「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・初陣記 5
フォコの話、38話目。
海賊の存在理由。
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海賊の存在理由。
5.
既に海賊船はカトン島を離れ、一同を乗せて本拠地へと戻っている最中だったが、フォコの心中はまだ、収まってはいなかった。
「大丈夫?」
そこに、ティナが心配そうな顔で声をかけてきた。
「あ……、はい」
「おつかれ」
「ど、も。あの、さっきは、その、ありがとうございました」
「え? ……ああ、あの時の。いいよ、別に」
そのまま、ティナはフォコの横にちょこんと座る。
「最初は大変だけど、そのうち慣れるよ」
「……そう、ですかね」
自分があの殺伐とした場に馴染む様子が想像できず、フォコはくしゃ、と頭をかく。
「さっき、ジャールさんから聞いたんですけど」
「何を?」
「結局、無駄になっちゃったらしいですね、カトン島から兵士を追い払ったのって」
「らしいね」
「意味、あるんですか?」
「え?」
ようやく落ち着いてきたフォコの心に、強い疑念が浮かぶ。
「人が何人も死んで、あの島も結局はレヴィア王国のものになっちゃうなら、僕たちが来た意味、無いじゃないですか。
おまけに奪った品、返そうとしたんでしょう? 僕たちに何にも、得られる物は無いじゃないですか。
一体何のために、こんなことしてるんですか?」
「……」
その問いに、ティナは黙り込む。
代わりに答えたのは、モーリスだった。
「今回の件に関しては、憶測で言うしかないことだが――恐らく私たちが向かわねば、もっとカトン島側の人が死んでいたかも知れない。この件で歯止めをかけておかねば、レヴィア王国の暴挙は加速していくかも知れない。
在野の人間の抵抗力として、我々は動いているのだ。実際、感謝されたこともある」
「感謝? ……される、って、うーん……、腑に落ちないです」
「ふむ」
「だって、僕たちのせいで死んだ人もいるわけじゃないですか。その人の友達とか、遺族とかからは、恨まれるでしょう?」
「だろうな」
「もっとこう、穏便な解決策は無いんですか? 話し合いするとか、交渉するとか」
フォコの意見に、モーリスは残念そうに笑う。
「彼らには暴力があり、在野の側にはそれが無い。交渉できると、思うかね?」
「……」
「上質で、高潔な手法が使えるのは、相手もそうある場合のみだ。世界の皆がそうあってくれれば幸いだが、実際はそうではない。
我々の隣人たちの多くは、乱暴者なのだ」
聞くところによれば、クリオは今現在、海賊行為で直接の利益を得ようとは考えていないのだと言う。
昔は私利私欲のためにやっていたこともあると、自分でそうは言っていたが、南海におけるこの行為は、あくまで南海の治安維持のためにやっているのだそうだ。
現在の南海は犯罪の巣窟であり、まともな商人は一年と続かない。金品を強奪されるか地所を占拠されるかして、破産・撤退に追い込まれるのだ。
非常に豊かな資源に恵まれていながら、各地にはびこる悪漢のために、その資源を活かしきれない。西方の商人たちも、南海の善良な農民・漁民ら生産者も、その現状に苦しんでいるのだ。
勿論商人たち、生産者たちも、ただやられっぱなしになっているばかりではなく、個々に自衛軍、自警団を構えて対抗する者もいた。
だが、その「反抗」は逆に、レヴィア王国の怒りを買うことになった。そうした対抗措置を採った者に対し、王国は大量の兵士を差し向け、無理矢理に押し潰したのだ。
単に略奪・占拠された時よりもより多くの被害と死者が出たことで、南海に出向していた商人の多くは萎縮し、次第に引き上げ始めた。
それを良しとしなかったのが、クリオである。
このまま南海と別地域との交流が廃れれば、この「砂と海の世界」にある折角の資源は、ならず者国家の私腹を肥やすためだけに使われることになる。そうなればさらに南海の平和は失われ、さらに交流が廃れていくと言う悪循環に陥っていく。
その悪循環を回避し自分や他の商人たちが満足に商売を成せるように、また、報復を受けないように、クリオはどこの商人や生産者、島や国にも属さない「海賊」として活動しているのだ。
「……と言うわけだ」
「話は分かりました。……けど」
モーリスの説明を聞いても、フォコはなお納得が行かない。
「……反論できないですけど、……でも、間違ってる」
「そうだろうな。私もそう思う」
フォコの意見に、モーリスは素直にうなずいた。
「……だが現状では、これ以上に効果のある方策は無い。間違っていても、やるしかない」
