「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・神代記 5
フォコの話、5話目。
点火。
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点火。
5.
フォコがネール家に預けられて、1週間が経った。
「はぅー……」
今日もランニャに振り回されたため、その口からは疲れきったため息がとめどなく漏れてくる。
(よぉあんなに、あっちこっち回れるなぁ)
連日の「市中引き回し」に、フォコはネール邸にいる間ずっと、ぐったりとテーブルに突っ伏していた。
「ねーねーフォコくーん」
と、またランニャが自分を呼ぶ。
「ひぃ」
短く悲鳴を上げたが、ランニャの狼耳はそれをさらりと流す。
「今さ、今さっ、ノヴェン通りに面白いお店出てるんだって! 行こーよ、行こー!」
「さ、さっき街から帰ってきたばかりやんか」
「さっきはさっき、今は今っ! さ、行こっ!」
「ふえぇぇ……」
フォコはランニャに引きずられる形で――文字通り、年下だが力の強い「狼」に引っ張られて――街へと出かけた。
昔から、クラフトランドの市内は異様に騒々しい。あちこちに、工房や露店があるからだ。
「うぅ……」
けたたましい鎚や鋸、ふいご、そして売り子の声に、フォコの少ない体力がさらに削り取られていく。
一方、昔からこの街に住んでいるランニャは平然としている。
「こっちこっち」
フォコの様子に構わず、ランニャはフォコの手を引いて目的の露店へと突き進む。
「ほら、あのお店。ね、ね、可愛いでしょ?」
「……ああ、うん」
フォコの目に映ったのは、先程街に出た時に見たのとあまり代わり映えしないアクセサリだった。
「ほら、この星の付いたヘアピン。可愛くない?」
「うん、そうやね」
「……『うん』、ばっかり」
フォコの反応に、ランニャは口をとがらせてすねる。
「つまんないなー、もうちょっと反応してよ」
「……は?」
ランニャの一言に、温厚なフォコも流石にカチンと来た。
「何がつまらへんて?」
「だってさ、折角連れてきてあげたのに全然楽しそうじゃないし」
「連れてきて『あげた』ぁ? 誰が連れてきてほしいって言うた?」
「……フォコくん?」
温厚である故に、一旦怒りに火が点くと止まらない。
「なあ、誰が言うた? 誰がこんな店、『連れて行ってほしいわー』て言うたん? なあ?」
「あ、あれ?」
「人をバカにすんのも大概にせえや!
なんや、つまらへんて!? こっちは最初っから面白ないねん! 人のこと無視してあっちこっち連れ回して、何がつまらへんねんやッ!」
フォコの剣幕に、ランニャも、店の周りにたむろしていた客たちも、しんと静まる。
「ちょっと、フォコくん……」
「ええ加減にしとけよ!? こっちが何も言わへんからて、調子乗りおって! 何でお前のわがままに、一々付き合わなアカンのや!」
「ちょ、ちょっ……? 何でそんな、怒るの……?」
フォコの怒りに満ちた顔を見て、ランニャが涙目になってくる。だが、一向にフォコの怒りは収まらない。
「はぁ!? 何で!? 何で怒ってんのか分からへんのか!? こっち来てからずーと、お前に振り回されとったからやろが! ボケとんの……」
と、その時だった。
「うるさい、子狐」
フォコの頭を、ゴツンと殴る者が現れた。
「あいたッ!?」
「店先でギャーギャーわめくんじゃないね、商売の邪魔だって分かんないかね」
「な、何すんねんな」
「ボケは君だね。いいからさっさとココから離れろって」
フォコを殴りつけたその猫獣人は、そのまま彼の襟をつかんで露店から引き離した。
「あ、そこの子狼」
「グス、グスッ、……あたし?」
「そう。君もこっち来な」
胡散臭い魔術師風の格好をしたその猫獣人は、ランニャに手招きした。
「まったく、コドモってのはすーぐ熱くなるね」
魔術師はフォコたち二人にジュースを与えて座らせ、落ち着かせようとした。
「熱くなんかなって……」
「なってる」
魔術師はいきりたつフォコの頭を再度はたく。
「いいからそれ飲んで落ち着けってね」
「……はあ」
フォコもランニャも、突然現れたこの魔術師に面食らっていた。
「あの、猫さん」
「ん? 私?」
「はい。何でフォコくんを止めたの?」
「そりゃ止めるさ。店先であんなんされてちゃ、営業妨害だし」
そこでようやく、二人はこの魔術師が先程の露店の店主だったのだと悟った。
「……すんませんでした」
「いいよ、分かればね。
んで、なんでケンカなんかしてたね? 良かったらこの賢者さんに相談してみな」
自分を賢者と呼ぶこの猫獣人に胡散臭さを感じながらも、フォコは自分が怒った理由を話した。
フォコがネール家に預けられて、1週間が経った。
