「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・三商記 1
フォコの話、17話目。
飛び込み営業。
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飛び込み営業。
1.
フォコがクラフトランドからカレイドマインに戻ってきて数週間が経った、双月暦299年の秋から、翌年冬にかけて。
ゴールドマン家の邸宅に三人の商人が、それぞれ別々の時期に訪れていた。
一人目は、南海地域に住む兎獣人の小男。名前をファン・ロックスと言う。
南海各島を渡って鉱物の採掘を生業にしている、レオンの同業者である。
「私に任せてください!」
「ま、まあ。落ち着いてください」
いきなり自分の執務室に飛び込んできたファンに、レオンは面食らった。
そもそもの発端は、ゴールドマン商会が中央政府から得た南海の一島、キルク島の開発計画が持ち上がったことにある。
南海諸島は鉱産資源に恵まれており、この島も銀を初めとする豊富な貴金属の鉱床があることが、最近になって判明していた。
しかしゴールドマン商会所有とは言え、金火狐一族の本拠地である央中と南海は遠く離れており、レオンが一々指示を出し、視察する方式を取っていては非常にコストがかかる。そこでレオンは現地の者に指揮を執らせ、採掘を委託しようとしていたのだ。
ところがその募集をかける前に、ファンの方から足を運び、「自分に掘らせてほしい」と直談判してきたのである。
「まあ、誰か探そうかなとは、思うとりましたけど……。
でもこう言うのんは普通、他の業者さんとの話し合いちゅうか、入札ちゅうか、そう言う事前の段取りがありますやろ?」
レオンは戸惑いながらも、セオリーを無視して飛び込んできたファンを諭そうとした。
「それは確かに、慣例ならその通りです。しかしですね」
だが、ファンは退かない。
「総帥もご存知でしょう、最近の南海の事情を。横槍の多いこと、多いこと!」
「横槍ちゅうと……、ああ。レヴィア王国さんですか」
「その通りです」
ファンは悔しそうな顔をしながら、話を続ける。
「彼らはあんまりにも暴力的です! これまでに何度も、私の所有する鉱山やら漁場やらを無理矢理に乗り込み、居座られ、挙句の果てに二束三文で奪い取る!
ならず者国家の代名詞ですよ、本当に!」
中央政府が世界平定を成したとは言え、南海地域など、中央大陸から遠く離れたところにまでは、流石にその威光は届き辛い。中央政府に下らず、独自に国を持つ者も少なくなかった。
その一つが、レヴィア家である。元々は南海の南東部における漁師たちの網元、言い換えれば漁師ギルドの元締めだったのだが、いつの頃からか国として動くようになり、近年ではその国力を拡大しようと、活発に動き回っていた。
だがその活動はまともな政治交渉などではなく、概ね侵略と略奪によるものだった。その略奪方法と言うのが、ファンが言った通り――他者の持つ商店や鉱山などへ軍を送り込んで制圧し、「軍を撤退させる代わりにいくらかの立ち退き料を払え」とごねるのだ。
払わなければ当然奪われたままであり、払ったとしても今度は「我々の管轄下で商売するのだ。みかじめ料を払え」と要求してくる。
「もう何度この手で大金をむしりとられたか……。正直なところ、我がロックス商会の資金はそれらの支払いで、ほとんど無くなりつつあるのです。
この仕事が手に入らなければ、我々は破産です」
「ふーむ……、お話は分かりましたけど、も」
レオンは額に掌を置き、困った声を出す。
「ここでお願いして、その後レヴィアさんに奪われる可能性もありますよね? そうなったらどうしはるつもりですか?」
「……我々も、いつまでも奪われたままではいられません。レヴィア王国に侵略された地域の長たちと結託し、こちらも軍を整えつつあります。
その活動資金を得るためにも、この仕事はどうしても……」「なお悪いですわ、条件が」
ファンの話を聞くにつれ、レオンの顔色は悪くなる。
「そんなん、蹴散らされたら仕舞いやないですか。しかも軍と軍ぶつけて戦争するっちゅうたら、長引けば長引いた分だけ、大損しますんやで。
負けても大損、勝っても大損。どこ見ても、大損だらけやないですか。
ホンマに悪いんですけど、帰ってください。利益の出えへんところに、手は貸せませんのんや」
「そこを何とか……!」
レオンとファンとの押し問答は、日が暮れるまで続いた。
そして家族が夕食をとり終える頃になって――。
「……はぁ。分かりました」
レオンの方が根負けした。
「ほな、ホンマにその条件でええんですな?」
「……はい。背に腹は、変えられません」
レオンが折れたとは言え、ファンの方もかなり身を削っていた。
採掘権を得る代わりに3年間、上納金として採掘した貴金属の50%をゴールドマン商会に送り、また、それとは別に毎年利益の20%を上納(3年が経過した後も支払う)、さらにゴールドマン商会からは何の援助も行わないと言う、ゴールドマン側にとってはほとんど何の損害も負わない好条件を――最悪でも、いつか採掘を開始しようと思っていた島を奪われる程度である――ファンから提示され、「そこまで言うなら……」と承諾したのである。
「でもそこまでして、利益は出るんですか? 成果物の7割は相当苦しいと思うんですが……」
「私共にとっては、これ以外に道は無いのです。この仕事を得られなければ、その先は無い。その決意の上です」
「……まあ、30%だけでも、あの島の産出量やったら、そこそこの稼ぎにはなりますやろしな。この条件やったら、ウチも損は出ませんし。
ほんなら、頑張ってください」
