「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・職人記 8
フォコの話、55話目。
アバントの密談。
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アバントの密談。
8.
「ほうほう、それはそれは」
某所。
アバントは、ある男と会っていた。
「以前にお話を聞いた時は、……その、率直に言わせていただくと」
「眉唾物だと、そう思っていたわけだ」
「う、……ええ、まあ」
恐縮するアバントに、相手はにこやかに笑いかける。
「いやいや、仕方の無いことだよ。
私としても、さる名家の御曹司が海の果てでひっそり身分を隠して暮らしているなどと言われても、素直には信じられない」
「ええ……」
「しかし、話は本当だった。それで私にもう一度、コンタクトを取ってきた。そうだね?」
「はい」
相手の男はそれを聞き、一層口角を上げて笑顔を見せる。
「で、彼はどのような生活を?」
「我々作業員と同様の生活を。特にひいきされるようなこともなく、平凡に過ごしているようです」
「そうか。……ふーむ」
うなった相手に、アバントは首をかしげた。
「どうされました?」
「ああ、いやいや。君が何故、私ともう一度コンタクトを取ったのかがつかめないのでね。この告白の見返りに、君は私に何を求めてくるのか、と」
「なるほど。……率直に、理由を言ってしまえば」
アバントは声をひそめつつ、しかし強い口調で理由を述べた。
「大成したいんですよ、そろそろ。私ももう、30の半ばを過ぎましたから。
おやっさん……、クリオ・ジョーヌは私と同じ歳の頃には既に、ジョーヌ海運の主でしたからね。いや、もっと若い頃から店を立ち上げて、成功を収めている。
それに引き換え私は、まだ雇われの身、丁稚頭の身ですよ。もういい加減、偉くなりたいな、と」「つまり」
アバントの独白をさえぎり、男はアバントの心意を突いた。
「現場監督や『汚れ仕事』などにはもう飽き飽きしている、と」「……っ」
口をつぐんだアバントに畳み掛けるように、男は続けてこう述べる。
「レヴィア軍やら現地民やらは『砂嵐』の正体をつかめていないようだが、私には察しが付いていたんだよ。
各地での海賊行為とその巡航ルートをそれぞれ点と線で結べば、自ずとその中心点はナラン島、即ち君たちの本拠地を指し示す。
この推察と、その島に住む君たちの存在を、イコールで考えない人間はいないだろう」
「……流石、ですね」
「それでスパス君」
男は眼鏡をつい、と直しながら、冷たさを感じさせる瞳をアバントに向ける。
「単刀直入に聞こう。君は私に、何を求めるつもりだね?」
「……」
「君はニコル君の現在を伝える見返りに、何を求めているのか、と。大成したいと、そうは聞いたが、では具体的には、何が欲しいのかね?」
「そうですね……、具体的に、ですか」
「私の方から提案させてもらうと」
不意に、男はアバントの手を取った。
「君には、西方を丸ごとプレゼントしようかと考えている」
「は……、はい?」
「まあ、それには時間が必要になるがね。そして君の、さらなる協力と支援も」
「……つまり?」
男はアバントの手を離し、眼鏡を外す。
「つまり、こう言うことだ。
アバント・スパス君。この私に、2つのものを渡してくれればいい。即ち、ニコル・ゴールドマンとクリオ・ジョーヌの命を」
これを聞いた途端、アバントの背筋に冷たいものが走った。
「殺せ……、と?」
「何も君が手を下す必要は無い」
男は再び眼鏡をかけ、冷たい笑顔を向ける。
「砂嵐海賊団とジョーヌ海運に、強い利害関係を持つ人間は何人もいる。
これから私は、その人間のうち何人かを結びつける。君はその、手助けをしてくれればいい。これがうまく行けばいずれ、ジョーヌ氏は死ぬことになるだろう。
そうすれば後は自動――ジョーヌ氏の庇護を失ったニコル君は、生きる術を失う」
「……」
アバントは強いめまいを感じつつも、男の話に耳を傾けずにはいられなかった。
火紅狐・職人記 終
「ほうほう、それはそれは」
某所。
アバントは、ある男と会っていた。
「以前にお話を聞いた時は、……その、率直に言わせていただくと」
