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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・職人記 7

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    フォコの話、54話目。
    天才ダメ人間。




    7.
     続いてシロッコは、フォコにこう尋ねる。
    「それで……、君のことなんだけど、『金火狐』だよね?」
    「……はい」
    「やっぱりそうか。まあ、これも尻尾から推察したんだけど。……でも何で、ここに?」
    「えっと……」「ねえ」
     答えかけたフォコにかぶせるように、ティナが口を開く。
    「ん、何かな」
    「質問ばっかりしないであげて」
    「ん、それもそうか。いや、ごめんごめん」
     素直に頭を下げたシロッコに、今度はフォコが質問した。
    「あの、シロッコさん。確かお名前、シロッコ・ファスタと言いましたよね」
    「そうだけど、それが何か?」
    「僕は昔、ネールさんのところにお邪魔したことがあるんです」
     それを聞いて、シロッコはきょとんとした顔になる。
    「ネール家に?」
    「ええ。その時、腕のいい職人として、あなたのことを聞きました。後、その、ルピアさんの旦那さんだ、とも」
    「……懐かしいな」
     シロッコは手を止め、首に提げていた銀細工のブローチを手に取った。
    「クラフトランドにはこの数年帰ってないからなぁ……。最後に会ったのは、10年前くらいだっけか。どうしてた、彼女?」
    「元気でしたよ。と言っても、僕も最後に会ったのは、2年ほど前ですけど」
    「そうか。……この仕事が終わったら、久々に会いに行こうかな。名前を聞いたら、会いたくなった」
     恥ずかしそうにぽつりとつぶやいたシロッコに、続けてフォコは尋ねる。
    「シロッコさんはずっと、南海に?」
    「いや、他にもあちこち回っていた。西方とか、北方にも」
    「その間、央中には?」
    「戻ってないな」
    「何でです?」
    「何で、って……」
     そう尋ねられ、シロッコは口をつぐんだ。
    「僕、ランニャちゃんにも会ったことあります。12、13くらいの時に。その時、ランニャちゃんは僕のいっこ下でしたから、11、12くらいです。
     10年会ってないって言うなら、もしかしてシロッコさん、ランニャちゃんともまともに会ってないんじゃないですか?」
    「……」
     フォコに強い口調で問いただされ、シロッコは頭をかきながら、しどろもどろに答えた。
    「まあ、うん……、そうだな、あの子が産まれてから、半年くらいの時に、その、発ったからね」
    「ひどい」
     シロッコの発言に、ティナも眉をひそめている。
    「家族を放って、ずっとブラブラしてたんですか」
    「うん、……そう、なる」
    「何でなんですか」
     再度問われ、シロッコは黙り込んだ。
    「……」
    「僕みたいに、帰れない理由があったわけじゃないんでしょう?」
    「……確かに、帰れないわけじゃ無かった。家族のことが嫌いだったわけでもない」
     シロッコは困った顔をしつつ、こう返した。
    「確かに不実な男だと、自分で分かっている。娘は僕の顔なんか、絶対覚えちゃいない。夫として、父親として、僕は最低な男だ。
     それでも、僕の足が動く限りは、世界を旅していたいんだ。それは僕の性分なんだ。どうしても、世界を見て周りたい。
     そんな自分の性分を、僕はどうにも止められないんだよ」
    「……」
     シロッコの返答に、フォコもティナも呆れるしかなかった。



     とは言えその放浪癖を除けば、シロッコは真面目で仕事熱心な男だった。
    「いやぁ……、本当、助かったぜ」
    「ご縁がありましたら、また手伝わせてください」
    「ああ、こちらからも頼む」
     豪華客船が完成し、クリオは満面に笑みを浮かべてシロッコを労った。
    「んで、次はドコに? まだ南海に?」
    「そうですね……、央中に行こうかなと」
     それを聞いて、フォコは思わず尋ねた。
    「故郷に戻るんですか?」
    「あー……、うん、戻れたら」
    「戻れたら?」
    「……同じ場所にじっとしていられない性格なんだってば。それにその、目移りする性分だし。絶対帰れるかって言われたら、それは、ちょっと、……確約できそうにない。いや、帰りたいなと思うことは思うんだけどね、……でもなぁ、無理かも。……いや、頑張ってはみるけども」
     しどろもどろにこう答えたシロッコに、フォコは二度呆れ返った。
    (ホンマに……、この人は仕事以外、ダメな人なんやなぁ。
     いわゆる『天才肌』って、こんな人を言うんやろな)
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    実は自分もインドア派なので、旅行が楽しいと言うタイプの人は、あまり深く理解できていません。
    ただ、新しい光景を次々見ていくのは楽しいだろう、と言うことは何となく分かりますが。

    NoTitle 

    世界を旅するというのはやはりロマンがあることなんでしょうね。
    私は出不精ですから、あまり気持ちが分からないのですが。
    今でも旅行が趣味の方はたくさんいらっしゃいますからね。

    NoTitle 

    だらしない男ですからね。
    いてもおかしくない。

    NoTitle 

    v-208いろんな国でパパになってそう
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