「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・神代記 2
フォコの話、2話目。
神話による支配。
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神話による支配。
2.
3世紀当時のゴールドマン家は、カレイドマイン郊外の鉱山から金を初めとする貴金属を採掘、加工することを生業としていた。
また、常に莫大な黄金を持っていることから、ある巨大な政治組織との関わりも深かった。
「また増発、ですか?」
レオンはいかにも偉そうな服を着た、その組織下の役人と話をしていた。
「ええ。何かと物入りでして」
「見返りは何を?」
レオンの言葉に、役人は目を吊り上がらせる。
「見返り? これだから商人は! 神への供物と思って、無償で差し出すのが天帝教信者では……」「私は央北天帝教の信者やありません」
レオンはにべもなく、役人に言い返した。
「か、神を冒涜するのですかっ」
「我々、央中天帝教の神は商業の女神、エリザ・ゴールドマンです。彼女は日々の糧を確保することを尊重しとりますから。
見返り無しに貴金属の提供など、それこそ我らが神がお許しになりませんわ」
神を理由にごねたものの、逆に神を理由に突っぱねられてしまい、役人は仕方なく条件を提示した。
「……分かりましたよ、もう。南海の開拓権、島一つ分拡大です。権利書等はこちらに」
「いいでしょう。金300キロと銀500キロ、お送りします」
「それでお願いします」
役人は帰り際に、「浅ましい人種だな、商人は!」とドアの向こうでこぼし、帰っていった。
「……『タダで金くれ』なんて言う方が、よっぽど浅ましいと思うんですけどな。
まったく中央政府の方々は、高慢にも程があるちゅうか」
レオンはそうつぶやき、小さくため息をついた。
この時代、世界は神話によって統治されていた。
その昔、世界を平定したと言われるタイムズ一族、通称「天帝」の一族を首長として、中央大陸、ひいては世界全域を支配する統治府――中央政府が央北に存在していた。
その中央政府が管理する通貨、「クラム」の元になる貴金属は、主にゴールドマン家が供給していた。世界各地のあらゆる利権を、貴金属の提供と引き換えに手に入れ、それによって商業規模を拡大していたのだ。
この関係は中央政府が成立して以後ずっと続いており、現在の当主であるレオンも、この取引関係を引き継いでいた。
この時代の中央政府が、世界全域に及ぶほどの絶大な権勢を振るっているのには、大きな理由がある。前述の通り、世界を平定した一族が神権政治を行っているためだ。
「神」「宗教」と言う強大な力添えの元で、中央政府は半ば横暴なほど世界中の土地や利権を接収・徴発し、力を蓄え続けていた。無論、徴発される側はたまったものではないのだが、神を引き合いに出され、「財を差し出すことは神への供物である」「差し出さねば神罰が下る」などと脅されては、何も言い返せない。
それに対する唯一と言ってもいい対抗手段が、「央中」天帝教だった。中央政府が信仰し、御旗に掲げているのは「央北」の、タイムズ一族を祀った天帝教である。これに対し、央中の人々、特に商工業関係の人間は、天帝による世界平定と同時期に活躍し、央北の天帝教でも神の一柱となっていた「金火狐の大祖」エリザ・ゴールドマンを主神として祀る、央中天帝教を立ち上げたのだ。
先程のレオンのように、神を盾にしてごねる中央政府の役人たちをあしらうための方便としては、この宗教は非常に有効なものだった。それに何より、エリザはゴールドマン家を世界有数の商家にした立役者であり、商売の神としてはこれ以上に適任な人物はいない。
最初は方便としての宗教だったが、3世紀の終わりには確かな信仰を得つつあった。
だが、これらの事柄が――ゴールドマン家が中央政府から利権を買っていることと、央北と央中の宗教対立が――後に、大きな事件の引き金になるとは、誰も予想していなかった。
その激動の時代が、ニコル3世の人生そのものだと言っても過言ではない。
3世紀当時のゴールドマン家は、カレイドマイン郊外の鉱山から金を初めとする貴金属を採掘、加工することを生業としていた。
また、常に莫大な黄金を持っていることから、ある巨大な政治組織との関わりも深かった。
「また増発、ですか?」
レオンはいかにも偉そうな服を着た、その組織下の役人と話をしていた。
「ええ。何かと物入りでして」
「見返りは何を?」
レオンの言葉に、役人は目を吊り上がらせる。
「見返り? これだから商人は! 神への供物と思って、無償で差し出すのが天帝教信者では……」「私は央北天帝教の信者やありません」
