「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・神代記 4
フォコの話、4話目。
フォコの小さな災難。
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フォコの小さな災難。
4.
食事会が進むうち、大人たちは酔っぱらい、子供たちを放って内輪で話をし始めた。
気付けば、先程まで向かいに座っていたランニャの姿は無い。
「……ランニャちゃん、どこやろ?」
フォコも席を立ち、ランニャを探そうとした。
と、後ろからくいくいと、自分の服の裾を引っ張る者がいる。
「あ、ランニャちゃん」
「ねーねーフォコくん、ここつまんないからあたしの部屋に来てよ」
「う、うん」
フォコはランニャに手を引かれ、食卓を後にした。
廊下を歩きつつ、ランニャはフォコに色々と話しかけてくる。
「フォコくん、いくつ?」
「12歳」
「あたしは11歳。フォコくんの方が、お兄さんだね」
「そうやね」
「カレイドマインから来たって聞いたけど、どんなところ?」
「えっと、……山ばっかりかな」
「山ばっかり? じゃ、うちといい勝負だね。うち、森ばっかりだもん。
あ、ここだよ。ここがあたしと、お兄ちゃんの部屋」
ランニャはちょい、とドアノブを押し、フォコに入るよう促した。
「入って入って」
「あ、はい」
部屋の中を見て、フォコは一本の本棚に目を留めた。
「うわぁ……、なんや難しそう」
そこにあった本は、到底12歳の自分が読めるようなレベルではなかった。言うなれば、聡明な母が読みそうな専門書ばかりだったのだ。
フォコの目線の先を見て、ランニャが笑う。
「それ、お兄ちゃんの。あたしも分かんない」
「へぇ……。お兄ちゃんて、いくつなん?」
「えっと、20くらいかな」
「20歳?」
その回答に、フォコは首をかしげた。
(ルピアさん、どう見ても30前半くらいに見えたけど、意外と歳取ってんねんな)
「それよりさ、来て来て」
ランニャはちょいちょいと手招きし、フォコを椅子に座らせた。
「フォコくんは何日くらい、こっちにいるの?」
「えっと、分かんないけど、しばらくいるって言うてた」
「そうなんだ。……じゃ、さ。明日、遊びに行こ?」
「明日?」
ランニャはフォコの手をぎゅっと握り、楽しそうに笑った。
「うん、明日。とっても楽しいトコに、ね」
そこで、部屋のドアがノックされた。
「ランニャ、そっちにフォコはいるか?」
ルピアの声だ。
「うん、一緒にお話してた」
「そうか」
そこでドアが開き、顔をほんのり酒で赤くしたルピアが入ってきた。
「今日はもう遅い。また明日、話をしてやったらどうだ?」
「えー」
ランニャはフォコの首に手を回し、駄々をこねる。
「もうちょっとお話したいのー」
「こらこら、あんまりわがままを言っては駄目だ。ゴールドマンさんたちも心配してたんだから」
「ぶー……」
ランニャは渋々、フォコから手を離した。
と、そこへゴールドマン夫妻がやって来る。
「ここにおりましたか」
「もう、心配させて」
「ああ、すみません。……ほら、フォコくん。お父さんたちが来たから、今日はもう休もう?」
「はい、おやす……」「あっ」
フォコが席を立ち上がりかけたところで、ランニャがまたフォコの裾を引っ張った。
「じゃ、さ。一緒に寝ようよ」「へ?」
まだ駄々をこねてくるランニャに、ルピアは苦笑した。
「こら、駄目だって。離してやりな」
「ねー、一緒に寝よーよー、もっとお話したいのー」
聞き分けてくれそうになかったので、親たちの方が折れた。
「……まあ、仕方ありませんなぁ。ご迷惑やなかったら、今夜はこっちで寝かせてもろてもええですか?」
「ええ、レオンさんがよければ、うちの方は構わないんですが……。
分かった、ランニャ。今夜だけだぞ?」
「はーい」
ランニャはフォコの裾をつかんだまま、ぺこりとうなずいた。
フォコはドキドキしながら、ランニャの横に寝転んでいた。
(どないしよ……)
