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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・憧憬記 2

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    フォコの話、41話目。
    のどかな海。



    注釈。
    「ノット」は水上で船が進む速度です。
    1ノット=時速1.8キロくらい。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%83%E3%83%88




    2.
     造船所の休業日、フォコはそわそわしながら、ナラン島の玄関口、東の船着場に立っていた。
    「まだかな、ティナさん……」
     フォコも思春期盛りの15歳である。長い時間、自分のすぐ側にいた女性を、意識しないわけが無い。
    「……これって、もう、……アレやんな、デートやんなぁ」
     小声でそうつぶやき、思わず顔がにやける。
    「えへへへ……」
     桟橋の淵に座り込み、顔をふやけさせていると――。
    「お待たせ」
     ティナの声が、背後からかけられた。
    「あ、てぃ……、な、さんと」
     振り向いた途端、フォコの笑顔は凍りつく。
    「……アミルさん、マナさん」
    「よっ、おはようさん」
    「おっはよー」
     狼獣人の二人、アミルとマナが私服で手を振っているのが視界に入った。

    「そのー……、二人だけかなーとか思ってたんですが」
     洋上で、フォコはティナに尋ねてみた。
    「無理」
    「……そうですか」
    「だって、船動かせない」
    「あ、……そっか」
     と、二人の輪に、マナが入ってくる。
    「ホコウ君、残念だったねー」
    「ちょ、いや、そんなんじゃ」
    「?」
    「いや、その、そうですよねって、二人では船動かせないなって、そう言う意味で……」
     バタバタと手を振って弁解するフォコに対し、ティナはわずかに首をかしげるだけだった。
    「いーの、いーの。お姉さん分かってるから」
     慌てふためくフォコを見て、マナはクスクス笑っている。
    「ま、ウチで船を動かせんのって、おやっさんとジャール、あとダンナくらいだし」
     ちなみに、マナとアミルは結婚している。造船所に入った後に結ばれたのだそうだ。
    「ホコウ君もチャレンジしてみる?」
    「え?」
    「いつ動かすことになるか、分かんないワケだし」
     その言葉に、フォコは薄ら寒いものを感じた。
    「……そうですよね、備えはいりますよね」
    「ん、よし」
     マナはくる、とアミルの方に顔を向け、声をかける。
    「アミル、ホコウ君に船、操舵させてみてー」
    「おう」
     舵を握ったフォコに、アミルがざっくりと説明する。
    「基本的に、舵を右に切れば右に、左に切れば左に進むようになってる。波と風で船は動くから、その二つをきっちりつかんでいれば、船はガンガン早く進める。
     この『アマンド』号は通常走行で最速12、3ノット、平均で4、5ノットくらいで進む。順調なら、サラム島まで1時間ってとこだ。さあ、ホコウは何時間で着けるかな?」
    「はは……」
     フォコはそろそろと、舵を左右に振ってみる。
    「お……、動いた」
     アミルの言う通り、舵を切れば、その方向に船は動いてくれる。
    「今日は風も割と強い方だし、案外早く着くかもな」
    「そうなんですか。……よーし」
     フォコは舵を握り、帆を見て――「あれ」と声を出した。
    「帆が……、反対に張ってる」
    「向かい風だな。ちょっと見ててくれ」
     そう言うとアミルは、フォコと操舵を交代した。
    「こう言う時は、ジグザグに動かなきゃいけないんだ。追い風だと、すんなり進めるんだけどな」
    「何でジグザクに?」
    「真っ直ぐ行くと、風を正面から受けて押し戻されるが、斜めなら何とか前に進めるんだ」
    「なるほど」
    「ま、これは魔力を使わないやり方だ。風や水の魔術を使うと、ちょっとくらいの向かい風なら気にしなくて良くなるし、調子が良ければ倍は早くなるらしい。
     けど、俺は魔力を使って航行する方法は分からんから、そこら辺は後でジャールに聞くといい。あいつ、ああ見えてそう言う系の魔術使えるんだ。だからうちの操舵手やってる」
    「へぇ……」
     その後、目的地のサラム島に着くまで、フォコはアミルから航海術を学んでいた。

    「到着、到着と」
     港に接岸したところで、桟橋から人が歩いてきた。港の船舶を管理する役人である。
    「船籍証と港湾使用料を」
    「はーい。コレ、船籍証」
     マナが船籍証を見せると、役人は深々と頭を下げた。
    「ジョーヌ海運の方ですね。いつもありがとうございます」
    「で、1000ガニーだっけ」
     アミルがポケットから金を出そうとすると、役人はぱたぱたと手を振った。
    「あ、いえいえ。ジョーヌ海運様の船でしたら、使用料の控除が適用されます。無料でご利用ください」
    「お、そっか。ありがとさん」
     そこで船から降りてきたフォコが、しみじみとつぶやいた。
    「ウチって信用、あるんですね」
    「おう。この島でも十数隻卸してるし、水産業の方も拠点があるからな。お得意さんも多い」
    「へぇ……」
     フォコは改めて、自分がいる商会の大きさを感じていた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    一握りの人間しかしらない秘儀、秘奥としてではなく、
    文明の利器、そこそこ身近なものとして魔術が存在する世界なので、
    こういう使い方もするだろうな、と。

    NoTitle 

    魔法で船の操舵をする。
    それも一つのファンタジーで良いですね。
    こういう描写は何気に大好きですね。
    (*'▽')

    NoTitle 

    それは許されないなぁ。フォコくん的に。

    NoTitle 

    漏れもティナを操縦したいですv-232
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