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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・砂猫記 5

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    フォコの話、33話目。
    太陽のような人。




    5.
     ティナと一緒に黙々作業していると、壁時計がベルを5回鳴らした。
    「よし、今日はおしまいだ」
     アバントが声をあげ、全員に終業を伝えた。
    「おつかれっしたー」
    「おつかれさまー」
     作業をしていた皆が一人、また一人と造船所から出て行く。
    「あたしたちも、終わろう」
    「あ、(はい)」
     中央語で促したティナに、フォコは西方語で返事をしてみた。
    「……(うまくなったね。頭良いんだね、君)」
    「(ティナさんの)、……えーと、おかげです。お礼の言葉は、まだ教わって無かったですね」
    「……クス」

     造船所を出ると、既に辺りは夕暮れになってきていた。
    「わあ……」
     南海の島なので、辺り一面は当然海である。
    「初めて見たの?」
    「あ、はい」
     西に沈み行く夕日が、海をきれいな濃橙色に染め上げており、フォコはその景色に、素直に感動していた。
    「あんまり雨の無いところだから、毎日見れるよ」
    「そうなんですか」
    「あたしは飽きた」
    「……そうですか」
     フォコは彼女との会話に、どうにも距離感をつかめないでいた。
    (何やろか……、どうも話が合わせ辛いちゅうか)
    「でも」
     と、ティナは帽子をちょい、と上げて夕日に顔を向ける。
    「嫌いになったこと、一度も無い」
    「……」
    「おやっさんみたいな感じ」
    「おやっさん……、クリオさんですか」
    「うん。おやっさんは太陽みたいな人。
     近くにいると暑くて騒々しくて、正直うざい時あるけど、いないと寂しい。いると安心する。それに、真っ黄色だしね」
    「……あはは、確かにそうですね」
     砂猫楼に戻るまでの数分間、フォコとティナは淡々と会話を交わしていた。

     砂猫楼に戻ったところで、フォコの鼻は美味しそうな香りを嗅ぎつけた。
     と同時に、クリオが怒鳴ってきた。
    「遅せーぞ、火紅、ティナ!」
    「あ、すみません」
    「初日っから早速デートかよ、まったく。手ぇ早えーな、おい!」
    「ちょ、違いますて」
     顔を赤くするフォコに対し、ティナは平然としている。
    「西方語教えてた」
    「ん、そうなのか? ……(火紅。今日は他に、何を教えてもらってたんだ?)」
    「え? えーと、(木材に薬品を塗る工程を、教えてもらいました)」
    「およ?」
     すらすらと返したフォコに、クリオは目を丸くした。
    「何だよ、折角イタズラでもかましてやろうかと思ってたのによぉ。コレじゃ、からかえねーじゃねーか」
    「ちょ」
    「ま、流石ゴールド……」
     言いかけて、クリオは口をつぐむ。
    「ゴールド?」
    「……ゴールドコースト、塾、で勉強してたくらいは、ある、な」
    「何ですか、それ?」
    「ほら、央中では結構有名な学校だよ、うん。な、火紅」
     クリオは適当にごまかし、フォコに口裏を合わせるよう目配せした。
    「ええ、まあ」
     調子を合わせながら、フォコは内心突っ込んでいた。
    (何や、ゴールドコーストて。どこやねんそれっ)
    「ま、ともかくだ。飯、そろそろできるから、早くこっち来い」
    「はい」
     フォコたちが座ったところで、ルーと、クリオに良く似た兎獣人の子供3人が、料理を運んできた。
    「お待たせしました」「ましたー」
     どうやら、昼間クリオが話していた、彼の子供たちのようだ。
    「おっと、そう言や会わせてなかったな。こっち来い、三人娘」
    「はーい」
     クリオの前に子供たちが並び、フォコに向かってにっこり笑う。
    「青チョーカーしてんのが、リモナ。白チョーカーしてんのが、プルーネ。んで、赤チョーカーしてんのがペルシェだ」
    「はじめましてー」「よろしく」「ねっ」
     三人揃ってぺこりと挨拶され、フォコもつられて頭を下げる。
    「あ、ホコウ・ソレイユです。よろしく……、ね」
    「さ、みんな席に付いてくださいな」
     その間にルーが料理を運び終え、一同は座り込んだ。
    「それじゃ、ま。新しいメンバー、火紅のこれからの活躍を願って」
     クリオは杯を挙げ、音頭を取った。
    「乾杯っ!」
    「かんぱーい!」



     こうして、フォコの新たな生活が幕を開けた。
     これから17歳になるまでの3年間、フォコはこの島に住み続けることになる。

    火紅狐・砂猫記 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    実質、高校3年間と変わりませんね、14歳から3年過ごすとなると。
    多感な時期ですから、かなり深いところまで影響されるんじゃないかな、と。

    NoTitle 

    ほほう。3年間もいることになるのですか・・・・。。。
    それはそれで大変そうな。

    3年って長いような短いような。
    されど、自分というものを形成するには十分な時間でもありますね。この生活からフォコはどうなるのか。。。
    予測がつかないですね。

    NoTitle 

    女難の相……、ありますね、確かに。
    と言うかフォコくん、第2部終わりに至るまで、運の無い子です。

    ティナは僕も気に入ってるキャラですね。かわいい。

    NoTitle 

    うーむ、わしが見るに、フォコくんには、「女難の相」が出ておる(^^)

    ティナさんかわいいですな。
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