「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・望世記 4
フォコの話、16話目。
白亜城のフィクサー。
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白亜城のフィクサー。
4.
数日が過ぎ、ランドが央北へ戻る日がやってきた。
「それじゃまた、行ってくるね。今度戻ってくる時は、官僚になってるから」
「おう。期待してるぞ、ランド」
ルピアはガッチリと握り拳を作り、ランドを応援した。
「頑張ってねっ」
ランニャも母を真似し、きゅっと握り拳を作る。
「うん。楽しみにしててね」
ランドは満面の笑顔で母娘の激励に応え、街を離れていった。
(さあ、これからだ。これからが、僕の活躍する時だ。
きっと、きっと――僕が中央政府の腐敗を、糺してみせる!)
「……では、それで進めてくれ」
「仰せのままに」
どこか、暗く閉め切った部屋の中で。
偉そうな口ヒゲを蓄えた中年の熊獣人と、丸眼鏡をかけた青年の短耳、そして血色の悪い、白い服を着た老境の短耳とが、円卓を囲んでいた。
「しかしこれで本当に、朕の無き後の世は、安泰となるのかの」
「なりますとも」
心配そうな表情を浮かべた白服に、丸眼鏡が深々とうなずいて応える。
「この世は神の守護と政の執行、そして財の循環で成り立っております。政治と経済とを掌握すれば、この世の3分の2を掌握したも同然。
さらにそこに、陛下のご守護が加われば、それはもう天下を意のままに操れるも同然。陛下の憂いも、和らぎますでしょう」
「であれば良いが。
……朕の体が脆弱なこと、今、殊更に悔やまれてならぬ。満足に政治もできず、跡継ぎとも満足に接せられず、そもそもが凡愚揃い。
せめてあと少し、あと少し、……と、何度思うたことか」
「陛下、それ以上は」
口ヒゲが心配したような顔つきをして、白服をいたわる。
「ご安心なさってください。彼の言う通り、この計画がうまく進みさえすれば、50年、いや100年、それどころか300年、500年と、神代の世は続きますでしょう」
「……しかし、そのために彼らを食い物にするなど、神のやることだろうか」
「いいのです」
口ヒゲと丸眼鏡は、同時にそう言い放った。
「神は万人の上に立って威光と慈悲を輝かせ、無条件に崇められる存在です。であるからこそ万人は、神に何らかの供物を差し出すべきなのです。
その義務をあの狐商人どもは、ずっと拒否し続けています。これは言わば、神への冒涜そのもの! 神への反逆に他ならない、蛮俗極まりない行為です!
これはその報い――家財の一切合財を奪われても、何ら文句の言えぬ罰なのです」
「……うむ」
白服はうつむき、小さくうなずいた。
部屋を後にした丸眼鏡と口ヒゲは、小声でささやきながら廊下を進んでいた。
「これで第一段階終了だな、ケネス」
「ええ。これからが楽しみですね、バーミー卿」
ケネスと呼ばれた丸眼鏡は、ニヤリとほくそ笑んだ。
「我々が次代の覇者となる日は、もう間もなくです。
ゴールドマン家を奪取すれば、この世の金は思いのまま。その上に中央政府の全軍を掌握した閣下が動けば、先程陛下に申し上げた通りの……」
「この世の3分の2を、か。……くくく、お前に乗って大正解だった。
最初はあまりに荒唐無稽と、そう思っていたが。やってみれば実際、陛下は何ら反対もせず、不思議なくらいにすいすいと政府各院を動かしてくれた」
「陛下は長年の失政が、その心身に堪えています。かと言って老いた身では、それを挽回などできるはずもない。
となれば、挽回してくれそうな人間に頼むしかない。こう言うわけです」
「なるほどな。……しかしケネス」
バーミーはわずかに眉をひそめ、ぼそっとつぶやいた。
「お前こそが、神を冒涜しているような、そんな気がするのだが。
お前は神を――天帝陛下をも、己の利益のために使っているのだろう?」
「だから何です?」
ケネスは眼鏡をつい、と中指で直しながら、平然とこう言ってのけた。
「神様なのですから、少しくらいは人間の役に立ってもらわねば。でなければ、こちらが崇め奉る理由が無い」
「……二枚舌め」
「私にとってはほめ言葉です、閣下」
この男、ケネスが後に取った行動により、ゴールドマン家は未曾有の危機にさらされることになる。
そしてそれが、ケネスと「ニコル3世」――フォコとの長い戦いの、幕開けとなった。
火紅狐・望世記 終
数日が過ぎ、ランドが央北へ戻る日がやってきた。
「それじゃまた、行ってくるね。今度戻ってくる時は、官僚になってるから」
「おう。期待してるぞ、ランド」
ルピアはガッチリと握り拳を作り、ランドを応援した。
「頑張ってねっ」
ランニャも母を真似し、きゅっと握り拳を作る。
「うん。楽しみにしててね」
ランドは満面の笑顔で母娘の激励に応え、街を離れていった。
(さあ、これからだ。これからが、僕の活躍する時だ。
きっと、きっと――僕が中央政府の腐敗を、糺してみせる!)