両親と離れての就寝は初めてであるし、同年代の女の子とこれほど密着したのも初めてなのだ。
(……よお、寝れるなぁ)
既にランニャははしゃぎ疲れ、すうすうと寝息を立てている。
(なんかもう、この子と一緒やと、振り回されそう……)
フォコは明日、ランニャと遊びに行くことを考えて、ふうとため息をついた。
フォコの予想通り、ランニャとの外出は、始終ランニャに引っ張られ通しだった。
「ほら、あれ。可愛いブローチでしょ」「うん」
雑貨屋で立ち止まり、ブローチを見て騒ぐ。
「あ、あそこのジュース屋さん。いつもお母さんが買ってくれるんだ」「そうなんや」
通りに並ぶ商店一つ一つの紹介を、通りの端から端まで受ける。
「次はさ、次はさ、あっち行こ?」「ちょ、待って……」
朝から昼過ぎまで、フォコはランニャに振り回された。
「ふええ……」
散々あちこちを歩かされ、フォコはネール邸に戻った途端ソファに伸びてしまった。
「大変だったな、フォコ君」
そこに、ルピアが飲み物を持ってやって来た。
「あの子は一回気に入ったものは、絶対離そうとしないからな」
「はあ……」
「しばらく大変だと思うが、勘弁してやってくれ」
「まあ、は……、はい? しばらく?」
うなずきかけ、きょとんとしたフォコに、ルピアは困ったような顔をしながらこう言った。
「その……、お父さんたちなんだが、『フォコも12歳になったことだし、少しばかり見聞を深めさせてみてはどうやろと思いまして』と、な。
二ヶ月ばかり、うちの方で預かることになった。夕べ話すつもりだったんだが、君はランニャと一緒に寝てしまったからな。言う暇が無かった」
「へっ? ……へえええっ!?」
目を丸くし、尻尾の毛を逆立たせるフォコに対し、ルピアの背後にいたランニャが嬉しそうに笑った。
「よろしくねっ」
「……よ、ろ、しゅう」
これがフォコの、最初の、小さな災難だった。
食事会が進むうち、大人たちは酔っぱらい、子供たちを放って内輪で話をし始めた。
気付けば、先程まで向かいに座っていたランニャの姿は無い。
「……ランニャちゃん、どこやろ?」
フォコも席を立ち、ランニャを探そうとした。
と、後ろからくいくいと、自分の服の裾を引っ張る者がいる。
「あ、ランニャちゃん」
「ねーねーフォコくん、ここつまんないからあたしの部屋に来てよ」
「う、うん」
フォコはランニャに手を引かれ、食卓を後にした。
廊下を歩きつつ、ランニャはフォコに色々と話しかけてくる。
「フォコくん、いくつ?」
「12歳」
「あたしは11歳。フォコくんの方が、お兄さんだね」
「そうやね」
「カレイドマインから来たって聞いたけど、どんなところ?」
「えっと、……山ばっかりかな」
「山ばっかり? じゃ、うちといい勝負だね。うち、森ばっかりだもん。
あ、ここだよ。ここがあたしと、お兄ちゃんの部屋」
ランニャはちょい、とドアノブを押し、フォコに入るよう促した。
「入って入って」
「あ、はい」
部屋の中を見て、フォコは一本の本棚に目を留めた。
「うわぁ……、なんや難しそう」
そこにあった本は、到底12歳の自分が読めるようなレベルではなかった。言うなれば、聡明な母が読みそうな専門書ばかりだったのだ。
フォコの目線の先を見て、ランニャが笑う。
「それ、お兄ちゃんの。あたしも分かんない」
「へぇ……。お兄ちゃんて、いくつなん?」
「えっと、20くらいかな」
「20歳?」
その回答に、フォコは首をかしげた。
(ルピアさん、どう見ても30前半くらいに見えたけど、意外と歳取ってんねんな)
「それよりさ、来て来て」
ランニャはちょいちょいと手招きし、フォコを椅子に座らせた。
「フォコくんは何日くらい、こっちにいるの?」
「えっと、分かんないけど、しばらくいるって言うてた」
「そうなんだ。……じゃ、さ。明日、遊びに行こ?」
「明日?」
ランニャはフォコの手をぎゅっと握り、楽しそうに笑った。
「うん、明日。とっても楽しいトコに、ね」
そこで、部屋のドアがノックされた。
「ランニャ、そっちにフォコはいるか?」
