「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・曙光録 7
晴奈の話、第588話。
高みの、その上へ。
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7.
(ここ、……だったはずよね?)
晴奈との勝負を終えた後、巴景はブルー島にいた。
決着が付かなかったことにやはり納得が行かず、巴景はさらに強い武器を求めて、大火を葬ったこの島に戻ってきていたのだ。
だが、大火を埋めた場所には、墓標にしていた刀はおろか、人が埋まっている形跡すらない。
「……ここ、……よね?」
巴景は意を決し、埋めたはずの場所を掘り返してみた。
(……無い?)
しかしどれだけ掘っても、大火の骸は出てこない。
(コートの切れ端は、ある。……でも、何故? 何故、骸が出てこないの?)
巴景の背中に、冷たいものが流れる。
「……まさか……」「その、まさかだ」
背後から、声がかけられた。
「……~ッ!」
振り向いた巴景の目に、今その骸を探していたはずの男――克大火が立っていた。
「……お早い、お目覚めね」
「軽口を叩ける余裕を見せたいのか? そんな虚勢など、俺には無用だぞ」
「……あは、は、……は」
巴景の腰が抜ける。ぺちゃりと座り込んだ巴景に、大火は静かに声をかけた。
「残念だったな。『雪月花』を狙っていたのだろう?」
「……ええ」
「見せてみろ」
と、大火が手を差し伸べる。
「え?」
「その、腰に佩いている剣だ」
「……どうぞ、ご自由に」
すっかり気力を削がれてしまった巴景は、素直に「ビュート」を差し出した。
剣を受け取った大火は、刀身を一目見てぼそっとつぶやく。
「……失敗作だな」
「失敗作?」
「どこの誰が作ったか知らんが、術式が拙い。剣自体はなかなかいい出来だが、な」
そう言って大火は、剣をひらひらと振る。
次の瞬間、剣からピキ、と甲高く、短い音が鳴り響いた。
「何を……?」
「術を一部組み直した。使ってみろ」
大火に剣を返され、巴景はそろそろと立ち上がって、剣を振った。
「……『地断』」
途端に、これまでとは比べ物にならないくらいに重たい感触が、巴景の手に伝わった。
「っ!?」
焦土と化してから1年経ち、ようやく草が生えてきていた荒れ野がまた深々とえぐられ、傷つけられた。
「……すごい」
「もう少し調律すれば、性能は格段に上がる。魔術の心得は深いようだから、自分で調整してみるといい」
それだけ言って、大火は立ち去ろうとした。そこで思わず、巴景は声をかけた。
「ま、待って!」
「うん?」
「あ、あの。……何であなた、生きているの?」
「そんなことを知ってどうする?」
大火はクク、と鳥のように笑った。
「太陽の中身を知ってどうする? 家の灯りにしたいのか?
海の底を知ってどうする? そこに棲む魚が食いたいのか?
月の裏側を知ってどうする? そこに住みたいのか?
何を知ったとしても、それを活かせねば何の意味も無い。お前が俺の秘術を知ったところで、活かせるはずもあるまい」
「……じゃあ、活かさせてちょうだい」
巴景はゴク、と生唾を飲み、緊張で乾いた喉を湿らせる。
「何?」
「私はもっと、知を集めたいの。もっともっと、力を蓄えたいの。もっともっと、もっと――強くなりたいのよ。
そのために、教えて。あなたの持つ秘術と、その使い方を」
「……クク」
大火は小馬鹿にしたような目を、巴景に向けてきた。
「俺の弟子になりたいと?」
「そうだと言ったら?」
「俺に何のメリットがある? お前を弟子にして、俺に得があるのか?」
「変な話をするのね」
萎えていた巴景の気力が戻ってくる。仮面の裏で、巴景は大火を鋭く見つめ返した。
「弟子なんて普通、取った当初にメリットなんか無いでしょ? 取って成長してから、メリットが出るものじゃない?」
「俺の弟子の一人は」
大火は半ばうざったそうにしながら、話を返してくる。
「未来を見ることができた。その力は俺に、いくらかの利益を与えてくれた。その上で、魔術師としての素質も非常に高かったから、俺の弟子にしたのだ。
そう言うメリットを、俺は弟子に求めているのだ。何も持たぬ者を弟子にしても、俺に利益は無い」
「そう言うことね。……じゃあ、こんなのはどう?」
巴景は右手を挙げ、「人鬼」を発動させた。
「む……」
「私には、魔術と物質とを変換できる術がある。
この術をあなたに教える。その代わりに、弟子にしてよ」
「……ふむ」
そこでようやく、大火は嬉しそうに唇を歪めた。
「その術――俺の古い友人が捜し求め、封印した術がベースになっているな? 俺はその術が記された魔術書を欲していたのだが、友人は『絶対にやるもんかね』と突っぱねた。
お前と研究すれば、その奥義、秘奥へ少しは近づけそうだな。いいだろう、弟子にとってやる」
「本当に……、いいの?」
「俺が嘘をつくと思うのか?」
大火はニヤと笑い、巴景の頭に手を載せた。
「今からお前は克を名乗れ。
克渾沌(こんとん)――それが表情なき仮面を顔にまとう、お前の号だ」
蒼天剣 曙光録 終
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7.
(ここ、……だったはずよね?)
