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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・回帰録 2

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    晴奈の話、第590話。
    再現された名試合。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     会場となっている南西修練場に足を運ぶと、観客たちが騒ぎ出した。
    「ウィアード! ウィアード!」
    「僧兵全員負かしやがって、この!」
    「格好いいじゃねーか、くそ!」
     野次なのか賞賛なのか分からない声援が、ウィルに降り注ぐ。
    「そんだけ強いんだから入信しろよ、この野郎!」
     飛んできた声の一つに、ウィルは小声で答える。
    (バーカ、オレは天帝教だっつーの。誰が入信するかって。母さんが悲しむだろーが)
     肩をすくめつつ、特別に設置されたリングの上に登ったところで、相手の少年と目が合った。
    「……お前って」
    「うん?」
     ウィルはその猫獣人を見て、ある単語がポンと浮かんできた。
    「サムライ?」
     黒髪に、白地に茶斑の耳と尻尾を持ったその猫獣人は、央南風のいでたちに刀を佩いていたからだ。
    「侍かは分からないけど、まあ、剣士だな」
    「そっか」
     ウィルは注意深く、相手を観察してみる。
    (なんかコイツ、……相当できそうだな。シルキスが負けるだけのコトはあるか。立ち振る舞いも、すげー落ち着いてるし。
     こうやってリングに立ってなきゃ、相当若く見える。オレより大分下……、15か、16?)
     そうこうしているうちに、審判が試合の開始を告げた。
    「それでは黒炎擂台賽、決勝を行います!
     西側、ウィル・ウィアード! 央中ゴールドコースト市国出身! 使用武器、三節棍!」
     名前を呼ばれ、ウィルは三節棍を持つ手を挙げる。その仕草に観客が沸き立ち、声援が送られた。
     それを見て、相手もひょいと、刃を革で覆った刀を持った手を挙げる。
    「東側、シュウヤ・コウ! 央南黄州出身! 使用武器、刀!」
     両者は武器を構え、にらみ合った。
    「試合、開始!」

     開始と同時にウィルは三節棍を振り上げ、シュウヤとの間合いを詰めた。
    「はッ!」
     棍はうなりを上げてシュウヤの頭を狙うが、シュウヤは瞬時にくい、と体をひねり、紙一重でかわす。
    (な……、速えぇ!)
     そのままシュウヤが、返しざまに刀を払う。
    「りゃあッ!」
     刀の先がウィルのあごを、ピッと音を立てて掠めた。
    (あ……、コレ、やばい)
     掠めた刀の鋭い衝撃が脳を揺らし、ウィルの膝が張力を失う。
    (待て待て待てって、おい、おい、おい……っ)
     自分に向かって心の中で叫ぶが、脚に力が戻らない。
    「……よし」
     その時、相手がボソ、とそうつぶやいたのを聞き、ウィルに怒りが沸いた。
    (てめっ、勝ったつもりかよ……ッ!)
     ウィルは最後の力を振り絞って、三節棍を振るった。
    「……あっ」
     勝ち誇っていたシュウヤの視界の端に、三節棍の先端が写る。棍はそのまま、シュウヤの額に突き刺さった。
    「がっ……」
     ウィルが倒れると同時に、シュウヤも弾かれ、仰向けになる。
    「……え」
    「あ、相討ち?」
    「どうなるの……、これ」
     予想外の事態に、観客たちは騒然となった。

    「……昔見たわね、この状況」
     ウェンディの横で試合を見守っていた関係者の一人が、そうつぶやいた。
    「えっ?」
    「私が子供の頃……、そう、伝説の519年上半期、九尾闘技場エリザリーグ。
     ……ふふ、まさかあの二人が、同じ倒れ方をするなんて」
    「あの二人を知っているんですか、チェイサーさん?」
     ウェンディに尋ねられた、この大会のアドバイザーをしていた狼獣人の女性が、コクリとうなずいた。
    「ええ。どちらも私の友人よ。その親御さんもね。
     ……ふふっ、予告してみましょうか。この後、起き上がるのはウィルよ」
     と、観客たちが騒ぎ出す。
    「コウ! コウ! コウ!」
    「ウィアード! ウィアード! ウィアード!」
     観客たちは倒れた二人を助けようかとするように、懸命に名前を呼び続ける。
     そうして1分ほど経とうかと言うところで――。
    「……あた、たた」
     むくりと起き上がったのは、シュウヤの方だった。
    「……あれ?」
     予告した「狼」は、ぺろ、と舌を出した。
    「外れちゃったわ」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    長い間ご愛読いただき、ありがとうございます。
    熱心にコメントを残していただけたこと、感謝しています。
    最後までじっくり、お楽しみ下さい。

    NoTitle 

    もう終わりが近いですね。。。
    (T_T)

    ずっと読み続けたこの作品が終わるのも感慨ひとしおですね。。。
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