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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・大徳録 2

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    晴奈の話、第74話。
    大人物の人生哲学か、ナンパ男の言い訳か。

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    2.
    「あいたたた……」
     客間に運ばれたエルスは首と後頭部をさすりながら、ヘラヘラ笑っている。
    「セイナ、ひどいじゃないか」
    「元はと言えば、お主の行いが原因だろうが」
    「ま、そりゃそうだけどさ」
     リストはエルスを踏みつけた後も一通り怒り倒し、そのまま屋敷を出て行ってしまった。
    「まったく、何度怒らせれば気が済む?」
    「しょうがないさ、これは『趣味』の問題だし。ま、あの子は薬缶みたいな子だから、そのうちケロッとして戻ってくるさ」
    「……下衆な趣味だな。お主の頭に公序良俗と言う言葉は無いのか?」
    「うーん」
     エルスはそっぽを向き、両手を挙げる。
    「綺麗なご婦人がいたら、声をかけるのが紳士の礼儀かな、って」
    「大馬鹿者」
     今度は晴奈がエルスを叩いた。
    「あいたっ」
    「女をたぶらかして、何が紳士か」
    「そうですよ、エルスさん」
     明奈が洗面器と手拭を持って、客間に入ってきた。
    「あ、わざわざゴメンね、メイナ」
    「いえいえ。……本当にいけませんよ。北方ではどうなのか、良くは知りませんけれど。色恋に雑な方は、央南ではあんまり歓迎されませんよ」
     水にひたした手拭を絞りながら諭してくる明奈に、エルスはまた苦笑する。
    「あはは……、雑にしてるつもりはないんだけどね。誰であっても、真面目に付き合ってきたつもりだし」
    「それなら、リストさんとはどうなんですか?」
    「うん?」
     明奈から手渡された手拭を頭に当て、エルスは短くうなる。
    「んー……、どう、って?」
    「え……?」
    「僕が恋愛を楽しむことと、リストと何の関係があるの? あの子とは別に、付き合ってるわけじゃないんだけど」
     今度は明奈が憮然とした顔になる。
    「付き合ってない、って……。どう見てもリストさん、嫉妬してますよ」
    「そんなわけ無いじゃないか、はは」
     エルスは軽く笑い飛ばし、明奈の見解を否定する。
    「あの子とは一緒に仕事して、結構長い。それなりに信頼関係もあるし、嫌ってないのは確かさ。でも、いつも僕に向かって罵詈雑言を放つし、どう考えてもあの子が僕に恋愛感情を持ってる、って言うのはちょっと、無理じゃないかなぁ。
     それにあの子が僕と一緒に来たのは、僕の仕事に加担したからだよ。それに、博士のお孫さんでもあるし、どっちかって言うと付き添いって感じだ。怒るのはきっと、博士に恥をかかせないようにと、彼女なりに配慮してるからじゃないかな」
    「そう、ですか……?」
     まだ腑に落ちないと言う面持ちの明奈に、エルスはへら、と笑いかけた。
    「そう、だよ。第一、本当に僕のことが好きなら、足蹴にしないだろ? ほら、このコブ」
    「……ま、そうだな」
     エルスの後頭部の腫れを見た晴奈は、エルスの意見がもっともらしく感じた。
    「しかし……。お主、それだけ他人の洞察ができるのに、何故神経を逆なでするようなことばかりするのだ?」
    「んー、……他人の理解を得るより、自分の考えを実行に移すことを優先してるから、かな。
     確かに僕のやってることは、周りに理解を得られないとは思う。でも、何に対してもそう言うことはあるんじゃないかな」
    「……?」
     エルスの言葉の意味が分からず、晴奈も明奈も顔を見合わせてきょとんとする。
    「えっと、例えばね。
     僕はセイナじゃ無いから、セイナがいま何を考えて、何を大事にしてるかってことは、予想は付いても、完全に読みきれるわけじゃない。同じようにセイナも、僕の趣味や好きなものは分かっても、僕がいま何を考え、何をしたいかってことは、僕から言わないと分からないだろ?」
    「それは……、まあ」
    「もちろんそう言うことは、仲良くなっていくうちに自然と分かったりもするだろう。でも、そうなるまでには非常に時間がかかる。すべての人間関係においてそんな過程を経ていたら、その人と一緒にやりたいと思ってることは多分、何もできなくなる。
     理解には時間がかかるし、時には到底無理だって言うこともある。莫大な時間をかけてただ理解しようと考えるだけじゃ、時間の無駄遣いさ。だから、理解は二の次。先に、行動を取った方がいいと思うんだ。
     第一、行動してその結果を見せた方が、理解も早いだろうしね」
    「ふむ……」
     感心する晴奈を見て、エルスはまた笑った。
    「ま、博士の受け売りだけどね」



     それから2時間後。
     エルスの言う通り、リストは何事も無かったように夕食の前に戻ってきた。
    「ただいまー」
    「ああ、おかえりリスト」
     エルスが挨拶すると、リストはパタパタと手を振って会釈する。二人があまりに平然としているので、晴奈は思わずリストに尋ねた。
    「もし、リスト」
    「ん?」
    「怒ってないのか?」
    「ああ、さっきのアレ?」
     リストはまた、手をパタパタ振る。
    「毎度のコトだし。そりゃ、ムカッと来るけど蹴っ飛ばせば気、晴れるしね。
     アイツのやるコトに一々まともに相手してちゃ、気狂っちゃうわよ。アイツ、頭いいけどバカだし」
    「……そうか」
     リストの言い草に、晴奈は少し不愉快になった。
    (それは、あんまりでは無いだろうか)
     とは言え、そう思ったことを口にはしなかった――恐らく、理解してもらえないので。

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    2008.10.09 転載
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    NoTitle 

    全作品中最も品行方正な部類に入るキャラです。
    業は深いですが。

    NoTitle 

    晴奈は猫なのにまっすぐだなv-283
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