「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・賭罰記 6
フォコの話、12話目。
紙一重の増長と転落。
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紙一重の増長と転落。
6.
「足りなかったんです。ちょこっとだけ」
「うん?」
そこでルピアが、指折り数えて計算する。
「……ああ、なるほど。あそこで君がアガっても、2250点払いじゃまだ、ランニャとの合計ではトップにゃなれんな。ランニャ、ボコ負けしてたからな」
「ええ。それにこのゲームって」
フォコはルピアの横に付き、自分の考えを話す。
「『親』が連荘すればするほど、危なくなってきますよね、『親』の地位」
「ああ、その通り。四連荘で、6倍掛けになるからな。ただのアガリでも、六倍付けになる。
そこで『子』が隙を突けば、思いもよらない大敗を喫することになる。丁度さっきのガルフみたいにな」
「ええ。そう思って、次を狙ってたんです。それにどうせ、次にガルフさんがアガっても、場は続くわけですし」
「はは……、そりゃまた欲の張った考えだな。
私の考えでは、あいつが四連荘以上続けるなら、私がアガって終わらせるつもりだったんだ。実際、あの時私の手は、こう揃ってたしな」
そう言ってルピアは、「火」と「雷」、「天」のカードを二枚ずつ取る。
「三面待ちってやつだ。七種のうち三種を待てば、大体当たるからな。それにこれなら、どれを引いても四倍付けと6倍掛けで24倍取りだからな。お前たちを抑えて勝ち抜けられた。
と言っても、君に先にアガられてしまったわけだが」
「残念でしたね」
フォコにそう言われ、ルピアはクスクスと笑った。
「ああ。ま、さっきランニャに言った通りさ。
勝っても負けても、それを素直に受け入れなきゃ、だ」
と、ルピアはカードをまとめながら、真面目な顔を作る。
「……それでだ、フォコ。このゲームだが、一つの教訓がある。商人の誰もが覚えていなくちゃならない大事なものが、な」
「何ですか?」
「君が言った通りのことさ。
このゲーム、『親』って言う権力者が勝てば勝つほど稼ぐ機会が増え、さらに富を築いてゆける。だがその分、その地位は危うくなっていく。
現実もある面で、そう言うことが起きる。金が稼げるからって無闇に邁進してちゃ、いずれは足元をすくわれて破滅する。どこかで、自分に歯止めをかけておかなきゃダメなんだ。
ガルフなんか、いい例だ。あそこは勝ちすぎちゃいけなかったんだ。ラス親で一度アガった時点で、トップだったんだからな。あそこで私に差し込むなりなんなりして、適当なところで止めとけば、最後の最後で君にまくられることは絶対になかったんだしな」
ルピアはフォコの頭を優しく、クシャクシャと撫でる。
「君もいずれ、ゴールドマンって言うでっかい家を継ぐんだろう?」
「……多分」
「よーく、覚えておくんだ。いくらでも金を稼ごう、偉くなろうとしたら、どんどん危険な橋を渡っていかなきゃならなくなる。
それで勝つなら、それでいい。だが負けたら悲惨だぞ――負わなくても良かったものを背負い、失わなくてよかったものを失って、不幸にならなくてよかった人が不幸になる。
ゴールドマン家を継いだら、君の肩にはいろんな人の人生がかかってくる。その人たちのことを忘れて自分だけ、得をしようなんて思っちゃいけないよ」
「……はい。覚えておきます」
「よしよし、いい子だな君は。
……さ、おやすみ」
フォコが寝室へ向かったところで、部屋に一人残ったルピアに、ぼそ……、と声が掛けられる。
「姉さんも偏屈だな、本当に」
「……うるさい」
のそ、と丸坊主の頭を覗かせ、ポーロが入ってきた。
「初めから、勝つ気無かったんだろ?」
「当たり前だ。子供との勝負で、ボロクソに負かしてどうする?」
「だろうな……。いくらなんでも、自分と相手チームとの点数差くらい、把握してるはずだしな、真剣勝負なら」
ルピアは机に腰掛け、自分の髪をクシャクシャとかき混ぜながら語った。
「まあ、あれだ。コドモのくせに『責任取ります!』なんてカッコつけたこと言うからな、からかってやろうと思ったわけだ。第一……」
ルピアはニヤ、とポーロに笑いかける。
「本気で打つなら、お前を引き込むさ。若い頃のお前は、伝説作ってたからな。ガルフなんぞかすむくらいに」
「昔の話はよしてくれよ、はは……」
と、ルピアはうれしそうに笑いながらこう言った。
「……フォコはいい子だ。それに、頭もすごくいい。本当に、神童ってやつだな。
あの子……、いつか大人になって、相手を探す時が来たら。そん時はランニャを見合わせてやりたいな。それだけの価値は、十二分にある。……ま、むしろこっち側が不足するかもだが。
あの子は絶対に、大物になる。それこそ、世界を変えるほどの大物に」
確かに後年、フォコは大物となる。
その偉業には「職人大公」ルピア・ネールの影響が大きかった、と言っても過言ではない。
火紅狐・賭罰記 終
「足りなかったんです。ちょこっとだけ」
「うん?」
そこでルピアが、指折り数えて計算する。
「……ああ、なるほど。あそこで君がアガっても、2250点払いじゃまだ、ランニャとの合計ではトップにゃなれんな。ランニャ、ボコ負けしてたからな」
「ええ。それにこのゲームって」
フォコはルピアの横に付き、自分の考えを話す。
「『親』が連荘すればするほど、危なくなってきますよね、『親』の地位」
「ああ、その通り。四連荘で、6倍掛けになるからな。ただのアガリでも、六倍付けになる。
