「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・回帰録 6
晴奈の話、最終話。
巡り回る物語。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「結局そうして、晴奈はわたしの弟子になったのよ。
もしあの時、わたしの気持ちが少しでも変わっていたり、早々に突っぱねたりしていたら、この世界に剣豪『蒼天剣』は生まれかったかも知れないのよね。
そう考えると、本当に人生って不思議ね」
話し終えた雪乃に、秋也はうんうんとうなずいていた。
「でもやっぱ、お袋は昔っから性格、変わってないんですね。昔っから、こうと決めたら突き進む人でしたし」
「そうね、クスクス……」
そこで雪乃は、くるりと振り向いた。
「昔っからよね、晴奈?」
「……よく、そう言われますね。それこそ、昔から」
客間の扉が開き、話に上った人物――晴奈が、ポリポリと頬をかきながら現れた。
「ただいま、母さん」
礼儀正しく頭を下げた秋也に、晴奈もコクリとうなずいて応える。
「ああ、お帰り秋也。……そちらの二人は?」
「ウィル・ウィアードとシルキス・ミーシャ。黒炎擂台賽で会ったんだ。……覚えてるか?」
「ほう、あの子たちか。……随分、大きくなったな」
晴奈はウィルたちに、にっこりと笑いかけた。
その笑顔は、若い時に比べて随分と柔らかくなっていた。
「お久しぶりです、コウ先生!」
「元気してはりました?」
「ああ、この通り。シルビアとシリンたちは、元気にしているか?」
晴奈の問いに、ウィルたちはうんうんとうなずく。
「ええ、元気ですよ。今も、孤児院の院長を頑張ってます」
「ウチの母やんも元気しとりますよ。あ、去年アケミさんトコからのれん分けしてもろて、父やんと一緒に自分の店開いたんですよー」
「そうか。それは近々、尋ねてみないとな」
晴奈はすとんと、秋也の横に座る。
「それで秋也、黒炎擂台賽はどうだったんだ? 優勝したか?」
「ああ。決勝でウィルを破って、見事優勝したよ」
「ウィルを? ……ふふ」
報告を聞いて、晴奈は笑い出した。
「どしたの、母さん?」
「ああ、いや、……奇妙な縁だなと思って、な。私も昔……」
晴奈の言いかけたことを、シルキスが先に述べた。
「昔コウ先生とウィルの父やん、エリザリーグで戦ったんですよね? そん時は、ウィルの父やんが勝ったとか」
「ああ、そうだ。そして今度は秋也が、か」
晴奈はニヤニヤ笑いながら、秋也の頭をクシャクシャと撫でた。
「よくやったな、秋也。誇りに思うぞ」
「……ありがとう、母さん」
秋也は顔を赤くし、ぽつりとそう応えた。
その晩。
「わざわざ私の師匠に黄海まで来てもらったのは、何も記念日を祝うためだけではない」
晴奈は秋也を呼び、雪乃を交えて話をしていた。
「お前ももう、私に剣術を学んで10年になるだろう? そろそろ、免許皆伝を狙ってみたらどうか、と思ったのだ。
まあ、事前に師匠と相談するつもりだったのだが」
「わたしは賛成よ。秋也君の実力なら、十分通るだろうし」
二人の話に、秋也は困惑した。
「免許、皆伝? 焔流の?」
「そうだ。ついては、師匠と共に紅蓮塞に行って、試験を受けてもらおうか、と」
「……まだオレには早い気、するんだけどなぁ」
「そんなことないわ、秋也君」
雪乃は自信たっぷりにうなずいてみせる。
「晴奈だって、免許皆伝を得たのはあなたと同じ、19歳の時よ。資格は十分、あると思うわ」
「そう、ですかね」
秋也はしばらく悩んでいたが、やがてうなずいた。
「……分かりました。受けるだけ受けてみます」
「ああ。期待しているぞ、秋也」
「……はい!」
数日後。
晴奈は黄海の門前で、雪乃と秋也を見送った。
「じゃあ、しっかりやれよ」
「ああ。……じゃ、行ってくる」
「楽しみにしててね、晴奈」
二人は晴奈に背を向け、街道を歩いていく。
その後ろ姿を見て、晴奈の心にふっと、懐かしい記憶が蘇った。
(秋也も、私と同じ道を歩いている。私が通った、道を。
この道がすべての始まり――あの夜、私はこの道を走った。
師匠のように強く、かっこいい剣士になりたいと願って。
……なれたかな、私は。
そしてなれるかな、秋也は。
……がんばれ)
時は双月暦541年。
これにて、「蒼天剣」セイナ・コウの物語を、お終いとさせていただく。
蒼天剣・回帰録 終
双月千年世界「蒼天剣」 終
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巡り回る物語。
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6.
