「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・三商記 2
フォコの話、18話目。
人のいい兎おっさん。
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人のいい兎おっさん。
2.
わざわざ遠くから自分を頼ってやって来た人間を、商談が終わった途端に「ほな頑張ってや」と突き放すのも、レオンとしては気分のいいものではない。
「まあ、これからの発展を願ってっちゅうか、励まし的なもんやと思って」
「あ、ありがとうございます」
そこで商談を終えた次の日、レオンは自分の家族を交えた朝食にファンを誘った。
「さ、さ、遠慮せんと食べてください」
「は、はい。それでは、いただきます」
ファンはコチコチに緊張した面持ちで、そろそろと目玉焼きにフォークを伸ばした。
と、その様子を見ていたフォコは、ぷっと吹き出した。
「……クス」
「え? えっ?」
子供に笑われ、ファンは目を白黒させる。そこでイデアが、フォコをたしなめた。
「こら、フォコ。お客さんに失礼でしょう?」
「あ、ごめんなさい。……ただ、ご飯食べるのんにそんなに怖い顔せんでもと思ったんです」
息子の言葉に、レオンも表情を崩した。
「はは、確かにフォコの言う通りやな。
ロックスさん、もっと気楽に食べてください。ご飯は楽しく食べなあきません」
「は、はい」
朝食の後、フォコはファンに、しきりに声をかけていた。兎獣人と言う人種は、中央大陸ではかなり珍しい部類に入るからである。
「なあなあ、ロックスさん」
「はい、なんでしょう?」
「耳、触ってもええ?」
「えっ」
フォコにそうお願いされ、ファンは困ったような顔をする。
「あ、アカンかったらええんです。その、ちょっとフカフカしてそうやなと思て」
「い、いえいえ。……えー、はい、どうぞ」
ファンはうろたえつつも、耳を触らせやすいように膝を屈めた。
「……ん、……うん」
が、いざ触ってみるとゴワゴワとした、硬い感触が返ってくる。
「あんまり見た目通りじゃないみたいで。すみません、お坊ちゃん」
「あ、そんな。僕のわがままに付き合ってもろたのに、すみません」
ペコペコと頭を下げあう二人を見て、イデアが吹き出した。
「クスっ、……でもフォコの気持ちも分かりますね。わたしも『兎』の方は、いるとは聞いたことがありましたが、実際に目にするのは初めてですもの」
それを聞いて、ファンは小さくうなずく。
「そうらしいようで。私もこちらをお訪ねするまで、狐獣人の方にお目見えしたことはありませんでした。奥方さまのような短耳の方は、そこそこお見かけしたことはありますが」
「そうなんですか。
……そうだ。ねえ、ロックスさん。良ければわたしとフォコに、南海のお話を聞かせてくれませんか?」
「南海のお話、……ですか?」
ファンは兎耳をポリポリかきながら、たどたどしく語り始めた。
「ああ、その、まあ……、海ばかりの場所です。こちらも湖や川など、水場の多いところですけども、南海の方はそれよりも、当然多くの水に囲まれておりますね。ただ、海水ですから飲めません。洗濯にも使えませんし、冶金や鍛冶になんてもっと駄目。錆びてしまいます。
まあでも、その分ですね、魚なんかは非常に美味しいです。私の家も、ちょっと歩けばすぐ海岸に着くくらいのところに建ってるんですけれども、暇が空いたらすぐ海の方に行って、釣りなんかしてみるんですね。
で、割と釣れたりしまして。家に持って帰ると、女房や子供たちはみんな喜んでくれますね」
「お子さん、いらっしゃるんですね。いくつくらいなの?」
子供のことを聞かれ、ファンは次第に饒舌になってくる。
「ええ、3人おりまして。一番上が10歳、その下に8歳と5歳の子が。上が女の子です。この子は幸いと言うか、母親似でして。可愛い盛りです」
「まあ、素敵ね。会ってみたいわ」
「ええ、もしも南海にお越しになることがありましたら、是非会ってみて下さい」
話すうちに、フォコもイデアも、このファンと言う小男に好感を抱いていた。
レオンの方でも、最初は面食らっていたが、実際はとても誠実な男だと分かったのだろう。
「まあ、あんまり放りっぱなしっちゅうのんもアレやしな」
「そうね。これくらいは、してあげないと」
レオンはイデアに手を借りながら、南海に送る援助物資の見積を作っていた。
「うまく行くといいわね、ロックスさん」
「せやなぁ」
