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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・初陣記 3

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    フォコの話、36話目。
    南海の内戦事情。




    3.
     現場に到着するまでまだ時間があったので、フォコはクリオに尋ねてみた。
    「これから行くカトン島って、何があるんですか? 何で、襲われてるんでしょうか?」
    「ざっくり説明するとだ、綿花の産地だな。質はそこそこ程度だが、良く育つから産出量も多い。オレと同じ、西方からの商人が栽培と収穫をして、西方に持って帰って紡績、出荷してるんだ。
     レヴィア軍が襲ったのも、それが目的だろう。中央とかじゃ、これから冬になってくるから、需要も高まってくる。ブン獲って売りさばきゃ、それなりの稼ぎになる。
     ……まったく、ドッチが海賊なんだかな」
     クリオはフンと鼻を鳴らし、南海の事情を語ってくれた。
    「襲ってくる事情は大体、そんなもんだ。南海は結構色んなもんを幅広く産出してる。
     塩を初めとして、魚介類、水産物、船舶。陸でも綿花、青果物、茶、他にも色々。そして何より、黄金なんかの貴金属を産出する鉱床が、あっちこっちにある」
    「金……、ですか」
    「お前さんは知ってるかどうか分からんが、ここで商売してたロックスってオッサンが、ゴールドマン商会の持ってた鉱床を掘らせてもらおうと直談判したコトもあるんだ」
    「ロックス……、聞いたこと、あるような、……うーん?」
     フォコは記憶を探るが、はっきりとは思い出せなかった。
    「今はかなり儲かってるらしいぜ、ソコ。予想してた以上に採れてるらしい。
     ま、ともかく。色んなもんが採れる土地柄だから、それを奪おうってバカもいる。そのバカの塊が、レヴィア王国だ。元々はそこそこ程度に大きい網元だったんだが、先々々代くらいから勘違いしだしてな、周りの島を襲い始めたんだ。
     で、襲った島を領土にして、先々代くらいの時に王国を名乗った。それから三代、同じよーに繰り返してる。今じゃすっかり、南海の嫌われ者国家だ」
    「その金が掘れる島も、襲われたんですか?」
    「ああ、いや……。ソコら辺はまた、別の事情が絡んでくるんだ」
     クリオは猫耳を撫で付けながら、そちらの事情についても詳しく説明してくれた。
    「レヴィア軍が襲うのは、基本的に他の大国の息がかかってないところだ。さっき言ってたトコは、元々中央政府の持ち物だからな。んなトコ襲ったら、中央政府にボコられる。だからそっちを襲うコトは、まずない。
     後、南海にはもう一つ、ベールってでかい国がある。ソッチはまだ穏健派だが、変にプライドが高い。基本的にやられたらやり返すお国柄だから、以前に一度、レヴィアがベール王国の領土にちょっかいを出して、戦争になりかけたコトもある。ま、レヴィアも懲りたみたいで、それ以来両国がケンカになったコトはねーけどな。
     ……っと、もうそろそろか」
     クリオは単眼鏡を取り出し、前方を眺めた。
    「……チッ、派手にやってやがるぜ」
    「え……」
    「ほれ、見てみろ」
     単眼鏡を渡され、フォコは覗いてみた。
    「……!」

     後に聞くところによれば、カトン島は綿花畑で覆われた、牧歌的な島だったらしい。
     らしい、と言うのは、フォコはクリオのところにいた間、一度もその光景を見ることができなかったからだ。
    「……ひどいことしはる」
    「だな」
     フォコの目に入ったのは、綿花畑を剣で乱暴に刈り取り、火を放つ兵士たちの姿だった。
    「どうも今回のは、単に綿花畑を徴発するって目的だけじゃねーな。じゃなきゃ、あんな風に畑をズタズタになんかしやしねー。
     どう思う、アバント」
     クリオは同様に、単眼鏡で様子を伺っていたアバントに尋ねる。
    「北に泊めてある船から、木材やら何やら運び出してるな。どうもあいつら、あの島を基地にするつもりらしい」
    「基地ぃ? 何でまた……」
     言いかけて、クリオは腕を組んで考え込む。
    「……そうか、そう言うつもりか」
    「どう言う……?」
     フォコとアバントから同時に尋ねられ、クリオはトントンと船の手すりを指で叩きながら説明した。
    「この辺りはレヴィアとベール、他いくつかの国の中間地点になってる。好戦的なヤツにとっちゃ、いち早く抑えて領土拡大の足かけにしたいトコなんだよ。
     だがソコを抑えられちゃ、他の国はたまったもんじゃねー。当然、他の国との関係は悪化するし、そうなりゃ略奪どころじゃなくなる。だからこれまでは、下手に手出しなんかしなかった」
    「これまでは?」
    「だけども去年か一昨年くらいだっけか……、レヴィア王国が代替わりしたんだ。
     新しく女王になったアイシャってのがまた、先代、先々代に輪をかけてイケイケなバカ女でな。他国侵略をモロに明言したんだ。
     恐らく今、カトン島を制圧してるのは、その下準備だろう。放っときゃ後々、事態が悪化するだろうな」
    「悪化だと?」
    「分かんだろ? レヴィア軍の駐屯地がこんなトコにできてみろよ。他の国が対抗しないワケがねー」
    「つまり、もっと略奪する回数が増えるってことですね」
    「そう言うこった。さてと」
     話し終えたクリオは、くるりとモーリスの方に向き直った。
    「モーリス! 準備できたか!?」
    「できています。いつでもどうぞ」
     いつの間にかモーリスが握る魔杖が、紫色の光を帯びていた。
    「目視できるくらいになったら、ヤツらが今積み上げてる建築資材に向けて撃ち込め!」
    「了解」
     間もなく、煙を上げるカトン島が、単眼鏡を使わなくても視界に入ってくる。
     すかさず、モーリスが叫んだ。
    「揺れるぞ! 皆、何かにつかまれ! 『ウォータードロップ』!」
     次の瞬間、船がぐらりと揺れ、周囲の海水が山のように盛り上がった。
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