「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・砂猫記 4
フォコの話、32話目。
仕事始め。
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仕事始め。
4.
「ともかく」、フォコはジョーヌ海運の特別造船所で働くことになった。
「『特別』て、何が特別なんです?」
「理由は2つある」
まずフォコは、現場での上司となるアバントから説明を受けていた。
「一つは、この造船所が特殊な船を請け負ってる点だな。
他の拠点にある造船所は、どちらかと言うと漁船とか客船、小型艦と言った汎用的なもの、大掛かりなものを造ってるんだが、ここで造ってるのは、大体が金持ちの道楽向けの、豪華な小型・中型船だ。
だからメンバーも少数で済むし、ヘンテコで特殊なパーツもしれっと置いておける」
その言い方で、フォコは2つ目の理由に思い当たった。
「……つまり、『砂嵐』の秘密を守りやすいっちゅうことですね?」
「そう言うことだ。『砂嵐』は、少数精鋭で活動してるからな。この造船所と砂猫楼が、まさに俺たちの『基地』なんだよ」
そう言われて辺りを見回してみると、確かにそれらしいもの――曲線状に切られた金属板や鋭く尖った樫の木材、太い弦や溝の付いた板など、剣や弓矢に転用できそうなパーツが――あちこちに置いてある。
「それに普段から、力仕事が主だからな。体を鍛えるのには持って来いだ。海賊家業は体が資本だし」
「なるほど」
「……とは言え、君はまだあんまり力が無さそうだし、とりあえずはティナの手伝いからやってもらうことになるかな。それを軸に、他の奴の手伝いもやってもらうとするか」
「分かりました」
造船所の中を一通り回った後に、フォコはティナの元に案内された。
「ティナ、とりあえずお前のとこで預かってくれ」
「はい」
最初に挨拶した時と同様、ティナは帽子で目を隠したまま応じた。
「よろしゅう、おねが……」「よろしく」
頭を下げかけたところで、ティナは短く答えてぷい、と背を向けた。
「あ、えっと……」「こっち」
ティナの短く、投げつけるような言葉遣いに面食らいながらも、フォコは付いて行く。
「こう言うの、やったことある?」
ティナは刷毛を指差し、フォコに尋ねた。
「いえ、まったく」
「ん……。じゃあ、教える。船だから、塩水にずっと浸かることになる。ただの木材とか金属だと、腐ったり錆びたりする。だから、耐食用の薬を塗ってく。乾くのには大体2時間。臭いしベトつくから、塗り終わったら外に出して。刷毛はこれ使って。手袋はそっちの。じゃ、それお願い」
「へ」
ぽい、と刷毛を投げられ、慌てて受け止めたフォコに、ティナは置いてあった木材を指差して、そのまま離れていった。
「え、えーと、……こう、かな」
たどたどしく、木材に薬品を塗りつける。何とか自分の背丈くらいの板を一面塗り終えたところで、ティナが戻ってきた。
「違う」
「えっ」
「全面。浸水した時、中から腐る」
「あ、はい」
フォコはくる、と板を裏返しながら、ティナの顔を見ようとした。
「……」
が、ティナはぷい、と顔をそらす。
(な、何やろ? 嫌われとるんかな)
不安になり、フォコは尋ねてみた。
「あの、ティナさん」
「なに?」
「僕のこと、苦手……、ですか?」
「苦手」
「う」
つっけんどんに返され、フォコは言葉を失う。が、そこでようやくティナが目を向けてくれた。
「中央語、得意じゃない」
「あ……」
帽子の下に覗くティナの目は、困った様子だった。
「西方語、話して」
「……努力します」
「ん」
と、そこでまたティナは視線を隠し、ぼそ、とつぶやいた。
「……(下手くそね)」
「はい?」
「下手。こうやるの」
そう言うとティナは刷毛を手に取り、自分の前に置いてあった板に薬品を塗り始めた。
「むら、あんまり良くない。見た目悪いし、薬も無駄になるし、後でペンキ塗る時おかしくなるから」
「なるほど」
「でも筋いいよ」
「あ、ありがとうございます」
「(ありがとう)、よ」
ティナはそんな感じで、ポツポツとフォコに作業と西方語を教えてくれた。
「ともかく」、フォコはジョーヌ海運の特別造船所で働くことになった。
「『特別』て、何が特別なんです?」
「理由は2つある」
まずフォコは、現場での上司となるアバントから説明を受けていた。
「一つは、この造船所が特殊な船を請け負ってる点だな。
他の拠点にある造船所は、どちらかと言うと漁船とか客船、小型艦と言った汎用的なもの、大掛かりなものを造ってるんだが、ここで造ってるのは、大体が金持ちの道楽向けの、豪華な小型・中型船だ。