そんな風に夫婦仲良く、仕事にいそしんでいると――。
「邪魔するぞッ!」
ガラガラとした男の声が、ドア越しに響いてきた。
わざわざ遠くから自分を頼ってやって来た人間を、商談が終わった途端に「ほな頑張ってや」と突き放すのも、レオンとしては気分のいいものではない。
「まあ、これからの発展を願ってっちゅうか、励まし的なもんやと思って」
「あ、ありがとうございます」
そこで商談を終えた次の日、レオンは自分の家族を交えた朝食にファンを誘った。
「さ、さ、遠慮せんと食べてください」
「は、はい。それでは、いただきます」
ファンはコチコチに緊張した面持ちで、そろそろと目玉焼きにフォークを伸ばした。
と、その様子を見ていたフォコは、ぷっと吹き出した。
「……クス」
「え? えっ?」
子供に笑われ、ファンは目を白黒させる。そこでイデアが、フォコをたしなめた。
「こら、フォコ。お客さんに失礼でしょう?」
「あ、ごめんなさい。……ただ、ご飯食べるのんにそんなに怖い顔せんでもと思ったんです」
息子の言葉に、レオンも表情を崩した。
「はは、確かにフォコの言う通りやな。
ロックスさん、もっと気楽に食べてください。ご飯は楽しく食べなあきません」
「は、はい」
朝食の後、フォコはファンに、しきりに声をかけていた。兎獣人と言う人種は、中央大陸ではかなり珍しい部類に入るからである。
「なあなあ、ロックスさん」
「はい、なんでしょう?」
「耳、触ってもええ?」
「えっ」
フォコにそうお願いされ、ファンは困ったような顔をする。
「あ、アカンかったらええんです。その、ちょっとフカフカしてそうやなと思て」
「い、いえいえ。……えー、はい、どうぞ」
ファンはうろたえつつも、耳を触らせやすいように膝を屈めた。
「……ん、……うん」
が、いざ触ってみるとゴワゴワとした、硬い感触が返ってくる。
「あんまり見た目通りじゃないみたいで。すみません、お坊ちゃん」
「あ、そんな。僕のわがままに付き合ってもろたのに、すみません」
ペコペコと頭を下げあう二人を見て、イデアが吹き出した。
「クスっ、……でもフォコの気持ちも分かりますね。わたしも『兎』の方は、いるとは聞いたことがありましたが、実際に目にするのは初めてですもの」
それを聞いて、ファンは小さくうなずく。
「そうらしいようで。私もこちらをお訪ねするまで、狐獣人の方にお目見えしたことはありませんでした。奥方さまのような短耳の方は、そこそこお見かけしたことはありますが」
「そうなんですか。
……そうだ。ねえ、ロックスさん。良ければわたしとフォコに、南海のお話を聞かせてくれませんか?」
「南海のお話、……ですか?」
ファンは兎耳をポリポリかきながら、たどたどしく語り始めた。
「ああ、その、まあ……、海ばかりの場所です。こちらも湖や川など、水場の多いところですけども、南海の方はそれよりも、当然多くの水に囲まれておりますね。ただ、海水ですから飲めません。洗濯にも使えませんし、冶金や鍛冶になんてもっと駄目。錆びてしまいます。
まあでも、その分ですね、魚なんかは非常に美味しいです。私の家も、ちょっと歩けばすぐ海岸に着くくらいのところに建ってるんですけれども、暇が空いたらすぐ海の方に行って、釣りなんかしてみるんですね。
で、割と釣れたりしまして。家に持って帰ると、女房や子供たちはみんな喜んでくれますね」
「お子さん、いらっしゃるんですね。いくつくらいなの?」
子供のことを聞かれ、ファンは次第に饒舌になってくる。
「ええ、3人おりまして。一番上が10歳、その下に8歳と5歳の子が。上が女の子です。この子は幸いと言うか、母親似でして。可愛い盛りです」
「まあ、素敵ね。会ってみたいわ」
「ええ、もしも南海にお越しになることがありましたら、是非会ってみて下さい」
話すうちに、フォコもイデアも、このファンと言う小男に好感を抱いていた。
レオンの方でも、最初は面食らっていたが、実際はとても誠実な男だと分かったのだろう。
「まあ、あんまり放りっぱなしっちゅうのんもアレやしな」
「そうね。これくらいは、してあげないと」
レオンはイデアに手を借りながら、南海に送る援助物資の見積を作っていた。
「うまく行くといいわね、ロックスさん」
「せやなぁ」
そんな風に夫婦仲良く、仕事にいそしんでいると――。
「邪魔するぞッ!」
ガラガラとした男の声が、ドア越しに響いてきた。



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