「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・三商記 5
フォコの話、21話目。
怪しげな入り婿。
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怪しげな入り婿。
5.
そして冬――299年の末。
「初めまして、レオンさん」
レオンの前に、レオンの妹であるリンダと、身なりの良い服を着た眼鏡の、短耳の青年が立っていた。
「初めまして。……ええと、央北の方ですか?」
「はい。サウスボックスと言う街で、商いを」
「ほうほう」
その青年は、終始ニコニコとレオンに笑いかけていた。
この青年とリンダが来年初めに結婚することが決まったのだ。彼はこの日、一族当主であり、義兄となるレオンへの挨拶に来ていた。
「えーと、えんてる……」「エンターゲートです」「ああ、失礼。エンターゲートさんでしたね。主にどんな商売を?」
青年はつい、と眼鏡を直し、依然にっこりと笑う。
「中央政府軍へ、武器と食糧などの、いわゆる軍事物資を卸売しています。大きい取引先なので一件一件は大きな稼ぎになりますが、競争も多い業界ですね」
「それはそれは……。おいくつでしたっけ」
「来年で35です。このまま独身かなと、多少諦めていたんですが」
青年ははにかみながら、横にいるリンダに笑いかけた。
「本当にありがとうね、リンダ」
「うふふっ」
レオンは二人の様子を見て、青年と同様に微笑んだ。
「うんうん、お似合いですな。
どうか幸せにしたってくださいな、ケネスさん」
「ええ、勿論」
青年――ケネス・エンターゲート氏は、深々と頭を下げた。
傍目には、とても喜ばしいニュースであった。レオンもリンダも、他の金火狐一族も皆、これを明るいニュースだと捉えていた。
しかし――。
「不安ね」
そう言ったのは、イデアである。
「不安? エンターゲートさんに、何か変なとこでも?」
「変な、と言うよりも、怪しいのよ。
彼もノイマン塾の出身だったはずだけど、先輩のわたしがこっちに嫁いでるって、知ってたはずよ。でも彼、そのことについて触れてこないのよね。
それに彼、中央政府相手に商売してたって言ってたけど、わたしが財務院に勤めてた間に会ったことも、一度も無いのよ」
「それは……、流石に10年以上前の話やし、結婚した後に取引が始まったんやないですか?」
「とすると、余計におかしいのよ」
「へ?」
イデアは長い髪を指先にクルクル巻きつけながら、気になる点を挙げる。
「中央政府との取引って、大口のところは老舗ばかりよ? ウチとかネールさんとか。
それなのに、ここ10年ちょっとの間に起業した彼が、いきなり軍事物資の供給なんて言う、政府の中核へつながる大きな商売ができるなんて」
「うーん……、ノイマン塾生やったら、そんくらいはできはるんとちゃいますか? 優等生揃いなんやし」
「そこもおかしな点の一つ。
彼、そんなに成績良くなかったはずなのよ。わたしとは2年くらい一緒に講義を受けてたけど、成績は中の下くらい、ギリギリついていけてる程度だったわ。
まるで別人よ、彼は」
「ふうん……?」
どうしても気になったため、イデアはリンダの部屋に泊まっていたケネスを、直接訪ねてみることにした。
「久しぶりね、ケネス」
イデアが親しげに挨拶すると、ケネスは一瞬言いよどんだ。
「あ、……ええ、どうも、お久しぶりです」
「どうしはったんです、義姉さん?」
きょとんとするリンダに、イデアは手を合わせる。
「ごめん、リンダ。少しだけ、二人で話させて」
「え? ……まあ、はい」
リンダは首をひねりつつも、部屋を出て行った。
二人きりになったところで、イデアは本題を切り出した。
「あなた、誰?」
「えっ?」
ケネスの目が一瞬泳ぐが、すぐにわけが分からない、と言いたげな表情を作った。
「誰って、ケネスです。ケネス・エンターゲート」
「じゃあわたしとどこで会ったか、覚えてるわよね?」
「も、勿論。ええと、あの……、央北で」
「そう、央北の……」
イデアはここで、嘘をついてみた。
「……文化院で会ったわよね? ほら、魔術書を買い付けた時の」
イデアはここでボロを出すかと、相手の出方を伺った。
「えっ?」
しかし、ケネスの反応は期待したものではなかった。
「勘違い……、されてますか?」
「え、……そう、だったかしら」
逆に、相手の方が怪しむ素振りを見せてきた。
「ええ。確か、財務院で会ったような、……あ!」
と、ケネスは突然大きな声を挙げた。
「イデア! そう、イデアさんじゃないですか! ノイマン塾の先輩だった!」
「え、え」
「いやぁ、すみません本当に! すっかり忘れてました!」
そう言ってケネスは、軽く頭を下げた。
「そうそう、どこかで見たなと思ってたんです! 懐かしいですね、本当!」
「そう、ね。ええ、思い出してくれて良かったわ」
イデアは困惑しながらも、自分の予感が間違っていたと感じた。
(やっぱり……、本人、なの? わたしの勘違い、だった、……みたいね)