「はい! このご恩は忘れません!」
ファンは平身低頭し、レオンに感謝した。
フォコがクラフトランドからカレイドマインに戻ってきて数週間が経った、双月暦299年の秋から、翌年冬にかけて。
ゴールドマン家の邸宅に三人の商人が、それぞれ別々の時期に訪れていた。
一人目は、南海地域に住む兎獣人の小男。名前をファン・ロックスと言う。
南海各島を渡って鉱物の採掘を生業にしている、レオンの同業者である。
「私に任せてください!」
「ま、まあ。落ち着いてください」
いきなり自分の執務室に飛び込んできたファンに、レオンは面食らった。
そもそもの発端は、ゴールドマン商会が中央政府から得た南海の一島、キルク島の開発計画が持ち上がったことにある。
南海諸島は鉱産資源に恵まれており、この島も銀を初めとする豊富な貴金属の鉱床があることが、最近になって判明していた。
しかしゴールドマン商会所有とは言え、金火狐一族の本拠地である央中と南海は遠く離れており、レオンが一々指示を出し、視察する方式を取っていては非常にコストがかかる。そこでレオンは現地の者に指揮を執らせ、採掘を委託しようとしていたのだ。
ところがその募集をかける前に、ファンの方から足を運び、「自分に掘らせてほしい」と直談判してきたのである。
「まあ、誰か探そうかなとは、思うとりましたけど……。
でもこう言うのんは普通、他の業者さんとの話し合いちゅうか、入札ちゅうか、そう言う事前の段取りがありますやろ?」
レオンは戸惑いながらも、セオリーを無視して飛び込んできたファンを諭そうとした。
「それは確かに、慣例ならその通りです。しかしですね」
だが、ファンは退かない。
「総帥もご存知でしょう、最近の南海の事情を。横槍の多いこと、多いこと!」
「横槍ちゅうと……、ああ。レヴィア王国さんですか」
「その通りです」
ファンは悔しそうな顔をしながら、話を続ける。
「彼らはあんまりにも暴力的です! これまでに何度も、私の所有する鉱山やら漁場やらを無理矢理に乗り込み、居座られ、挙句の果てに二束三文で奪い取る!
ならず者国家の代名詞ですよ、本当に!」
中央政府が世界平定を成したとは言え、南海地域など、中央大陸から遠く離れたところにまでは、流石にその威光は届き辛い。中央政府に下らず、独自に国を持つ者も少なくなかった。
その一つが、レヴィア家である。元々は南海の南東部における漁師たちの網元、言い換えれば漁師ギルドの元締めだったのだが、いつの頃からか国として動くようになり、近年ではその国力を拡大しようと、活発に動き回っていた。
だがその活動はまともな政治交渉などではなく、概ね侵略と略奪によるものだった。その略奪方法と言うのが、ファンが言った通り――他者の持つ商店や鉱山などへ軍を送り込んで制圧し、「軍を撤退させる代わりにいくらかの立ち退き料を払え」とごねるのだ。
払わなければ当然奪われたままであり、払ったとしても今度は「我々の管轄下で商売するのだ。みかじめ料を払え」と要求してくる。
「もう何度この手で大金をむしりとられたか……。正直なところ、我がロックス商会の資金はそれらの支払いで、ほとんど無くなりつつあるのです。
この仕事が手に入らなければ、我々は破産です」
「ふーむ……、お話は分かりましたけど、も」
レオンは額に掌を置き、困った声を出す。
「ここでお願いして、その後レヴィアさんに奪われる可能性もありますよね? そうなったらどうしはるつもりですか?」
「……我々も、いつまでも奪われたままではいられません。レヴィア王国に侵略された地域の長たちと結託し、こちらも軍を整えつつあります。
その活動資金を得るためにも、この仕事はどうしても……」「なお悪いですわ、条件が」
ファンの話を聞くにつれ、レオンの顔色は悪くなる。
「そんなん、蹴散らされたら仕舞いやないですか。しかも軍と軍ぶつけて戦争するっちゅうたら、長引けば長引いた分だけ、大損しますんやで。
負けても大損、勝っても大損。どこ見ても、大損だらけやないですか。
ホンマに悪いんですけど、帰ってください。利益の出えへんところに、手は貸せませんのんや」
「そこを何とか……!」
レオンとファンとの押し問答は、日が暮れるまで続いた。
そして家族が夕食をとり終える頃になって――。
「……はぁ。分かりました」
レオンの方が根負けした。
「ほな、ホンマにその条件でええんですな?」
「……はい。背に腹は、変えられません」
レオンが折れたとは言え、ファンの方もかなり身を削っていた。
採掘権を得る代わりに3年間、上納金として採掘した貴金属の50%をゴールドマン商会に送り、また、それとは別に毎年利益の20%を上納(3年が経過した後も支払う)、さらにゴールドマン商会からは何の援助も行わないと言う、ゴールドマン側にとってはほとんど何の損害も負わない好条件を――最悪でも、いつか採掘を開始しようと思っていた島を奪われる程度である――ファンから提示され、「そこまで言うなら……」と承諾したのである。
「でもそこまでして、利益は出るんですか? 成果物の7割は相当苦しいと思うんですが……」
「私共にとっては、これ以外に道は無いのです。この仕事を得られなければ、その先は無い。その決意の上です」
「……まあ、30%だけでも、あの島の産出量やったら、そこそこの稼ぎにはなりますやろしな。この条件やったら、ウチも損は出ませんし。
ほんなら、頑張ってください」
「はい! このご恩は忘れません!」
ファンは平身低頭し、レオンに感謝した。



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