「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・職人記 2
フォコの話、49話目。
ややこしい付き合い。
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ややこしい付き合い。
2.
キルク島、東岸。
「うわああぁ……!」「ひっ、ひいっ……」
この島における鉱業の全指揮を執っている兎獣人、ファン・ロックスは、坑道の外から聞こえてくる仲間の悲鳴に頭を抱えていた。
「も、もうダメか……」
レヴィア軍に備え、組織していた自警軍は、攻め込まれた途端に瓦解していた。
指揮官役であるファンと、まだ残っていた自警軍の何十人かはとっさに坑道の中へ逃げ込んだものの、攻め落とされるのは時間の問題だった。
「折角ここまで……、十分に黒字が出るところまで、来たと言うのに……!」
ファンが絶望し、へたり込んだその時。
「うわ……!?」
「……ん? 誰だ、今の声?」
「さあ……?」
聞き覚えの無い人間の悲鳴が聞こえ、ファンたちは顔を見合わせる。
「か、かいぞ……っ」
続いて聞こえてきた悲鳴に、何人かが希望に満ちた表情を浮かべた。
「……す、『砂嵐』か!?」
「砂嵐? ……あの、『砂嵐海賊団』か!」
「た、助かる、……か?」
この頃既に、砂嵐海賊団の名前は、侵略による被害を受けていた者たちにとって、希望の代名詞となっていた。
「うわ、うわっ……」「て、撤退、撤退ッ!」
やがて、侵攻してきた兵士たちが、バタバタと離れていく音が聞こえてきた。
「……助かった……!」
ファンたちは、ほっとした表情を浮かべた。
憮然顔で駆けつけたものの、砂嵐海賊団は地元民の期待通りに、兵士たちを蹴散らした。
「はあ……、急いで仕事しなきゃならんのに」
ブチブチと文句を言いながら曲刀の血を拭うアバントを、クリオが肩をすくめながら諭す。
「ま、手早く片付けして帰るとしようや」
「ああ、そうだな」
と、急いで帰ろうとする二人の前に、顔をホクホクとさせたファンが現れた。
「おお、あなた方が『砂嵐』の方ですか!」
「う……」
クリオは直感と経験で、この男と絡むと場が長引きそうだと察した。
「ま、まあ、な」
「ああ、ありがとうございました! おかげさまで、採掘が続けられそうです!」
「ああ、うん、良かったな。じゃ、オレたちはこの辺で……」「ああいやいや、そんなそんな!」
去ろうとしたクリオたちに、ファンはにこやかに笑いかけ、こう提案してきた。
「良ければ少しばかり、お持て成しをさせていただきたく存じます。さ、どうぞこちらに……」
「いやいや、お構いなく。オレたちみてーなならず者が、そんな施しを受けるワケにゃ行かねーよ」
クリオは格好をつけて固辞するが、ファンも引き下がろうとしない。
「いやいやいや、助けられたままでは、私の気が済みません!」
「いや、なあ……」
クリオは口布の下で苦笑いしながら、押してくるファンに辟易していた。
(ったく、このオッサン、昔っから折れねーなぁ……)
クリオもファンも、西方から南海へ渡った商人同士なので、「オモテ」では多少の面識もある。が、「ウラ」での交流は無く、ファンは目の前にいる、顔を隠したこの海賊がクリオとは気付いていないようだ。
「ささ、……ええと、何とお呼びすればよろしいでしょうか」
「何とも呼ばなくていいって……。ともかくだ、オレたちは帰る」
「そう言わずに……」
「いいっていいって、本当。アンタらが仕事に精を出してくれりゃ、オレたちはそれで十分満足なんだ。
さ、仕事に戻りな、ファンのおっさ……」
言いかけて、クリオの背中に冷や汗が走る。
「えっ?」
言われたファンの方も、目を丸くした。
「何故……、私の名前を?」
「あ、あー……、いや、……ほら、最近絶好調の西方商人って、オレたちの間じゃうわさなんだよ。だから知ってた。
じゃ、オレは帰る」
無理矢理にごまかし、クリオは逃げ去るようにその場を後にした。
「……うーむ?」
その後姿を見送りながら、ファンは狐につままれたような顔をしていた。
キルク島、東岸。
「うわああぁ……!」「ひっ、ひいっ……」
この島における鉱業の全指揮を執っている兎獣人、ファン・ロックスは、坑道の外から聞こえてくる仲間の悲鳴に頭を抱えていた。
「も、もうダメか……」
レヴィア軍に備え、組織していた自警軍は、攻め込まれた途端に瓦解していた。
指揮官役であるファンと、まだ残っていた自警軍の何十人かはとっさに坑道の中へ逃げ込んだものの、攻め落とされるのは時間の問題だった。
