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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・大徳録 5

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    晴奈の話、第77話。
    もう一度デート。

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    5.
    「仲が悪いのか、エルスと博士は?」
     リストから愚痴を聞いた晴奈は、そう尋ねた。
    「ん、いや、悪いってワケじゃないんだけどね」
     リストは明奈が淹れてくれたお茶をすすりつつ、話を続ける。
    「じーちゃん、ああ見えて口悪いし、結構無神経なトコあるし。で、エルスもいっつもヘラヘラ笑ってるけど、割と頑固で強情なところあるもん。
     だから時々、ケンカするのよ。まあ、普段は仲いいんだけどね」
    「ケンカするほど仲がいい……、と言うことですね」
     晴奈にお茶を出しつつ、明奈が相槌を打つ。
    「ま、そんなもんね」



    「ふあ、あ……」
     深夜遅くまで博士と碁を打ち続けたエルスは、しきりに生欠伸をしながら、郊外の丘に寝転んでいた。
    「エドさん、しつこいんだよなぁ……」
     目をつぶると、夕べの棋譜が浮かんでくる。
    「あー……、あそこはもうちょっと、抑えて打つべきだったなぁ」
     目を開け、棋譜を思い出しながら、空を指差して検討する。
    「あと、ここももうちょい、早めに打っていれば……、ふあぁ」
     夕べ満足に眠れなかったため、次第に眠気がやってきた。
    「……ちょっと、寝ようかな」
     もう一度目をつぶり、エルスは昼寝し始めた。

    「エルスさん、エルスさん……」
     誰かがエルスを呼んでいる。エルスはすっと目を開け、上半身を起こした。
    「誰かな?」
    「こっち、こっち」
     後ろを振り向くと、あの少女――柳花が座っていた。
    「ああ、こんにちは」
    「こんにちは、エルスさん。お昼寝?」
    「ああ、うん」
    「ごめんね、起こしちゃって」
     謝る柳花に、エルスはパタパタと手を振る。
    「いや、いいよ。どしたの、何か用かな?」
    「うん、あのね……」
     柳花の顔が曇る。
    「明日、黄海を出るの」
    「……そっか。それで、僕にお別れの挨拶を?」
    「うん。エルスさんや博士さんには、色々お世話になったし。出る前にもう一度、挨拶しておこうと思って」
    「ふむふむ。……でも、博士は今、寝てると思うな。夕べからちょっと、具合が悪かったし」
    「あら……」
     エルスは博士に会わせたくない――むしろ、自分が会いたくないので軽い嘘をついた。
    「それよりも、もう一度買い物に行かない?」
    「買い物に?」
    「そう。最後の記念にね」

     エルスは柳花を連れ、繁華街へと入る。
    「今日はどこに行くの?」
    「ちょっと裏に入ったところに、いい店があるんだ」
     そう言うとエルスは柳花の手を引き、細道へと入る。
    「ちょ、ちょっと。危なくない?」
    「大丈夫、大丈夫。僕がいるんだし」
     細い路地をすり抜け、エルスはある店の前で立ち止まった。
    「ここだ。良かった、開いてるみたいだ」
     トントンと戸を叩き、先にエルスが店の中に入る。
    「いらっしゃい」
     奥で新聞を読んでいた初老の猫獣人が、顔を上げて挨拶する。
    「こんにちは。あのー、作ってもらいたいモノがあるんですが」
    「んー?」
     老人は新聞をたたみ、のそのそとエルスのところまで歩いてきた。
    「何を作ってほしい?」
    「この子に似合う、うーん……、腕輪かな」
    「あいよ」
     老人はそう言うと、柳花の腕を取って手首を握った。
    「きゃ……」
    「ああ、すまん。見ないと作れんから」
    「は、はあ」
     老人は柳花から手を離し、またのそのそと奥へ消える。程なくして、カンカンと言う短く、高い音が聞こえてきた。柳花は握られた手首をさすりながら、エルスに向き直る。
    「ああ、ビックリした。いきなりつかんでくるんだもん」
    「ゴメンね、あのおじいさん、ぶっきらぼうな人だから。でも腕は確かだから。金属細工の職人なんだ」
    「ふうん。あ、でも腕輪って、作るのに時間がかかるんじゃない?」
    「ああ、それは大丈夫。この前、……っと」
     エルスは胸元から鎖でつないだ、2つの銀輪と1つの金輪が絡んだ首飾りを取り出す。
    「これ、作ってもらったんだけどね。すごく早かったんだ。確か、2時間くらい」
    「へえ……」
     柳花は奥の工房に目をやり、すぐにエルスへと視線を戻す。
    「ずっとこの街に住んでたけど、こんなお店があるなんて全然知らなかった。エルスさんって、すごいね」
    「はは、僕は昔から、物を探すのが得意だから。それでご飯食べてたしね」
     エルスと柳花が談笑していると、老人の奥さんらしき短耳が茶の乗った盆を持って、奥からひょこひょこと歩いてきた。
    「グラッドさん、でしたっけ。良かったらできるまで、ゆっくりしていってくださいな」
    「あ、すみません。それじゃ遠慮なく、いただきます」
     エルスは茶を手に取り、傍らに置いてある長椅子に腰かけた。
    「さ、そちらのお嬢さんもどうぞ」
    「あ、はい」
     柳花も茶を手に取り、エルスの横に座る。座ったところでエルスが、柳花の事情を伝える。
    「この子、明日引っ越すんです。それで、思い出作りにと思って」
    「まあ、そうなんですか。じゃあ、急がせないといけませんね」
     お盆を傍らに持ち、老婆はいそいそと奥へ戻っていった。すぐに奥から、ボソボソと話し声が聞こえてくる。
    「あなた、聞きました?」
    「ああ、1時間もあればできる」
    「そう、それならゆっくりしてもらってもいいかしらね」
    「俺にも茶をくれ」
    「はい、すぐに持ってきますね」
     老夫婦の話を聞いていた柳花は、クスクスと笑う。
    「なんか、いい雰囲気ね」
    「そうだね。落ち着くんだ、ここ。大通りから離れてて静かだし、ちょっと暗めだけど綺麗な店だし」
    「それもあるけど、あの二人がすごく仲良さそう」
     そう言って柳花はため息をつく。
    「はあ……。もしお父さんが生きてたら、あんな風に老けていったのかしら」
    「どうかな、商売人だったそうだし……」
    「そうね。死んじゃう直前まで、ずっと布団の中で『店は順調か?』ってお母さんに尋ねてたもの。……だから、死んじゃったのかな」
     柳花の顔が曇り、今にも泣きそうな声になる。
    「なんで落ち着いて休んでくれなかったんだろう。そしたら、病気も治ったかも知れないのに」
    「……うーん」
     柳花の悲しそうな横顔を見て、エルスは買った家について発見したことを思い出していた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載
    2016.02.28 修正
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    残念ながら、モブですからねぇ。

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