そこで『子』が隙を突けば、思いもよらない大敗を喫することになる。丁度さっきのガルフみたいにな」
「ええ。そう思って、次を狙ってたんです。それにどうせ、次にガルフさんがアガっても、場は続くわけですし」
「はは……、そりゃまた欲の張った考えだな。
私の考えでは、あいつが四連荘以上続けるなら、私がアガって終わらせるつもりだったんだ。実際、あの時私の手は、こう揃ってたしな」
そう言ってルピアは、「火」と「雷」、「天」のカードを二枚ずつ取る。
「三面待ちってやつだ。七種のうち三種を待てば、大体当たるからな。それにこれなら、どれを引いても四倍付けと6倍掛けで24倍取りだからな。お前たちを抑えて勝ち抜けられた。
と言っても、君に先にアガられてしまったわけだが」
「残念でしたね」
フォコにそう言われ、ルピアはクスクスと笑った。
「ああ。ま、さっきランニャに言った通りさ。
勝っても負けても、それを素直に受け入れなきゃ、だ」
と、ルピアはカードをまとめながら、真面目な顔を作る。
「……それでだ、フォコ。このゲームだが、一つの教訓がある。商人の誰もが覚えていなくちゃならない大事なものが、な」
「何ですか?」
「君が言った通りのことさ。
このゲーム、『親』って言う権力者が勝てば勝つほど稼ぐ機会が増え、さらに富を築いてゆける。だがその分、その地位は危うくなっていく。
現実もある面で、そう言うことが起きる。金が稼げるからって無闇に邁進してちゃ、いずれは足元をすくわれて破滅する。どこかで、自分に歯止めをかけておかなきゃダメなんだ。
ガルフなんか、いい例だ。あそこは勝ちすぎちゃいけなかったんだ。ラス親で一度アガった時点で、トップだったんだからな。あそこで私に差し込むなりなんなりして、適当なところで止めとけば、最後の最後で君にまくられることは絶対になかったんだしな」
ルピアはフォコの頭を優しく、クシャクシャと撫でる。
「君もいずれ、ゴールドマンって言うでっかい家を継ぐんだろう?」
「……多分」
「よーく、覚えておくんだ。いくらでも金を稼ごう、偉くなろうとしたら、どんどん危険な橋を渡っていかなきゃならなくなる。
それで勝つなら、それでいい。だが負けたら悲惨だぞ――負わなくても良かったものを背負い、失わなくてよかったものを失って、不幸にならなくてよかった人が不幸になる。
ゴールドマン家を継いだら、君の肩にはいろんな人の人生がかかってくる。その人たちのことを忘れて自分だけ、得をしようなんて思っちゃいけないよ」
「……はい。覚えておきます」
「よしよし、いい子だな君は。
……さ、おやすみ」
フォコが寝室へ向かったところで、部屋に一人残ったルピアに、ぼそ……、と声が掛けられる。
「姉さんも偏屈だな、本当に」
「……うるさい」
のそ、と丸坊主の頭を覗かせ、ポーロが入ってきた。
「初めから、勝つ気無かったんだろ?」
「当たり前だ。子供との勝負で、ボロクソに負かしてどうする?」
「だろうな……。いくらなんでも、自分と相手チームとの点数差くらい、把握してるはずだしな、真剣勝負なら」
ルピアは机に腰掛け、自分の髪をクシャクシャとかき混ぜながら語った。
「まあ、あれだ。コドモのくせに『責任取ります!』なんてカッコつけたこと言うからな、からかってやろうと思ったわけだ。第一……」
ルピアはニヤ、とポーロに笑いかける。
「本気で打つなら、お前を引き込むさ。若い頃のお前は、伝説作ってたからな。ガルフなんぞかすむくらいに」
「昔の話はよしてくれよ、はは……」
と、ルピアはうれしそうに笑いながらこう言った。
「……フォコはいい子だ。それに、頭もすごくいい。本当に、神童ってやつだな。
あの子……、いつか大人になって、相手を探す時が来たら。そん時はランニャを見合わせてやりたいな。それだけの価値は、十二分にある。……ま、むしろこっち側が不足するかもだが。
あの子は絶対に、大物になる。それこそ、世界を変えるほどの大物に」
確かに後年、フォコは大物となる。
その偉業には「職人大公」ルピア・ネールの影響が大きかった、と言っても過言ではない。
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今日の旅岡さん

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NoTitle
なかなか連続で勝つのも難しい。
罰符もありますからね。
賭け事はルールが難しいのも私がやらない理由の一つかな。。。(・´з`・)
罰符もありますからね。
賭け事はルールが難しいのも私がやらない理由の一つかな。。。(・´з`・)
NoTitle
悪事と凶事は突然乱入してくるもの。
突然、物語は崩れ落ちます。
案外、終末港が似合いそうな男ですよ、フォコは。
もっとも、第1部時点でのフォコくんがいたら、真っ先に餌食でしょうが。
突然、物語は崩れ落ちます。
案外、終末港が似合いそうな男ですよ、フォコは。
もっとも、第1部時点でのフォコくんがいたら、真っ先に餌食でしょうが。
NoTitle
先ほどのコメントを読むまで、ピカレスクロマンだったとはまったく思わなかったであります(汗)
フォコくん、どちらかといえばうちの終末港の連中と話が合うタイプのかたでありますか。うむむむ。
フォコくん、どちらかといえばうちの終末港の連中と話が合うタイプのかたでありますか。うむむむ。
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どこかで自分に歯止めをかけておくのが大事です。
賭けることまではしませんが、麻雀は好きです。
オンライン麻雀に時々、出没しています。