「眉唾物だと、そう思っていたわけだ」
「う、……ええ、まあ」
恐縮するアバントに、相手はにこやかに笑いかける。
「いやいや、仕方の無いことだよ。
私としても、さる名家の御曹司が海の果てでひっそり身分を隠して暮らしているなどと言われても、素直には信じられない」
「ええ……」
「しかし、話は本当だった。それで私にもう一度、コンタクトを取ってきた。そうだね?」
「はい」
相手の男はそれを聞き、一層口角を上げて笑顔を見せる。
「で、彼はどのような生活を?」
「我々作業員と同様の生活を。特にひいきされるようなこともなく、平凡に過ごしているようです」
「そうか。……ふーむ」
うなった相手に、アバントは首をかしげた。
「どうされました?」
「ああ、いやいや。君が何故、私ともう一度コンタクトを取ったのかがつかめないのでね。この告白の見返りに、君は私に何を求めてくるのか、と」
「なるほど。……率直に、理由を言ってしまえば」
アバントは声をひそめつつ、しかし強い口調で理由を述べた。
「大成したいんですよ、そろそろ。私ももう、30の半ばを過ぎましたから。
おやっさん……、クリオ・ジョーヌは私と同じ歳の頃には既に、ジョーヌ海運の主でしたからね。いや、もっと若い頃から店を立ち上げて、成功を収めている。
それに引き換え私は、まだ雇われの身、丁稚頭の身ですよ。もういい加減、偉くなりたいな、と」「つまり」
アバントの独白をさえぎり、男はアバントの心意を突いた。
「現場監督や『汚れ仕事』などにはもう飽き飽きしている、と」「……っ」
口をつぐんだアバントに畳み掛けるように、男は続けてこう述べる。
「レヴィア軍やら現地民やらは『砂嵐』の正体をつかめていないようだが、私には察しが付いていたんだよ。
各地での海賊行為とその巡航ルートをそれぞれ点と線で結べば、自ずとその中心点はナラン島、即ち君たちの本拠地を指し示す。
この推察と、その島に住む君たちの存在を、イコールで考えない人間はいないだろう」
「……流石、ですね」
「それでスパス君」
男は眼鏡をつい、と直しながら、冷たさを感じさせる瞳をアバントに向ける。
「単刀直入に聞こう。君は私に、何を求めるつもりだね?」
「……」
「君はニコル君の現在を伝える見返りに、何を求めているのか、と。大成したいと、そうは聞いたが、では具体的には、何が欲しいのかね?」
「そうですね……、具体的に、ですか」
「私の方から提案させてもらうと」
不意に、男はアバントの手を取った。
「君には、西方を丸ごとプレゼントしようかと考えている」
「は……、はい?」
「まあ、それには時間が必要になるがね。そして君の、さらなる協力と支援も」
「……つまり?」
男はアバントの手を離し、眼鏡を外す。
「つまり、こう言うことだ。
アバント・スパス君。この私に、2つのものを渡してくれればいい。即ち、ニコル・ゴールドマンとクリオ・ジョーヌの命を」
これを聞いた途端、アバントの背筋に冷たいものが走った。
「殺せ……、と?」
「何も君が手を下す必要は無い」
男は再び眼鏡をかけ、冷たい笑顔を向ける。
「砂嵐海賊団とジョーヌ海運に、強い利害関係を持つ人間は何人もいる。
これから私は、その人間のうち何人かを結びつける。君はその、手助けをしてくれればいい。これがうまく行けばいずれ、ジョーヌ氏は死ぬことになるだろう。
そうすれば後は自動――ジョーヌ氏の庇護を失ったニコル君は、生きる術を失う」
「……」
アバントは強いめまいを感じつつも、男の話に耳を傾けずにはいられなかった。
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今日の旅岡さん

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NoTitle
アバントくん、主を裏切ってついた相手にさらに裏切られて真っ先に死ぬパターンの役のような(^^;)
だからいつまでも丁稚頭なのでは(^^;)
うーむ(^^;)
だからいつまでも丁稚頭なのでは(^^;)
うーむ(^^;)
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