「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・初陣記 4
フォコの話、37話目。
フォコ、初めての出陣。
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フォコ、初めての出陣。
4.
盛り上がった海水は空中で球体状に固まり、クリオの指定した方角へと飛んで行く。
そしてそのまま、積まれた建築資材にぶつかり、木っ端微塵に吹き飛ばした。
「……っしゃ、命中ッ!」
クリオは握り拳を挙げ、続いて号令をかける。
「着岸次第、畑を荒らしてるヤツらを蹴散らせ! ヤツらの乗ってきた船の方に追いやれ!」
「了解!」
クリオの号令に従い、皆が武器を手に取る。と、おたおたしていたフォコに、モーリスが声をかけてきた。
「ホコウ君、戦闘経験は?」
「い、いえ」
「ふむ。それなら私と一緒に、後方支援を……」
モーリスが提案しかけたところに、クリオが声をかけてくる。
「おい火紅! お前さん、丸腰で行くつもりか!? ほれ!」
クリオはフォコに向かって、鞘に収めた曲刀を投げてきた。
「わ、わっ、……と」
曲刀をつかまされたフォコを見て、モーリスは肩をすくめた。
「どうやら頭領は、君に後方支援をさせるつもりは無いらしい」
「……みたいですね」
「まあ……、死なないようにだけ、気をつけることだ。危なくなったらこの船まで逃げる。これを忘れないように」
「……はい」
フォコはしょぼくれた顔で、それだけ返事した。
着岸するとすぐ、乗っていた皆は船を飛び降り、混乱している兵士たちに向かって走り出した。
「ほれ、お前も行け!」
「あ、え、はい」
フォコは乗った時のように、船の側面につけられたはしごを降りようとした。
「何トロトロやってやがる! こっちから飛べッ!」
「へっ」
次の瞬間、フォコはブン、と船の外へと投げ飛ばされた。
「う、……うわあああ!?」
無事に着地などできるはずも無く、フォコはどさ、と音を立てて砂浜に尻から落っこちた。
「うう……、痛たた。尻尾折れるやんか……、もう」
「ボーっとしてんな! とっとと行け、行けッ!」
船の上から、クリオが怒鳴りつける。フォコは仕方なく、痛む尻と尻尾をさすりながら駆け出した。
「……うわぁ」
畑の方は既に修羅場と化しており、あちこちに兵士の死体と血の跡があった。
「このぉッ!」
「うぎゃあぁ……ッ」
悲鳴のした方を向くと、アミルが槍で兵士を貫いているのが見えた。
「……っ」
その向こうで、マナが柄の長い鎚を振り下ろし、別の兵士の頭を、兜ごと叩き割っている。
(こわ、ぁ……)
普段の、明るく気さくな二人を知っているだけに、その鬼神のような動きは、フォコに言いようの無い恐ろしさを感じさせた。
「……う、うえ」
不意に強い吐き気がフォコを襲い、思わずその場に座り込む。
「危ない!」
と、前方からティナの声と、ヒュンと鋭い音を立てる何かが飛んできた。
「……え、っ」
どうにか吐き気を抑えて背後を振り向くと、腹部に刺さった矢から、ドクドクと血を吹き出している兵士の姿が目に入った。
今度は吐き気を我慢し切れなかった。
島に乗り込んでから、1時間が経った。
「ひぃ……、ひぃ……」
フォコは煙の漂う、焼かれた畑の陰に座り込んでいた。
「お」
と、クリオの声がする。
「生きてたか」
顔を上げると、頭巾や口布、衣服の所々に赤い染みを付けた、血の滴る曲刀を手にしたクリオの姿があった。
「……、ぃ」
はい、と言ったつもりだったが、声が出ない。
「立てるか?」
「……ぃぇ」
今度もいいえ、と言いたかったのだが、恐怖で絞まった喉からは、引きつった声しか漏れてこない。
「そっか」
それでも、クリオは分かってくれたらしい。
「おーい、こっち来てくれ!」
「何でしょう、おやっさん」
間もなく、ジャールがやってくる。
「コイツ動けねーから、背負ってやってくれ。ケガは無いみてーだが、腰が抜けちまってる」
「うっす」
ジャールはひょいとフォコを背負い、船まで運んでくれた。
「……ど、う、なったん、です、か」
背負われて安心したのか、フォコはようやく、まともな言葉を搾り出せた。
「レヴィア軍か? 逃げたよ」
「そう、ですか。ここの、人たちは?」
「……4人、死んだらしい。後、軍から奪い返した綿花とかは受け取ってもらえなかった」
「え……?」
「ここまで荒らされちゃ、立ち直れないんだとさ。だからもう、いらないと。
諦めて西方に帰ると言っていた。元々住んでた人も、別の島に引っ越すらしい」
「……」
その答えに、フォコはまた黙り込んだ。
「恐らくまた、レヴィア軍はこっちに来るだろう。
でも次は抵抗する人間がいないし、俺たちが来ても無駄だろうな。
残念だよ」
盛り上がった海水は空中で球体状に固まり、クリオの指定した方角へと飛んで行く。
