「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第1部
火紅狐・奪督記 1
フォコの話、23話目。
最終経済。
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最終経済。
1.
双月暦301年、夏。
フォコが14歳となり、また、ケネスが金火狐一族の一員となって、1年以上が過ぎた頃。
「……うーん?」
レオンとイデアが、世界各地の鉱山や精錬所から送られてきた報告書を読みながら、首をかしげていた。
「上がってるわね」
「そうですな」
この半年で、重金属の価格が妙に上がっていたのだ。
無論、ゴールドマン商会側としては、卸しているモノに高い値が付けられるので、儲かる状況にはある。しかし――。
「なんぼなんでも、半年前の3倍はおかしいですわ」
「そうね。これは誰かが意図的に、そして大規模に買い占めてるのよ。
そして最も価格が上がってるのは、鉄。……となれば」
「どこぞの軍か、軍に関するとこが、買い付けとるんですな。もっとも、買うてはるとこはバラバラですけれども」
「代理を通してるんでしょうね。でもこれだけ世界的に波及しちゃうと、誰の仕業かはバレバレね」
そこで二人とも一瞬口を閉じ、間を置いて同時につぶやいた。
「中央政府ゆかりの商人」
ともかく、二人にとって肝心なのは、「誰が買い付けているか」ではなく、「何故買い付けているのか」である。
それが分からなければ、不用意にこの「インフレ」に乗じるべきではないからだ。
「考え無しにホイホイ鉄売って、それがどこかの国を侵略する準備を手伝ってました、とかなっとったら、ごっつ気分悪いですからな」
「戦争は確かにこれ以上無いくらいに儲かりはするけれど、その結果、新しい商売の種を潰されてしまったら、たまらないものね」
「事は慎重に運ばんといけませんな」
ゴールドマン家には、一つの信条がある。それは、「戦争は自分たちが起こしてはならない、もし起こっているなら早急に治めよ」と言うものである。
イデアが言う通り、戦争中は常時に比べて非常に需要が高まるため、多少の高値を付けてふっかけても、易々とモノが売れる。だがその反面、消費されたモノは何も生み出さない。
通常の、戦争が絡まない経済であれば――例えば小麦はパンとなって自分たちの糧となる。例えば木材は柱となって自分たちの家となる。売り出したモノはいずれ何かを生み出し、自分たちに戻ってくるのだ。
だが戦争が絡めば――例えばパンとなった小麦は兵士たちに食われ、敵と戦うための活力源となる。例えば木材は槍や弓矢の材料にされ、敵を倒すために使われる。そして兵士たちが敵と戦い、彼らを倒しても、それが農耕や酪農のように、何かを生み出すことは起こり得ない。
戦争とは短期的には莫大な利益を生むが、長期化すれば自分たちに返って来るものが全く無い、不毛な行為なのだ。
だからこその「自分たちで起こすな、起きたらすぐやめさせろ」なのである。
「ともかく、もう少し調べさせときますか。今持っとる重金属は、売り控えるようにお願いしときましょ」
「それが無難ね」
夫妻はトントンと書類をまとめ、各部署への指示をまとめ終えた。
と、執務室の扉がノックされる。
「父さん、母さん。叔母さん夫婦がお見えになりました」
「ん、お入り」
扉を開け、フォコとリンダ、そしてケネスが入ってくる。
「お久しぶりです、義兄さん」
「ああ、どもども。元気しとりましたか?」
「ええ、おかげさまで」
この頃には既に、ケネスは自分の持つ店をゴールドマン商会に参入させ、強いバックボーンを持つ商人となっていた。
元々から持っていた中央政府とのコネクションを、金火狐の力を借りてさらに強固なものにし、その取引による利益と利権を活用し、今や央北では最も有力な大商人の一人となっていた。
そんな人物になっていたので、レオンはこう尋ねてみた。
「ああ、ケネス。ちょっと聞いてええかな?」
「ん……? なんでしょう、義兄さん」
「今、中央政府の方で何や大きな計画、あるって聞いてません?」
「……いや? 特に、何も」
ケネスはわずかに首をかしげ、そう答えただけだった。
双月暦301年、夏。
フォコが14歳となり、また、ケネスが金火狐一族の一員となって、1年以上が過ぎた頃。
「……うーん?」
レオンとイデアが、世界各地の鉱山や精錬所から送られてきた報告書を読みながら、首をかしげていた。
「上がってるわね」
「そうですな」
この半年で、重金属の価格が妙に上がっていたのだ。