「はぅー……」
今日もランニャに振り回されたため、その口からは疲れきったため息がとめどなく漏れてくる。
(よぉあんなに、あっちこっち回れるなぁ)
連日の「市中引き回し」に、フォコはネール邸にいる間ずっと、ぐったりとテーブルに突っ伏していた。
「ねーねーフォコくーん」
と、またランニャが自分を呼ぶ。
「ひぃ」
短く悲鳴を上げたが、ランニャの狼耳はそれをさらりと流す。
「今さ、今さっ、ノヴェン通りに面白いお店出てるんだって! 行こーよ、行こー!」
「さ、さっき街から帰ってきたばかりやんか」
「さっきはさっき、今は今っ! さ、行こっ!」
「ふえぇぇ……」
フォコはランニャに引きずられる形で――文字通り、年下だが力の強い「狼」に引っ張られて――街へと出かけた。
昔から、クラフトランドの市内は異様に騒々しい。あちこちに、工房や露店があるからだ。
「うぅ……」
けたたましい鎚や鋸、ふいご、そして売り子の声に、フォコの少ない体力がさらに削り取られていく。
一方、昔からこの街に住んでいるランニャは平然としている。
「こっちこっち」
フォコの様子に構わず、ランニャはフォコの手を引いて目的の露店へと突き進む。
「ほら、あのお店。ね、ね、可愛いでしょ?」
「……ああ、うん」
フォコの目に映ったのは、先程街に出た時に見たのとあまり代わり映えしないアクセサリだった。
「ほら、この星の付いたヘアピン。可愛くない?」
「うん、そうやね」
「……『うん』、ばっかり」
フォコの反応に、ランニャは口をとがらせてすねる。
「つまんないなー、もうちょっと反応してよ」
「……は?」
ランニャの一言に、温厚なフォコも流石にカチンと来た。
「何がつまらへんて?」
「だってさ、折角連れてきてあげたのに全然楽しそうじゃないし」
「連れてきて『あげた』ぁ? 誰が連れてきてほしいって言うた?」
「……フォコくん?」
温厚である故に、一旦怒りに火が点くと止まらない。
「なあ、誰が言うた? 誰がこんな店、『連れて行ってほしいわー』て言うたん? なあ?」
「あ、あれ?」
「人をバカにすんのも大概にせえや!
なんや、つまらへんて!? こっちは最初っから面白ないねん! 人のこと無視してあっちこっち連れ回して、何がつまらへんねんやッ!」
フォコの剣幕に、ランニャも、店の周りにたむろしていた客たちも、しんと静まる。
「ちょっと、フォコくん……」
「ええ加減にしとけよ!? こっちが何も言わへんからて、調子乗りおって! 何でお前のわがままに、一々付き合わなアカンのや!」
「ちょ、ちょっ……? 何でそんな、怒るの……?」
フォコの怒りに満ちた顔を見て、ランニャが涙目になってくる。だが、一向にフォコの怒りは収まらない。
「はぁ!? 何で!? 何で怒ってんのか分からへんのか!? こっち来てからずーと、お前に振り回されとったからやろが! ボケとんの……」
と、その時だった。
「うるさい、子狐」
フォコの頭を、ゴツンと殴る者が現れた。
「あいたッ!?」
「店先でギャーギャーわめくんじゃないね、商売の邪魔だって分かんないかね」
「な、何すんねんな」
「ボケは君だね。いいからさっさとココから離れろって」
フォコを殴りつけたその猫獣人は、そのまま彼の襟をつかんで露店から引き離した。
「あ、そこの子狼」
「グス、グスッ、……あたし?」
「そう。君もこっち来な」
胡散臭い魔術師風の格好をしたその猫獣人は、ランニャに手招きした。
「まったく、コドモってのはすーぐ熱くなるね」
魔術師はフォコたち二人にジュースを与えて座らせ、落ち着かせようとした。
「熱くなんかなって……」
「なってる」
魔術師はいきりたつフォコの頭を再度はたく。
「いいからそれ飲んで落ち着けってね」
「……はあ」
フォコもランニャも、突然現れたこの魔術師に面食らっていた。
「あの、猫さん」
「ん? 私?」
「はい。何でフォコくんを止めたの?」
「そりゃ止めるさ。店先であんなんされてちゃ、営業妨害だし」
そこでようやく、二人はこの魔術師が先程の露店の店主だったのだと悟った。
「……すんませんでした」
「いいよ、分かればね。
んで、なんでケンカなんかしてたね? 良かったらこの賢者さんに相談してみな」
自分を賢者と呼ぶこの猫獣人に胡散臭さを感じながらも、フォコは自分が怒った理由を話した。



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NoTitle
ときにしやたん、僕の小説であまりにも偏った見方してません?
自分は確かに変わり者ですが、そこまでマニアな嗜好は持ち合わせてませんし、そんな表現も使ってません。
常軌を逸した変態表現はありません。
一々くだらないことで突っ込ませないでください。面倒くさい。