「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・三商記 6
フォコの話、22話目。
好青年の本業。
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好青年の本業。
6.
イデアの心配をよそに、ケネスとリンダの結婚式は双月暦300年の1月末、滞りなく行われた。
「おめでとう、お二人さん!」
「お幸せに!」
豪商・ゴールドマン家らしく、結婚式は豪華なものだった。
式場には金火狐一族は勿論、ネール家など央中の有力な商家、王家ゆかりの者が集まった。
「よう、レオン」
「あ、ルピアさん。どうもこの度は、ご足労いただきまして」
式が済み、酒宴が催されたところで、ルピアがレオンの元にやってきた。
「いやいやこちらこそ、こんなめでたい式に呼んでもらって。
……しかし面白い偶然だな。兄妹揃って、短耳を伴侶にするとは。お二人みたいに、幸せな家庭が築けるといいが」
「ええ、そう祈っとりますわ。まあ、でも。リンダはちょっと世間知らずでおっとりしとるとこがありましたからな。ケネスさんみたいな、しっかりした方がお婿さんやったら、安心ですわ」
「……ああ、そうだな」
レオンと共にいたイデアは、ルピアが一瞬言いよどんだことに気付いた。
「ねえ、ルピアさん」
「うん?」
「ケネス、……さんのこと、何かご存知?」
「え? 何でまた私に、そんなことを?」
「……いえ」
しゅんとなるイデアを見て、ルピアは辺りを伺いながら、夫妻だけに聞こえるくらいの小声で耳打ちした。
「いや、ほら。私のところも、中央政府に武器なんかを卸してるところだからさ。エンターゲート製造とはバッティングすることも多くてな。
言い方は悪いが、商売敵な面もあるんだ。だからちょっと、印象はその、アレなんだ」
「ああ、なるほど。……いや、でも。これからは仲良うできるかも知れませんな」
「ん? と言うと?」
「ほら、ネールさんとことウチは仲いい方ですし、エンターゲートさんと親戚づきあいになれば、そのつながりで仲良うなるかも、ですやろ?」
レオンの言葉に、ルピアは「うーん……」とうなりつつ、腕を組んだ。
「そうなれば、いいが」
「……ふぅ」
式を終えた夜。
ケネスは一人、ベッドから抜け出した。
(第二段階終了、か)
カーテンを空け、夜空を見る。空には白い月と赤い月が、どちらも細く下弦に並んでいる。
(多少怪しまれはしたが、うまく潜り込めた)
ガウンを羽織り、ベランダへと出る。
(当主夫人、……イデア・リンゴットに追求された時は、流石に焦った。思わず適当に受け答えしそうになったからな。私の悪い癖だ。
だが私の方が、嘘は上手だ。……引っ掛けようとした時、彼女の語調によどみが出た。それで嘘だと分かった。……ククク、私を引っ掛けようだなんて、そうは行かない。
そう、私は嘘を生業にする男――詐欺師さ。私は誰よりも……)
「あなた?」
背後から声がかけられる。
ケネスは笑顔を作り、くるりと振り向く。
「どうしたんだい、リンダ?」
「こっちの台詞やん。どないしはったん?」
「いや、外の空気が吸いたくなったんだ。そろそろ戻ろうと思ってた」
「そうですか。……くしゅっ」
小さくくしゃみをしたリンダの肩を、ケネスは優しく抱きかかえた。
「外は寒いよ。風邪を引かないうちに、早く中にお入り」
「ええ、はい」
ケネスはにっこりと、温かい笑顔を作りながら――。
「君に何かあったら、心配でたまらなくなる」
「あなた……」
心の中で、こうつぶやいた。
(私は誰よりも、うまく嘘がつけるのさ)
火紅狐・三商記 終
イデアの心配をよそに、ケネスとリンダの結婚式は双月暦300年の1月末、滞りなく行われた。
「おめでとう、お二人さん!」
「お幸せに!」
豪商・ゴールドマン家らしく、結婚式は豪華なものだった。
式場には金火狐一族は勿論、ネール家など央中の有力な商家、王家ゆかりの者が集まった。
「よう、レオン」
「あ、ルピアさん。どうもこの度は、ご足労いただきまして」
式が済み、酒宴が催されたところで、ルピアがレオンの元にやってきた。
