「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・初陣記 6
フォコの話、39話目。
引き受けた仕事。
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引き受けた仕事。
6.
カトン島の一件から、数日後。
「ども」
フォコはモーリスの部屋を訪れていた。
「どうした、ホコウ君。休日だと言うのに、私に何の用が?」
「えっと……」
フォコはモーリスの、整然とした書籍だらけの部屋を見て、モーリスについて抱えていた疑問を濃くした。
「どうしてモーリスさんは、こちらに?」
「と言うと?」
「その……、モーリスさん、魔術使えましたよね」
「ああ」
「僕の知る限り、魔術って相当、頭が良いと言うか、ちゃんと勉強をしてる人じゃないと使えない、と思うんです。
普段からモーリスさんは机仕事が多いですし、やっぱりちゃんと学校とか行ってたのかな、って」
「その通りだ。確かに私は西方の、そこそこ程度には名の知れた学校を卒業している」
モーリスの回答に、フォコは続けて質問をぶつける。
「じゃあ何で、こんな辺鄙(へんぴ)なとこにいて、こんな仕事を? もっといい仕事、できるんじゃないですか?」
「ふむ」
モーリスは分厚い眼鏡を外し、眉間を揉みながら質問を返してきた。
「では聞くが、いい仕事とは何かね?」
「えっ?」
「高給が取れる仕事か? 特定の人間にしかできない仕事か? 一般には確かに、それらはいい仕事と認識されているだろう。
確かに以前、私はそう言った職業に就いていた。ある王国直属の船舶設計・製造の技術士官と言う、非常に高い給金を得られ、かつ、限られた人間しかなれない職業に、だ。
だが、そこでの仕事は汚職と賄賂にまみれており、根っからの技術屋だった私は、その職に就いていた間ずっと、納得の行く仕事が行えなかった。
いや、それどころか、私の造る船に、到底船の性能や快適性を向上させるとは思えない、明らかに賄賂目的であったり、足の引っ張りであったりするような機能や装備を、無意味に付けさせる職場の体質に辟易し、とうとう船を造るのが嫌になってしまった。線一本、引きたく無くなるほどにな」
そこでモーリスは眼鏡をかけ直し、肩をすくめた。
「そんな私に声をかけてきたのは、頭領だ。
すっかり気が滅入って、自宅に閉じこもっていた私のところにいきなり乗り込んできて、『オレんトコで設計士やれ』と命令してきたのだ」
「それはまた、おやっさんらしいと言うか……」
「ああ、依頼でもなく、交渉でもなく、いきなり命令形だったからな。
面食らったが、実際こちらに来てみて、それまで抱えていた鬱憤は吹き飛んだ。ここには私の仕事を邪魔するような要素が無いし、思いついたアイデアを、頭領は十二分にバックアップしてくれる。
給金や交通の便と言う面では前職より悪いが、私にとってはこれが良い仕事だ。流石に海賊行為までするとは思っていなかったが、ね」
「なるほど……」
満足そうに語ったモーリスに、フォコはしみじみとうなずくしかなかった。
「……そうだ、ホコウ君」
と、モーリスは立ち上がり、本棚に向かう。
「私が本格的に魔術を学んだのは、実はこちらに来てからなんだ」
「え、そうなんですか?」
「勿論かじる程度のことは士官学校で学んではいたが、こちらに来てから必要だと感じたからな。実際、船の航行に魔術を取り入れてみたところ、非常に速い速度での航行を可能にしたし、白兵戦においても有効だ。
ホコウ君、君にも素質はありそうだから、学んでみてはどうかね?」
「……そうですね、教えてもらってもいいですか? あ、魔術だけじゃなくて、そのー、僕、学校に行ってないんで、他にも教えてほしいんです、けど」
「ふむ」
それを聞いたモーリスは、ふっと顔をほころばせた。
「私に、先生になってほしいと?」
「ええ。モーリスさんなら、是非」
「……了承した。いいだろう、生徒君」
モーリスは本を一冊取り出し、フォコの前に座り直した。
「では早速、始めようか」
次々に困難に見舞われ、様々な混乱と葛藤を抱えて、フォコは戸惑い続ける。だが、それでも少しずつ環境に馴染み、様々なことを吸収していく。
彼の、不条理に満ちた青春は、まだまだ続く。
火紅狐・初陣記 終
カトン島の一件から、数日後。
「ども」
フォコはモーリスの部屋を訪れていた。
「どうした、ホコウ君。休日だと言うのに、私に何の用が?」
「えっと……」
フォコはモーリスの、整然とした書籍だらけの部屋を見て、モーリスについて抱えていた疑問を濃くした。
