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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・砂猫記 3

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    フォコの話、31話目。
    砂嵐海賊団。




    3.
     フォコの名前を決めた後、クリオはフォコをナラン島の南端にある造船所に連れて行った。
    「(お前ら、コッチ来い! 集合!)」
     入るなり、クリオは作業員たちを集めた。
    「(どうしたんスか、おやっさん?)」
    「(うん? その子は?)」
     集まってきた作業員6名は、クリオの横にいるフォコに、一斉に視線を向けた。
    「(今日からウチで働くコトになった、火紅・ソレイユだ)」
    「(あ、そうなんスか)」
     作業員6名は、揃って会釈した。
    「ちゃんと名乗れ、お前ら」
     クリオは作業員たちとフォコを同時に指差し、自己紹介するよう促した。
    「あ、え、と……、中央語で大丈夫、なんですよね?」
    「おう」
     フォコは緊張しながらも、ぺこりと頭を下げて挨拶した。
    「初めまして、ふぉ、……ホコウ・ソレイユと言います。よろしゅう、お願いします」
    「……?」
     と、作業員たちはまた一斉に、首をかしげた。
    「(ああ、コイツずっと央中の片田舎にいたから、訛りがあるんだよ。そこら辺は気にしないでくれや)」
    「(あ、なるほど)。……えーと、それじゃ俺から行こうかな」
     一番年長らしい、細目で銀髪の短耳が前に出る。
    「初めまして、ホコウくん。俺はアバント・スパスだ。ここの主任をやってる」
    「よろしゅうお願いします」
     続いて隣にいた、帽子を深く被った猫獣人の女性が、目を合わさずに挨拶する。
    「ども。ティナ・サフラン。主に塗装担当」
    「ども」
     そのまま隣に、紹介の順番が移る。今度は分厚い眼鏡をかけた、背の低い長耳の男性。
    「私はモーリス・ディーズ。設計担当だ」
    「よろしゅう」
    「と、ココまでが西方組だな。残り三人が、南海組になる」
     クリオの紹介を受け、派手な赤毛をした、狼獣人の男性が挨拶する。
    「どもっス。俺はアミル・シルム。製造要員その1」
     続いて、同じく狼獣人で、色黒の女性。
    「製造要員その2。マナ・ハイミン」
     最後に、太った短耳の男性が挨拶した。
    「俺はジャール・ラザク。製造要員その3ってとこか」
    「よろしゅうお願いします」
     フォコがもう一度ぺこりと頭を下げたところで、クリオがこう言った。
    「ちなみに、コイツは『砂嵐』のコト知ってるからな。隠さなくていいぜ」
    「なんだ、そうなのか」
     それを聞いて、アバントが肩をすくめて笑った。
    「行儀よくしなくて良かったな、それじゃ。……ま、そう言うことなら、そっちの方もよろしく頼む、ホコウ」
    「あ、はい、よろしゅうです」
    「ちなみにな、火紅。ここにいるヤツがジョーヌ海運特別造船所のメンバー全員であり、即ち『砂嵐』のメンバー全員でもある。
     オレが頭領、アバントが若頭、つまりナンバー2だからな。そこをまず、きっちり頭に叩き込んどけよ」
    「はい」
     と、クリオは造りかけの船を一瞥し、突然声を荒げた。
    「おい、アバント!」
    「何でしょう、おやっさん?」
    「何でしょうじゃねーだろーが! いつまでのたくた組んでんだよ!?」
     クリオは船を指差しながら、ガミガミと指摘する。
    「納期は来月頭だぞ! だのにまだマストすら付けてねーって、サボってんのか、おい!」
    「いや、いや。これからペースアップしますって」
    「先週も同じこと言ったよな、お前!? バカの一つ覚えかっつーの!」
     クリオの一喝に、場の空気が冷え込む。穏やかに応対していたアバントの目が、くわっと見開かれた。
    「するっつってんでしょうが、おやっさんよ?」
    「口だけなら何とでも言えるわな、あ? これからマスト付けて、ロープめぐらせて、塗装してって、後どんだけ作業残ってんのか分かって言ってんのか?」
    「丸投げのアンタじゃあるめえし、一々言われんでもそれくらい把握してらあ!」
     クリオもアバントも、売り言葉に買い言葉を重ねてにらみ合う。
    「んだと、この糸目野郎ッ!」「文句あんのか、チビ!」
     二人の剣幕に、フォコはどうしていいか分からずおどおどしていた。
    (な、何や怖いことになってる……)
     と、フォコの背後からマナがのんきな声をかけてきた。
    「心配しないでいーよ。ウチには頭領と若頭よりつよーい、御大がいるもん」
    「御大?」
    「もうそろそろ来るかなー」
     マナがそう言った瞬間、造船所の戸を叩く音が聞こえてきた。
    「……ッ」「う……」
     途端に、クリオとアバントが黙り込む。
    「入りますよ」
     戸を開けて、ルーが入ってきた。
    「……おう」「……ども、おかみさん」
    「お茶、飲みます?」
    「……おう」「……いただきます」
    「こっち来なさい」
    「……おう」「……はい」
     有無を言わさぬルーの気配に、クリオとアバントは素直に従った。
    「ルーさんて、……そんな怖いん?」
    「怖いよー」
     マナはコクコクと、小さくうなずく。
    「一度、おやっさんと若頭、おかみさんにめっちゃ蹴っ飛ばされて、油壺に叩き込まれたことあるもん。
     しかもおかみさん、その後『そんなにカッカしてるのに、何で頭に火が点かないんでしょうね?』ってニッコリ笑いながら言うもんだからさー。
     それ以来みんな、アタマ上がんないんだよね」
    「……ルーさん、怖いんやね」
    「見た目ちっちゃいけどね。あのキックはコワい」
     その後のクリオたちは、毒気を抜かれたように茶を飲んでいた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    「イカ娘」を観てないので何とも言えませんが……、こういう力仕事系、手工業系にはいそうかな、と。

    NoTitle 

    「イカ娘」のあの人みたいですなおかみさん。
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