「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第3部
蒼天剣・邂逅録 3
晴奈の話、71話目。
スパイを尾行するスパイとサムライ。
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3.
折角の再会と帰郷であるし、晴奈は当初、黄海にしばらく滞在することを考えていた。
「まったく、ろくでもない!」
だがエルスのせいで、その折角の機会を、晴奈は気分悪く過ごしていた。
「忌々しい……。私が、明奈を助けたかったのに。何であんなバカが助けるんだか」
文句をブツブツと唱えながら街を散策しつつ、ある通りに差し掛かったところで――。
「ん? あの青い髪は」
少し前を、青い髪のエルフが歩いているのが見える。
晴奈は彼女にそっと、声をかけてみた。
「もし、リスト殿?」
「……! あ、セイナさん、でしたっけ」
振り返ったリストは、どこか苛立たしそうに晴奈を見る。
「あの、何か?」
「いや、ただ声をかけただけ、ですが」
「そう。悪いわね、忙しいから、また後でっ」
そう言ってリストは、また前に向き直って歩き出す。
視線を前に戻すと、少し先を「あのバカ」が妹、明奈を伴って歩いているのが見えた。
「もしや、エルス殿と明奈を尾行されているのですか?」
「な、何で分かったの!?」
また、リストがこちらを向く。
「いや、何故と問われても。一目瞭然では……」「と、とにかく! 邪魔しないで!」
リストは早歩きで、エルスたちを追いかける。
「あ、私も同行します、気になるので」
晴奈もリストに続き、尾行に参加した。
「しかし、一体何故、リスト殿はこのようなことを?」
揃って物陰に隠れたところで、晴奈はリストに尋ねてみた。
「あのスケベ、メイナを連れてあちこち回ってるのよ! きっとメイナを落そうと狙ってるんだわ!」
「何と!?」
リストの返答に、晴奈はまた苛立ちを募らせる。
「おのれ、渡してなるものか……!」
「でしょ!? だから、こうやって後を尾けてるのよ。もし手を出そうとしたら、コイツで無理矢理にでも止めるわ」
そう言って、リストは腰に提げていた銃――近年開発された、新種の武器だそうだ。どのようにして使うのか、晴奈にはまったく見当が付かない――に手を添える。
「ぜひとも、助太刀させていただきたい!」
「ええ、その時はお願いね、セイナさん!」
変に意気投合したらしく、晴奈とリストはがっちりと握手した。
その後も2時間ほど、エルスたちはあちこちを回っていた。
そのほとんどが商店や露店めぐりで、どうやら女物の小物を買い集めているらしい。
「何よアレ!? 完璧にデートじゃないの!」
「でえ、と?」
「えっと、その、何て言ったらいいかな。……イチャイチャしてる、ってコトよ」
「む、確かに……」
言われてみれば、確かに二人の雰囲気は、知らない者が見れば恋人のようにも見える。晴奈の目にもそう見えてしまい、怒りをますます燃え上がらせていた。
そのうちに日も傾き始め、エルスたちは黄屋敷の方へと向かっていく。
「っと、隠れて隠れて」
リストが物陰に晴奈を引っ張り込む。そのまま隠れてエルスたちが通り過ぎるのを待ち、また後をつける。
と、エルスが急に立ち止まり、明奈に何かを話しかける。
「……メイナ、これ……」
二人の話し声は完全には聞き取れないが、どこか楽しそうにしている。
「ほら、……見せたら、……きっと……」
「そうかしら? ……それじゃ……」
エルスが抱えていた袋から何かを取り出し、明奈に手渡す。遠目には良く分からないが、どうやら髪留めのようだ。
「おー、可愛い。これは……似合う……」
「まあ、エルスさんったら」
エルスの言葉に嬉しそうに笑う明奈を見て、晴奈の怒りはついに爆発した。
「も、もう……、我慢ならん!」
「えっ、セイナ?」
リストがその声に反応した時には既に、晴奈はエルスたちのすぐ後ろに迫っていた。
「あ、そうだ。メイナ、これ今付けてみない?」
帰り道に差し掛かったところで、エルスが袋を足元に下ろして中を探る。
「さっきの髪留めでしょうか?」
「そう、さっきの」
エルスは袋の中から髪留めを取り出し、明奈に差し出す。
「ほら、お揃いって言うのを見せたらさ、お姉さんもきっと喜ぶよ」
「そうかしら? ……そうですね。それじゃ、付けてみますね」
明奈は丸まった白い狐があしらわれた髪留めを、前髪に留めてみる。
それを見て、エルスは口笛を吹いてほめちぎった。
「おーぉ、可愛い。これは買って大正解だったね。お姉さんにも良く似合うだろうなぁ」
「まあ、エルスさんったら」
髪留めを付けた姉を想像し、明奈はクスクス笑っていた。
そこに、怒り狂った晴奈が割り込んできた。
