「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・職人記 5
フォコの話、52話目。
思わぬつながり。
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思わぬつながり。
5.
「にゃにい?」
クリオの口から、間の抜けた返事が漏れる。
「そこの、クリオ・ジョーヌって頭領さんから、期間工として呼ばれているんだ。何でも、急ぎの仕事があるから、と」
「そ、そっか」
クリオはそろそろと後ずさりし、アバントに小声で相談した。
「どうする?」
「どうするもこうするも、アンタが連れてくって言ったんだろうが」
「ま、そうだけどよ。連れてって『実はオレがクリオ・ジョーヌだ』なんて言えるかっつの」
「そりゃ、な。……どうするつもりなんだよ、アンタ」
「だからソレを聞いてんだよ……」
困り果てる二人を尻目に、フォコは狼獣人を観察していた。
(何やろ……? 何か、目つきとか、見覚えあるねんな。何や央中北部っぽい訛りあるし、もしかして……)
「何かな?」
フォコの視線に気付いた狼獣人が、顔を上げる。
「あ、いえ。……あの、もしかして央中人ですか?」
「そうだが……、何故それを?」
「いや、何ちゅうか」
思わず、フォコは中央語で答える。
「訛りがあるな、思て」
「君も……、その話し方は、東部訛りだな。僕は北部、クラフトランドの生まれなんだが……、君は?」
「はい、東部のカレイドマインです」
「カレイドマイン……?」
と、狼獣人はフォコの尻尾に目を向けた。
「……」
「な、何ですか?」
「その、黄と赤の、狐の尻尾。もしかして、君は……」「あー、と」
と、相談が付いたらしく、クリオが声をかけてきた。
「ちっと悪いんだが、オレたち……、そのジョーヌってオッサンと仲悪いんだわ。あんまり会いたくねーから、ソコまでは連れてけねー」
「ふむ……、そうですか」
「だからとりあえず、その近くのサラム島まで連れてく。船の修理費も出してやるから、済まんがその先は自力で行ってくれ」
「いやいや、それだけやっていただければ十分だ。ありがとう、船長さん」
「いいってコトよ」
ともかくクリオたちは、自分たちの船と、その狼獣人たちの乗っていた船とをロープでつなぎ、サラム島まで牽引していくことにした。
牽引される船はレヴィア軍の攻撃により穴だらけになってしまい、とても乗っていられる状態ではなかったため、船員たちは「テンペスト」の方に移っていた。
「この『テンペスト』号とウチの操舵手のウデなら、1時間くらいで到着する。それまではゆっくり、くつろいでてくれ」
「ありがとう」
狼獣人は深々と頭を下げ、クリオの前から離れた。
と、くるりと振り向き、クリオに尋ねる。
「そうだ、船長さん。先程、黄と赤の毛並みをした狐獣人の少年がいたと思うが……」
「ん? ……ああ、いるが。そいつがどうした?」
「彼と話をしたい。どこにいるかな」
「んー……?」
クリオは甲板を見渡したが、フォコの姿は見つけられなかった。
「上にゃいなさそうだから、中にいると思うぜ。一体アイツがどうしたんだ?」
「いや……、もしかして、なんだが」
狼獣人はさらりと、クリオに尋ねた。
「彼は金火狐一族の人間じゃないかと思ったんだ。船長さんは何か知らないか?」
「……っ」
それを聞かれ、クリオは一瞬、言葉に詰まる。
「……いや、知らねえな。央中で拾ったガキだが、それ以上のコトは知らん」
「そうか。では、彼に尋ねてみるとしよう」
そのまま何の気なしに船室へ入ろうとする狼獣人に、クリオは慌てて声をかけた。
「あ、ちょい待った!」
「うん?」
「いや、その、えーと、な。悪いが船員たちにゃ、なんも聞かねーでくれねーか? ほら、その、オレたちゃ脛に傷ある奴らなんで、よ」
「……そうだな。確かに助けてもらった人間の秘密を暴こうなど、無礼な行為だ。大変失礼した」
狼獣人はもう一度ぺこりと頭を下げ、それきり何も尋ねてこようとはしなかった。
「……」
このやりとりを隠れて聞いていたアバントは、船室を覗き込んだ。
(『金火狐』、……か)
船室で樽磨きをしていたフォコの、ゆらゆらと揺れる黄地に赤いメッシュの入った尻尾を見て、アバントは短くうなった。
(まさかとは思っていたが、どうも本当らしいな。あの人との話、……真剣に考えてみた方がいいかもな。
もしかしたら、俺にとって人生最大のチャンスとなるかも知れないし)
「にゃにい?」
クリオの口から、間の抜けた返事が漏れる。
「そこの、クリオ・ジョーヌって頭領さんから、期間工として呼ばれているんだ。何でも、急ぎの仕事があるから、と」
「そ、そっか」
クリオはそろそろと後ずさりし、アバントに小声で相談した。
「どうする?」
「どうするもこうするも、アンタが連れてくって言ったんだろうが」
「ま、そうだけどよ。連れてって『実はオレがクリオ・ジョーヌだ』なんて言えるかっつの」
「そりゃ、な。……どうするつもりなんだよ、アンタ」
「だからソレを聞いてんだよ……」
