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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・砂猫記 1

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    フォコの話、29話目。
    クリオの城。



    1週間ぶりの更新です。
    第2部、開始。




    1.
     飛ぶように、船に乗って。
     飛ぶように、船を南海へと向けて。
     そして飛ぶように、二人は南海の島、ナラン島に降り立った。



    「……」
     船旅の間中、ぼんやりとしたままのフォコの手を引き、クリオは口を開いた。
    「ここだ」
    「……へ」
    「へーへー気ぃ抜けた返事すんな。お前の悪い癖だ」
     クリオはぺち、とフォコの頭を平手ではたいた。
    「いて」
    「いいか? へーへー言うなよ」
    「あ、はい」
    「そんで、だ。ここがオレのウチだ」
     クリオは目の前の、赤茶けた壁の建物を指差した。
    「ここがオレの城、『砂猫楼』だ。
     ま、疲れてっだろうから、まずは茶でも飲もうぜ」

     中に通され、フォコは目を丸くした。
    「……うわ」
     中は雑然としており、そこかしこに珍妙な調度品が置いてある。はっきり言って、フォコの目には半ばゴミ屋敷としか映らなかった。
    「そこ座れ。(おーい、誰かいるかぁ?)」
     クリオはフォコにはよく分からない言葉で、奥に向かって声をかけた。
    「(おかえりなさーい)」
    「えっ? えっ?」
    「(おう、ルーか。どうだった、首尾は?)」
     クリオは奥から現れた、兎獣人の女性に何か問いかけた。
    「(上々でしたよ。こないだの船、いい値段で買い手が、……うひゃあ!?)」
     その女性はフォコがいるのに気付き、驚いた声を挙げた。
    「(ちょっと、誰かいるならいるって言ってくださいよ!)」
    「(いーだろ、コイツ西方語分かってねーし。……ああ、そうか)ホコ。紹介するわ」
     クリオは兎獣人の横に立ち、肩に手を回しながらはにかんだ。
    「こいつ、オレの嫁さんでルーテシアってんだ。西方人で、我がジョーヌ海運の副総裁だ」
    「こんにちは、(えっと……)、ホコ、くん?」
     フォコは彼女にまでホコと呼ばれ、口をとがらせた。
    「あの、僕の名前、フォコなんですけど」
    「言いにくいんだよ。めんどくさいからホコでいいよ、もう」
    「そんなぁ……」
     反論しようとするフォコを尻目に、クリオはルーに命じる。
    「(んで、今帰ってきたばっかりだから、喉カラッカラなんだわ。茶か何か、頼むわ)」
    「(はーい)」
     ルーはひょこひょこと兎耳を揺らしながら、奥に戻っていった。
     その間にクリオはガラクタを片付け、机らしい板の周りにスペースを作る。
    「よし、こんなもんでいーだろ。こっち来い、ホコ」
     フォコは渋々、クリオの対面に座り直した。
    「……ま、ともかくだ。お前はこっちで生活しろ。いいな?」
    「嫌、って言えへんやないですか」
    「そう言うな。ともかくこっちで難を逃れるしかない。オレの予測が確かなら、アイツの次の目標は、ゴールドマンの当主になることだろう。
     そん時障害になるのは何か、っつったら」
    「僕、ですか。当主である父さんの息子の」
    「そう言うコトだ。となりゃ、アイツにとってお前は邪魔者だ。アイツの側じゃ、命がいくつあっても足んねーだろうな」
     クリオの言葉に、フォコは机に額を付け、突っ伏した。
    「……何でこんなことに……」
    「起こらない方がおかしかったんだよ。そりゃゴールドマン家って言や、世界中が認める大商人だからな。誰だって、『あんな商人の座に就けるなら』って思うさ。
     ま、エンターゲートの場合は度が過ぎてっけども。何も殺すこたぁ無かったんだ」
    「……」
     と、そこにルーが茶を持って来た。
    「(お待たせしました)」
    「(ありがとよ)」
     クリオはルーの頬にちょんとキスし、再度フォコに向き直った。
    「そんなワケだからよ、お前はオレの下で働いてもらう。まだ若いが、何てったってあのゴールドマンの血筋だし、頭も悪く無さそうだ。
     よろしく頼むぜ、ホコ」
    「働くて、いや、だから僕ホコやなくて、……ああ、もうっ」
     反論したいことは目一杯あったが、疲れきったフォコは何も言い返せなかった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ケネスは姻族として一族に入り込み、フォコくんは血族でありながら本拠から逃げざるを得なかった。
    後々、このことが大事な要因の一つになってきます。

    NoTitle 

    斎藤道三のときもそうだったですが。
    本当の息子!!

    それだけで奉られることはありますからね。
    血統だけで、祀り上げられる、そんな時代もありますね。

    特に血で血をあらう戦国時代では。
    余計にそういう血統を大事にするものですよね。
    フォコも同じですね。。。
    そういう存在になるのか、ならないのか。
    注目ですね。

    NoTitle 

    一応難は逃れたものの、果たして天国になるのやら。

    了解です。
    よほどオリジナリティを損なわない限りは、自由に扱っていただいて構いませんよ( ´∀`)b

    NoTitle 

    そこはホコには天国だった。

    これを「ホコ天」と呼ぶ(うそ)。


    うちの連中とモールさん、明日の更新ではちとシリアスな話もします。もしかしたらお気に障るかもしれませんのでここで先に謝罪を……m(_ _)m
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