「どうしてモーリスさんは、こちらに?」
「と言うと?」
「その……、モーリスさん、魔術使えましたよね」
「ああ」
「僕の知る限り、魔術って相当、頭が良いと言うか、ちゃんと勉強をしてる人じゃないと使えない、と思うんです。
普段からモーリスさんは机仕事が多いですし、やっぱりちゃんと学校とか行ってたのかな、って」
「その通りだ。確かに私は西方の、そこそこ程度には名の知れた学校を卒業している」
モーリスの回答に、フォコは続けて質問をぶつける。
「じゃあ何で、こんな辺鄙(へんぴ)なとこにいて、こんな仕事を? もっといい仕事、できるんじゃないですか?」
「ふむ」
モーリスは分厚い眼鏡を外し、眉間を揉みながら質問を返してきた。
「では聞くが、いい仕事とは何かね?」
「えっ?」
「高給が取れる仕事か? 特定の人間にしかできない仕事か? 一般には確かに、それらはいい仕事と認識されているだろう。
確かに以前、私はそう言った職業に就いていた。ある王国直属の船舶設計・製造の技術士官と言う、非常に高い給金を得られ、かつ、限られた人間しかなれない職業に、だ。
だが、そこでの仕事は汚職と賄賂にまみれており、根っからの技術屋だった私は、その職に就いていた間ずっと、納得の行く仕事が行えなかった。
いや、それどころか、私の造る船に、到底船の性能や快適性を向上させるとは思えない、明らかに賄賂目的であったり、足の引っ張りであったりするような機能や装備を、無意味に付けさせる職場の体質に辟易し、とうとう船を造るのが嫌になってしまった。線一本、引きたく無くなるほどにな」
そこでモーリスは眼鏡をかけ直し、肩をすくめた。
「そんな私に声をかけてきたのは、頭領だ。
すっかり気が滅入って、自宅に閉じこもっていた私のところにいきなり乗り込んできて、『オレんトコで設計士やれ』と命令してきたのだ」
「それはまた、おやっさんらしいと言うか……」
「ああ、依頼でもなく、交渉でもなく、いきなり命令形だったからな。
面食らったが、実際こちらに来てみて、それまで抱えていた鬱憤は吹き飛んだ。ここには私の仕事を邪魔するような要素が無いし、思いついたアイデアを、頭領は十二分にバックアップしてくれる。
給金や交通の便と言う面では前職より悪いが、私にとってはこれが良い仕事だ。流石に海賊行為までするとは思っていなかったが、ね」
「なるほど……」
満足そうに語ったモーリスに、フォコはしみじみとうなずくしかなかった。
「……そうだ、ホコウ君」
と、モーリスは立ち上がり、本棚に向かう。
「私が本格的に魔術を学んだのは、実はこちらに来てからなんだ」
「え、そうなんですか?」
「勿論かじる程度のことは士官学校で学んではいたが、こちらに来てから必要だと感じたからな。実際、船の航行に魔術を取り入れてみたところ、非常に速い速度での航行を可能にしたし、白兵戦においても有効だ。
ホコウ君、君にも素質はありそうだから、学んでみてはどうかね?」
「……そうですね、教えてもらってもいいですか? あ、魔術だけじゃなくて、そのー、僕、学校に行ってないんで、他にも教えてほしいんです、けど」
「ふむ」
それを聞いたモーリスは、ふっと顔をほころばせた。
「私に、先生になってほしいと?」
「ええ。モーリスさんなら、是非」
「……了承した。いいだろう、生徒君」
モーリスは本を一冊取り出し、フォコの前に座り直した。
「では早速、始めようか」
次々に困難に見舞われ、様々な混乱と葛藤を抱えて、フォコは戸惑い続ける。だが、それでも少しずつ環境に馴染み、様々なことを吸収していく。
彼の、不条理に満ちた青春は、まだまだ続く。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ま、確かに自分にとってのいい仕事っていうのは違いますからね。
私もよくわかります。
今の仕事が最適かどうかは私自身も分からないですが。
それでもこれ以外で金を稼ぐ方法を知らんので。
やっているところもあります。
天職って見つかると嬉しいものですけどね。
私もよくわかります。
今の仕事が最適かどうかは私自身も分からないですが。
それでもこれ以外で金を稼ぐ方法を知らんので。
やっているところもあります。
天職って見つかると嬉しいものですけどね。
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NoTitle
色々と意見や持論はあれど、心底納得行く答えは、いまだ得られず。
自分にはいまだ、天職なるものに出会えたことがありません。
社会人になって以降ずっと、さまよいっぱなしです。