「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・三商記 4
フォコの話、20話目。
良妻賢母、イデア。
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良妻賢母、イデア。
4.
と――ここでイデアが攻勢に出た。
「おねだり、ですか」
「ああ、そうさ。アンタの旦那さん、頼み込んだら何でもくれるらしいし……」「どうぞ」「……あ?」
さらりと答えられ、クリオは虚を突かれたような顔をする。
「ねえあなた、北方の土地も開発利権を得ていたでしょう? ブラックスワンプとか、その辺りを開発してもらってはどうかしら?」
「……ふ、あはは。それもええですね」
「条件は、そうね……、ロックスさんと同じ、毎年生産物の70%を現金で、と言うのは? これでいいですね、ジョーヌさん」
「いいワケねーだろ!? 誰がいるか、んなもん!」
ちなみにイデアが提示した土地は、一年を通して凍りついた沼地である。生産物はせいぜい氷の下を泳ぐワカサギ程度の、ほとんど何も産出しない場所なのだ。
「あら。頼み込んだら何でも、と言ったのはあなたでしょう? 遠慮せずにどうぞ」
「いるか、そんなクズ土地ッ! こっちが下手に出てりゃ……!」
「そう言うことです。確かに頼み込んできたら、私共は何かしらの提供を行うでしょう。
しかしそれは結局、私共にとって都合のいい話。私共にとって都合のいい条件でしか、交渉に応じないと言うことです。
滅多やたらに頼み込まれたところで、私共にとっては不良物件の厄介払いができる機会ができた程度にしか捉えておりません。
ご納得いただけたらどうぞ、お引き取りください」
「……舐めやがって。言いふらすぞ、あるコトないコト」
「どうぞ、ご勝手に。多少のうわさなど、私たちゴールドマン商会にとっては『宣伝』にしかなりませんので」
「……チッ」
完全に勢いを削がれたらしく、クリオは肩を怒らせ、屋敷を後にした。
「はは……、助かりました、イデア」
「いえいえ」
イデアはにっこりと、夫に笑いかけた。
元々、レオンはそれほど優秀な商人ではなかった。
商会当主の座を継いだのも、親類の「先代の長男だし、他に適当な人物もいないから、とりあえず」と言う意見が多数だったからであり、才能によるものではなかった。
この当時既に、ゴールドマン商会の経営基盤は金が金を生み続ける磐石なものになっており、誰が当主を継いでも特に大きな変化は無い、と考えられていた。その莫大な資産も彼ら一族の共有物であり、当主の座に就かずとも自由に使うことができた。
そんな状態だったため、当主の座は「ゴールドマン一族の長」と言うよりも、「一族内外の面倒事を処理する役」として扱われており、言わばレオンは面倒を押し付けられていたのだ。
とは言え、一族の外の者から見ればこの役目は、間違いなく商会トップの座であり、中央大陸と中央政府に関わる商人たちからは、羨望の眼差しを受ける地位にあった。
拡大解釈して考えれば、イデアがレオンと結婚したのも、その羨望からだった。当主となったレオンの、あまりパッとしない、凡庸な働きぶりを見ていて、財務院にいた彼女が「自分ならこうする」といくつか意見をぶつけたのが、付き合うきっかけとなった。
そのうちに、「この人には自分が必要だ」と感じるようになり、また、レオンの方も「必要な存在だ」と感じ、結婚に至ったのだ。
今ではレオンの秘書兼、片腕として、イデアは活躍していた。
「……じゃ、ロックスさんへの援助はこのくらいね」
「そうですな」
クリオが帰った後、二人は滞りなく南海への援助算定を終えた。
「ふう……、助かりました、イデア」
「いえいえ」
「ホンマにもう、ジョーヌさんにヘコまされた時は、どないしようか思いましたわ」
「……クスっ」
夫が肩をすくめるのを見て、イデアは吹き出した。
「大丈夫よ、わたしが付いてるから」
「ええ。……これからもよろしゅう、イデア」
「はい、はい」
と――ここでイデアが攻勢に出た。
「おねだり、ですか」
「ああ、そうさ。アンタの旦那さん、頼み込んだら何でもくれるらしいし……」「どうぞ」「……あ?」
さらりと答えられ、クリオは虚を突かれたような顔をする。