「エルス・グラッド! 今すぐ、明奈から離れろッ!」
いきりたつ晴奈とは正反対に、エルスはのほほんと笑っている。
「うん? ああ、セイナさん」
「ああ、では無いッ! 成敗してくれるッ!」
ヘラヘラと笑うその顔が癪に障り、晴奈の怒りはさらに膨れ上がった。
その怒気を察したのか、エルスはヘラヘラ笑いながらも、すっと拳法の構えを取る。外国の人間とは思えない、見事に隙の無い、完璧な構え方だった。
「えっと、どうして怒ってるのか、良く分からないけれど……。何にもせずに、やられるわけには行かないよねぇ」
「どうして、だと!? 本気で言っているのか、貴様ッ!」
晴奈が先に刀を抜き、仕掛ける。ところが――。
「えいっ」
パンと、手を打つ音が響く。あろうことか、白刃取りである。
「そん、な、……馬鹿な!?」
焔流免許皆伝の晴奈の刀が――「燃える刀」ではないし、本気を出してはいなかったのだが――あっさりと防がれてしまい、晴奈は戦慄した。
「ねえ、落ち着いてさ、話し合おうよ」
「だ、黙れッ!」
晴奈はエルスの腹に蹴りを入れて弾き飛ばそうとした。だが、その行動も読まれたらしく、エルスはぱっと刀から手を離して飛びのく。
「やめて、お姉さま!」
明奈が悲鳴じみた声を上げるが、晴奈の耳には入らない。二太刀、三太刀と繰り出すが、すべてひらりひらりとかわされる。
(この男……、思っていたよりも、ずっと手強い! 『猫』の私と、遜色ない身のこなしだ)
四太刀目を放とうとして、一瞬踏み留まる。
(どうする? 焔を使うべきか?
格下相手に使うのは、恥ではある。だが彼奴はどうやら、相当に強い。使っても恥にはなるまい。いや……、むしろ使わねば、勝負になるまい)
晴奈は心の中を整理し、精神を集中させて、刀に炎を灯らせた。
「火、か。それが焔流の真髄、ってやつかな。
ねえ、セイナさん。本当にもうやめにしない? 不毛だと思うんだけど」
エルスは笑い顔を曇らせて――それでも、「苦笑」と言った感じだが――和解を提案する。だが怒り狂った晴奈は、それを却下した。
「断るッ! 勝負が付くまでだッ!」
「そっか。じゃあ、うん。やるよ」
エルスは再び構え直し、晴奈の攻撃に備えた。
そのまま両者ともにらみ合ったところで――。
「お姉さまッ!」
明奈が二人の間に入り、晴奈の頬をはたいた。
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スパイを尾行するスパイとサムライ。
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折角の再会と帰郷であるし、晴奈は当初、黄海にしばらく滞在することを考えていた。
「まったく、ろくでもない!」
だがエルスのせいで、その折角の機会を、晴奈は気分悪く過ごしていた。
「忌々しい……。私が、明奈を助けたかったのに。何であんなバカが助けるんだか」
文句をブツブツと唱えながら街を散策しつつ、ある通りに差し掛かったところで――。
「ん? あの青い髪は」
少し前を、青い髪のエルフが歩いているのが見える。
晴奈は彼女にそっと、声をかけてみた。
「もし、リスト殿?」
「……! あ、セイナさん、でしたっけ」
振り返ったリストは、どこか苛立たしそうに晴奈を見る。
「あの、何か?」
「いや、ただ声をかけただけ、ですが」
「そう。悪いわね、忙しいから、また後でっ」
そう言ってリストは、また前に向き直って歩き出す。
視線を前に戻すと、少し先を「あのバカ」が妹、明奈を伴って歩いているのが見えた。
「もしや、エルス殿と明奈を尾行されているのですか?」
「な、何で分かったの!?」
また、リストがこちらを向く。
「いや、何故と問われても。一目瞭然では……」「と、とにかく! 邪魔しないで!」
リストは早歩きで、エルスたちを追いかける。
「あ、私も同行します、気になるので」
晴奈もリストに続き、尾行に参加した。
「しかし、一体何故、リスト殿はこのようなことを?」
揃って物陰に隠れたところで、晴奈はリストに尋ねてみた。
「あのスケベ、メイナを連れてあちこち回ってるのよ! きっとメイナを落そうと狙ってるんだわ!」
「何と!?」
リストの返答に、晴奈はまた苛立ちを募らせる。
「おのれ、渡してなるものか……!」
「でしょ!? だから、こうやって後を尾けてるのよ。もし手を出そうとしたら、コイツで無理矢理にでも止めるわ」
そう言って、リストは腰に提げていた銃――近年開発された、新種の武器だそうだ。どのようにして使うのか、晴奈にはまったく見当が付かない――に手を添える。
「ぜひとも、助太刀させていただきたい!」
「ええ、その時はお願いね、セイナさん!」