「……では、それで進めてくれ」
「仰せのままに」
どこか、暗く閉め切った部屋の中で。
偉そうな口ヒゲを蓄えた中年の熊獣人と、丸眼鏡をかけた青年の短耳、そして血色の悪い、白い服を着た老境の短耳とが、円卓を囲んでいた。
「しかしこれで本当に、朕の無き後の世は、安泰となるのかの」
「なりますとも」
心配そうな表情を浮かべた白服に、丸眼鏡が深々とうなずいて応える。
「この世は神の守護と政の執行、そして財の循環で成り立っております。政治と経済とを掌握すれば、この世の3分の2を掌握したも同然。
さらにそこに、陛下のご守護が加われば、それはもう天下を意のままに操れるも同然。陛下の憂いも、和らぎますでしょう」
「であれば良いが。
……朕の体が脆弱なこと、今、殊更に悔やまれてならぬ。満足に政治もできず、跡継ぎとも満足に接せられず、そもそもが凡愚揃い。
せめてあと少し、あと少し、……と、何度思うたことか」
「陛下、それ以上は」
口ヒゲが心配したような顔つきをして、白服をいたわる。
「ご安心なさってください。彼の言う通り、この計画がうまく進みさえすれば、50年、いや100年、それどころか300年、500年と、神代の世は続きますでしょう」
「……しかし、そのために彼らを食い物にするなど、神のやることだろうか」
「いいのです」
口ヒゲと丸眼鏡は、同時にそう言い放った。
「神は万人の上に立って威光と慈悲を輝かせ、無条件に崇められる存在です。であるからこそ万人は、神に何らかの供物を差し出すべきなのです。
その義務をあの狐商人どもは、ずっと拒否し続けています。これは言わば、神への冒涜そのもの! 神への反逆に他ならない、蛮俗極まりない行為です!
これはその報い――家財の一切合財を奪われても、何ら文句の言えぬ罰なのです」
「……うむ」
白服はうつむき、小さくうなずいた。
部屋を後にした丸眼鏡と口ヒゲは、小声でささやきながら廊下を進んでいた。
「これで第一段階終了だな、ケネス」
「ええ。これからが楽しみですね、バーミー卿」
ケネスと呼ばれた丸眼鏡は、ニヤリとほくそ笑んだ。
「我々が次代の覇者となる日は、もう間もなくです。
ゴールドマン家を奪取すれば、この世の金は思いのまま。その上に中央政府の全軍を掌握した閣下が動けば、先程陛下に申し上げた通りの……」
「この世の3分の2を、か。……くくく、お前に乗って大正解だった。
最初はあまりに荒唐無稽と、そう思っていたが。やってみれば実際、陛下は何ら反対もせず、不思議なくらいにすいすいと政府各院を動かしてくれた」
「陛下は長年の失政が、その心身に堪えています。かと言って老いた身では、それを挽回などできるはずもない。
となれば、挽回してくれそうな人間に頼むしかない。こう言うわけです」
「なるほどな。……しかしケネス」
バーミーはわずかに眉をひそめ、ぼそっとつぶやいた。
「お前こそが、神を冒涜しているような、そんな気がするのだが。
お前は神を――天帝陛下をも、己の利益のために使っているのだろう?」
「だから何です?」
ケネスは眼鏡をつい、と中指で直しながら、平然とこう言ってのけた。
「神様なのですから、少しくらいは人間の役に立ってもらわねば。でなければ、こちらが崇め奉る理由が無い」
「……二枚舌め」
「私にとってはほめ言葉です、閣下」
この男、ケネスが後に取った行動により、ゴールドマン家は未曾有の危機にさらされることになる。
そしてそれが、ケネスと「ニコル3世」――フォコとの長い戦いの、幕開けとなった。
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