「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・初陣記 2
フォコの話、35話目。
砂猫楼の地下基地。
2.
片付けと着替えを終えたフォコとティナは、砂猫楼の地下に向かっていた。
「えっと、ティナさん」
「なに?」
「船、乗るんですよね」
「そう」
「今向かってるの、地下ですよね」
「うん」
「どうして……?」
「なにが?」
フォコが戸惑っているところに、背後から落ち着いた声がかけられた。
「確かに、誰もが船と言えば、水の上にあると考える。こんな地下にはあるはずは無いと思うだろう」
「あ、モーリスさん」
モーリスが魔杖を片手に、階段を降りてきていた。
「そう考えていれば、我々が今向かおうとしている場所は奇異に思えるだろう。
だが常識通り、単に水上に船を置いていては、海賊団、即ち秘匿性を重要視する組織には不都合が発生する」
「はあ……」
「そこで頭領は、奇想天外な方策を考え出した」
「奇想天外? それは……?」
「……」
フォコは向き直って尋ねたが、モーリスは困った顔をした。
「……あの?」
「ホコウ君。気になるのは分かるが、前に進んでくれないか。遅れると、頭領にどやされる」
「あっ、すみません」
階段を降り、砂猫楼の最下階、地下ドックに着いたところで、モーリスの予想通りにクリオの怒鳴り声が聞こえてきた。
「遅せーぞ、お前ら!」
「すいません」
「ほれ、とっとと乗れ!」
クリオに促され、フォコたちは奥へと進む。やがてフォコの視界に、真っ黒に塗られた船が入ってくる。
(うわ……、モロ海賊船って感じや。ホンマに地下に船、置いてあったんやな。でも、どうやって上に出るんやろか?)
乗り込んだところで、先に来ていたアバントが号令をかける。
「よし、点呼!」「1!」「2!」「3」「4」「……5」
続いて、フォコも応える。
「ろ、6!」
「全員いるな! それじゃ出港だ! ルー、ハッチ開けてくれ!」
「はいはーい」
クリオの指示にドックに残っていたルーが答え、壁際のレバー類を操作する。間もなく、ゴトゴトと音を立て、船の前方にあった金属製の扉、ハッチが開き始めた。
「ホコウ君、先程の質問だが」
と、ここでモーリスがフォコに話しかけてきた。
「君がもし、樽の底にあるコルク栓を拾うことになったとする」
船はハッチをくぐり、洞窟の中に入る。
「その樽がもし、君の背丈よりもずっと高く、大きいものである場合」
船が洞窟の最奥、縦穴状になった場所で停止し、ハッチが再び閉まる。
「どうやって取り出すかな?」
そしてどこからか、ドドド……、と勢い良く音を立てて、水が流れ込んできた。
「……あ、まさか」
フォコは甲板の縁から身を乗り出し、水面を見た。
「こうやって水で、船を持ち上げるんですか!?」
「その通り。これが砂嵐海賊団最大の秘密、海賊船『テンペスト』号の昇降装置だ。
ちなみに発案したのは頭領だが、装置を考案・設計したのは私だ」
そう言ってモーリスは、ニヤリと笑った。
(何か……、モーリスさん、めっちゃ嬉しそうやなぁ。いつもムスっとしとるけど、こう言う時ノリノリになるタイプなんやな。今ここで海賊団の一員やって言われたら、確かにうなずけるなぁ。
……あ、じゃあティナさんも?)
そう思ってティナの方を向いてみたが、ティナはマストにしがみつき、猫耳を伏せながらプルプルと震えていた。
(……っちゅうわけでも無いみたいやな)
そうこうしているうちに、船は縦穴の一番上まで上がりきり、海へと漕ぎ出した。
「行くぞ! 目標、南南西、カトン島! 取り舵一杯!」
「うっす!」
クリオの命令に従い、操舵手のジャールが舵を回した。
「……はぁ」
ここでようやくマストから離れたティナを見て、フォコが声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「……うん。あの装置、好きじゃない。グラグラ揺れて怖い」
それを聞いて、モーリスもやってくる。
「前回聞いた意見を参考に、調整してみたのだが……。まだ耐えうる程度ではない、と」
「ううん、前よりはまし」
「そうか。引き続き、調整してみよう」
モーリスは懐からメモを取り出し、ティナの感想をまとめた。
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砂猫楼の地下基地。
2.