「結局そうして、晴奈はわたしの弟子になったのよ。
もしあの時、わたしの気持ちが少しでも変わっていたり、早々に突っぱねたりしていたら、この世界に剣豪『蒼天剣』は生まれかったかも知れないのよね。
そう考えると、本当に人生って不思議ね」
話し終えた雪乃に、秋也はうんうんとうなずいていた。
「でもやっぱ、お袋は昔っから性格、変わってないんですね。昔っから、こうと決めたら突き進む人でしたし」
「そうね、クスクス……」
そこで雪乃は、くるりと振り向いた。
「昔っからよね、晴奈?」
「……よく、そう言われますね。それこそ、昔から」
客間の扉が開き、話に上った人物――晴奈が、ポリポリと頬をかきながら現れた。
「ただいま、母さん」
礼儀正しく頭を下げた秋也に、晴奈もコクリとうなずいて応える。
「ああ、お帰り秋也。……そちらの二人は?」
「ウィル・ウィアードとシルキス・ミーシャ。黒炎擂台賽で会ったんだ。……覚えてるか?」
「ほう、あの子たちか。……随分、大きくなったな」
晴奈はウィルたちに、にっこりと笑いかけた。
その笑顔は、若い時に比べて随分と柔らかくなっていた。
「お久しぶりです、コウ先生!」
「元気してはりました?」
「ああ、この通り。シルビアとシリンたちは、元気にしているか?」
晴奈の問いに、ウィルたちはうんうんとうなずく。
「ええ、元気ですよ。今も、孤児院の院長を頑張ってます」
「ウチの母やんも元気しとりますよ。あ、去年アケミさんトコからのれん分けしてもろて、父やんと一緒に自分の店開いたんですよー」
「そうか。それは近々、尋ねてみないとな」
晴奈はすとんと、秋也の横に座る。
「それで秋也、黒炎擂台賽はどうだったんだ? 優勝したか?」
「ああ。決勝でウィルを破って、見事優勝したよ」
「ウィルを? ……ふふ」
報告を聞いて、晴奈は笑い出した。
「どしたの、母さん?」
「ああ、いや、……奇妙な縁だなと思って、な。私も昔……」
晴奈の言いかけたことを、シルキスが先に述べた。
「昔コウ先生とウィルの父やん、エリザリーグで戦ったんですよね? そん時は、ウィルの父やんが勝ったとか」
「ああ、そうだ。そして今度は秋也が、か」
晴奈はニヤニヤ笑いながら、秋也の頭をクシャクシャと撫でた。
「よくやったな、秋也。誇りに思うぞ」
「……ありがとう、母さん」
秋也は顔を赤くし、ぽつりとそう応えた。
その晩。
「わざわざ私の師匠に黄海まで来てもらったのは、何も記念日を祝うためだけではない」
晴奈は秋也を呼び、雪乃を交えて話をしていた。
「お前ももう、私に剣術を学んで10年になるだろう? そろそろ、免許皆伝を狙ってみたらどうか、と思ったのだ。
まあ、事前に師匠と相談するつもりだったのだが」
「わたしは賛成よ。秋也君の実力なら、十分通るだろうし」
二人の話に、秋也は困惑した。
「免許、皆伝? 焔流の?」
「そうだ。ついては、師匠と共に紅蓮塞に行って、試験を受けてもらおうか、と」
「……まだオレには早い気、するんだけどなぁ」
「そんなことないわ、秋也君」
雪乃は自信たっぷりにうなずいてみせる。
「晴奈だって、免許皆伝を得たのはあなたと同じ、19歳の時よ。資格は十分、あると思うわ」
「そう、ですかね」
秋也はしばらく悩んでいたが、やがてうなずいた。
「……分かりました。受けるだけ受けてみます」
「ああ。期待しているぞ、秋也」
「……はい!」
数日後。
晴奈は黄海の門前で、雪乃と秋也を見送った。
「じゃあ、しっかりやれよ」
「ああ。……じゃ、行ってくる」
「楽しみにしててね、晴奈」
二人は晴奈に背を向け、街道を歩いていく。
その後ろ姿を見て、晴奈の心にふっと、懐かしい記憶が蘇った。
(秋也も、私と同じ道を歩いている。私が通った、道を。
この道がすべての始まり――あの夜、私はこの道を走った。
師匠のように強く、かっこいい剣士になりたいと願って。
……なれたかな、私は。
