「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・三商記 3
フォコの話、19話目。
怒鳴り込み屋。
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怒鳴り込み屋。
3.
乱暴にドアを開けて入ってきたのは背の低い、チョビヒゲを口の両端にちょんちょんと生やした、痩せた猫獣人の男だった。
「ど、どなたさん?」
目を白黒させるレオンに、その男は怒鳴りつける。
「聞いたぜ、キルク島のコトを! そりゃあねーだろーが、お!?」
「キルク島? ロックスさんのことですか?」
「そうだ! 援助一切ナシって、どう言うコトだ、ええ、おい!?」
猫獣人は吠えるように、レオンに突っかかる。
「そりゃアンタは中央の人だし、南海のコトなんかどうでもいいだろうさ! 他人任せにしといて金入ってくりゃ楽チン、程度だろうよ!」
「いや、その……、そんなつもりでは」
「じゃあどう言うつもりだ!? あんな無茶な条件、極悪もいいところだろうが!」
「えっと、あの、あなたは一体、どちらさんでっか?」
そこでようやく、男は名を名乗った。
「ああ、自己紹介が遅れたな。オレはクリオ・ジョーヌ。大海洋を股にかける大商人だ」
「ジョーヌ?」
レオンはそっと、イデアに耳打ちした。
「……て、『あの』ジョーヌやろか」
「多分そうじゃないかしら。猫獣人だし、金髪に金のネックレスに、黄色いふわっふわしたコートだし。……声も大きいし」
「……はぁ」
レオンはクリオの方に向き直り、諭すような口調で話しかけた。
「あのですね、ジョーヌさん。確かにあなたの言う通り、キルク島に関する開発の条件は、非常に厳しいものであると考えております」
「そうだろ!? だのに何で……」
「せやけども、ジョーヌさん。私もただいたずらに、条件厳しくしたわけやないんです。
あの地域での開発は非常にリスクを伴います。私共は、そのリスクに見合うだけの条件を提示さしてもろたんです」
リスク、と聞いてクリオの目がぎょろりと光る。
「リスクってアレか、レヴィア王国のコトか?」
「ええ、その通りですわ。ジョーヌさんもご存知みたいですな、南海の事情は」
「そりゃ分かってるさ。アンタの言うリスクってのは、レヴィア軍の襲撃を想定して、ってコトだろう、要は?」
「その通りです。それに対してのリスク算定の結果が、その『厳しい条件』っちゅうことなんですわ。
恐らく入札を行って、この条件を呑む方はおりませんやろしな。それなら手ぇ挙げてもろた人に、お願いした方がどれだけスムーズに済むか、っちゅうことなんですわ」
「まあ、確かにアンタの言い分は分かる。でもそれなら、オレのトコにも対抗手段はある。それも、軍を相手にしないでいいような手が」
「はぁ……。それ、つまるところは恐喝ですやろ?」
レオンは組んだ手を額に当てながら、ため息を吐いた。
「『怒鳴り込み屋』ジョーヌのうわさは、央中でもよー聞いてますわ。
南海と西方南部、央北西部の港で活躍する、ジョーヌ海運の主、クリオ・ジョーヌ。本業は水産業と輸送業、それから貿易。
でもその裏で、それらの港で入るあらゆる情報を逆手に取った恐喝と脅迫で、他の商人さんらを抑えつけて利益をぶん捕っとる、とか」
「フン、それこそ根も葉もないうわさってもんだ。オレはまともに取引してるつもりだ。
ま、そんな話はいい。ともかくだ、オレの商会が持ってるコネクションで、レヴィア王国からの横槍を入れられずに済む方法はある。
オレは南海の、他の大きな国ともコネ持ってるからな。それもレヴィアよりデカい軍事大国とだ。もし万一、レヴィアがオレの地所に押しかけてきても、『ココで暴れたら、報復するぞ』って牽制できる。
だからキルク島の話だって、オレが利権を買い付けてりゃ、もっと安全に、低リスクで取引できたんだぞ? ロックスのオッサンが泣きを見るコトなく、な」
レオンはクリオの物言いに、嫌な臭いを感じ取った。
(もしかしてジョーヌさんの狙い、利権がどうのやなくて、『ゴールドマン商会はロックス商会を脅した』って吹聴することやろか……?)