そしてそのまま、積まれた建築資材にぶつかり、木っ端微塵に吹き飛ばした。
「……っしゃ、命中ッ!」
クリオは握り拳を挙げ、続いて号令をかける。
「着岸次第、畑を荒らしてるヤツらを蹴散らせ! ヤツらの乗ってきた船の方に追いやれ!」
「了解!」
クリオの号令に従い、皆が武器を手に取る。と、おたおたしていたフォコに、モーリスが声をかけてきた。
「ホコウ君、戦闘経験は?」
「い、いえ」
「ふむ。それなら私と一緒に、後方支援を……」
モーリスが提案しかけたところに、クリオが声をかけてくる。
「おい火紅! お前さん、丸腰で行くつもりか!? ほれ!」
クリオはフォコに向かって、鞘に収めた曲刀を投げてきた。
「わ、わっ、……と」
曲刀をつかまされたフォコを見て、モーリスは肩をすくめた。
「どうやら頭領は、君に後方支援をさせるつもりは無いらしい」
「……みたいですね」
「まあ……、死なないようにだけ、気をつけることだ。危なくなったらこの船まで逃げる。これを忘れないように」
「……はい」
フォコはしょぼくれた顔で、それだけ返事した。
着岸するとすぐ、乗っていた皆は船を飛び降り、混乱している兵士たちに向かって走り出した。
「ほれ、お前も行け!」
「あ、え、はい」
フォコは乗った時のように、船の側面につけられたはしごを降りようとした。
「何トロトロやってやがる! こっちから飛べッ!」
「へっ」
次の瞬間、フォコはブン、と船の外へと投げ飛ばされた。
「う、……うわあああ!?」
無事に着地などできるはずも無く、フォコはどさ、と音を立てて砂浜に尻から落っこちた。
「うう……、痛たた。尻尾折れるやんか……、もう」
「ボーっとしてんな! とっとと行け、行けッ!」
船の上から、クリオが怒鳴りつける。フォコは仕方なく、痛む尻と尻尾をさすりながら駆け出した。
「……うわぁ」
畑の方は既に修羅場と化しており、あちこちに兵士の死体と血の跡があった。
「このぉッ!」
「うぎゃあぁ……ッ」
悲鳴のした方を向くと、アミルが槍で兵士を貫いているのが見えた。
「……っ」
その向こうで、マナが柄の長い鎚を振り下ろし、別の兵士の頭を、兜ごと叩き割っている。
(こわ、ぁ……)
普段の、明るく気さくな二人を知っているだけに、その鬼神のような動きは、フォコに言いようの無い恐ろしさを感じさせた。
「……う、うえ」
不意に強い吐き気がフォコを襲い、思わずその場に座り込む。
「危ない!」
と、前方からティナの声と、ヒュンと鋭い音を立てる何かが飛んできた。
「……え、っ」
どうにか吐き気を抑えて背後を振り向くと、腹部に刺さった矢から、ドクドクと血を吹き出している兵士の姿が目に入った。
今度は吐き気を我慢し切れなかった。
島に乗り込んでから、1時間が経った。
「ひぃ……、ひぃ……」
フォコは煙の漂う、焼かれた畑の陰に座り込んでいた。
「お」
と、クリオの声がする。
「生きてたか」
顔を上げると、頭巾や口布、衣服の所々に赤い染みを付けた、血の滴る曲刀を手にしたクリオの姿があった。
「……、ぃ」
はい、と言ったつもりだったが、声が出ない。
「立てるか?」
「……ぃぇ」
今度もいいえ、と言いたかったのだが、恐怖で絞まった喉からは、引きつった声しか漏れてこない。
「そっか」
それでも、クリオは分かってくれたらしい。
「おーい、こっち来てくれ!」
「何でしょう、おやっさん」
間もなく、ジャールがやってくる。
「コイツ動けねーから、背負ってやってくれ。ケガは無いみてーだが、腰が抜けちまってる」
「うっす」
ジャールはひょいとフォコを背負い、船まで運んでくれた。
「……ど、う、なったん、です、か」
背負われて安心したのか、フォコはようやく、まともな言葉を搾り出せた。
「レヴィア軍か? 逃げたよ」
「そう、ですか。ここの、人たちは?」
「……4人、死んだらしい。後、軍から奪い返した綿花とかは受け取ってもらえなかった」
「え……?」
「ここまで荒らされちゃ、立ち直れないんだとさ。だからもう、いらないと。
諦めて西方に帰ると言っていた。元々住んでた人も、別の島に引っ越すらしい」
「……」
その答えに、フォコはまた黙り込んだ。
「恐らくまた、レヴィア軍はこっちに来るだろう。
でも次は抵抗する人間がいないし、俺たちが来ても無駄だろうな。
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NoTitle
国破れて山河在り。
なかなか戦争は厳しいものですね。
フォコくんも初陣として戦場の厳しさを知ったのではないでしょうかね。
なかなか戦争は厳しいものですね。
フォコくんも初陣として戦場の厳しさを知ったのではないでしょうかね。
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NoTitle
知りたくもない厳しさも知ってしまいましたし、多難はまだまだ続くようです。