「ねえあなた、北方の土地も開発利権を得ていたでしょう? ブラックスワンプとか、その辺りを開発してもらってはどうかしら?」
「……ふ、あはは。それもええですね」
「条件は、そうね……、ロックスさんと同じ、毎年生産物の70%を現金で、と言うのは? これでいいですね、ジョーヌさん」
「いいワケねーだろ!? 誰がいるか、んなもん!」
ちなみにイデアが提示した土地は、一年を通して凍りついた沼地である。生産物はせいぜい氷の下を泳ぐワカサギ程度の、ほとんど何も産出しない場所なのだ。
「あら。頼み込んだら何でも、と言ったのはあなたでしょう? 遠慮せずにどうぞ」
「いるか、そんなクズ土地ッ! こっちが下手に出てりゃ……!」
「そう言うことです。確かに頼み込んできたら、私共は何かしらの提供を行うでしょう。
しかしそれは結局、私共にとって都合のいい話。私共にとって都合のいい条件でしか、交渉に応じないと言うことです。
滅多やたらに頼み込まれたところで、私共にとっては不良物件の厄介払いができる機会ができた程度にしか捉えておりません。
ご納得いただけたらどうぞ、お引き取りください」
「……舐めやがって。言いふらすぞ、あるコトないコト」
「どうぞ、ご勝手に。多少のうわさなど、私たちゴールドマン商会にとっては『宣伝』にしかなりませんので」
「……チッ」
完全に勢いを削がれたらしく、クリオは肩を怒らせ、屋敷を後にした。
「はは……、助かりました、イデア」
「いえいえ」
イデアはにっこりと、夫に笑いかけた。
元々、レオンはそれほど優秀な商人ではなかった。
商会当主の座を継いだのも、親類の「先代の長男だし、他に適当な人物もいないから、とりあえず」と言う意見が多数だったからであり、才能によるものではなかった。
この当時既に、ゴールドマン商会の経営基盤は金が金を生み続ける磐石なものになっており、誰が当主を継いでも特に大きな変化は無い、と考えられていた。その莫大な資産も彼ら一族の共有物であり、当主の座に就かずとも自由に使うことができた。
そんな状態だったため、当主の座は「ゴールドマン一族の長」と言うよりも、「一族内外の面倒事を処理する役」として扱われており、言わばレオンは面倒を押し付けられていたのだ。
とは言え、一族の外の者から見ればこの役目は、間違いなく商会トップの座であり、中央大陸と中央政府に関わる商人たちからは、羨望の眼差しを受ける地位にあった。
拡大解釈して考えれば、イデアがレオンと結婚したのも、その羨望からだった。当主となったレオンの、あまりパッとしない、凡庸な働きぶりを見ていて、財務院にいた彼女が「自分ならこうする」といくつか意見をぶつけたのが、付き合うきっかけとなった。
そのうちに、「この人には自分が必要だ」と感じるようになり、また、レオンの方も「必要な存在だ」と感じ、結婚に至ったのだ。
今ではレオンの秘書兼、片腕として、イデアは活躍していた。
「……じゃ、ロックスさんへの援助はこのくらいね」
「そうですな」
クリオが帰った後、二人は滞りなく南海への援助算定を終えた。
「ふう……、助かりました、イデア」
「いえいえ」
「ホンマにもう、ジョーヌさんにヘコまされた時は、どないしようか思いましたわ」
「……クスっ」
夫が肩をすくめるのを見て、イデアは吹き出した。
「大丈夫よ、わたしが付いてるから」
「ええ。……これからもよろしゅう、イデア」
「はい、はい」



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NoTitle
理想の結婚と言えば理想の結婚なのですかね。
互いが互いを必要とする。
そういうのは家族の在り方として正しいものですね。
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
良妻賢母~~。
互いが互いを必要とする。
そういうのは家族の在り方として正しいものですね。
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
良妻賢母~~。
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