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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・邂逅録 2

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    晴奈の話、第70話。
    晴奈のひみつ、公開。

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    2.
    「め、明奈っ!」
     7年ぶりに見る成長した明奈を見て、晴奈は思わず彼女を抱きしめた。
    「きゃ、お姉さま?」
     明奈は目を白黒させていたが、晴奈は思いを抑えきれず、そのまままくし立てる。
    「ああ、良かった! 本当に良かった! 良く無事に、帰ってきてくれた!」
    「お姉さま、あの、苦しい……」
    「もう二度と、絶対に、黒炎に渡したりしない! 絶対に、姉ちゃんが守ってやるから!」
    「……はい、お姉さま。お久しゅう、ございます」
     戸惑った顔を見せつつ、明奈も晴奈を抱きしめ返した。



     明奈が黒鳥宮から助けられた経緯は、次の通り。
     エルスは元々、北方大陸にある王国の諜報員(スパイ)であり、ある任務のため部下を連れ、黒鳥宮に潜入していたところ、偶然明奈を発見し、保護したのだ。
     そのまま、一旦は北方に連れ帰ったが、エルスの上司であり、教官でもあるエドムント・ナイジェルと言う老博士がある事件に巻き込まれたため、そこから明奈を連れ、師弟ともども亡命。
     亡命先として選んだのが、明奈の故郷であるここ、黄海だったのである。

    「本当に、大変でしたわい」
     あごひげを生やし、丸眼鏡をかけたエルフ、ナイジェル博士はニコニコと笑いながら、前述の説明を晴奈に伝え終えた。
    「なるほど……、そのような経緯があったのですか。私にとっては真に重畳、行幸と称すべきお話です」
     晴奈は深々と、博士に向かって頭を下げた。
    「あ、いやいや。そうかしこまらず。
     ……ふーむ、セイナさん、と申されましたか。なるほど、妹さんと顔立ちが似ていらっしゃる。ですが比べてみると少し、精悍な顔つきをされていらっしゃいますな」
    「そ、そうですか?」
     そう言われて、思わず頬に手を当てる。
    (言われてみれば……。子供の頃はあまり気が付かなかったが、傍らの成長した明奈を眺めると確かに、顔立ちは良く似ていると思う。
     そしてこれも博士の言う通りだが、明奈の方が少し、おっとりした印象を受けるな)
     晴奈がしげしげと明奈を観察している間に、博士の方でも、晴奈を観察し終えたらしい。
    「ふむ……。身長も高く、一挙手一投足ごとに、着実に鍛えられた筋肉が出す力強さが見受けられる。そしてその、落ち着いた気配と所作。なかなか高度な精神修練と、高密度の修行を積んでいらっしゃるようですな。
     ズバリ、セイナさんは――焔流の剣士、それも練士か、師範代程度の手練。違いますかな?」
     博士の推察に、晴奈は目を丸くした。
    「い、いかにも。私は焔流の免許皆伝です、が……」
     自分の素性を初見で言い当てられ、晴奈は流石に博士を不気味に思った。
     と、それも見抜いたらしく、博士はゆっくり手を振って説明する。
    「ああ、いやいや。驚かせるつもりは無かったのですが。小生はこう言ったことを生業としておりまして。
     祖国では戦略研究を行っておりました。敵の動向をいち早く察することが重要なため、こうした洞察力をよく使います」
     博士は横に座っているエルスの肩を叩き、話を続けた。
    「こちらのエルス君も、人を見抜くのが得意でしてな。
     元々は魔術を教えておったのですが、そちらの方も割合筋が良かったので、小生の戦略思考術と洞察力をそっくり受け継がせております。
     さ、エルス。ちょいと力を見せてやりなさい」
     話を振られたエルスはヘラヘラ笑いながら、とんでもないことを――晴奈がこの直後、顔を真っ赤にして「無礼者!」と怒り出し、リストから「このバカ!」と怒鳴られ、しこたま殴られるようなことを言った。
    「うーん、上から77、51、79かな。すらっとしてるね。低脂肪乳って感じかな、はは」

     ひとしきり殴られ、頭に大きなコブを作ったエルスは、依然としてヘラヘラ笑いながら謝った。
    「ははは……、ゴメンゴメン。ちょっとしたギャグのつもりで言ったんだけどね」
    「どこがギャグよ!? セイナさん、引いてんじゃない! て言うかアタシも引くわ!
     アンタ本気で頭のネジ、1本2本飛んでんじゃないの!?」
     リストはまだ怒っているらしく、エルスにまくし立てる。
    「ホントに、このバカがとんでもないコトを……」
     リストはしきりに謝っている。彼女が少し気の毒になってきたので、晴奈は溜飲を下げた。
    「……いや。減るものでも無し、構わんさ」
     とは言え、口ではそう言いつつも、晴奈の内心はまだ、怒りが収まらない。
    「ま、そのですな。ちと、遊びが過ぎましたが、ともかくエルス君は、武術や魔術の腕も相当ですが、頭の方も良く回ります。
     しばらくこちらに滞在する予定なので、色々と央南の事情、それから常識をご指導、ご鞭撻いただければと」
     場を取り繕う博士の心情も察し、晴奈は大人しく振舞う。
    「……構いませんよ。まあ、こちらも北方の話を色々お聞きしたいところです。よろしくお願いします」
     晴奈は落ち着き払い、手を差し出す。エルスもニコっと笑いながら手を差し出し、普通に握手した。
     恐らくこの時も、エルスは何かするつもりであったようだが、それは彼の右側でにらんでいるエルフ二人に阻まれたため、流石に諦めたようである。

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    2008.10.09 転載
    2016.02.28 修正
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    姉より優れた妹が存在する場合もあります。

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