だからメンバーも少数で済むし、ヘンテコで特殊なパーツもしれっと置いておける」
その言い方で、フォコは2つ目の理由に思い当たった。
「……つまり、『砂嵐』の秘密を守りやすいっちゅうことですね?」
「そう言うことだ。『砂嵐』は、少数精鋭で活動してるからな。この造船所と砂猫楼が、まさに俺たちの『基地』なんだよ」
そう言われて辺りを見回してみると、確かにそれらしいもの――曲線状に切られた金属板や鋭く尖った樫の木材、太い弦や溝の付いた板など、剣や弓矢に転用できそうなパーツが――あちこちに置いてある。
「それに普段から、力仕事が主だからな。体を鍛えるのには持って来いだ。海賊家業は体が資本だし」
「なるほど」
「……とは言え、君はまだあんまり力が無さそうだし、とりあえずはティナの手伝いからやってもらうことになるかな。それを軸に、他の奴の手伝いもやってもらうとするか」
「分かりました」
造船所の中を一通り回った後に、フォコはティナの元に案内された。
「ティナ、とりあえずお前のとこで預かってくれ」
「はい」
最初に挨拶した時と同様、ティナは帽子で目を隠したまま応じた。
「よろしゅう、おねが……」「よろしく」
頭を下げかけたところで、ティナは短く答えてぷい、と背を向けた。
「あ、えっと……」「こっち」
ティナの短く、投げつけるような言葉遣いに面食らいながらも、フォコは付いて行く。
「こう言うの、やったことある?」
ティナは刷毛を指差し、フォコに尋ねた。
「いえ、まったく」
「ん……。じゃあ、教える。船だから、塩水にずっと浸かることになる。ただの木材とか金属だと、腐ったり錆びたりする。だから、耐食用の薬を塗ってく。乾くのには大体2時間。臭いしベトつくから、塗り終わったら外に出して。刷毛はこれ使って。手袋はそっちの。じゃ、それお願い」
「へ」
ぽい、と刷毛を投げられ、慌てて受け止めたフォコに、ティナは置いてあった木材を指差して、そのまま離れていった。
「え、えーと、……こう、かな」
たどたどしく、木材に薬品を塗りつける。何とか自分の背丈くらいの板を一面塗り終えたところで、ティナが戻ってきた。
「違う」
「えっ」
「全面。浸水した時、中から腐る」
「あ、はい」
フォコはくる、と板を裏返しながら、ティナの顔を見ようとした。
「……」
が、ティナはぷい、と顔をそらす。
(な、何やろ? 嫌われとるんかな)
不安になり、フォコは尋ねてみた。
「あの、ティナさん」
「なに?」
「僕のこと、苦手……、ですか?」
「苦手」
「う」
つっけんどんに返され、フォコは言葉を失う。が、そこでようやくティナが目を向けてくれた。
「中央語、得意じゃない」
「あ……」
帽子の下に覗くティナの目は、困った様子だった。
「西方語、話して」
「……努力します」
「ん」
と、そこでまたティナは視線を隠し、ぼそ、とつぶやいた。
「……(下手くそね)」
「はい?」
「下手。こうやるの」
そう言うとティナは刷毛を手に取り、自分の前に置いてあった板に薬品を塗り始めた。
「むら、あんまり良くない。見た目悪いし、薬も無駄になるし、後でペンキ塗る時おかしくなるから」
「なるほど」
「でも筋いいよ」
「あ、ありがとうございます」
「(ありがとう)、よ」
ティナはそんな感じで、ポツポツとフォコに作業と西方語を教えてくれた。



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~ Comment ~
NoTitle
言葉の壁や訛りがあるのでしょうね~~。
確かにちょっと訛りとかが違うだけでも通じにくいのが本音ですからね。フォコくんも言葉を覚えるのが大変ですね。
(*´ω`)
確かにちょっと訛りとかが違うだけでも通じにくいのが本音ですからね。フォコくんも言葉を覚えるのが大変ですね。
(*´ω`)
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NoTitle
他の国の文化に触れる機会が少ないせいだと思っています。
例えば周囲を他国に囲まれているスイスではドイツ語やイタリア語など、4つの言語が公用語。
英語も含めれば、スイス人は5つの言葉で会話できるそうです。
日本を囲むものは海しかないですからね……。
なのでむしろ、西方に拠点を置き、南海の人と密接な交流があるこの造船所であれば、
両方の文化に触れる機会は多いはず。言語習得も、日本人が英語を学ぶよりは平易かも。
それにフォコくんは元来、頭がいい方。次話では簡単な応答くらいはできるようになっています。