無論、ゴールドマン商会側としては、卸しているモノに高い値が付けられるので、儲かる状況にはある。しかし――。
「なんぼなんでも、半年前の3倍はおかしいですわ」
「そうね。これは誰かが意図的に、そして大規模に買い占めてるのよ。
そして最も価格が上がってるのは、鉄。……となれば」
「どこぞの軍か、軍に関するとこが、買い付けとるんですな。もっとも、買うてはるとこはバラバラですけれども」
「代理を通してるんでしょうね。でもこれだけ世界的に波及しちゃうと、誰の仕業かはバレバレね」
そこで二人とも一瞬口を閉じ、間を置いて同時につぶやいた。
「中央政府ゆかりの商人」
ともかく、二人にとって肝心なのは、「誰が買い付けているか」ではなく、「何故買い付けているのか」である。
それが分からなければ、不用意にこの「インフレ」に乗じるべきではないからだ。
「考え無しにホイホイ鉄売って、それがどこかの国を侵略する準備を手伝ってました、とかなっとったら、ごっつ気分悪いですからな」
「戦争は確かにこれ以上無いくらいに儲かりはするけれど、その結果、新しい商売の種を潰されてしまったら、たまらないものね」
「事は慎重に運ばんといけませんな」
ゴールドマン家には、一つの信条がある。それは、「戦争は自分たちが起こしてはならない、もし起こっているなら早急に治めよ」と言うものである。
イデアが言う通り、戦争中は常時に比べて非常に需要が高まるため、多少の高値を付けてふっかけても、易々とモノが売れる。だがその反面、消費されたモノは何も生み出さない。
通常の、戦争が絡まない経済であれば――例えば小麦はパンとなって自分たちの糧となる。例えば木材は柱となって自分たちの家となる。売り出したモノはいずれ何かを生み出し、自分たちに戻ってくるのだ。
だが戦争が絡めば――例えばパンとなった小麦は兵士たちに食われ、敵と戦うための活力源となる。例えば木材は槍や弓矢の材料にされ、敵を倒すために使われる。そして兵士たちが敵と戦い、彼らを倒しても、それが農耕や酪農のように、何かを生み出すことは起こり得ない。
戦争とは短期的には莫大な利益を生むが、長期化すれば自分たちに返って来るものが全く無い、不毛な行為なのだ。
だからこその「自分たちで起こすな、起きたらすぐやめさせろ」なのである。
「ともかく、もう少し調べさせときますか。今持っとる重金属は、売り控えるようにお願いしときましょ」
「それが無難ね」
夫妻はトントンと書類をまとめ、各部署への指示をまとめ終えた。
と、執務室の扉がノックされる。
「父さん、母さん。叔母さん夫婦がお見えになりました」
「ん、お入り」
扉を開け、フォコとリンダ、そしてケネスが入ってくる。
「お久しぶりです、義兄さん」
「ああ、どもども。元気しとりましたか?」
「ええ、おかげさまで」
この頃には既に、ケネスは自分の持つ店をゴールドマン商会に参入させ、強いバックボーンを持つ商人となっていた。
元々から持っていた中央政府とのコネクションを、金火狐の力を借りてさらに強固なものにし、その取引による利益と利権を活用し、今や央北では最も有力な大商人の一人となっていた。
そんな人物になっていたので、レオンはこう尋ねてみた。
「ああ、ケネス。ちょっと聞いてええかな?」
「ん……? なんでしょう、義兄さん」
「今、中央政府の方で何や大きな計画、あるって聞いてません?」
「……いや? 特に、何も」
ケネスはわずかに首をかしげ、そう答えただけだった。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
確かに戦争は経済には害悪ですからね。うんや、正確には生活に害悪なのか。そのことを教えてくれるお話ですね。
NoTitle
戦争は話し合いのできない愚か者がすること。
しない方がいいです。
お騒がせして申し訳ない。
5月からの「白猫夢」連載に備え、体裁を整えている最中でして。
連載開始は1日からになります。よければこちらも。
しない方がいいです。
お騒がせして申し訳ない。
5月からの「白猫夢」連載に備え、体裁を整えている最中でして。
連載開始は1日からになります。よければこちらも。
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NoTitle
「平和は人間の関係にとって不自然な状態」と宣う哲学者もいますが、
大多数の人間が好き好んで争ったりしないと思って、いえ、信じています。
無論、何にでも少数派がいますし、時には少数派の声が大きいことも、往々にしてありますが。