめた。
「ずっと、頑張ってきたもんね。この子みたいに、エルスのためにずっと、頑張ってきたし。
でも、残念だけど……、エルスはアタシを選んでくれなかった。ある程度は吹っ切れたけど、でも、……やっぱり、悲しい」
沈んだ顔で銃を分解するリストに、明奈は優しく声をかける。
「わたしは、リストさんの行動を素晴らしいと思いますよ」
「素晴らしい?」
「振り向いてくれないって分かったなら、わたしならきっと、助けようなんてしません。
でもリストさんは、それでも懸命にエルスさんを助けた。その私情を捨てた行動は、本当に素晴らしいです。
こんなに気高い人を友人に持てて、わたしは幸せですよ」
分解し終えた銃をしまいかけたリストの手が止まる。
「……幸せ?」
「はい。だからその友情の証を、造りたいと思って」
「……そう言ってもらえて、ホントに嬉しい。アタシも、アンタのコトは大事な友達だもん」
リストはうつむき、グスグスと鼻を鳴らす。
「……ホント、アタシ最近、涙もろいわ」
「泣かないで、リストさん」
「……泣かせてよ」
そうつぶやいたリストの肩を、明奈は優しく抱きしめた。
「それじゃ、静かに、ね?」
「うん……」
1時間が経ち、店主が戻ってきた。
「これでいいかい?」
「はい、ありがとうございます」
店主から品を受け取った明奈は、リストの手を握ってそれを載せた。
「はい、これです」
「コレ……、碁石?」
リストの手に乗せられたのは、黒い碁石に「月」と彫り、そこに金を流し込んだものだった。
「わたしのは、白いこっち。こっちにも、『月』と彫ってあります」
「どう言う意味なの?」
「月が二つで、『朋』。朋友、つまりとても親しい友達と言う意味です。
この『双月』が、わたしとリストさんの、友情の証です」
「……ふうん。キレイね」
リストは碁石を握りしめ、ポケットに入れた。
「ありがとう、メイナ。大事にするわ」
「……戻ってきてくださいね」
「そうね。アタシが、エルスのコトを忘れられたら、その時は。
……じゃあね」
リストはかばんを手にし、明奈に背を向けて、店を後にした。
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二つの月。
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6.
「ここです」
明奈は街の裏通りに進み、小さな店に入った。
「エルスさんから教えてもらったお店です。
ほら、前に姉とリストさんに、髪飾りを贈ったことがありましたよね? あの髪飾り、ここで造ってもらったんです」
「へえ……」
店の奥から、猫獣人の老人が現れる。
「おや、黄大人のご令嬢さん。今日は何の御用で?」
「この子とお揃いの、そうですね……、こしょこしょ」
明奈は老人に耳打ちし、「できますか?」と尋ねた。
「まあ、そう言うのならすぐできる。1時間ほど待っててくれ」
店主はのそのそと、奥へ戻っていった。
店主を待つ間、リストと明奈は話をした。
「どこに行くつもりなんですか?」
「さあね。お金はそれなりにあるから、ブラブラうろつくつもり」
「銃も、持っていくんですね」
「そりゃそうでしょ。コレは、アタシのなんだから」
「見せてもらっていいですか?」
「……いいけど?」
リストはかばんから「ポプラ」を取り出し、組み立てる。
「何でこんなの見たいの?」
「リストさんそのもの、って気がするからです」
「アタシ、そのもの?」
明奈はリストから「ポプラ」を受け取り、しげしげと眺める。
「重たいですね」
「ま、銃だもん。……って、アタシが重い子って意味?」
「あ、違いますよ。そうじゃなくて」
明奈はヨタヨタと、銃を構える。
「この銃、頑張り屋さんですよね。リストさんのために、真っ赤になるまで頑張って、敵に立ち向かう。
そんなところが、リストさんそっくりだと思うんです」
「頑張り屋? アタシが? ……そう、かもね」
銃を返してもらい、リストはそれを抱きしめた。
「ずっと、頑張ってきたもんね。この子みたいに、エルスのためにずっと、頑張ってきたし。
でも、残念だけど……、エルスはアタシを選んでくれなかった。ある程度は吹っ切れたけど、でも、……やっぱり、悲しい」
沈んだ顔で銃を分解するリストに、明奈は優しく声をかける。
「わたしは、リストさんの行動を素晴らしいと思いますよ」
「素晴らしい?」
「振り向いてくれないって分かったなら、わたしならきっと、助けようなんてしません。
でもリストさんは、それでも懸命にエルスさんを助けた。その私情を捨てた行動は、本当に素晴らしいです。
こんなに気高い人を友人に持てて、わたしは幸せですよ」
分解し終えた銃をしまいかけたリストの手が止まる。
「……幸せ?」
「はい。だからその友情の証を、造りたいと思って」
「……そう言ってもらえて、ホントに嬉しい。アタシも、アンタのコトは大事な友達だもん」
リストはうつむき、グスグスと鼻を鳴らす。
「……ホント、アタシ最近、涙もろいわ」
「泣かないで、リストさん」
「……泣かせてよ」
そうつぶやいたリストの肩を、明奈は優しく抱きしめた。
「それじゃ、静かに、ね?」
「うん……」
1時間が経ち、店主が戻ってきた。
「これでいいかい?」
「はい、ありがとうございます」
店主から品を受け取った明奈は、リストの手を握ってそれを載せた。
「はい、これです」
「コレ……、碁石?」
リストの手に乗せられたのは、黒い碁石に「月」と彫り、そこに金を流し込んだものだった。
「わたしのは、白いこっち。こっちにも、『月』と彫ってあります」
「どう言う意味なの?」
「月が二つで、『朋』。朋友、つまりとても親しい友達と言う意味です。
この『双月』が、わたしとリストさんの、友情の証です」
「……ふうん。キレイね」
リストは碁石を握りしめ、ポケットに入れた。
「ありがとう、メイナ。大事にするわ」
「……戻ってきてくださいね」
「そうね。アタシが、エルスのコトを忘れられたら、その時は。
……じゃあね」
リストはかばんを手にし、明奈に背を向けて、店を後にした。
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