困り果てる二人を尻目に、フォコは狼獣人を観察していた。
(何やろ……? 何か、目つきとか、見覚えあるねんな。何や央中北部っぽい訛りあるし、もしかして……)
「何かな?」
フォコの視線に気付いた狼獣人が、顔を上げる。
「あ、いえ。……あの、もしかして央中人ですか?」
「そうだが……、何故それを?」
「いや、何ちゅうか」
思わず、フォコは中央語で答える。
「訛りがあるな、思て」
「君も……、その話し方は、東部訛りだな。僕は北部、クラフトランドの生まれなんだが……、君は?」
「はい、東部のカレイドマインです」
「カレイドマイン……?」
と、狼獣人はフォコの尻尾に目を向けた。
「……」
「な、何ですか?」
「その、黄と赤の、狐の尻尾。もしかして、君は……」「あー、と」
と、相談が付いたらしく、クリオが声をかけてきた。
「ちっと悪いんだが、オレたち……、そのジョーヌってオッサンと仲悪いんだわ。あんまり会いたくねーから、ソコまでは連れてけねー」
「ふむ……、そうですか」
「だからとりあえず、その近くのサラム島まで連れてく。船の修理費も出してやるから、済まんがその先は自力で行ってくれ」
「いやいや、それだけやっていただければ十分だ。ありがとう、船長さん」
「いいってコトよ」
ともかくクリオたちは、自分たちの船と、その狼獣人たちの乗っていた船とをロープでつなぎ、サラム島まで牽引していくことにした。
牽引される船はレヴィア軍の攻撃により穴だらけになってしまい、とても乗っていられる状態ではなかったため、船員たちは「テンペスト」の方に移っていた。
「この『テンペスト』号とウチの操舵手のウデなら、1時間くらいで到着する。それまではゆっくり、くつろいでてくれ」
「ありがとう」
狼獣人は深々と頭を下げ、クリオの前から離れた。
と、くるりと振り向き、クリオに尋ねる。
「そうだ、船長さん。先程、黄と赤の毛並みをした狐獣人の少年がいたと思うが……」
「ん? ……ああ、いるが。そいつがどうした?」
「彼と話をしたい。どこにいるかな」
「んー……?」
クリオは甲板を見渡したが、フォコの姿は見つけられなかった。
「上にゃいなさそうだから、中にいると思うぜ。一体アイツがどうしたんだ?」
「いや……、もしかして、なんだが」
狼獣人はさらりと、クリオに尋ねた。
「彼は金火狐一族の人間じゃないかと思ったんだ。船長さんは何か知らないか?」
「……っ」
それを聞かれ、クリオは一瞬、言葉に詰まる。
「……いや、知らねえな。央中で拾ったガキだが、それ以上のコトは知らん」
「そうか。では、彼に尋ねてみるとしよう」
そのまま何の気なしに船室へ入ろうとする狼獣人に、クリオは慌てて声をかけた。
「あ、ちょい待った!」
「うん?」
「いや、その、えーと、な。悪いが船員たちにゃ、なんも聞かねーでくれねーか? ほら、その、オレたちゃ脛に傷ある奴らなんで、よ」
「……そうだな。確かに助けてもらった人間の秘密を暴こうなど、無礼な行為だ。大変失礼した」
狼獣人はもう一度ぺこりと頭を下げ、それきり何も尋ねてこようとはしなかった。
「……」
このやりとりを隠れて聞いていたアバントは、船室を覗き込んだ。
(『金火狐』、……か)
船室で樽磨きをしていたフォコの、ゆらゆらと揺れる黄地に赤いメッシュの入った尻尾を見て、アバントは短くうなった。
(まさかとは思っていたが、どうも本当らしいな。あの人との話、……真剣に考えてみた方がいいかもな。
もしかしたら、俺にとって人生最大のチャンスとなるかも知れないし)



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~ Comment ~
「にゃ」言葉は猫耳の特権です。
もっとも今回の場合は、萌えとはかけ離れたタイプですが。
引き続き、前作もご精読ください。
これからもグッゲンハイム改めLandM創作所、頑張ってください。
もっとも今回の場合は、萌えとはかけ離れたタイプですが。
引き続き、前作もご精読ください。
これからもグッゲンハイム改めLandM創作所、頑張ってください。
にゃにぃというのはやっぱり猫耳装備のものだけしゃべる言葉なのでしょうか……という素朴なぎもんが浮かびました…また新シリーズもみたいですね。その前に前作がまだ読了していないですから、そちらからですね。
今日は連絡で参りました。
ファンタジー小説グッゲンハイムからLandM創作所へ名前を変更しました。よろしくお願いします。TOPが小説ではなく、玄関になっておりますのでご注意くださいませ。
直接小説へ行きたい方は
http://landmart.blog104.fc2.com/blog-entry-351.html
へお願いします。
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- from 教えてください
- at 2010.10.09 17:23
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