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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・砂猫記 2

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    フォコの話、30話目。
    ジョーヌ海運のオモテとウラ。



    タイトルの由来、30話目で登場。
    「蒼天剣」に比べて、5倍の速さです。




    2.
    「ともかくだ」
     何度聞いただろうか――フォコはクリオの、何十度目かの「ともかくだ」に肩をすくめた。
    「はい、ともかくなんでしょう?」「クス」
     同じことを、ルーも思っていたらしい。フォコの口真似に、小さく噴き出した。
    「……チッ、まあ、ともかくだ。お前さんにまず覚えてもらうのは3つ。
     まず、言葉。西方語と南海語だ。ウチで働くヤツはこれに加え、中央語も覚えてもらってる。お前さんの場合は央中人だし、そこはパスだな。
     次、この砂猫楼でのルールだ。ま、色々あるけっども」
     クリオはあごで部屋の中を指し、話を続ける。
    「ウチん中では大声を出さない。走らない。暴れない。まずはコレを頭に入れとけ」
    「ホコくんは大丈夫な気がしますけど。どれもあなたがやるんじゃないですか」
    「……うっせ」
     クリオは顔を赤らめ、ばつの悪そうな顔をした。
    「そんで三つ目――ウチの商売のオモテとウラについて、だ」

     フォコはクリオとルーに連れられ、砂猫楼の奥に進んでいく。
    「オレはな、ホコ」
    「はい」
    「元は央南人なんだ。元々、西方や南海の人間じゃない」
    「そうなんですか?」
    「そうなんだよ。漢字、……って言っても分かるまいが、オレの名前だって本当は『栗生』って書く。
     んで、央南でも結構でかい商家の生まれだったんだけども、勘当されちまった。んで、仕方なく西方に渡って、いっちょ商売でもしてみるかって頑張ったんだ。でもまともなやり方じゃ、新参のオレなんか全然稼げねー。
     そこで手ぇ付けたのが……」
     地下に続く階段を降り、三人は開けた場所に出た。
    「……うわっ」
     そこには金銀財宝が、山のように積まれていた。
    「す、すごっ」
     息を呑んだフォコの視界に、一つの、クラム金貨の塊が映った。
    「……あれ?」
     その金貨を良く見ると、赤いものが付いている。いや、よく見れば財宝のあちこちに、同じようなものが点々と付いていた。
    「……血?」
    「そう」
     ルーがそっと、降りてきた階段の前に立つ。その仕草はまるで、フォコを部屋から出さないようにしているようだった。
    「手っ取り早く金を手に入れる方法は、大きく分けて3つ。
     借金するか、贋金造るか、持ってるヤツから奪うかだ。オレにゃ返すアテもなかったし、偽造のウデもない。
     だからオレは、3つ目を選んだ」
     クリオはどこからか、曲刀を持ってくる。
    「ジョーヌ海運――表向きは造船業と水産業、貿易、水運を手がける商会だが、裏ではこの通り、海賊やってる。
     オレは表向き、『怒鳴り込み屋』なんてふざけた通り名が付いてるが……」
     クリオはしゅっとフォコの側に近寄り、曲刀の刃を喉元に当てた。
    「ひっ……」
    「裏の名は海賊、『砂嵐』」
     と、クリオは曲刀を離し、ぽいと投げ捨てた。
    「……って呼ばれてる。覚えとけ、ホコ」
    「は、……い」
     フォコは大変なところに来てしまったと痛感した。

     もう一度、クリオは「ともかくだ」と前置きし、フォコに座るよう促した。フォコが座ったところで、クリオも座り込む。
    「他に選択肢は無い。分かるな?」
    「……はい」
    「お前さんにゃ、これから語学と剣の勉強をしてもらう。それからオレの、表の商売の手助けもだ。だから……」
     クリオは階段の側にいたルーに手招きする。
    「お前さん、今から偽名を名乗ってもらうぜ。いくらなんでも『こんにちは、ホコ・ゴールドマンと言いますー』じゃあ、すぐ商人のうわさに上っちまう」
    「そうですね。何がいいかしら?」
     クリオの横に座り込んだルーも、話の輪に加わる。
    「ホコ……、だから」「ホコちゃいますて」「……うーん、いいのが思い浮かばないですね」
     それを聞いて、クリオが肩をすくめる。
    「ま、そんな気はした。お前、さんざ悩んだ挙句、自分の子供に『ウナ』『デュシャ』『トロワ』って付けよーとしたくらいだからな」
    「何て意味です?」
    「『1、2、3』だぜ、ひでーだろ? 結局オレが、『リモナ』『プルーネ』『ペルシェ』って付け直した。こっちの方がまだ女の子らしいってもんだ」
    「むー」
     夫の言葉に頬をふくらませるルーをよそに、クリオはポンと手を打った。
    「あ、そうだ。ホコウってのはどーだ?」
    「ほこ、う?」
    「そ、ホコウ。んで」
     クリオは懐から取り出した紙に、「火紅」と書き付けた。
    「漢字……、央南語だと、こう書く。なかなかカッコいいだろ?」
    「……漢字、分かりません」
    「ま、いーから。ともかく、お前さんはこれから火紅だ。尻尾も真っ赤でそれっぽい感じだし、似合ってるぜ」
    「はあ……」
    「決まり、決まりっ!
     じゃ、名字も適当に変えて――これからお前さんは、『ホコウ・ソレイユ』だ。覚えとけよ」
     こうしてフォコは、火紅(ホコウ)と名乗ることになった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ここからがフォコくんならぬ、火紅・ソレイユ氏の人生のはじまり。
    ただ、胡散臭い人に名前をつけられたせいか、火紅の人生もまた、胡散臭く染まっていきます。

    NoTitle 

    ほほう!!
    ほこう。

    火紅(ホコウ)となるわけですね。
    漢字にするとカッコいいですね。

    フォコくんの未来はどうなるのか!!??
    今後も楽しみの読んでいきます!!
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