モーリスがそう答えたところで、目視できる程度にナラン島が近付いてきた。
既に海賊船はカトン島を離れ、一同を乗せて本拠地へと戻っている最中だったが、フォコの心中はまだ、収まってはいなかった。
「大丈夫?」
そこに、ティナが心配そうな顔で声をかけてきた。
「あ……、はい」
「おつかれ」
「ど、も。あの、さっきは、その、ありがとうございました」
「え? ……ああ、あの時の。いいよ、別に」
そのまま、ティナはフォコの横にちょこんと座る。
「最初は大変だけど、そのうち慣れるよ」
「……そう、ですかね」
自分があの殺伐とした場に馴染む様子が想像できず、フォコはくしゃ、と頭をかく。
「さっき、ジャールさんから聞いたんですけど」
「何を?」
「結局、無駄になっちゃったらしいですね、カトン島から兵士を追い払ったのって」
「らしいね」
「意味、あるんですか?」
「え?」
ようやく落ち着いてきたフォコの心に、強い疑念が浮かぶ。
「人が何人も死んで、あの島も結局はレヴィア王国のものになっちゃうなら、僕たちが来た意味、無いじゃないですか。
おまけに奪った品、返そうとしたんでしょう? 僕たちに何にも、得られる物は無いじゃないですか。
一体何のために、こんなことしてるんですか?」
「……」
その問いに、ティナは黙り込む。
代わりに答えたのは、モーリスだった。
「今回の件に関しては、憶測で言うしかないことだが――恐らく私たちが向かわねば、もっとカトン島側の人が死んでいたかも知れない。この件で歯止めをかけておかねば、レヴィア王国の暴挙は加速していくかも知れない。
在野の人間の抵抗力として、我々は動いているのだ。実際、感謝されたこともある」
「感謝? ……される、って、うーん……、腑に落ちないです」
「ふむ」
「だって、僕たちのせいで死んだ人もいるわけじゃないですか。その人の友達とか、遺族とかからは、恨まれるでしょう?」
「だろうな」
「もっとこう、穏便な解決策は無いんですか? 話し合いするとか、交渉するとか」
フォコの意見に、モーリスは残念そうに笑う。
「彼らには暴力があり、在野の側にはそれが無い。交渉できると、思うかね?」
「……」
「上質で、高潔な手法が使えるのは、相手もそうある場合のみだ。世界の皆がそうあってくれれば幸いだが、実際はそうではない。
我々の隣人たちの多くは、乱暴者なのだ」
聞くところによれば、クリオは今現在、海賊行為で直接の利益を得ようとは考えていないのだと言う。
昔は私利私欲のためにやっていたこともあると、自分でそうは言っていたが、南海におけるこの行為は、あくまで南海の治安維持のためにやっているのだそうだ。
現在の南海は犯罪の巣窟であり、まともな商人は一年と続かない。金品を強奪されるか地所を占拠されるかして、破産・撤退に追い込まれるのだ。
非常に豊かな資源に恵まれていながら、各地にはびこる悪漢のために、その資源を活かしきれない。西方の商人たちも、南海の善良な農民・漁民ら生産者も、その現状に苦しんでいるのだ。
勿論商人たち、生産者たちも、ただやられっぱなしになっているばかりではなく、個々に自衛軍、自警団を構えて対抗する者もいた。
だが、その「反抗」は逆に、レヴィア王国の怒りを買うことになった。そうした対抗措置を採った者に対し、王国は大量の兵士を差し向け、無理矢理に押し潰したのだ。
単に略奪・占拠された時よりもより多くの被害と死者が出たことで、南海に出向していた商人の多くは萎縮し、次第に引き上げ始めた。
それを良しとしなかったのが、クリオである。
このまま南海と別地域との交流が廃れれば、この「砂と海の世界」にある折角の資源は、ならず者国家の私腹を肥やすためだけに使われることになる。そうなればさらに南海の平和は失われ、さらに交流が廃れていくと言う悪循環に陥っていく。
その悪循環を回避し自分や他の商人たちが満足に商売を成せるように、また、報復を受けないように、クリオはどこの商人や生産者、島や国にも属さない「海賊」として活動しているのだ。
「……と言うわけだ」
「話は分かりました。……けど」
モーリスの説明を聞いても、フォコはなお納得が行かない。
「……反論できないですけど、……でも、間違ってる」
「そうだろうな。私もそう思う」
フォコの意見に、モーリスは素直にうなずいた。
「……だが現状では、これ以上に効果のある方策は無い。間違っていても、やるしかない」
モーリスがそう答えたところで、目視できる程度にナラン島が近付いてきた。



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