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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第1部

    火紅狐・賭罰記 1

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    フォコの話、7話目。
    世界最大の炉。




    1.
     モールの店での一件以来、フォコとランニャは急に仲良くなった。
    「ねーねー、今日はドコに行く?」
    「そやねぇ……」
     相変わらず、ランニャの押しは強い。
    「あ、じゃあさ、じゃあさ、セス通りの……」「うーん」
     だが、フォコもある程度は、ランニャへの接し方、意見の聞かせ方を把握できるようにはなっていた。
    「街やお店もええねんけど、僕、他のところも見てみたいなーって思うんよ」
    「他のトコ?」
    「うわさに聞いてんけど、ネール家ってなんか、すごい名物があるんやって?」
    「名物? ……なんだろ?」
     ランニャはきょとんとするばかりで、答えられない。
     と、話を聞いていたらしいポーロが、声をかけてきた。
    「うちの名物って言えばそりゃ、高炉だろう」
    「こーろ?」
     ポーロは自慢げに、フフンと鼻を鳴らす。
    「我がネール職人組合のシンボルだ。危険なところだから子供は立ち入り禁止にしてあるんだが、特別に見学させてやろうか?」
    「それ、面白そうですね」
     フォコはすぐに乗る。その反応に、ポーロはうれしそうに笑った。
    「ふっふっふ……、一目見たらびっくりするぞ?」

    「……でっかぁい!」
     乗り気ではなかったランニャも、その建造物を見た途端、目を丸くした。
     目の前にあるのは、一言で言えば「煙突」だった。だが、その規模が半端ではない。一本の、とてつもなく太い煙突を取り囲むように、幾筋ものパイプや小さな煙突、足場、タンクが並んでいる。
    「世界最大級の製鉄炉、クーベル・ネール記念高炉だ。
     ここ、クラフトランドで出回っている鉄のすべてが、ここで製造されている。言わば、クラフトランド、そしてネール職人組合の心臓部だな」
    「鉄を、……作る? 鉄って、フォコくんのとこから買ってるんじゃないの?」
     首をかしげたランニャに、ポーロが苦笑しつつ説明する。
    「ああ、えーと、何て言えばいいかな……。ゴールドマン商会から買ってるのは、厳密には鉄じゃなく、鉄鉱石だな」
    「てっこーせき?」
    「鉄になる前の、精製前の石ってことだ」
     それを聞いて、ランニャは反対側に首を傾げ直す。
    「なんで鉄の方、買わないの? そっちの方が楽じゃない?」
    「ま、ゴールドマンさんのとこが近けりゃそうするが、実際遠いからな。
     鉄に比べて鉄鉱石は純度が低いし、まだ軽くて運びやすい。それに精製前の、言わば鉄クズだから、安価で大量に買い付けやすいし狙ってくる盗賊もいない」
    「なるほどー……」
     納得したフォコたちを見て満足げにうなずきつつ、ポーロは話をまとめた。
    「で、買ったそれをここで精製し、加工するのがうちの主要産業ってわけだ」
    「へぇ~」
    「ちなみに俺は、ここの最高責任者だったりする」
     さりげなく自慢したポーロだったが、フォコたち二人は既に聞いていない。
    「何かさ、迷路みたいだよね」
    「そやねぇ」
    「かくれんぼできるね」
     ランニャはそわそわと落ち着きがなく、今にも駆け出してしまいそうだった。
    「いやいや、したらポーロさんに怒られるて」
    「そだね。あ、じゃあさ、あそこ登ってみない? きっと見晴しいいよ」
    「せやから怒られるて」
    「むー」
     そんなランニャを、フォコは懸命になだめていた。
     が――。
    「あ、アレなんだろ?」
    「え、どれ?」
     ランニャの指差した方向に、フォコはつい目をやってしまう。
    「……あ」
     視線を戻した時には既に、ランニャの姿はなかった。

    「もー……、ホントにフォコくんってビビリだよ」
     フォコの目を盗んで施設内に入ったランニャは、カンカンと音を立てて足場を進んでいた。
    「でも時々おっかなかったりするしなー。……あたしはそっちのフォコくんが好きだけど」
     そんなことを呟きながら、施設内をうろうろと回る。
    「……暑いなぁ、なんか」
     高炉が暑い、と言うのは当然のことである。
     鉄は元々、1500度以上の熱を以て融かすものであり、この高炉内ではそれ以上の熱が一日中生成されている。
     3世紀の双月世界における最高水準の耐熱・熱遮断処理が施されているとは言え、その熱はわずかずつではあるが施設中に回っているのだ。通路内の気温は50~60度に上がっており、フラフラと歩きまわっていては命に関わる。
     が、11歳のランニャには、その危険性が今一つ分かっていない。
    「汗が止まんないや」
     ハンカチを取り出して額の汗を拭うが、まったく追いつかない。次第に狼耳や尻尾の先からも、ポタポタとしずくが垂れ始めた。
    「……もどろ」
     くるりと踵を返したところで、ランニャは硬直した。
    「……あ、れ? ……あたし、どこから来たっけ?」
     ランニャの目には、複雑に入り混じった通路や階段が並んでいた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    自分もそこまで重工業に詳しいわけではありませんが、
    実体験上、とにかく「暑い」の一言に尽きます。
    「自分で体験しないと良い文章は~」
    みたいな意見は基本的に好みではありませんが、それはそれとして、
    経験はモノ書きにとって最良の資源であることも確かだとは思います。

    NoTitle 

    お、こういう場所場所の名物を見ていくのも旅の醍醐味ですね。
    鉄鋼産業は私も描いたことがないので、とても勉強になる文章です。(*^-^*)

    NoTitle 

    服を脱ぐ程度では到底間に合わない暑さ。

    なお、自分も一度、似たような場所に行ったことがありますが、
    逆に服を着てないと、赤外線的なものが防げなくて、
    素肌部分が日焼けに近い状態になります。マジ危険。

    NoTitle 

    この暑さ服を脱がなければならないよかん!v-402

    NoTitle 

    これでランニャちゃんがひどい目に遭ったら、作者は悪趣味すぎますねw
    フォコくんはやっぱり、巻き込まれる子。

    NoTitle 

    これでフォコくんが怒られて折檻されたら気の毒の極みですなあ……。

    まだ読んでないけどストーリー上ランニャちゃんは助かるからいいとして(えー)
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