「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・職人記 6
フォコの話、53話目。
伝説の職人。
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伝説の職人。
6.
クリオたちがキルク島に出向いてから、半月後。
あの狼獣人たちが、期間工としてナラン島に到着した。
「今回のお招き、ありがとうございます」
前回、クリオが海賊として会った時と同様に、狼獣人は深々とお辞儀した。
「一度ジョーヌ海運さんの仕事を間近で拝見したいと思っておりまして、今回のご依頼は非常にありがたきことと……」「あー、うん。そんなかしこまらねーでいいって」
堅苦しい挨拶に、クリオは辟易する。と、狼獣人は表情を崩し、もう一度小さく頭を下げた。
「ああ、失礼。我々はどうも、緊張する性質でして。特に南海へ来てから、何度ヒヤヒヤしていたか」
「確かに、乱暴でガラの悪いヤツらも多いからな。ま、ウチは上下関係あるにゃあるが、そんなにこだわってねーから。気楽に仕事してくれや、……えーと」
クリオは手渡された経歴書を眺めつつ、首をかしげる。
「えー、と、……スシロコ?」
「シロッコ(Scirocco)です。シロッコ・ファスタ」
「あ、悪い悪い。シロッコさん、な」
シロッコたちを交え、造船所は急ピッチで作業が進められた。
幸いなことに、2回連続で追い回されたのが相当こたえたのか、レヴィア軍が略奪行為に乗り出すことも無かったため、催促されていた豪華客船の製造は、作業を止めることも無く、順調に進められた。
「頭領さん、こんな感じでいいのかな?」
「へ? ……え、もうパーツ、全部できたのか?」
特に、期間工たちのリーダー格であったシロッコの働きは目を見張るものがあった。作業の一つ一つが恐ろしく早く、正確で、何より見事な腕前を見せてくれたのだ。
「すげーなぁ……。本当にコレ全部、今彫ったのかよ? いや、ついさっき頼んだから間違いないよな」
クリオは頼んでいた欄干の部品数十点を確認し、ほれぼれとしたため息を漏らした。
「流石に名の通った職人だな。この調子なら、予定より早く納期に間に合いそうだ」
「それは良かった。……と、すまないが少し、休憩がほしい」
「ああ、いいぜ。今日アンタに割り振ってた予定は全部終わっちまったから、のんびりしててくれ」
「それはどうも」
シロッコは作業用エプロンを脱ぎながら、造船所内を見渡した。
「……ああ、いた」
シロッコの目に、ティナと一緒に作業を進めていたフォコの姿が映った。
サラム島でのデート以降、フォコとティナの仲は深まりつつあった。
「取って」「はい」
相変わらずティナの口数は少なかったが、それでもフォコは彼女が何を言いたいのか、何を欲しているのか分かるようになっていた。
「ありがと」「いえいえ」
そしてもう一つ、変化があったのは――。
「今度、どこ行く?」
「そうですねぇ……、リム島とかどうですか?」
「何があったっけ」
「レモンを使った、美味しいお菓子があるらしいですよ」
「いいね」
二人きりで、あちこちの島へ遊びに行くことが多くなったことだ。
フォコは南海での生活と、ティナとの付き合いに、すっかり馴染んでいた。
「じゃあ次の休み、また船を……」
と、顔を挙げたフォコの視界に、白地に先端が濃い金色の、シロッコの毛並みが映った。
「や、ホコウ君」
「あ、ども」
シロッコはニコニコと笑いながら、フォコの隣に座り込む。
「ちょっといいかな? あ、手伝おうか」
「え? いや、そんな……」
遠慮するフォコに対し、シロッコは脇に抱えていたエプロンを広げながらにこやかに返す。
「今日、僕の作業予定は全部済んじゃったから。……と、それで」
一旦立ち上がり、エプロンをかけてもう一度座り込みながら、シロッコは尋ねた。
「あー、と。まずこれから、聞いた方がいいかな。
その……、君と僕はこの造船所で会う前に、一度会ってるよね? 海の方、で」
そう尋ねられ、フォコはうろたえる。
「え、っと」
「いや、まあ、頭領さんは聞かれたくなさそうだし、このことは内緒にするよ。で、会ったよね?」
「……その、……えーと」
フォコは造船所の端でモーリスと話しているクリオを一瞬眺め、それから小声で答えた。
「……はい」
「やっぱり。その尻尾は、とても特徴的だから。まあ、それに……」
シロッコもクリオに目をやり、苦笑しつつ付け足した。
「頭領さんの声も、なかなか特徴的だからね。怒鳴り声で分かった」
クリオたちがキルク島に出向いてから、半月後。
あの狼獣人たちが、期間工としてナラン島に到着した。