ルピアの声だ。
「うん、一緒にお話してた」
「そうか」
そこでドアが開き、顔をほんのり酒で赤くしたルピアが入ってきた。
「今日はもう遅い。また明日、話をしてやったらどうだ?」
「えー」
ランニャはフォコの首に手を回し、駄々をこねる。
「もうちょっとお話したいのー」
「こらこら、あんまりわがままを言っては駄目だ。ゴールドマンさんたちも心配してたんだから」
「ぶー……」
ランニャは渋々、フォコから手を離した。
と、そこへゴールドマン夫妻がやって来る。
「ここにおりましたか」
「もう、心配させて」
「ああ、すみません。……ほら、フォコくん。お父さんたちが来たから、今日はもう休もう?」
「はい、おやす……」「あっ」
フォコが席を立ち上がりかけたところで、ランニャがまたフォコの裾を引っ張った。
「じゃ、さ。一緒に寝ようよ」「へ?」
まだ駄々をこねてくるランニャに、ルピアは苦笑した。
「こら、駄目だって。離してやりな」
「ねー、一緒に寝よーよー、もっとお話したいのー」
聞き分けてくれそうになかったので、親たちの方が折れた。
「……まあ、仕方ありませんなぁ。ご迷惑やなかったら、今夜はこっちで寝かせてもろてもええですか?」
「ええ、レオンさんがよければ、うちの方は構わないんですが……。
分かった、ランニャ。今夜だけだぞ?」
「はーい」
ランニャはフォコの裾をつかんだまま、ぺこりとうなずいた。
フォコはドキドキしながら、ランニャの横に寝転んでいた。
(どないしよ……)
両親と離れての就寝は初めてであるし、同年代の女の子とこれほど密着したのも初めてなのだ。
(……よお、寝れるなぁ)
既にランニャははしゃぎ疲れ、すうすうと寝息を立てている。
(なんかもう、この子と一緒やと、振り回されそう……)
フォコは明日、ランニャと遊びに行くことを考えて、ふうとため息をついた。
フォコの予想通り、ランニャとの外出は、始終ランニャに引っ張られ通しだった。
「ほら、あれ。可愛いブローチでしょ」「うん」
雑貨屋で立ち止まり、ブローチを見て騒ぐ。
「あ、あそこのジュース屋さん。いつもお母さんが買ってくれるんだ」「そうなんや」
通りに並ぶ商店一つ一つの紹介を、通りの端から端まで受ける。
「次はさ、次はさ、あっち行こ?」「ちょ、待って……」
朝から昼過ぎまで、フォコはランニャに振り回された。
「ふええ……」
散々あちこちを歩かされ、フォコはネール邸に戻った途端ソファに伸びてしまった。
「大変だったな、フォコ君」
そこに、ルピアが飲み物を持ってやって来た。
「あの子は一回気に入ったものは、絶対離そうとしないからな」
「はあ……」
「しばらく大変だと思うが、勘弁してやってくれ」
「まあ、は……、はい? しばらく?」
うなずきかけ、きょとんとしたフォコに、ルピアは困ったような顔をしながらこう言った。
「その……、お父さんたちなんだが、『フォコも12歳になったことだし、少しばかり見聞を深めさせてみてはどうやろと思いまして』と、な。
二ヶ月ばかり、うちの方で預かることになった。夕べ話すつもりだったんだが、君はランニャと一緒に寝てしまったからな。言う暇が無かった」
「へっ? ……へえええっ!?」
目を丸くし、尻尾の毛を逆立たせるフォコに対し、ルピアの背後にいたランニャが嬉しそうに笑った。
「よろしくねっ」
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これがフォコの、最初の、小さな災難だった。



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可愛い子には旅をさせよ。。。
・・・というのが、今の年齢になると分かる。。。
色々な経験をさせるのが親心なのですね。。。
・・・というのが、今の年齢になると分かる。。。
色々な経験をさせるのが親心なのですね。。。
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