「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・職人記 1
フォコの話、48話目。
てんてこまい。
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てんてこまい。
1.
302年の、暦の上では冬の頃。
ジョーヌ海運特別造船所、及び砂嵐海賊団は大忙しだった。
「産休?」
まず一つ目。アミル夫妻に、待望の子供ができたこと。
「はい……。流石に力仕事、させてやりたくなくて」
「ん、まあ……、確かにな。ちょい、腹も目立ってきてたし。
つっても、分かってんだろ? ウチは人員カツカツでやってるから、一人欠けると……」
「分かってます、分かってます。だからその分、俺が頑張るんで」
頼み込むアミルに、クリオも折れた。
「……まあ、コッチの造船所にゃ急ぎの依頼もないからな。
大事な丁稚のためだ、来年春くらいまでペース落としていきゃ大丈夫だろ」
と、クリオがのんきに構えていたところで、二つ目の騒ぎが発生した。
「すまん!」
手を合わせて謝罪するクリオの前に、青い顔をした造船所の面々がいる。
「おやっさん、バカ言っちゃいけねえよ。このタイプの船は、どんなに根詰めても後3ヶ月はかかるってもんだ。それを年内にって……」
「だからこうやって頼んでるんじゃねーか!」
南海諸国の双璧の片方、ベール王国の王族から依頼された遊覧船の納品期限が、大幅に詰められたのだ。
元々この船は、近年激化の一途を辿る南海の内戦――ベール王国とレヴィア王国の衝突を筆頭とする、南海各地域の侵略・略奪行為――による緊張を緩和しようと、ベール側の王族が両国の権力者たちの交流会を催すために依頼したのだ。
王族御用達の、高品質なものを造らなければならないため、ここ特別造船所が製造を請け負った。とは言え交流会の予定は当初、来年の半ばであったし、造船所側に前述の事情もあったので、クリオからは来年下半期に納品すると伝えていた。
ところがつい二、三日前に、その王族から「来年春までに納品してほしい」と頼まれたのだ。通常ならクリオも、マナのこともあるし、急な話なので、「何をわがまま言ってやがる」と突っぱねるところなのだが、断れなかった事情がある。レヴィア王国とベール王国との緊張が高まったのだ。
詳しい経緯は省略するが、直接の原因はかつてのカトン島の時と同様、ベール王国領近くのとある島をレヴィア軍が無理矢理に占領し、基地を建造しかけたことにある。
「ま、その件はベールのお偉いさんが処理するそーなんだけっども、やっぱ平手で交渉なんかできねーし、かと言って何やかやとモノを贈るってのも、ベールとしちゃ沽券に関わる。だもんで、この遊覧船を使った交流会で懐柔して、交渉をうまく進めたいんだとさ。
何だかんだ言っても、平和が一番だからな。わざわざ海賊やらねーで済む」
「事情は分かったが、無理なもんは無理だ」
頼み込むクリオに対し、アバントは突っぱねる。
「製造要員が一人欠けてて、おまけに今回のは、いつも手がけてるクラスより一回り大きい奴なんだ。せめて後4、5人は人手がいなきゃ」
「分かってる、分かってる。だから今、別の造船所とか月雇いとかで、人を集めてるトコだから」
クリオがそう言った途端、アバントの顔から険が薄れた。
「……なんだ。それならそうと、早く言ってくれりゃいいのに」
「いくらオレでも、ソコまで無茶言わねーよ、ハハ……。まあ、それまではなるべく、『目立つ』コトできねー、って言いたかったんだよ」
「ああ、なるほどな。確かに専門の奴らが見たら、『何だこれ?』って思う偽パーツ(海賊行為に使う武器など)がゴロゴロしてっからなぁ、わははっ」
「ま、ともかくそう言うこったから、ソイツらが来るまでに、片付けよろしく頼む……」
怒鳴り合いに決着が付き、造船所の空気が緩みかけた、その時だった。
「大変、大変ですよー!」
造船所に、ルーが飛び込んできた。
「大変って……、おいおい、コレ以上面倒ゴトが増えたら、お手上げだぜ」
「でも大変なんですよ! キルク島に、レヴィア軍が乗り込んできたんです!」
「……何だとぉ?」
このキルク島は、南海地域の北端にある島である。
元々、ベール・レヴィア両国の勢力圏から互いに遠くにあり、また一見、特に何も無さそうな、岩と砂ばかりの無人島だったので、この島の所有権は自動的に、「世界平定」を謳う中央政府が握っていた。
そんな事情が一変したのは、開発利権をゴールドマン商会が手に入れ、さらにその後、大量の鉱脈が見つかってからである。綿密な調査と掘削の結果、現在では南海でも有数の銀の産地となっており、その他にもわずかながら金も出る優良な鉱山が発見されたため、レヴィア王国が長年狙っていた島でもあった。
とは言え、この島は地理的にも、政情的にも中立な場所である。ここをレヴィアが攻めれば、他国との関係は劇的に悪化し、内戦が泥沼化するのは必至である。それを避けるため、これまでは流石のレヴィア王国も、攻め込もうとはしていなかった。
「この、ややっこしくてクソ忙しい時にッ!」
クリオは顔を両手で覆い、椅子にもたれかけた。
「アホか、レヴィアのヤツらはッ! ちっとは空気読めってんだ、アホタレどもがッ!」
怒鳴ってはみたが、それで事態が好転するわけではない。
「……はあ。出動だ、お前ら」
「……うっす」
砂嵐海賊団は仕方なく、キルク島に向けて出港した。
302年の、暦の上では冬の頃。
ジョーヌ海運特別造船所、及び砂嵐海賊団は大忙しだった。