レオンはにべもなく、役人に言い返した。
「か、神を冒涜するのですかっ」
「我々、央中天帝教の神は商業の女神、エリザ・ゴールドマンです。彼女は日々の糧を確保することを尊重しとりますから。
見返り無しに貴金属の提供など、それこそ我らが神がお許しになりませんわ」
神を理由にごねたものの、逆に神を理由に突っぱねられてしまい、役人は仕方なく条件を提示した。
「……分かりましたよ、もう。南海の開拓権、島一つ分拡大です。権利書等はこちらに」
「いいでしょう。金300キロと銀500キロ、お送りします」
「それでお願いします」
役人は帰り際に、「浅ましい人種だな、商人は!」とドアの向こうでこぼし、帰っていった。
「……『タダで金くれ』なんて言う方が、よっぽど浅ましいと思うんですけどな。
まったく中央政府の方々は、高慢にも程があるちゅうか」
レオンはそうつぶやき、小さくため息をついた。
この時代、世界は神話によって統治されていた。
その昔、世界を平定したと言われるタイムズ一族、通称「天帝」の一族を首長として、中央大陸、ひいては世界全域を支配する統治府――中央政府が央北に存在していた。
その中央政府が管理する通貨、「クラム」の元になる貴金属は、主にゴールドマン家が供給していた。世界各地のあらゆる利権を、貴金属の提供と引き換えに手に入れ、それによって商業規模を拡大していたのだ。
この関係は中央政府が成立して以後ずっと続いており、現在の当主であるレオンも、この取引関係を引き継いでいた。
この時代の中央政府が、世界全域に及ぶほどの絶大な権勢を振るっているのには、大きな理由がある。前述の通り、世界を平定した一族が神権政治を行っているためだ。
「神」「宗教」と言う強大な力添えの元で、中央政府は半ば横暴なほど世界中の土地や利権を接収・徴発し、力を蓄え続けていた。無論、徴発される側はたまったものではないのだが、神を引き合いに出され、「財を差し出すことは神への供物である」「差し出さねば神罰が下る」などと脅されては、何も言い返せない。
それに対する唯一と言ってもいい対抗手段が、「央中」天帝教だった。中央政府が信仰し、御旗に掲げているのは「央北」の、タイムズ一族を祀った天帝教である。これに対し、央中の人々、特に商工業関係の人間は、天帝による世界平定と同時期に活躍し、央北の天帝教でも神の一柱となっていた「金火狐の大祖」エリザ・ゴールドマンを主神として祀る、央中天帝教を立ち上げたのだ。
先程のレオンのように、神を盾にしてごねる中央政府の役人たちをあしらうための方便としては、この宗教は非常に有効なものだった。それに何より、エリザはゴールドマン家を世界有数の商家にした立役者であり、商売の神としてはこれ以上に適任な人物はいない。
最初は方便としての宗教だったが、3世紀の終わりには確かな信仰を得つつあった。
だが、これらの事柄が――ゴールドマン家が中央政府から利権を買っていることと、央北と央中の宗教対立が――後に、大きな事件の引き金になるとは、誰も予想していなかった。
その激動の時代が、ニコル3世の人生そのものだと言っても過言ではない。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
金と宗教。
人が人として生きていくために形成されていくものですね。
そして、それこそが人の社会に形作られていく。
それはファンタジーでも同じですね。
人が人として生きていくために形成されていくものですね。
そして、それこそが人の社会に形作られていく。
それはファンタジーでも同じですね。
NoTitle
ゴールドマン家は金を掘って200年、300年の老舗です。
その権力・財力は政府を言いくるめられるくらい。
自分たちが納得しなければ、Noくらいポンと言っちゃう人たちです。
……まあ、後ほどしっぺ返しがありますが。
その権力・財力は政府を言いくるめられるくらい。
自分たちが納得しなければ、Noくらいポンと言っちゃう人たちです。
……まあ、後ほどしっぺ返しがありますが。
生業
金を採掘でってよく聞く成り上がりですね
一杯儲かってるんだから納めろというわけですか
相手が政府ではNoとは言えませんよね
言ったら…どうなるか
一杯儲かってるんだから納めろというわけですか
相手が政府ではNoとは言えませんよね
言ったら…どうなるか
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NoTitle
現実世界と気候や環境が似通っていれば、
常識や社会規範も似てくるだろうと考えています。
なのでカネも宗教も、その在り様は現実世界と同じではないか、と。