下手なうわさを流されては、ゴールドマン商会の信用に傷が付くことになる。レオンは牽制の念を込め、反論した。
「……せやかてね、ロックスさんもこの取引がうまくまとまらへんかったら破産や言うてましたんやで。それをアンタが横取りみたいなことしたら、ロックスさんもホンマに一家心中してしまいますわ。
念押ししときますけども、さっきの条件はロックスさんから提案したもんなんですわ。ロックスさんの方から、お願いしますて言うてきはったんですわ。そこ、勘違いせんといてくださいね」
「あーあー、分かってるさ。お優しいコトで。本当にお優しい大商人サマだ。
頼み込んだら何でもくれるんだろうなぁ、採算度外視で。アンタ商人じゃなく、聖職者になったらいいんじゃないか? その方がピッタリかも知れねーなぁ。
オレも何かねだってみようか、なあゴールドマンさんよ?」
「……っ」
どう答えても、レオンが言い負かされるのは避けられそうに無かった。
「……ほんでジョーヌさん。お話はそれで終わりですか」
「ああ、そうそう。おねだりしとかなきゃ、なぁ」
クリオはニヤッ、と悪辣な笑みを浮かべた。
乱暴にドアを開けて入ってきたのは背の低い、チョビヒゲを口の両端にちょんちょんと生やした、痩せた猫獣人の男だった。
「ど、どなたさん?」
目を白黒させるレオンに、その男は怒鳴りつける。
「聞いたぜ、キルク島のコトを! そりゃあねーだろーが、お!?」
「キルク島? ロックスさんのことですか?」
「そうだ! 援助一切ナシって、どう言うコトだ、ええ、おい!?」
猫獣人は吠えるように、レオンに突っかかる。
「そりゃアンタは中央の人だし、南海のコトなんかどうでもいいだろうさ! 他人任せにしといて金入ってくりゃ楽チン、程度だろうよ!」
「いや、その……、そんなつもりでは」
「じゃあどう言うつもりだ!? あんな無茶な条件、極悪もいいところだろうが!」
「えっと、あの、あなたは一体、どちらさんでっか?」
そこでようやく、男は名を名乗った。
「ああ、自己紹介が遅れたな。オレはクリオ・ジョーヌ。大海洋を股にかける大商人だ」
「ジョーヌ?」
レオンはそっと、イデアに耳打ちした。
「……て、『あの』ジョーヌやろか」
「多分そうじゃないかしら。猫獣人だし、金髪に金のネックレスに、黄色いふわっふわしたコートだし。……声も大きいし」
「……はぁ」
レオンはクリオの方に向き直り、諭すような口調で話しかけた。
「あのですね、ジョーヌさん。確かにあなたの言う通り、キルク島に関する開発の条件は、非常に厳しいものであると考えております」
「そうだろ!? だのに何で……」
「せやけども、ジョーヌさん。私もただいたずらに、条件厳しくしたわけやないんです。
あの地域での開発は非常にリスクを伴います。私共は、そのリスクに見合うだけの条件を提示さしてもろたんです」
リスク、と聞いてクリオの目がぎょろりと光る。
「リスクってアレか、レヴィア王国のコトか?」
「ええ、その通りですわ。ジョーヌさんもご存知みたいですな、南海の事情は」
「そりゃ分かってるさ。アンタの言うリスクってのは、レヴィア軍の襲撃を想定して、ってコトだろう、要は?」
「その通りです。それに対してのリスク算定の結果が、その『厳しい条件』っちゅうことなんですわ。
恐らく入札を行って、この条件を呑む方はおりませんやろしな。それなら手ぇ挙げてもろた人に、お願いした方がどれだけスムーズに済むか、っちゅうことなんですわ」
「まあ、確かにアンタの言い分は分かる。でもそれなら、オレのトコにも対抗手段はある。それも、軍を相手にしないでいいような手が」
「はぁ……。それ、つまるところは恐喝ですやろ?」
レオンは組んだ手を額に当てながら、ため息を吐いた。
「『怒鳴り込み屋』ジョーヌのうわさは、央中でもよー聞いてますわ。
南海と西方南部、央北西部の港で活躍する、ジョーヌ海運の主、クリオ・ジョーヌ。本業は水産業と輸送業、それから貿易。
でもその裏で、それらの港で入るあらゆる情報を逆手に取った恐喝と脅迫で、他の商人さんらを抑えつけて利益をぶん捕っとる、とか」
「フン、それこそ根も葉もないうわさってもんだ。オレはまともに取引してるつもりだ。
ま、そんな話はいい。ともかくだ、オレの商会が持ってるコネクションで、レヴィア王国からの横槍を入れられずに済む方法はある。
オレは南海の、他の大きな国ともコネ持ってるからな。それもレヴィアよりデカい軍事大国とだ。もし万一、レヴィアがオレの地所に押しかけてきても、『ココで暴れたら、報復するぞ』って牽制できる。
だからキルク島の話だって、オレが利権を買い付けてりゃ、もっと安全に、低リスクで取引できたんだぞ? ロックスのオッサンが泣きを見るコトなく、な」
レオンはクリオの物言いに、嫌な臭いを感じ取った。
(もしかしてジョーヌさんの狙い、利権がどうのやなくて、『ゴールドマン商会はロックス商会を脅した』って吹聴することやろか……?)
下手なうわさを流されては、ゴールドマン商会の信用に傷が付くことになる。レオンは牽制の念を込め、反論した。
「……せやかてね、ロックスさんもこの取引がうまくまとまらへんかったら破産や言うてましたんやで。それをアンタが横取りみたいなことしたら、ロックスさんもホンマに一家心中してしまいますわ。
念押ししときますけども、さっきの条件はロックスさんから提案したもんなんですわ。ロックスさんの方から、お願いしますて言うてきはったんですわ。そこ、勘違いせんといてくださいね」
「あーあー、分かってるさ。お優しいコトで。本当にお優しい大商人サマだ。
頼み込んだら何でもくれるんだろうなぁ、採算度外視で。アンタ商人じゃなく、聖職者になったらいいんじゃないか? その方がピッタリかも知れねーなぁ。
オレも何かねだってみようか、なあゴールドマンさんよ?」
「……っ」
どう答えても、レオンが言い負かされるのは避けられそうに無かった。
「……ほんでジョーヌさん。お話はそれで終わりですか」
「ああ、そうそう。おねだりしとかなきゃ、なぁ」
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