変に意気投合したらしく、晴奈とリストはがっちりと握手した。
その後も2時間ほど、エルスたちはあちこちを回っていた。
そのほとんどが商店や露店めぐりで、どうやら女物の小物を買い集めているらしい。
「何よアレ!? 完璧にデートじゃないの!」
「でえ、と?」
「えっと、その、何て言ったらいいかな。……イチャイチャしてる、ってコトよ」
「む、確かに……」
言われてみれば、確かに二人の雰囲気は、知らない者が見れば恋人のようにも見える。晴奈の目にもそう見えてしまい、怒りをますます燃え上がらせていた。
そのうちに日も傾き始め、エルスたちは黄屋敷の方へと向かっていく。
「っと、隠れて隠れて」
リストが物陰に晴奈を引っ張り込む。そのまま隠れてエルスたちが通り過ぎるのを待ち、また後をつける。
と、エルスが急に立ち止まり、明奈に何かを話しかける。
「……メイナ、これ……」
二人の話し声は完全には聞き取れないが、どこか楽しそうにしている。
「ほら、……見せたら、……きっと……」
「そうかしら? ……それじゃ……」
エルスが抱えていた袋から何かを取り出し、明奈に手渡す。遠目には良く分からないが、どうやら髪留めのようだ。
「おー、可愛い。これは……似合う……」
「まあ、エルスさんったら」
エルスの言葉に嬉しそうに笑う明奈を見て、晴奈の怒りはついに爆発した。
「も、もう……、我慢ならん!」
「えっ、セイナ?」
リストがその声に反応した時には既に、晴奈はエルスたちのすぐ後ろに迫っていた。
「あ、そうだ。メイナ、これ今付けてみない?」
帰り道に差し掛かったところで、エルスが袋を足元に下ろして中を探る。
「さっきの髪留めでしょうか?」
「そう、さっきの」
エルスは袋の中から髪留めを取り出し、明奈に差し出す。
「ほら、お揃いって言うのを見せたらさ、お姉さんもきっと喜ぶよ」
「そうかしら? ……そうですね。それじゃ、付けてみますね」
明奈は丸まった白い狐があしらわれた髪留めを、前髪に留めてみる。
それを見て、エルスは口笛を吹いてほめちぎった。
「おーぉ、可愛い。これは買って大正解だったね。お姉さんにも良く似合うだろうなぁ」
「まあ、エルスさんったら」
髪留めを付けた姉を想像し、明奈はクスクス笑っていた。
そこに、怒り狂った晴奈が割り込んできた。
「エルス・グラッド! 今すぐ、明奈から離れろッ!」
いきりたつ晴奈とは正反対に、エルスはのほほんと笑っている。
「うん? ああ、セイナさん」
「ああ、では無いッ! 成敗してくれるッ!」
ヘラヘラと笑うその顔が癪に障り、晴奈の怒りはさらに膨れ上がった。
その怒気を察したのか、エルスはヘラヘラ笑いながらも、すっと拳法の構えを取る。外国の人間とは思えない、見事に隙の無い、完璧な構え方だった。
「えっと、どうして怒ってるのか、良く分からないけれど……。何にもせずに、やられるわけには行かないよねぇ」
「どうして、だと!? 本気で言っているのか、貴様ッ!」
晴奈が先に刀を抜き、仕掛ける。ところが――。
「えいっ」
パンと、手を打つ音が響く。あろうことか、白刃取りである。
「そん、な、……馬鹿な!?」
焔流免許皆伝の晴奈の刀が――「燃える刀」ではないし、本気を出してはいなかったのだが――あっさりと防がれてしまい、晴奈は戦慄した。
「ねえ、落ち着いてさ、話し合おうよ」
「だ、黙れッ!」
晴奈はエルスの腹に蹴りを入れて弾き飛ばそうとした。だが、その行動も読まれたらしく、エルスはぱっと刀から手を離して飛びのく。
「やめて、お姉さま!」
明奈が悲鳴じみた声を上げるが、晴奈の耳には入らない。二太刀、三太刀と繰り出すが、すべてひらりひらりとかわされる。
(この男……、思っていたよりも、ずっと手強い! 『猫』の私と、遜色ない身のこなしだ)
四太刀目を放とうとして、一瞬踏み留まる。
(どうする? 焔を使うべきか?
格下相手に使うのは、恥ではある。だが彼奴はどうやら、相当に強い。使っても恥にはなるまい。いや……、むしろ使わねば、勝負になるまい)
晴奈は心の中を整理し、精神を集中させて、刀に炎を灯らせた。
「火、か。それが焔流の真髄、ってやつかな。
ねえ、セイナさん。本当にもうやめにしない? 不毛だと思うんだけど」
エルスは笑い顔を曇らせて――それでも、「苦笑」と言った感じだが――和解を提案する。だが怒り狂った晴奈は、それを却下した。
「断るッ! 勝負が付くまでだッ!」
「そっか。じゃあ、うん。やるよ」
エルスは再び構え直し、晴奈の攻撃に備えた。
そのまま両者ともにらみ合ったところで――。
「お姉さまッ!」
明奈が二人の間に入り、晴奈の頬をはたいた。



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