「折角ここまで……、十分に黒字が出るところまで、来たと言うのに……!」
ファンが絶望し、へたり込んだその時。
「うわ……!?」
「……ん? 誰だ、今の声?」
「さあ……?」
聞き覚えの無い人間の悲鳴が聞こえ、ファンたちは顔を見合わせる。
「か、かいぞ……っ」
続いて聞こえてきた悲鳴に、何人かが希望に満ちた表情を浮かべた。
「……す、『砂嵐』か!?」
「砂嵐? ……あの、『砂嵐海賊団』か!」
「た、助かる、……か?」
この頃既に、砂嵐海賊団の名前は、侵略による被害を受けていた者たちにとって、希望の代名詞となっていた。
「うわ、うわっ……」「て、撤退、撤退ッ!」
やがて、侵攻してきた兵士たちが、バタバタと離れていく音が聞こえてきた。
「……助かった……!」
ファンたちは、ほっとした表情を浮かべた。
憮然顔で駆けつけたものの、砂嵐海賊団は地元民の期待通りに、兵士たちを蹴散らした。
「はあ……、急いで仕事しなきゃならんのに」
ブチブチと文句を言いながら曲刀の血を拭うアバントを、クリオが肩をすくめながら諭す。
「ま、手早く片付けして帰るとしようや」
「ああ、そうだな」
と、急いで帰ろうとする二人の前に、顔をホクホクとさせたファンが現れた。
「おお、あなた方が『砂嵐』の方ですか!」
「う……」
クリオは直感と経験で、この男と絡むと場が長引きそうだと察した。
「ま、まあ、な」
「ああ、ありがとうございました! おかげさまで、採掘が続けられそうです!」
「ああ、うん、良かったな。じゃ、オレたちはこの辺で……」「ああいやいや、そんなそんな!」
去ろうとしたクリオたちに、ファンはにこやかに笑いかけ、こう提案してきた。
「良ければ少しばかり、お持て成しをさせていただきたく存じます。さ、どうぞこちらに……」
「いやいや、お構いなく。オレたちみてーなならず者が、そんな施しを受けるワケにゃ行かねーよ」
クリオは格好をつけて固辞するが、ファンも引き下がろうとしない。
「いやいやいや、助けられたままでは、私の気が済みません!」
「いや、なあ……」
クリオは口布の下で苦笑いしながら、押してくるファンに辟易していた。
(ったく、このオッサン、昔っから折れねーなぁ……)
クリオもファンも、西方から南海へ渡った商人同士なので、「オモテ」では多少の面識もある。が、「ウラ」での交流は無く、ファンは目の前にいる、顔を隠したこの海賊がクリオとは気付いていないようだ。
「ささ、……ええと、何とお呼びすればよろしいでしょうか」
「何とも呼ばなくていいって……。ともかくだ、オレたちは帰る」
「そう言わずに……」
「いいっていいって、本当。アンタらが仕事に精を出してくれりゃ、オレたちはそれで十分満足なんだ。
さ、仕事に戻りな、ファンのおっさ……」
言いかけて、クリオの背中に冷や汗が走る。
「えっ?」
言われたファンの方も、目を丸くした。
「何故……、私の名前を?」
「あ、あー……、いや、……ほら、最近絶好調の西方商人って、オレたちの間じゃうわさなんだよ。だから知ってた。
じゃ、オレは帰る」
無理矢理にごまかし、クリオは逃げ去るようにその場を後にした。
「……うーむ?」
その後姿を見送りながら、ファンは狐につままれたような顔をしていた。



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NoTitle
どんなに義賊であっても、戦う集団であることには変わりない。
そして武力勢力であることも変わりない。
その点に関しては別に良い意味でも悪い意味でも色々なことを知っているのはおかしくないですし、蛇の道は蛇と言う言葉もありますからね。
しかし、クリオが動揺することには理由があるのかな?
そして武力勢力であることも変わりない。
その点に関しては別に良い意味でも悪い意味でも色々なことを知っているのはおかしくないですし、蛇の道は蛇と言う言葉もありますからね。
しかし、クリオが動揺することには理由があるのかな?
コメントありがとうございます!
ただのブログですが!
ゆっくりしていってもらえれば嬉しいです
(*・ω・)*_ _))ペコリン
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- #211 疾風
- URL
- 2010.10/05 20:48
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NoTitle
それについては後の話で、間接的に明らかになります。