「産休?」
まず一つ目。アミル夫妻に、待望の子供ができたこと。
「はい……。流石に力仕事、させてやりたくなくて」
「ん、まあ……、確かにな。ちょい、腹も目立ってきてたし。
つっても、分かってんだろ? ウチは人員カツカツでやってるから、一人欠けると……」
「分かってます、分かってます。だからその分、俺が頑張るんで」
頼み込むアミルに、クリオも折れた。
「……まあ、コッチの造船所にゃ急ぎの依頼もないからな。
大事な丁稚のためだ、来年春くらいまでペース落としていきゃ大丈夫だろ」
と、クリオがのんきに構えていたところで、二つ目の騒ぎが発生した。
「すまん!」
手を合わせて謝罪するクリオの前に、青い顔をした造船所の面々がいる。
「おやっさん、バカ言っちゃいけねえよ。このタイプの船は、どんなに根詰めても後3ヶ月はかかるってもんだ。それを年内にって……」
「だからこうやって頼んでるんじゃねーか!」
南海諸国の双璧の片方、ベール王国の王族から依頼された遊覧船の納品期限が、大幅に詰められたのだ。
元々この船は、近年激化の一途を辿る南海の内戦――ベール王国とレヴィア王国の衝突を筆頭とする、南海各地域の侵略・略奪行為――による緊張を緩和しようと、ベール側の王族が両国の権力者たちの交流会を催すために依頼したのだ。
王族御用達の、高品質なものを造らなければならないため、ここ特別造船所が製造を請け負った。とは言え交流会の予定は当初、来年の半ばであったし、造船所側に前述の事情もあったので、クリオからは来年下半期に納品すると伝えていた。
ところがつい二、三日前に、その王族から「来年春までに納品してほしい」と頼まれたのだ。通常ならクリオも、マナのこともあるし、急な話なので、「何をわがまま言ってやがる」と突っぱねるところなのだが、断れなかった事情がある。レヴィア王国とベール王国との緊張が高まったのだ。
詳しい経緯は省略するが、直接の原因はかつてのカトン島の時と同様、ベール王国領近くのとある島をレヴィア軍が無理矢理に占領し、基地を建造しかけたことにある。
「ま、その件はベールのお偉いさんが処理するそーなんだけっども、やっぱ平手で交渉なんかできねーし、かと言って何やかやとモノを贈るってのも、ベールとしちゃ沽券に関わる。だもんで、この遊覧船を使った交流会で懐柔して、交渉をうまく進めたいんだとさ。
何だかんだ言っても、平和が一番だからな。わざわざ海賊やらねーで済む」
「事情は分かったが、無理なもんは無理だ」
頼み込むクリオに対し、アバントは突っぱねる。
「製造要員が一人欠けてて、おまけに今回のは、いつも手がけてるクラスより一回り大きい奴なんだ。せめて後4、5人は人手がいなきゃ」
「分かってる、分かってる。だから今、別の造船所とか月雇いとかで、人を集めてるトコだから」
クリオがそう言った途端、アバントの顔から険が薄れた。
「……なんだ。それならそうと、早く言ってくれりゃいいのに」
「いくらオレでも、ソコまで無茶言わねーよ、ハハ……。まあ、それまではなるべく、『目立つ』コトできねー、って言いたかったんだよ」
「ああ、なるほどな。確かに専門の奴らが見たら、『何だこれ?』って思う偽パーツ(海賊行為に使う武器など)がゴロゴロしてっからなぁ、わははっ」
「ま、ともかくそう言うこったから、ソイツらが来るまでに、片付けよろしく頼む……」
怒鳴り合いに決着が付き、造船所の空気が緩みかけた、その時だった。
「大変、大変ですよー!」
造船所に、ルーが飛び込んできた。
「大変って……、おいおい、コレ以上面倒ゴトが増えたら、お手上げだぜ」
「でも大変なんですよ! キルク島に、レヴィア軍が乗り込んできたんです!」
「……何だとぉ?」
このキルク島は、南海地域の北端にある島である。
元々、ベール・レヴィア両国の勢力圏から互いに遠くにあり、また一見、特に何も無さそうな、岩と砂ばかりの無人島だったので、この島の所有権は自動的に、「世界平定」を謳う中央政府が握っていた。
そんな事情が一変したのは、開発利権をゴールドマン商会が手に入れ、さらにその後、大量の鉱脈が見つかってからである。綿密な調査と掘削の結果、現在では南海でも有数の銀の産地となっており、その他にもわずかながら金も出る優良な鉱山が発見されたため、レヴィア王国が長年狙っていた島でもあった。
とは言え、この島は地理的にも、政情的にも中立な場所である。ここをレヴィアが攻めれば、他国との関係は劇的に悪化し、内戦が泥沼化するのは必至である。それを避けるため、これまでは流石のレヴィア王国も、攻め込もうとはしていなかった。
「この、ややっこしくてクソ忙しい時にッ!」
クリオは顔を両手で覆い、椅子にもたれかけた。
「アホか、レヴィアのヤツらはッ! ちっとは空気読めってんだ、アホタレどもがッ!」
怒鳴ってはみたが、それで事態が好転するわけではない。
「……はあ。出動だ、お前ら」
「……うっす」
砂嵐海賊団は仕方なく、キルク島に向けて出港した。



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確かにお国の事情で製造が待った無しの状態になるのはよくあることですからね。ファンタジーだからと言ってそこは変わらない。無茶をしないといけないなのが、戦時中、あるいは緊張状態。製造は大変ですね。
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政治や経済に関しては、現実世界と事情はまったく一緒だと思います。