「いやいやこちらこそ、こんなめでたい式に呼んでもらって。
……しかし面白い偶然だな。兄妹揃って、短耳を伴侶にするとは。お二人みたいに、幸せな家庭が築けるといいが」
「ええ、そう祈っとりますわ。まあ、でも。リンダはちょっと世間知らずでおっとりしとるとこがありましたからな。ケネスさんみたいな、しっかりした方がお婿さんやったら、安心ですわ」
「……ああ、そうだな」
レオンと共にいたイデアは、ルピアが一瞬言いよどんだことに気付いた。
「ねえ、ルピアさん」
「うん?」
「ケネス、……さんのこと、何かご存知?」
「え? 何でまた私に、そんなことを?」
「……いえ」
しゅんとなるイデアを見て、ルピアは辺りを伺いながら、夫妻だけに聞こえるくらいの小声で耳打ちした。
「いや、ほら。私のところも、中央政府に武器なんかを卸してるところだからさ。エンターゲート製造とはバッティングすることも多くてな。
言い方は悪いが、商売敵な面もあるんだ。だからちょっと、印象はその、アレなんだ」
「ああ、なるほど。……いや、でも。これからは仲良うできるかも知れませんな」
「ん? と言うと?」
「ほら、ネールさんとことウチは仲いい方ですし、エンターゲートさんと親戚づきあいになれば、そのつながりで仲良うなるかも、ですやろ?」
レオンの言葉に、ルピアは「うーん……」とうなりつつ、腕を組んだ。
「そうなれば、いいが」
「……ふぅ」
式を終えた夜。
ケネスは一人、ベッドから抜け出した。
(第二段階終了、か)
カーテンを空け、夜空を見る。空には白い月と赤い月が、どちらも細く下弦に並んでいる。
(多少怪しまれはしたが、うまく潜り込めた)
ガウンを羽織り、ベランダへと出る。
(当主夫人、……イデア・リンゴットに追求された時は、流石に焦った。思わず適当に受け答えしそうになったからな。私の悪い癖だ。
だが私の方が、嘘は上手だ。……引っ掛けようとした時、彼女の語調によどみが出た。それで嘘だと分かった。……ククク、私を引っ掛けようだなんて、そうは行かない。
そう、私は嘘を生業にする男――詐欺師さ。私は誰よりも……)
「あなた?」
背後から声がかけられる。
ケネスは笑顔を作り、くるりと振り向く。
「どうしたんだい、リンダ?」
「こっちの台詞やん。どないしはったん?」
「いや、外の空気が吸いたくなったんだ。そろそろ戻ろうと思ってた」
「そうですか。……くしゅっ」
小さくくしゃみをしたリンダの肩を、ケネスは優しく抱きかかえた。
「外は寒いよ。風邪を引かないうちに、早く中にお入り」
「ええ、はい」
ケネスはにっこりと、温かい笑顔を作りながら――。
「君に何かあったら、心配でたまらなくなる」
「あなた……」
心の中で、こうつぶやいた。
(私は誰よりも、うまく嘘がつけるのさ)
火紅狐・三商記 終



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~ Comment ~
NoTitle
ほほ~~そこまで嘘が見抜けるのですか。。。
凄いですね。それはまた超天才級の詐欺師ですね。
それはそれで本物の才能ですね。
凄いですね。それはまた超天才級の詐欺師ですね。
それはそれで本物の才能ですね。
NoTitle
ケネスは今回の物語中、最大の悪人です。
自分の利益のみを追究する、邪悪と言ってもいい存在。
彼の活躍をお楽しみに(?
明後日、……楽しみにしてます。
自分の利益のみを追究する、邪悪と言ってもいい存在。
彼の活躍をお楽しみに(?
明後日、……楽しみにしてます。
NoTitle
いやあ悪人が出てきましたなあ。どんな陰謀をたくらむのかどきどきしますなあ(^^)
それはそれとして、あさってのうちの更新をお楽しみに。
たいしたことじゃないんですけどね(^^)
それはそれとして、あさってのうちの更新をお楽しみに。
たいしたことじゃないんですけどね(^^)
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NoTitle
偽物を真と信じ込ませることが彼の宿命みたいなものですし。