そしてなれるかな、秋也は。
……がんばれ)
時は双月暦541年。
これにて、「蒼天剣」セイナ・コウの物語を、お終いとさせていただく。
蒼天剣・回帰録 終
双月千年世界「蒼天剣」 終
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ここまでご愛読いただいた皆様、ありがとうございました。
多少駆け足だったり、冗長だったりしたこともありましたが、
我ながら良く書けたと思います。
あとがき、ちょっと凝ってみました。
詳しくは30分後くらいに。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.12.25 修正
ここまでご愛読いただいた皆様、ありがとうございました。
多少駆け足だったり、冗長だったりしたこともありましたが、
我ながら良く書けたと思います。
あとがき、ちょっと凝ってみました。
詳しくは30分後くらいに。
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2016.12.25 修正



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
読了。。。。
長かったですね。。。
ここまでお疲れ様でした~~!!
って、もうこの話はとっくに書き終わっていますね。
セイナの物語もこれで終わりですね。
また次回作なども楽しみにさせていただきます!!
\(~o~)/
長かったですね。。。
ここまでお疲れ様でした~~!!
って、もうこの話はとっくに書き終わっていますね。
セイナの物語もこれで終わりですね。
また次回作なども楽しみにさせていただきます!!
\(~o~)/
NoTitle
ご清読、ありがとうございました!
長々とお付き合いいただき、感謝の極みです。
ショートショート、楽しみにしています。
以前に仰っていたシリンとモールのお話でしょうか。
それともまた別の誰かを……?
長旅、お疲れ様でした。
どうぞ、あとがきなどごゆるりとお読みいただきながら、
いずれ気力を充実させて、次回作へと。
次も大分な長旅になりますので……。
長々とお付き合いいただき、感謝の極みです。
ショートショート、楽しみにしています。
以前に仰っていたシリンとモールのお話でしょうか。
それともまた別の誰かを……?
長旅、お疲れ様でした。
どうぞ、あとがきなどごゆるりとお読みいただきながら、
いずれ気力を充実させて、次回作へと。
次も大分な長旅になりますので……。
読了!
ようやく読了しました(^^)V
正直、相互リンク前は、そのあまりの長さに恐れをなし、ちょこちょこつまみ読みするくらいでしたが、いざ、本腰を据えて晴奈といっしょに双月世界をうろついてみると、原稿の枚数を忘れるほど、エキゾチックで楽しい旅だったです(^^)
読了記念になにかショートショートを書こうかな。
しかし長旅で少々疲れたのも事実。
もう一つの作品のほうは明日に回したいと思います。
楽しい作品だといいなあ~♪
正直、相互リンク前は、そのあまりの長さに恐れをなし、ちょこちょこつまみ読みするくらいでしたが、いざ、本腰を据えて晴奈といっしょに双月世界をうろついてみると、原稿の枚数を忘れるほど、エキゾチックで楽しい旅だったです(^^)
読了記念になにかショートショートを書こうかな。
しかし長旅で少々疲れたのも事実。
もう一つの作品のほうは明日に回したいと思います。
楽しい作品だといいなあ~♪
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NoTitle
確かに日付は5年前……、随分前ですね。
次回作も終わり、「蒼天剣」に直結する次々回作も終盤。
どちらから読んでも楽しめそうですね。
また次のお話も、よろしくご笑覧ください。