「今回のお招き、ありがとうございます」
前回、クリオが海賊として会った時と同様に、狼獣人は深々とお辞儀した。
「一度ジョーヌ海運さんの仕事を間近で拝見したいと思っておりまして、今回のご依頼は非常にありがたきことと……」「あー、うん。そんなかしこまらねーでいいって」
堅苦しい挨拶に、クリオは辟易する。と、狼獣人は表情を崩し、もう一度小さく頭を下げた。
「ああ、失礼。我々はどうも、緊張する性質でして。特に南海へ来てから、何度ヒヤヒヤしていたか」
「確かに、乱暴でガラの悪いヤツらも多いからな。ま、ウチは上下関係あるにゃあるが、そんなにこだわってねーから。気楽に仕事してくれや、……えーと」
クリオは手渡された経歴書を眺めつつ、首をかしげる。
「えー、と、……スシロコ?」
「シロッコ(Scirocco)です。シロッコ・ファスタ」
「あ、悪い悪い。シロッコさん、な」
シロッコたちを交え、造船所は急ピッチで作業が進められた。
幸いなことに、2回連続で追い回されたのが相当こたえたのか、レヴィア軍が略奪行為に乗り出すことも無かったため、催促されていた豪華客船の製造は、作業を止めることも無く、順調に進められた。
「頭領さん、こんな感じでいいのかな?」
「へ? ……え、もうパーツ、全部できたのか?」
特に、期間工たちのリーダー格であったシロッコの働きは目を見張るものがあった。作業の一つ一つが恐ろしく早く、正確で、何より見事な腕前を見せてくれたのだ。
「すげーなぁ……。本当にコレ全部、今彫ったのかよ? いや、ついさっき頼んだから間違いないよな」
クリオは頼んでいた欄干の部品数十点を確認し、ほれぼれとしたため息を漏らした。
「流石に名の通った職人だな。この調子なら、予定より早く納期に間に合いそうだ」
「それは良かった。……と、すまないが少し、休憩がほしい」
「ああ、いいぜ。今日アンタに割り振ってた予定は全部終わっちまったから、のんびりしててくれ」
「それはどうも」
シロッコは作業用エプロンを脱ぎながら、造船所内を見渡した。
「……ああ、いた」
シロッコの目に、ティナと一緒に作業を進めていたフォコの姿が映った。
サラム島でのデート以降、フォコとティナの仲は深まりつつあった。
「取って」「はい」
相変わらずティナの口数は少なかったが、それでもフォコは彼女が何を言いたいのか、何を欲しているのか分かるようになっていた。
「ありがと」「いえいえ」
そしてもう一つ、変化があったのは――。
「今度、どこ行く?」
「そうですねぇ……、リム島とかどうですか?」
「何があったっけ」
「レモンを使った、美味しいお菓子があるらしいですよ」
「いいね」
二人きりで、あちこちの島へ遊びに行くことが多くなったことだ。
フォコは南海での生活と、ティナとの付き合いに、すっかり馴染んでいた。
「じゃあ次の休み、また船を……」
と、顔を挙げたフォコの視界に、白地に先端が濃い金色の、シロッコの毛並みが映った。
「や、ホコウ君」
「あ、ども」
シロッコはニコニコと笑いながら、フォコの隣に座り込む。
「ちょっといいかな? あ、手伝おうか」
「え? いや、そんな……」
遠慮するフォコに対し、シロッコは脇に抱えていたエプロンを広げながらにこやかに返す。
「今日、僕の作業予定は全部済んじゃったから。……と、それで」
一旦立ち上がり、エプロンをかけてもう一度座り込みながら、シロッコは尋ねた。
「あー、と。まずこれから、聞いた方がいいかな。
その……、君と僕はこの造船所で会う前に、一度会ってるよね? 海の方、で」
そう尋ねられ、フォコはうろたえる。
「え、っと」
「いや、まあ、頭領さんは聞かれたくなさそうだし、このことは内緒にするよ。で、会ったよね?」
「……その、……えーと」
フォコは造船所の端でモーリスと話しているクリオを一瞬眺め、それから小声で答えた。
「……はい」
「やっぱり。その尻尾は、とても特徴的だから。まあ、それに……」
シロッコもクリオに目をやり、苦笑しつつ付け足した。
「頭領さんの声も、なかなか特徴的だからね。怒鳴り声で分かった」



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姿形っていうのは一番特徴がありますからね。
これからどうなるのだろうか。。。
フォコはそこまで重要な立ち位置にいるのかな。。。
これからどうなるのだろうか。。。
フォコはそこまで重要な立ち位置にいるのかな。。。
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特にフォコくんの血筋については、その見た目が非常に重要であるように扱われていたりしますね。