片付けと着替えを終えたフォコとティナは、砂猫楼の地下に向かっていた。
「えっと、ティナさん」
「なに?」
「船、乗るんですよね」
「そう」
「今向かってるの、地下ですよね」
「うん」
「どうして……?」
「なにが?」
フォコが戸惑っているところに、背後から落ち着いた声がかけられた。
「確かに、誰もが船と言えば、水の上にあると考える。こんな地下にはあるはずは無いと思うだろう」
「あ、モーリスさん」
モーリスが魔杖を片手に、階段を降りてきていた。
「そう考えていれば、我々が今向かおうとしている場所は奇異に思えるだろう。
だが常識通り、単に水上に船を置いていては、海賊団、即ち秘匿性を重要視する組織には不都合が発生する」
「はあ……」
「そこで頭領は、奇想天外な方策を考え出した」
「奇想天外? それは……?」
「……」
フォコは向き直って尋ねたが、モーリスは困った顔をした。
「……あの?」
「ホコウ君。気になるのは分かるが、前に進んでくれないか。遅れると、頭領にどやされる」
「あっ、すみません」
階段を降り、砂猫楼の最下階、地下ドックに着いたところで、モーリスの予想通りにクリオの怒鳴り声が聞こえてきた。
「遅せーぞ、お前ら!」
「すいません」
「ほれ、とっとと乗れ!」
クリオに促され、フォコたちは奥へと進む。やがてフォコの視界に、真っ黒に塗られた船が入ってくる。
(うわ……、モロ海賊船って感じや。ホンマに地下に船、置いてあったんやな。でも、どうやって上に出るんやろか?)
乗り込んだところで、先に来ていたアバントが号令をかける。
「よし、点呼!」「1!」「2!」「3」「4」「……5」
続いて、フォコも応える。
「ろ、6!」
「全員いるな! それじゃ出港だ! ルー、ハッチ開けてくれ!」
「はいはーい」
クリオの指示にドックに残っていたルーが答え、壁際のレバー類を操作する。間もなく、ゴトゴトと音を立て、船の前方にあった金属製の扉、ハッチが開き始めた。
「ホコウ君、先程の質問だが」
と、ここでモーリスがフォコに話しかけてきた。
「君がもし、樽の底にあるコルク栓を拾うことになったとする」
船はハッチをくぐり、洞窟の中に入る。
「その樽がもし、君の背丈よりもずっと高く、大きいものである場合」
船が洞窟の最奥、縦穴状になった場所で停止し、ハッチが再び閉まる。
「どうやって取り出すかな?」
そしてどこからか、ドドド……、と勢い良く音を立てて、水が流れ込んできた。
「……あ、まさか」
フォコは甲板の縁から身を乗り出し、水面を見た。
「こうやって水で、船を持ち上げるんですか!?」
「その通り。これが砂嵐海賊団最大の秘密、海賊船『テンペスト』号の昇降装置だ。
ちなみに発案したのは頭領だが、装置を考案・設計したのは私だ」
そう言ってモーリスは、ニヤリと笑った。
(何か……、モーリスさん、めっちゃ嬉しそうやなぁ。いつもムスっとしとるけど、こう言う時ノリノリになるタイプなんやな。今ここで海賊団の一員やって言われたら、確かにうなずけるなぁ。
……あ、じゃあティナさんも?)
そう思ってティナの方を向いてみたが、ティナはマストにしがみつき、猫耳を伏せながらプルプルと震えていた。
(……っちゅうわけでも無いみたいやな)
そうこうしているうちに、船は縦穴の一番上まで上がりきり、海へと漕ぎ出した。
「行くぞ! 目標、南南西、カトン島! 取り舵一杯!」
「うっす!」
クリオの命令に従い、操舵手のジャールが舵を回した。
「……はぁ」
ここでようやくマストから離れたティナを見て、フォコが声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「……うん。あの装置、好きじゃない。グラグラ揺れて怖い」
それを聞いて、モーリスもやってくる。
「前回聞いた意見を参考に、調整してみたのだが……。まだ耐えうる程度ではない、と」
「ううん、前よりはまし」
「そうか。引き続き、調整してみよう」
モーリスは懐からメモを取り出し、ティナの感想をまとめた。



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