晴奈との勝負を終えた後、巴景はブルー島にいた。
決着が付かなかったことにやはり納得が行かず、巴景はさらに強い武器を求めて、大火を葬ったこの島に戻ってきていたのだ。
だが、大火を埋めた場所には、墓標にしていた刀はおろか、人が埋まっている形跡すらない。
「……ここ、……よね?」
巴景は意を決し、埋めたはずの場所を掘り返してみた。
(……無い?)
しかしどれだけ掘っても、大火の骸は出てこない。
(コートの切れ端は、ある。……でも、何故? 何故、骸が出てこないの?)
巴景の背中に、冷たいものが流れる。
「……まさか……」「その、まさかだ」
背後から、声がかけられた。
「……~ッ!」
振り向いた巴景の目に、今その骸を探していたはずの男――克大火が立っていた。
「……お早い、お目覚めね」
「軽口を叩ける余裕を見せたいのか? そんな虚勢など、俺には無用だぞ」
「……あは、は、……は」
巴景の腰が抜ける。ぺちゃりと座り込んだ巴景に、大火は静かに声をかけた。
「残念だったな。『雪月花』を狙っていたのだろう?」
「……ええ」
「見せてみろ」
と、大火が手を差し伸べる。
「え?」
「その、腰に佩いている剣だ」
「……どうぞ、ご自由に」
すっかり気力を削がれてしまった巴景は、素直に「ビュート」を差し出した。
剣を受け取った大火は、刀身を一目見てぼそっとつぶやく。
「……失敗作だな」
「失敗作?」
「どこの誰が作ったか知らんが、術式が拙い。剣自体はなかなかいい出来だが、な」
そう言って大火は、剣をひらひらと振る。
次の瞬間、剣からピキ、と甲高く、短い音が鳴り響いた。
「何を……?」
「術を一部組み直した。使ってみろ」
大火に剣を返され、巴景はそろそろと立ち上がって、剣を振った。
「……『地断』」
途端に、これまでとは比べ物にならないくらいに重たい感触が、巴景の手に伝わった。
「っ!?」
焦土と化してから1年経ち、ようやく草が生えてきていた荒れ野がまた深々とえぐられ、傷つけられた。
「……すごい」
「もう少し調律すれば、性能は格段に上がる。魔術の心得は深いようだから、自分で調整してみるといい」
それだけ言って、大火は立ち去ろうとした。そこで思わず、巴景は声をかけた。
「ま、待って!」
「うん?」
「あ、あの。……何であなた、生きているの?」
「そんなことを知ってどうする?」
大火はクク、と鳥のように笑った。
「太陽の中身を知ってどうする? 家の灯りにしたいのか?
海の底を知ってどうする? そこに棲む魚が食いたいのか?
月の裏側を知ってどうする? そこに住みたいのか?
何を知ったとしても、それを活かせねば何の意味も無い。お前が俺の秘術を知ったところで、活かせるはずもあるまい」
「……じゃあ、活かさせてちょうだい」
巴景はゴク、と生唾を飲み、緊張で乾いた喉を湿らせる。
「何?」
「私はもっと、知を集めたいの。もっともっと、力を蓄えたいの。もっともっと、もっと――強くなりたいのよ。
そのために、教えて。あなたの持つ秘術と、その使い方を」
「……クク」
大火は小馬鹿にしたような目を、巴景に向けてきた。
「俺の弟子になりたいと?」
「そうだと言ったら?」
「俺に何のメリットがある? お前を弟子にして、俺に得があるのか?」
「変な話をするのね」
萎えていた巴景の気力が戻ってくる。仮面の裏で、巴景は大火を鋭く見つめ返した。
「弟子なんて普通、取った当初にメリットなんか無いでしょ? 取って成長してから、メリットが出るものじゃない?」
「俺の弟子の一人は」
大火は半ばうざったそうにしながら、話を返してくる。
「未来を見ることができた。その力は俺に、いくらかの利益を与えてくれた。その上で、魔術師としての素質も非常に高かったから、俺の弟子にしたのだ。
そう言うメリットを、俺は弟子に求めているのだ。何も持たぬ者を弟子にしても、俺に利益は無い」
「そう言うことね。……じゃあ、こんなのはどう?」
巴景は右手を挙げ、「人鬼」を発動させた。
「む……」
「私には、魔術と物質とを変換できる術がある。
この術をあなたに教える。その代わりに、弟子にしてよ」
「……ふむ」
そこでようやく、大火は嬉しそうに唇を歪めた。
「その術――俺の古い友人が捜し求め、封印した術がベースになっているな? 俺はその術が記された魔術書を欲していたのだが、友人は『絶対にやるもんかね』と突っぱねた。
お前と研究すれば、その奥義、秘奥へ少しは近づけそうだな。いいだろう、弟子にとってやる」
「本当に……、いいの?」
「俺が嘘をつくと思うのか?」
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NoTitle
巴景は変わらずに進み続けるようで。
それが修羅というものかもしれませんね。。。
その生き方には惚れますね。
それが修羅というものかもしれませんね。。。
その生き方には惚れますね。
NoTitle
そして修行の末、巴景はなぜか医者になっていた。
そして発明した薬が「葛根湯」……。
お後がよろしいようで……。
そして発明した薬が「葛根湯」……。
お後がよろしいようで……。
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NoTitle
自分の全作品中で、かなり気に入っているキャラです。