その後も二言三言交わしたが、偽者らしい反応は見られなかった。
そして冬――299年の末。
「初めまして、レオンさん」
レオンの前に、レオンの妹であるリンダと、身なりの良い服を着た眼鏡の、短耳の青年が立っていた。
「初めまして。……ええと、央北の方ですか?」
「はい。サウスボックスと言う街で、商いを」
「ほうほう」
その青年は、終始ニコニコとレオンに笑いかけていた。
この青年とリンダが来年初めに結婚することが決まったのだ。彼はこの日、一族当主であり、義兄となるレオンへの挨拶に来ていた。
「えーと、えんてる……」「エンターゲートです」「ああ、失礼。エンターゲートさんでしたね。主にどんな商売を?」
青年はつい、と眼鏡を直し、依然にっこりと笑う。
「中央政府軍へ、武器と食糧などの、いわゆる軍事物資を卸売しています。大きい取引先なので一件一件は大きな稼ぎになりますが、競争も多い業界ですね」
「それはそれは……。おいくつでしたっけ」
「来年で35です。このまま独身かなと、多少諦めていたんですが」
青年ははにかみながら、横にいるリンダに笑いかけた。
「本当にありがとうね、リンダ」
「うふふっ」
レオンは二人の様子を見て、青年と同様に微笑んだ。
「うんうん、お似合いですな。
どうか幸せにしたってくださいな、ケネスさん」
「ええ、勿論」
青年――ケネス・エンターゲート氏は、深々と頭を下げた。
傍目には、とても喜ばしいニュースであった。レオンもリンダも、他の金火狐一族も皆、これを明るいニュースだと捉えていた。
しかし――。
「不安ね」
そう言ったのは、イデアである。
「不安? エンターゲートさんに、何か変なとこでも?」
「変な、と言うよりも、怪しいのよ。
彼もノイマン塾の出身だったはずだけど、先輩のわたしがこっちに嫁いでるって、知ってたはずよ。でも彼、そのことについて触れてこないのよね。
それに彼、中央政府相手に商売してたって言ってたけど、わたしが財務院に勤めてた間に会ったことも、一度も無いのよ」
「それは……、流石に10年以上前の話やし、結婚した後に取引が始まったんやないですか?」
「とすると、余計におかしいのよ」
「へ?」
イデアは長い髪を指先にクルクル巻きつけながら、気になる点を挙げる。
「中央政府との取引って、大口のところは老舗ばかりよ? ウチとかネールさんとか。
それなのに、ここ10年ちょっとの間に起業した彼が、いきなり軍事物資の供給なんて言う、政府の中核へつながる大きな商売ができるなんて」
「うーん……、ノイマン塾生やったら、そんくらいはできはるんとちゃいますか? 優等生揃いなんやし」
「そこもおかしな点の一つ。
彼、そんなに成績良くなかったはずなのよ。わたしとは2年くらい一緒に講義を受けてたけど、成績は中の下くらい、ギリギリついていけてる程度だったわ。
まるで別人よ、彼は」
「ふうん……?」
どうしても気になったため、イデアはリンダの部屋に泊まっていたケネスを、直接訪ねてみることにした。
「久しぶりね、ケネス」
イデアが親しげに挨拶すると、ケネスは一瞬言いよどんだ。
「あ、……ええ、どうも、お久しぶりです」
「どうしはったんです、義姉さん?」
きょとんとするリンダに、イデアは手を合わせる。
「ごめん、リンダ。少しだけ、二人で話させて」
「え? ……まあ、はい」
リンダは首をひねりつつも、部屋を出て行った。
二人きりになったところで、イデアは本題を切り出した。
「あなた、誰?」
「えっ?」
ケネスの目が一瞬泳ぐが、すぐにわけが分からない、と言いたげな表情を作った。
「誰って、ケネスです。ケネス・エンターゲート」
「じゃあわたしとどこで会ったか、覚えてるわよね?」
「も、勿論。ええと、あの……、央北で」
「そう、央北の……」
イデアはここで、嘘をついてみた。
「……文化院で会ったわよね? ほら、魔術書を買い付けた時の」
イデアはここでボロを出すかと、相手の出方を伺った。
「えっ?」
しかし、ケネスの反応は期待したものではなかった。
「勘違い……、されてますか?」
「え、……そう、だったかしら」
逆に、相手の方が怪しむ素振りを見せてきた。
「ええ。確か、財務院で会ったような、……あ!」
と、ケネスは突然大きな声を挙げた。
「イデア! そう、イデアさんじゃないですか! ノイマン塾の先輩だった!」
「え、え」
「いやぁ、すみません本当に! すっかり忘れてました!」
そう言ってケネスは、軽く頭を下げた。
「そうそう、どこかで見たなと思ってたんです! 懐かしいですね、本当!」
「そう、ね。ええ、思い出してくれて良かったわ」
イデアは困惑しながらも、自分の予感が間違っていたと感じた。
(やっぱり……、本人、なの? わたしの勘違い、だった、……みたいね)
その後も二言三言交わしたが、偽者らしい反応は見られなかった。



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NoTitle
というか、リンダはこれが初婚なわけで。
相手はケネスだけですから、「寝取られ」じゃないですね。